文芸部美女トリオの小さな事件簿

浦登みっひ

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文芸部ギャル部長と最古参クールボインの迷推理

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「はああ~、やおないねえ」

 部室に戻り椅子につくと、梨子ちゃんは開口一番にそう言った。
 無理もない。法学部棟、経済学部棟、総合研究棟と、この短時間の間に三か所もキャンパス内を歩き回ったのである。元運動部だった心美ちゃんはそれでもケロリとしていたが、運動とは無縁の文化畑で育ってきた私と梨子ちゃんは、崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏した。ああ、疲れた。

「喉渇いたっちゃね~……心美ちゃん、ちょっとコーヒー淹れてくれん?」
「コーヒーは切らしてるんじゃなかった?」
「あ~、せやったね……間の悪いこっちゃ……」
「じゃあ、何か冷たいもの買ってくるから、ちょっと待ってて」
「ああ~、ありがとう心美ちゃん……若者は逞しいっちゃねぇ。おばちゃんすっかり足腰が弱ってしもうたけ……」

 心美ちゃんの冷静なツッコミと心温まる気遣い。冷静と情熱のあいだ……違うか。つーか、二年の梨子ちゃんがおばちゃんだったら三年のあたしはどうなるんだ?
 数分後、心美ちゃんが自販機から買ってきてくれたのは冷たい烏龍茶、280mlの小さいペットボトルのやつだった。

「コーヒーも探してみたんだけど、全部売り切れになってたんだよね。だから、一応烏龍茶を買ってきたんだけど……」
「よかよか。たしかこの辺の自販機、二、三日前からコーヒー全部売り切れてるけん」
「そうなんだ……早く補充してくれたらいいのにね」

 冷えた烏龍茶は渇いたおばちゃん約二名の喉をしっかりと潤し、少し休憩してから、私たちは事件に関する検討を始めた。

「うちはやっぱり小粟くんが怪しいと思っちょるよ。だってあいつ、本に対する愛情がいっちょん感じられんけ、汚してもな~んとも思ってなさそうやもん」

 口火を切ったのはやはり梨子ちゃんである。
 梨子ちゃん説は、とにかく小粟くんの態度が信じられないというただその一点を根拠とした推理である。まあ、そう言いたくなる気持ちはわからないではないし、彼だったら別に濡れ衣を着せちゃってもいいかなあなんて邪なことを考えたりもするのだが、あまり適当な理由でこの事件を片付けてしまうと、部の今後に禍根を残す結果となる可能性もある。犯人を指名するには、正当な理由が必要なのだ。
 私は梨子ちゃんに反論を試みる。

「でもさ、もし小粟くんが犯人だとしたら、どうして他の二人はコーヒーの染みを見なかったの? 汚したのが小粟くんだったら、後にこれを読んだ二人はコーヒーの染みを目にしているはずだよ」

 小粟犯人説の最大の疑問はこれである。昨日、三人が順番通りに同じ本の同じ箇所に目を通していて、なおかつ最初の人間がコーヒーを零していた場合、他の二人がそれを見ているはずなのだ。
 梨子ちゃんはウーンと唸り、一瞬すねたように口を尖らせたが、すぐに納得してくれたらしく、

「たしかに……小雨ちゃんの言うとおりやね……」

 と力なく呟いてテーブルに頬杖をついた。

「じゃあ、小雨ちゃんは誰が犯人やと思っとるん?」
「それはだね……」

 小雨理論に基づいて推理を組み立てれば、犯人は自明である。

「要するに、前の人が本を汚していた場合、次に読んだ人が必ずコーヒーの染みを見ているはずなんだよね? でも、実際には誰もそれを見ていなかった。ということはつまり、犯人は最後にドグラ・マグラを読んだ人――武元くんでしか有り得ないということだよ」

 誰もそれを見た者がいないのならば、最後に手に取った者が犯人。極めて簡単な答えだ。おそらく口下手な武元くんは、これを汚したのが自分だと言い出せずに、嘘をついてしまったのだろう。ハイ、解決。ちゃんちゃん。さて、帰って酒でも飲むか。

「あの、ちょっと待ってください。それだと、ちょっとおかしなことがありませんか?」
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