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監獄島の惨劇 ジャンル:ホラー
16時 瞬
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登場人物
瀬名 瞬……18歳、A大学一年。
京谷 小雨……19歳、A大学一年。瞬の幼馴染。
西野園 真紀……19歳、A大学一年。小雨の親友。二重人格。
京谷 鮫太郎……16歳、高校一年。小雨の弟。
加藤 和彦……21歳、A大学三年。サークルのリーダー。
福田 明美……21歳、A大学三年。加藤の交際相手。
菅山 直哉……21歳、A大学三年。監獄島の所有者の息子。
松野 清二……20歳、A大学三年。ベース担当のバンドマン。
斎藤 明日香……21歳、A大学三年。松野を追いかけて肝試しに参加。
鹿島 有希……19歳、A大学二年。外見は清楚だが……。
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!
俺たちは、島へと向かうボートの船上にいた。
モーター音と波の音が奇妙なハーモニーを奏でている。十一月の海風は、頬を刺すように冷たい。
燃えるような朱色に染まった夕陽を背景に、真紀の長い髪が、炎のようにゆらゆらと風に靡いている。ワインレッドのコートの下から覗く、花柄の刺繍が施された黒いミニスカート。そこから伸びる細い脚は黒いストッキングに包まれ、ニーハイブーツを履いていた。
無意識のうちに彼女を見つめている自分に気付く。そんな事が最近多くなった、と瞬は思った。
もし、この目がカメラだったら、彼女と知り合ってからの半年余りで、彼女のフォルダはテラバイト単位になっているだろう。手すりに掴まって海を眺めている彼女の姿に、神々しささえ覚える。
「ん、なあに?」
真紀が突然、こちらを振り向いて微笑む。
「いや……なんでもない」
そう答えると、彼女は両手で歯痛ポーズを作り、小首を傾げるような仕草を見せ、にっこりと笑った。真紀のお馴染みのポーズだ。男なら誰しも魅了されずにはおれない、魔性の……と呼ぶには、優しすぎる笑顔。こちらまで、微笑みが伝染してしまう。
十秒ほど見つめあっただろうか。それから、真紀は夕陽へと視線を転じた。
こんな時にぴったりの気が利いた言語表現はもうとっくに使い果たしてしまった。こうして彼女に問われる度に、語彙の貧しさを嘆きながら、唖のように微笑み返す事しかできない。
ふと背後を振り返ると、すぐ後ろで、小雨も夕陽を眺めていた。目を細めながら、へりに寄りかかるようにして座っている。ショートボブの黒髪を覆い隠すようにニット帽を目深に被り、水色のダウンジャケット、黒いデニムパンツに、キャメル色のブーツを履いている。こちらの視線に気付くと、小雨も真紀の真似をして、同じ歯痛ポーズをとってみせた。それを見た俺は、思わず吹き出してしまう。
「ちょっと、なんで笑うの?」
「いやいや、すまん、柄にもないと思ってさ」
「どうせ私は真紀ほどかわいくないですよ」
小雨は拗ねたように口を尖らせて、船の外に広がる大海原に目を移す。
小雨の横顔には子供の頃から、しなやかな色気があった。どこか儚げで、切ない。彼女と知り合ってもう十年以上の月日が経過している。もし、この目がカメラだったら、小雨のフォルダはもうペタバイト単位になっているかもしれない。
小雨の隣には、小雨の弟の鮫太郎――俺は昔から鮫ちゃんと呼んでいる――が座っている。今回の肝試しに突然参加する事になって、ほとんど着の身着のままついて来たのだが、本当に大丈夫だろうか。普段着のジャージに、だぼっとしたパーカー、そしてスニーカー。全身が黒ずくめだ。やはり寒いのか、パーカーのフードを被っている。
鮫ちゃんは昔から、勉強以外は何でもそつなくこなせる子だった。男の俺が贔屓目なしで見てもイケメンの部類に入るし、身長も俺より十センチほど高く、180は超えているだろう。小雨に言わせると、
「鮫太郎は頑丈だしバカだから、裸で野宿しても風邪なんかひかないよ、大丈夫!」
……だそうだ。
さて、話が前後してしまったが、俺達四人は今回、俺が所属しているサークルの先輩六人と合わせて十人で、季節外れの肝試しをする事になっている。その舞台となるのが、
――監獄島。
地元では密かにそう呼ばれている無人島。既に人が寄り付かなくなってから半世紀以上が経過しているその島は、その名の通り、かつては死刑囚、政治犯など、重い刑罰を科せられた者達が収容される施設があったらしい。そして今では、昔ここで命を落としていった者達が死霊となって彷徨う場所として恐れられている。我々のような遠足気分の見物者や廃墟マニアの間では有名な場所で、知る人ぞ知る穴場スポットといったところか。
しかし最近、とある資産家がこの島を購入したという噂がまことしやかに囁かれていた。当初、俺はその噂をあまり信じていなかったのだが、今回の肝試しの計画を聞かされて信じざるを得なくなった。島を購入した資産家というのが、我々のサークルメンバーの父親だったからだ。
今我々が乗っている、定員10人の小型ボートを運転している太った男。黒縁メガネをかけ、短い黒髪をワックスでガチガチに立てている、三年生の菅山直哉こそ、かの島の新たな所有者の息子にして、今回の肝試しの発案者だった。
「おいお前ら、もうすぐ着くぜ」
そう呼び掛けた菅山先輩に、
「しっかし寒いなあ、もう少し暖かい時期じゃだめだったのかよ」
と文句を垂れたのは三年の加藤和彦。当サークルのリーダーだ。金髪のロン毛で顎鬚を生やし、どこかの暴走族にしか見えないような出で立ちでだらしなく座り、煙草を吸っている。俺達を車でここまで連れてきてくれたのは、この加藤先輩だった。
「しょうがないじゃねえかよ、ボート借りられるのが今しかなかったんだよ」
菅山先輩が声を荒げる。
「おい加藤、そんなに菅山を責めるなって」
加藤先輩を宥めたのは、同じく三年の松野清二。髪を青く染めた、ややもすると女性に見えてしまうほど華奢で甘いマスクのバンドマンだ。所属しているバンドではベースを担当しているらしく、女性関係での武勇伝は枚挙に暇がない。
「そうよ和彦、私、一回行ってみたかったんだ、監獄島」
「明美は廃墟マニアだからな……俺にはさっぱりわかんねえわ」
加藤先輩と下の名前で呼び合っている女性は、三年の福田明美。加藤先輩の彼女だ。茶髪のセミロングで、毛先を軽く巻いている。小柄でほっそりとして、小動物のような雰囲気がある。
「え~私はなんか怖いなあ……ねえ、有希?」
「はい……幽霊とかそういうの、苦手で……」
今話しかけた方の女性が、三年の斎藤明日香。福田先輩と同じ茶髪のセミロングだが、こちらはグラマーで肉食系なタイプだ。明日香先輩が松野先輩を狙っている事は最早、公然の秘密となっている。今回の肝試しに参加した理由も、おそらく松野先輩が参加するからではないだろうか。
話しかけられた方の女性は、二年の鹿島有希。こちらは黒髪のロングヘアーで、服装も立ち振る舞いも、清楚で大人しい印象を受ける。だが、俺が知る限りでは、男関係が一番派手なのが鹿島先輩だ。
駆け足での紹介になってしまったが、上級生ばかりの集まりに俺達一年が呼ばれたのは、他でもない、真紀の存在によるものだ。真紀は、泣く子も黙る超絶美人にして大富豪のお嬢様。一年生ながら大学でのマドンナ的存在で、その美貌のため、入学して間もない頃から、常に周囲に人だかり……いや、男だかりができていた。当時の俺達は、名前も知らないその美人を遠巻きに眺めていたのだ。
真紀と一緒に行動するようになってからは、俺や小雨も話しかけられる機会が増えていった。しかし勿論相手は真紀目当ての男達ばかりなので、黙って話を聞いていると
「今度飲みに行こうよ、真紀ちゃんも呼んでさ」
「真紀ちゃんとLINEしたいんだけど、ちょっと紹介してくれないかな?」
という方向に話が流れて行った。今回の肝試しも、俺と小雨は真紀のオマケのようなものだ。
俺が所属しているこのサークルは、所謂飲みサー、陰ではヤリサーとも揶揄されている団体である。
これといった趣味もなく、ブラブラしていた俺を一番最初に勧誘したのがこのサークルだった。俺がここにいるのは、たったそれだけの理由である。
酒が好きなわけでもなく、チャラい空気にも馴染めず、やめようやめようといつも思っているのだが、なかなか切り出せずに今に至る。こんなサークルに居続けたら、これまで以上に真紀に迷惑をかけることになるかもしれない。もう、あの時のようなことは――。
俺は、二か月ほど前の事を思い出していた。あれは、残暑も幾分和らぎ始めた八月末のことだった。このサークルの袴田という先輩の家族の別荘に招かれて、真紀、小雨と一緒に数日間をそこで過ごした。しかし、滞在中にその先輩が自殺してしまい――後味の悪い思い出になってしまったが、それ以後も真紀は、俺が断り切れずに持っていく飲みや遊びの誘いに、嫌な顔ひとつせずに応じてくれるのだった。俺が一緒ならば、という条件付きではあったが。
真紀には一つ変わった特徴がある。彼女は実は二重人格で、化粧を落とすと別人格に切り替わるのだ。俺は件の八月の事件の時に、もう一人の彼女と話をしたことがある。冷徹で、寡黙で、無表情で、人を寄せ付けないオーラを放つ、もう一人の真紀。今ここにいるメンバーの中で、その事を知っているのは俺と小雨だけだろう。今回は、会う機会があるだろうか……。
また、ぼんやり真紀を眺めてしまっていた。これは何かの病気なのかもしれない……いや、美しいものを見ようとする行為自体は、人の本能的な欲求であるはずだ。
などと自問自答していると、ずっと夕陽を眺めていた真紀が、突然こちらを向いた。俺は慌てて視線を逸らす。ヒールの高いブーツを履いている真紀は、揺れる船上で両腕を水平に広げ、バランスをとりながらこちらへやってきて、ぽすん、と隣に座った。
「ねえ、瞬……今回も、何か事件が起こるのかな?」
俺はぎょっとして周りを見る。幸い、波の音にかき消されて、先輩達には聞かれていなかったようだ。ほっとして真紀に向き直り、肩をすくめて見せた。
「さあ……真紀は起こってほしいの?」
すると背後から、小雨が話に割り込んできた。
「そんな、立て続けに事件なんか起こるわけないでしょ? コナン君じゃあるまいし……」
小雨のその言葉を聞いて、鳥肌が立った。俺の経験上、小雨が楽観的な予測をすると、それは必ず外れるのである。
瀬名 瞬……18歳、A大学一年。
京谷 小雨……19歳、A大学一年。瞬の幼馴染。
西野園 真紀……19歳、A大学一年。小雨の親友。二重人格。
京谷 鮫太郎……16歳、高校一年。小雨の弟。
加藤 和彦……21歳、A大学三年。サークルのリーダー。
福田 明美……21歳、A大学三年。加藤の交際相手。
菅山 直哉……21歳、A大学三年。監獄島の所有者の息子。
松野 清二……20歳、A大学三年。ベース担当のバンドマン。
斎藤 明日香……21歳、A大学三年。松野を追いかけて肝試しに参加。
鹿島 有希……19歳、A大学二年。外見は清楚だが……。
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!
俺たちは、島へと向かうボートの船上にいた。
モーター音と波の音が奇妙なハーモニーを奏でている。十一月の海風は、頬を刺すように冷たい。
燃えるような朱色に染まった夕陽を背景に、真紀の長い髪が、炎のようにゆらゆらと風に靡いている。ワインレッドのコートの下から覗く、花柄の刺繍が施された黒いミニスカート。そこから伸びる細い脚は黒いストッキングに包まれ、ニーハイブーツを履いていた。
無意識のうちに彼女を見つめている自分に気付く。そんな事が最近多くなった、と瞬は思った。
もし、この目がカメラだったら、彼女と知り合ってからの半年余りで、彼女のフォルダはテラバイト単位になっているだろう。手すりに掴まって海を眺めている彼女の姿に、神々しささえ覚える。
「ん、なあに?」
真紀が突然、こちらを振り向いて微笑む。
「いや……なんでもない」
そう答えると、彼女は両手で歯痛ポーズを作り、小首を傾げるような仕草を見せ、にっこりと笑った。真紀のお馴染みのポーズだ。男なら誰しも魅了されずにはおれない、魔性の……と呼ぶには、優しすぎる笑顔。こちらまで、微笑みが伝染してしまう。
十秒ほど見つめあっただろうか。それから、真紀は夕陽へと視線を転じた。
こんな時にぴったりの気が利いた言語表現はもうとっくに使い果たしてしまった。こうして彼女に問われる度に、語彙の貧しさを嘆きながら、唖のように微笑み返す事しかできない。
ふと背後を振り返ると、すぐ後ろで、小雨も夕陽を眺めていた。目を細めながら、へりに寄りかかるようにして座っている。ショートボブの黒髪を覆い隠すようにニット帽を目深に被り、水色のダウンジャケット、黒いデニムパンツに、キャメル色のブーツを履いている。こちらの視線に気付くと、小雨も真紀の真似をして、同じ歯痛ポーズをとってみせた。それを見た俺は、思わず吹き出してしまう。
「ちょっと、なんで笑うの?」
「いやいや、すまん、柄にもないと思ってさ」
「どうせ私は真紀ほどかわいくないですよ」
小雨は拗ねたように口を尖らせて、船の外に広がる大海原に目を移す。
小雨の横顔には子供の頃から、しなやかな色気があった。どこか儚げで、切ない。彼女と知り合ってもう十年以上の月日が経過している。もし、この目がカメラだったら、小雨のフォルダはもうペタバイト単位になっているかもしれない。
小雨の隣には、小雨の弟の鮫太郎――俺は昔から鮫ちゃんと呼んでいる――が座っている。今回の肝試しに突然参加する事になって、ほとんど着の身着のままついて来たのだが、本当に大丈夫だろうか。普段着のジャージに、だぼっとしたパーカー、そしてスニーカー。全身が黒ずくめだ。やはり寒いのか、パーカーのフードを被っている。
鮫ちゃんは昔から、勉強以外は何でもそつなくこなせる子だった。男の俺が贔屓目なしで見てもイケメンの部類に入るし、身長も俺より十センチほど高く、180は超えているだろう。小雨に言わせると、
「鮫太郎は頑丈だしバカだから、裸で野宿しても風邪なんかひかないよ、大丈夫!」
……だそうだ。
さて、話が前後してしまったが、俺達四人は今回、俺が所属しているサークルの先輩六人と合わせて十人で、季節外れの肝試しをする事になっている。その舞台となるのが、
――監獄島。
地元では密かにそう呼ばれている無人島。既に人が寄り付かなくなってから半世紀以上が経過しているその島は、その名の通り、かつては死刑囚、政治犯など、重い刑罰を科せられた者達が収容される施設があったらしい。そして今では、昔ここで命を落としていった者達が死霊となって彷徨う場所として恐れられている。我々のような遠足気分の見物者や廃墟マニアの間では有名な場所で、知る人ぞ知る穴場スポットといったところか。
しかし最近、とある資産家がこの島を購入したという噂がまことしやかに囁かれていた。当初、俺はその噂をあまり信じていなかったのだが、今回の肝試しの計画を聞かされて信じざるを得なくなった。島を購入した資産家というのが、我々のサークルメンバーの父親だったからだ。
今我々が乗っている、定員10人の小型ボートを運転している太った男。黒縁メガネをかけ、短い黒髪をワックスでガチガチに立てている、三年生の菅山直哉こそ、かの島の新たな所有者の息子にして、今回の肝試しの発案者だった。
「おいお前ら、もうすぐ着くぜ」
そう呼び掛けた菅山先輩に、
「しっかし寒いなあ、もう少し暖かい時期じゃだめだったのかよ」
と文句を垂れたのは三年の加藤和彦。当サークルのリーダーだ。金髪のロン毛で顎鬚を生やし、どこかの暴走族にしか見えないような出で立ちでだらしなく座り、煙草を吸っている。俺達を車でここまで連れてきてくれたのは、この加藤先輩だった。
「しょうがないじゃねえかよ、ボート借りられるのが今しかなかったんだよ」
菅山先輩が声を荒げる。
「おい加藤、そんなに菅山を責めるなって」
加藤先輩を宥めたのは、同じく三年の松野清二。髪を青く染めた、ややもすると女性に見えてしまうほど華奢で甘いマスクのバンドマンだ。所属しているバンドではベースを担当しているらしく、女性関係での武勇伝は枚挙に暇がない。
「そうよ和彦、私、一回行ってみたかったんだ、監獄島」
「明美は廃墟マニアだからな……俺にはさっぱりわかんねえわ」
加藤先輩と下の名前で呼び合っている女性は、三年の福田明美。加藤先輩の彼女だ。茶髪のセミロングで、毛先を軽く巻いている。小柄でほっそりとして、小動物のような雰囲気がある。
「え~私はなんか怖いなあ……ねえ、有希?」
「はい……幽霊とかそういうの、苦手で……」
今話しかけた方の女性が、三年の斎藤明日香。福田先輩と同じ茶髪のセミロングだが、こちらはグラマーで肉食系なタイプだ。明日香先輩が松野先輩を狙っている事は最早、公然の秘密となっている。今回の肝試しに参加した理由も、おそらく松野先輩が参加するからではないだろうか。
話しかけられた方の女性は、二年の鹿島有希。こちらは黒髪のロングヘアーで、服装も立ち振る舞いも、清楚で大人しい印象を受ける。だが、俺が知る限りでは、男関係が一番派手なのが鹿島先輩だ。
駆け足での紹介になってしまったが、上級生ばかりの集まりに俺達一年が呼ばれたのは、他でもない、真紀の存在によるものだ。真紀は、泣く子も黙る超絶美人にして大富豪のお嬢様。一年生ながら大学でのマドンナ的存在で、その美貌のため、入学して間もない頃から、常に周囲に人だかり……いや、男だかりができていた。当時の俺達は、名前も知らないその美人を遠巻きに眺めていたのだ。
真紀と一緒に行動するようになってからは、俺や小雨も話しかけられる機会が増えていった。しかし勿論相手は真紀目当ての男達ばかりなので、黙って話を聞いていると
「今度飲みに行こうよ、真紀ちゃんも呼んでさ」
「真紀ちゃんとLINEしたいんだけど、ちょっと紹介してくれないかな?」
という方向に話が流れて行った。今回の肝試しも、俺と小雨は真紀のオマケのようなものだ。
俺が所属しているこのサークルは、所謂飲みサー、陰ではヤリサーとも揶揄されている団体である。
これといった趣味もなく、ブラブラしていた俺を一番最初に勧誘したのがこのサークルだった。俺がここにいるのは、たったそれだけの理由である。
酒が好きなわけでもなく、チャラい空気にも馴染めず、やめようやめようといつも思っているのだが、なかなか切り出せずに今に至る。こんなサークルに居続けたら、これまで以上に真紀に迷惑をかけることになるかもしれない。もう、あの時のようなことは――。
俺は、二か月ほど前の事を思い出していた。あれは、残暑も幾分和らぎ始めた八月末のことだった。このサークルの袴田という先輩の家族の別荘に招かれて、真紀、小雨と一緒に数日間をそこで過ごした。しかし、滞在中にその先輩が自殺してしまい――後味の悪い思い出になってしまったが、それ以後も真紀は、俺が断り切れずに持っていく飲みや遊びの誘いに、嫌な顔ひとつせずに応じてくれるのだった。俺が一緒ならば、という条件付きではあったが。
真紀には一つ変わった特徴がある。彼女は実は二重人格で、化粧を落とすと別人格に切り替わるのだ。俺は件の八月の事件の時に、もう一人の彼女と話をしたことがある。冷徹で、寡黙で、無表情で、人を寄せ付けないオーラを放つ、もう一人の真紀。今ここにいるメンバーの中で、その事を知っているのは俺と小雨だけだろう。今回は、会う機会があるだろうか……。
また、ぼんやり真紀を眺めてしまっていた。これは何かの病気なのかもしれない……いや、美しいものを見ようとする行為自体は、人の本能的な欲求であるはずだ。
などと自問自答していると、ずっと夕陽を眺めていた真紀が、突然こちらを向いた。俺は慌てて視線を逸らす。ヒールの高いブーツを履いている真紀は、揺れる船上で両腕を水平に広げ、バランスをとりながらこちらへやってきて、ぽすん、と隣に座った。
「ねえ、瞬……今回も、何か事件が起こるのかな?」
俺はぎょっとして周りを見る。幸い、波の音にかき消されて、先輩達には聞かれていなかったようだ。ほっとして真紀に向き直り、肩をすくめて見せた。
「さあ……真紀は起こってほしいの?」
すると背後から、小雨が話に割り込んできた。
「そんな、立て続けに事件なんか起こるわけないでしょ? コナン君じゃあるまいし……」
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