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監獄島の惨劇 ジャンル:ホラー
22時51分
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斎藤明日香は、菅山直哉と共に、既に4階を歩いていた。
菅山は収容所内の平面図をあらかじめ用意していた。そのため、消火栓を探すのに全く苦労しなかったのだ。
言い出しっぺが平気でズルをするってどうよ?
明日香は当然そう思うのだが、菅山はむしろ得意そうに進路を指示していた。こういう人間は、反吐が出るほど嫌いだ。
明日香は頗る不機嫌であった。
松野清二を追いかけてこの島に来たはずなのに、結局松野とペアを組む事ができなかったからである。明日香も積極的にアピールしたはずだが、あろうことか、清二は有希を選んだのだ。男に求められる事にしか己の存在価値を見出せない、自堕落な女、有希を……。
避けられている事に全く気付いていないわけではなかった。明日香は元々ワンナイトラブ、所謂ワンチャン肯定派だし、この島に来た男の中にも、松野を含めて、関係を持った事のある男は二人いるのだ。
それでも明日香が清二を諦めきれないのは、彼のステージ上の姿に惚れ込んだからだった。
唸るようなベースの低音、飛び散る汗、恍惚とした表情。数多くのバンドを見てきた明日香が、初めて惚れた音、そして姿だった。
明日香は、清二の所属するバンドのライブに足繁く通うようになった。常に最前列で清二を見つめ、またサークルでも常に清二の隣をキープするよう心掛けていたのだ。
それだけに、ここまで来て清二と一緒にいられないという事が、大きなショックであった。
清二に振られた時点で、既に相手なんてどうでもよかったのだが、その時点で残っていたのは菅山と、よく知らない一年生の弟――なんと高校生――だけ。初対面の子供のお守りは御免なので、仕方なく菅山を選んだのだが、やはり菅山という男は生理的に無理なタイプだった。それは見た目だけの話ではなく、性格的にも全く受け付けない、近寄りたくないタイプなのだ。一言で言えば、キモい。もっとも、家が裕福である事を鼻にかけて威張りくさっている菅山は、本人が思っている以上に皆に嫌われているのだが。
その菅山が、突然話しかけてきた。
「おい明日香、黙ってないでなんか喋ったらどうだ? せっかく俺がここまで連れてきてやったんだからよ、もうちょっと楽しめよ。ノリ悪いな」
明日香の頭の中で、プツンと、堪忍袋の緒が切れる音がした。
別にこんなところに来たくもなかったし、菅山と一緒にも居たくないし、そもそも、馴れ馴れしく下の名前で呼ばれる事すら心外なのである。明日香のイライラは頂点に達した。
「は? あんた一体何様のつもり? 親が買った島に、親のボートで来ただけじゃん? 一体あんたが何をしたっていうの?」
「な、なっ……」
菅山は小さい目を頻りにしばたたかせながら、何事か反論を試みているようだったが、怒れる明日香の剣幕がそれを許さなかった。
「大体さ、あんたなんでこのサークルに入ったの? どうせ、ここにいるような股のゆるい女だったら、金をちらつかせたら簡単にやれるだろう、とか思ってたんでしょ? ハッ! こっちにだってね、相手を選ぶ権利はあるのよ。誰があんたみたいな気持ち悪いデブと好き好んで一緒にいるもんですか。ノリ悪いだって? 当たり前でしょうが、あんたと一緒なんだから。何かにつけて家の自慢話ばっかりのあんたと一緒にいて楽しい女なんて一人もいないわよ?」
「……」
一度暴発してしまうとなかなかコントロールが効かなくなる明日香である。ちょうどPMSの時期であった事も、少なからず災いした。
「あんたみたいな童貞はね、部屋にこもってシコシコしてるか、なろうのチーレムものでも読んで現実逃避すんのがお似合いなのよ。その気持ち悪い自意識にあたしを巻き込まないでくれる? あたしは今めっっっちゃくちゃ機嫌が悪いの。お願いだから近寄らないで、話しかけないでね。ああぁ、ウザいキモいクサい」
ここまで言い切ってしまってから明日香は、流石に言い過ぎてしまったな、と後悔した。
カーッとなって、思っている事、いない事までイライラにまかせて全てぶつけてしまい、最後まで言い終わって冷静になると、途端に反省する羽目になる。そんな事が、明日香にとっては日常茶飯事だった。自分でも悪い癖だと自覚しているし、いい加減直さなければ、とも思っているのだが、どうにも止められないのである。
明日香は一度菅山に背を向け、深く深呼吸した。
ああ、またやってしまった。いかに相手が菅山とはいえ、これは大人げなかった。人として、謝らなければならない場面だろう。癪だけど。許してもらえなくても、それはそれでいいか。
明日香は意を決して、菅山の方へ振り返った。
なまはげのように憤怒の表情を浮かべた菅山の顔が既に目の前にあり、その両腕が首へと伸びてきた。
不意を突かれた明日香は、逃げる間もなく菅山に押し倒された。
首にめりめりと菅山の指が食い込んでいく。菅山の体重にのしかかられ、押しつぶされた体は身動き一つ取れない。
「うが……が……」
脳への血流が減少し、意識が遠くなる。不細工な顔を異様に捻じ曲げた菅山の顔が、視界いっぱいに覆いかぶさっていた。
えっ、もしかして、これって、ここで死ぬの……?
嘘でしょ……?
菅山の、はぁ、はぁ、という荒い呼吸の音が、鼓膜の奥までしつこくへばりついてくる。こんなに寒いのに、噎せ返るような汗の臭いと不快な体臭が鼻腔の中に流れ込んできた。
ああ、やっぱり、有希から奪い取ってでも清二の傍にいるべきだった。
こんな悪臭の中で死んでいくなんて。トイレに閉じ込められて死ぬほうがまだマシだわ。
家畜の堆肥のようなひどい臭い。
このブタ野郎め……末代まで呪ってやるからな……。
最後まで、
気持ち悪い奴……。
最初の犠牲者、斎藤明日香の意識は、菅山への怨嗟と共に、目覚める事のない眠りへと落ちていった。
ああ、なんて事をしてしまったんだ……。
既に息絶えた斎藤明日香の死体を前にして、菅山直哉は頭を抱えていた。
目の前であれほど痛罵され、屈辱を受けた事は初めてだった。怒りで頭に血が上ってしまい、何がなんだかわからなくなって、気が付いたら、もう明日香は動かなくなっていたのである。
殺すつもりなんてなかった。ただ、人並みに、女の子と話がしたかっただけなのだ。肝試しでもして、ちょっと密着でもしたら、それが叶うかと思っていた。本当にそれだけなのだ。どうしてこんな事になってしまったのだろう? ――冷たい汗が背中を伝ってゆく。
俺は殺人を犯してしまったのだ。
これを隠蔽することはできるだろうか……? いや、無理だろう。明日香がこの島に来ている事は、ここに来たメンバー全員が知っている事なのである。死体を隠せば……? それも無理がある。行方不明になった事が知れたら、当然警察沙汰になるだろうし、捜索されたら隠しきる事は不可能だろう。疑われるのは当然、一緒にいた俺だ。脅迫まがいの取り調べを受けて、自白させられるのだ。しかも、それが真実なのである。
もうだめだ。俺の人生は終わった……。こんな事が知れたら、きっと親父も俺を勘当するだろう。まともな職業に就く事もできない。テレビで顔と名前を晒されるかもしれない。よしんばそれを避けられたとしても、ネットの匿名掲示板に顔と実名を晒されて、クズ共に笑いものに、慰み物にされるだろう。俺がこれまでそうしてきたように。
もう、詰んだ。
直哉は生きる気力を失い、がっくりと項垂れた。
目の前には、力なく投げ出された明日香の手足。
デニムパンツに包まれたすらりと長い脚が、誘惑するように淫靡に開かれている。そこから、肉感的な丸みを帯びた臀部へと視点が移動し、最後に、コートの下で乱れたブラウスのボタンに目が留まる。
直哉はごくりと唾を飲んだ。
手がひとりでに明日香のブラウスのボタンへと伸び、それを一つ、二つと外してゆく。黒い下着に包まれた、ゆるやかな二つの膨らみが露わになった。直哉の手はそのままデニムパンツへと移動し、ベルトを外し、ファスナーを下ろした。こちらも黒い下着だ。
一体俺は何をしているんだ。直哉は自問した。光を失った明日香の瞳が、まっすぐに直哉を捉えている。肉感的な肢体の緩やかな曲線が、意味を持って暗闇の中に浮かび上がった。
直哉は、狂っていく自分を自覚した。止められない性的衝動が、体の奥から湧き上がってくる。
そうだ。俺は今、
どんなに高い金を払っても叶わない、
最高のダッチワイフを手に入れたのだ。
菅山は収容所内の平面図をあらかじめ用意していた。そのため、消火栓を探すのに全く苦労しなかったのだ。
言い出しっぺが平気でズルをするってどうよ?
明日香は当然そう思うのだが、菅山はむしろ得意そうに進路を指示していた。こういう人間は、反吐が出るほど嫌いだ。
明日香は頗る不機嫌であった。
松野清二を追いかけてこの島に来たはずなのに、結局松野とペアを組む事ができなかったからである。明日香も積極的にアピールしたはずだが、あろうことか、清二は有希を選んだのだ。男に求められる事にしか己の存在価値を見出せない、自堕落な女、有希を……。
避けられている事に全く気付いていないわけではなかった。明日香は元々ワンナイトラブ、所謂ワンチャン肯定派だし、この島に来た男の中にも、松野を含めて、関係を持った事のある男は二人いるのだ。
それでも明日香が清二を諦めきれないのは、彼のステージ上の姿に惚れ込んだからだった。
唸るようなベースの低音、飛び散る汗、恍惚とした表情。数多くのバンドを見てきた明日香が、初めて惚れた音、そして姿だった。
明日香は、清二の所属するバンドのライブに足繁く通うようになった。常に最前列で清二を見つめ、またサークルでも常に清二の隣をキープするよう心掛けていたのだ。
それだけに、ここまで来て清二と一緒にいられないという事が、大きなショックであった。
清二に振られた時点で、既に相手なんてどうでもよかったのだが、その時点で残っていたのは菅山と、よく知らない一年生の弟――なんと高校生――だけ。初対面の子供のお守りは御免なので、仕方なく菅山を選んだのだが、やはり菅山という男は生理的に無理なタイプだった。それは見た目だけの話ではなく、性格的にも全く受け付けない、近寄りたくないタイプなのだ。一言で言えば、キモい。もっとも、家が裕福である事を鼻にかけて威張りくさっている菅山は、本人が思っている以上に皆に嫌われているのだが。
その菅山が、突然話しかけてきた。
「おい明日香、黙ってないでなんか喋ったらどうだ? せっかく俺がここまで連れてきてやったんだからよ、もうちょっと楽しめよ。ノリ悪いな」
明日香の頭の中で、プツンと、堪忍袋の緒が切れる音がした。
別にこんなところに来たくもなかったし、菅山と一緒にも居たくないし、そもそも、馴れ馴れしく下の名前で呼ばれる事すら心外なのである。明日香のイライラは頂点に達した。
「は? あんた一体何様のつもり? 親が買った島に、親のボートで来ただけじゃん? 一体あんたが何をしたっていうの?」
「な、なっ……」
菅山は小さい目を頻りにしばたたかせながら、何事か反論を試みているようだったが、怒れる明日香の剣幕がそれを許さなかった。
「大体さ、あんたなんでこのサークルに入ったの? どうせ、ここにいるような股のゆるい女だったら、金をちらつかせたら簡単にやれるだろう、とか思ってたんでしょ? ハッ! こっちにだってね、相手を選ぶ権利はあるのよ。誰があんたみたいな気持ち悪いデブと好き好んで一緒にいるもんですか。ノリ悪いだって? 当たり前でしょうが、あんたと一緒なんだから。何かにつけて家の自慢話ばっかりのあんたと一緒にいて楽しい女なんて一人もいないわよ?」
「……」
一度暴発してしまうとなかなかコントロールが効かなくなる明日香である。ちょうどPMSの時期であった事も、少なからず災いした。
「あんたみたいな童貞はね、部屋にこもってシコシコしてるか、なろうのチーレムものでも読んで現実逃避すんのがお似合いなのよ。その気持ち悪い自意識にあたしを巻き込まないでくれる? あたしは今めっっっちゃくちゃ機嫌が悪いの。お願いだから近寄らないで、話しかけないでね。ああぁ、ウザいキモいクサい」
ここまで言い切ってしまってから明日香は、流石に言い過ぎてしまったな、と後悔した。
カーッとなって、思っている事、いない事までイライラにまかせて全てぶつけてしまい、最後まで言い終わって冷静になると、途端に反省する羽目になる。そんな事が、明日香にとっては日常茶飯事だった。自分でも悪い癖だと自覚しているし、いい加減直さなければ、とも思っているのだが、どうにも止められないのである。
明日香は一度菅山に背を向け、深く深呼吸した。
ああ、またやってしまった。いかに相手が菅山とはいえ、これは大人げなかった。人として、謝らなければならない場面だろう。癪だけど。許してもらえなくても、それはそれでいいか。
明日香は意を決して、菅山の方へ振り返った。
なまはげのように憤怒の表情を浮かべた菅山の顔が既に目の前にあり、その両腕が首へと伸びてきた。
不意を突かれた明日香は、逃げる間もなく菅山に押し倒された。
首にめりめりと菅山の指が食い込んでいく。菅山の体重にのしかかられ、押しつぶされた体は身動き一つ取れない。
「うが……が……」
脳への血流が減少し、意識が遠くなる。不細工な顔を異様に捻じ曲げた菅山の顔が、視界いっぱいに覆いかぶさっていた。
えっ、もしかして、これって、ここで死ぬの……?
嘘でしょ……?
菅山の、はぁ、はぁ、という荒い呼吸の音が、鼓膜の奥までしつこくへばりついてくる。こんなに寒いのに、噎せ返るような汗の臭いと不快な体臭が鼻腔の中に流れ込んできた。
ああ、やっぱり、有希から奪い取ってでも清二の傍にいるべきだった。
こんな悪臭の中で死んでいくなんて。トイレに閉じ込められて死ぬほうがまだマシだわ。
家畜の堆肥のようなひどい臭い。
このブタ野郎め……末代まで呪ってやるからな……。
最後まで、
気持ち悪い奴……。
最初の犠牲者、斎藤明日香の意識は、菅山への怨嗟と共に、目覚める事のない眠りへと落ちていった。
ああ、なんて事をしてしまったんだ……。
既に息絶えた斎藤明日香の死体を前にして、菅山直哉は頭を抱えていた。
目の前であれほど痛罵され、屈辱を受けた事は初めてだった。怒りで頭に血が上ってしまい、何がなんだかわからなくなって、気が付いたら、もう明日香は動かなくなっていたのである。
殺すつもりなんてなかった。ただ、人並みに、女の子と話がしたかっただけなのだ。肝試しでもして、ちょっと密着でもしたら、それが叶うかと思っていた。本当にそれだけなのだ。どうしてこんな事になってしまったのだろう? ――冷たい汗が背中を伝ってゆく。
俺は殺人を犯してしまったのだ。
これを隠蔽することはできるだろうか……? いや、無理だろう。明日香がこの島に来ている事は、ここに来たメンバー全員が知っている事なのである。死体を隠せば……? それも無理がある。行方不明になった事が知れたら、当然警察沙汰になるだろうし、捜索されたら隠しきる事は不可能だろう。疑われるのは当然、一緒にいた俺だ。脅迫まがいの取り調べを受けて、自白させられるのだ。しかも、それが真実なのである。
もうだめだ。俺の人生は終わった……。こんな事が知れたら、きっと親父も俺を勘当するだろう。まともな職業に就く事もできない。テレビで顔と名前を晒されるかもしれない。よしんばそれを避けられたとしても、ネットの匿名掲示板に顔と実名を晒されて、クズ共に笑いものに、慰み物にされるだろう。俺がこれまでそうしてきたように。
もう、詰んだ。
直哉は生きる気力を失い、がっくりと項垂れた。
目の前には、力なく投げ出された明日香の手足。
デニムパンツに包まれたすらりと長い脚が、誘惑するように淫靡に開かれている。そこから、肉感的な丸みを帯びた臀部へと視点が移動し、最後に、コートの下で乱れたブラウスのボタンに目が留まる。
直哉はごくりと唾を飲んだ。
手がひとりでに明日香のブラウスのボタンへと伸び、それを一つ、二つと外してゆく。黒い下着に包まれた、ゆるやかな二つの膨らみが露わになった。直哉の手はそのままデニムパンツへと移動し、ベルトを外し、ファスナーを下ろした。こちらも黒い下着だ。
一体俺は何をしているんだ。直哉は自問した。光を失った明日香の瞳が、まっすぐに直哉を捉えている。肉感的な肢体の緩やかな曲線が、意味を持って暗闇の中に浮かび上がった。
直哉は、狂っていく自分を自覚した。止められない性的衝動が、体の奥から湧き上がってくる。
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