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監獄島の惨劇 ジャンル:ホラー
18時 小雨
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監獄島の土を踏んだ私の第一声は、これだった。
「うわあ……マジかぁ……」
無人島。廃墟。そうした断片的な名詞から、もっとこう、こじんまりとしたものを想像していたのだ。
それがどうだ。
まず島がでかい。そして、廃墟もでかい。暗くてよくわからないが、おそらく島の面積では、テレビで見た事のある、あの軍艦島を超えているのではないだろうか。建物の数では流石に軍艦島に劣るものの、中央に聳え立つ巨大な建物……噂の収容所と思しき、黒々とした巨大な石柱のような建築物は、見る者を震え上がらせるのに十分な威圧感を放っている。ゴジラが蹲って寝ているような感じだ。
触れてはいけない。近付いてはいけない。
空気がピリピリと張り詰めている。今、このニット帽を脱いだら、静電気が凄そうだな……なんて事を考えた。辺りはすっかり夜の帳が降りていた。この上に幽霊とか、マジ勘弁。
コンクリートの岸壁の向こうには、プレハブ小屋が二つ並んでいた。この二つの小屋を、それぞれ男子と女子に分かれて利用する事になっている。
一通り自分達の荷物を運び終えると、我々女性陣は早くも手持ち無沙汰、要するに休憩タイムになった。
小屋の中は、特に話し合ったわけでもないのに、入り口から見て奥側に先輩達、手前側に私と真紀、という具合に分かれて座っていた。幸い電気が通っているようで、皆揃ってスマホを充電している。外からは、男性陣が何やら忙しそうに荷物を解いている声が聞こえる。
それから少しして、加藤先輩が電気ストーブとカセットコンロ、そしてヤカンと水とカップラーメンを持ってきてくれた。
これが夕飯という事か。ううん、これで足りるかな……と、小雨は不安になった。普段は、カップラーメンにおにぎりとか、唐揚げとか、何かを追加して食べている。カップラだけでは腹が持たないのだ。何か買って来ればよかったなあと、少し後悔した。
加藤先輩が持ってきてくれた電気ストーブを五人がかりで、うんしょ、うんしょと小屋の真ん中に移動させる。ストーブに火が入ると、それまで散り散りに座っていた一同が一斉にストーブの周りに集まってきた。五人揃ってストーブを囲むように座った。
「あ~、あったかい」
五人で競うように、「暖かい」という言葉の変化と活用のバリエーションを披露しあった。
それからしばらく先輩達は無言でスマホをいじっていた。私は安部公房の「砂の女」を読んでいたが、ちらちらと外の様子を窺いながら雑誌を読んでいた真紀は、突然立ち上がったかと思うとそのまま外へ出て行ってしまった。
なんだ、私一人かよ、気まずいな……と思いながらも、黙々と読み進めた。するとやがて、先輩達が何やらひそひそと、私にも聞こえるか聞こえないかという絶妙のボリュームで話し始めた。
「ねえ、なんでサークルと無関係な一年生が来てるの?」
これは、ムチムチ系の斎藤先輩の声だ。全体的に険のある印象を受ける人だが、恐らく男の前に出ると変わるタイプと見た。
「菅山君の希望だったかな……? 瀬名君に頼んで連れてきてもらったのよ」
これは、小動物系の福田先輩。酸素の代わりにヘリウムガスを吸って生きているんじゃないかと思うぐらい声が高い。
「私達六人でもよかったじゃないの」
「ボートの定員が10人だし、せっかくだからなるべく目いっぱい人を呼びたい、っていうことらしいわよ……ほら、西野園さん、人気あるから」
「そう、その……西野園さんだっけ? どういうつもりなわけ? こんなとこにあんなヒールの高いブーツ履いてきてさぁ」
「まあ、まあ……お嬢様らしいし、そこら辺、よくわからなかったんでしょ」
「なんか調子こいてるんじゃないの?あの子」
「ううん、そんな事もないと思うけど……」
真紀は女からは嫌われやすいタイプだから、この程度の反応は日常茶飯事だ。本人も、もう慣れた、と言っている。この斎藤先輩は、島に来る最中からこっそりと真紀にガンを飛ばしていた。
福田先輩は、何とか斎藤先輩を宥めようとしているようだ。リーダーの彼女だから、やはり責任感があるのかもしれない。私には絶対無理な役割だな……。
「でも、あの、京谷さんの弟の、鮫太郎君……? なかなかイケメンじゃないですか?」
鮫太郎の話題を出したのは、お嬢様系の鹿島先輩。か細くお上品な話し方だ。黒髪だし服装も清楚にまとめているので、見た目は真紀よりもお嬢様っぽい。
ところで、真紀の今の髪色はなかなか挑戦的だと思うが、それでもやはりとても似合っている。かわいいから、何をやっても様になるのだ。私がやったらきっとウィッグに見えてしまうだろう。悲しいけどこれ、和風顔なのよね。
閑話休題。
確かに鮫太郎は、私と違って目もくりっとしているし、かわいらしい顔立ちはしているのだが、肝心の中身がイケてない。バカというか、ガサツというか、残念イケメンなのである。男を見る目がないなぁと思ったが、私も人の事を言えた義理ではなかった。
それから暫く、先輩たちのおしゃべりを聞き流しながら本を読み進めていたら、段々とお腹が空いてきた。とはいえ、真紀もまだ戻ってこないし、先輩達もまだ誰もカップラーメンのカの字も口にしない。グゥゥ、なんて鳴り出さない事を祈りながら、もう少し我慢する事にした。
「うわあ……マジかぁ……」
無人島。廃墟。そうした断片的な名詞から、もっとこう、こじんまりとしたものを想像していたのだ。
それがどうだ。
まず島がでかい。そして、廃墟もでかい。暗くてよくわからないが、おそらく島の面積では、テレビで見た事のある、あの軍艦島を超えているのではないだろうか。建物の数では流石に軍艦島に劣るものの、中央に聳え立つ巨大な建物……噂の収容所と思しき、黒々とした巨大な石柱のような建築物は、見る者を震え上がらせるのに十分な威圧感を放っている。ゴジラが蹲って寝ているような感じだ。
触れてはいけない。近付いてはいけない。
空気がピリピリと張り詰めている。今、このニット帽を脱いだら、静電気が凄そうだな……なんて事を考えた。辺りはすっかり夜の帳が降りていた。この上に幽霊とか、マジ勘弁。
コンクリートの岸壁の向こうには、プレハブ小屋が二つ並んでいた。この二つの小屋を、それぞれ男子と女子に分かれて利用する事になっている。
一通り自分達の荷物を運び終えると、我々女性陣は早くも手持ち無沙汰、要するに休憩タイムになった。
小屋の中は、特に話し合ったわけでもないのに、入り口から見て奥側に先輩達、手前側に私と真紀、という具合に分かれて座っていた。幸い電気が通っているようで、皆揃ってスマホを充電している。外からは、男性陣が何やら忙しそうに荷物を解いている声が聞こえる。
それから少しして、加藤先輩が電気ストーブとカセットコンロ、そしてヤカンと水とカップラーメンを持ってきてくれた。
これが夕飯という事か。ううん、これで足りるかな……と、小雨は不安になった。普段は、カップラーメンにおにぎりとか、唐揚げとか、何かを追加して食べている。カップラだけでは腹が持たないのだ。何か買って来ればよかったなあと、少し後悔した。
加藤先輩が持ってきてくれた電気ストーブを五人がかりで、うんしょ、うんしょと小屋の真ん中に移動させる。ストーブに火が入ると、それまで散り散りに座っていた一同が一斉にストーブの周りに集まってきた。五人揃ってストーブを囲むように座った。
「あ~、あったかい」
五人で競うように、「暖かい」という言葉の変化と活用のバリエーションを披露しあった。
それからしばらく先輩達は無言でスマホをいじっていた。私は安部公房の「砂の女」を読んでいたが、ちらちらと外の様子を窺いながら雑誌を読んでいた真紀は、突然立ち上がったかと思うとそのまま外へ出て行ってしまった。
なんだ、私一人かよ、気まずいな……と思いながらも、黙々と読み進めた。するとやがて、先輩達が何やらひそひそと、私にも聞こえるか聞こえないかという絶妙のボリュームで話し始めた。
「ねえ、なんでサークルと無関係な一年生が来てるの?」
これは、ムチムチ系の斎藤先輩の声だ。全体的に険のある印象を受ける人だが、恐らく男の前に出ると変わるタイプと見た。
「菅山君の希望だったかな……? 瀬名君に頼んで連れてきてもらったのよ」
これは、小動物系の福田先輩。酸素の代わりにヘリウムガスを吸って生きているんじゃないかと思うぐらい声が高い。
「私達六人でもよかったじゃないの」
「ボートの定員が10人だし、せっかくだからなるべく目いっぱい人を呼びたい、っていうことらしいわよ……ほら、西野園さん、人気あるから」
「そう、その……西野園さんだっけ? どういうつもりなわけ? こんなとこにあんなヒールの高いブーツ履いてきてさぁ」
「まあ、まあ……お嬢様らしいし、そこら辺、よくわからなかったんでしょ」
「なんか調子こいてるんじゃないの?あの子」
「ううん、そんな事もないと思うけど……」
真紀は女からは嫌われやすいタイプだから、この程度の反応は日常茶飯事だ。本人も、もう慣れた、と言っている。この斎藤先輩は、島に来る最中からこっそりと真紀にガンを飛ばしていた。
福田先輩は、何とか斎藤先輩を宥めようとしているようだ。リーダーの彼女だから、やはり責任感があるのかもしれない。私には絶対無理な役割だな……。
「でも、あの、京谷さんの弟の、鮫太郎君……? なかなかイケメンじゃないですか?」
鮫太郎の話題を出したのは、お嬢様系の鹿島先輩。か細くお上品な話し方だ。黒髪だし服装も清楚にまとめているので、見た目は真紀よりもお嬢様っぽい。
ところで、真紀の今の髪色はなかなか挑戦的だと思うが、それでもやはりとても似合っている。かわいいから、何をやっても様になるのだ。私がやったらきっとウィッグに見えてしまうだろう。悲しいけどこれ、和風顔なのよね。
閑話休題。
確かに鮫太郎は、私と違って目もくりっとしているし、かわいらしい顔立ちはしているのだが、肝心の中身がイケてない。バカというか、ガサツというか、残念イケメンなのである。男を見る目がないなぁと思ったが、私も人の事を言えた義理ではなかった。
それから暫く、先輩たちのおしゃべりを聞き流しながら本を読み進めていたら、段々とお腹が空いてきた。とはいえ、真紀もまだ戻ってこないし、先輩達もまだ誰もカップラーメンのカの字も口にしない。グゥゥ、なんて鳴り出さない事を祈りながら、もう少し我慢する事にした。
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