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京谷小雨の日常&Fall in the moonlight ジャンル:コメディ&ホラー
9月15日(7) 小雨
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肉じゃがの材料も、新しいコンドームも、何もかもレジ袋のままテーブルの上に放り出して、私は居間のソファでふて寝していた。
ああ馬鹿らしい。
イケメンのLINE、捨てなきゃよかった。
寝ているばかりではなかなか腹の虫が収まらない。私は、少々思うところあって、二階の瞬の部屋に移動した。前々から気になっていたことがあるのだ。せっかく自由に瀬名家を、というより瞬の部屋を闊歩できるのだから、今こそ千載一遇のチャンスである。
瞬の部屋に入った私は、そのまままっすぐベッドに移動し、ベッドの下にあるスペースを捜索した。これで隠しているつもりなんだとしたら、とんだお笑い草である。
さてさて、ここに取り出したるは瞬くん秘蔵のエロ本の数々。今時ネットを漁ればいくらでも見られるはずなのに、わざわざ物証を残すあたり、まだまだ脇が甘い。こんな調子では、遠からず私との関係も真紀にバレてしまうのではないかしら。
それはそれとして、彼が敢えて金を出してまで見る女の裸がいかほどのものか、同じコンテンツを無料で提供している者としては、非常に気になるところだ。
表紙には、童顔の巨乳アイドルが営業スマイルを浮かべている。乳だけなら勝ってるんだが。
ページをめくっていくと、まあまあ、出るわ出るわ、過激なポーズのオンパレード。そもそも、グラドルってやつは、こんなにたくさんいて商売になるのだろうか。そりゃ枕営業だってするわけだ。
中には、見るからに整形、見るからに豊胸の女もいて、瞬はどこまで見抜けているのか心配になってきた。この乳でこの細さとか、有り得ん。
全体の総括としては、私でも一応乳だけなら大抵のグラドルには勝っているという実感は得られた。しかし、それはとりもなおさず、それ以外の部分が不足しているということ。結局は顔か……(しかし、顔でいったら真紀はこの辺のグラドルなんかよりずっと美人なんだから、私と真紀に二股かけてるのに何がまだ不満なのだろう。贅沢すぎやしないか)。
ムカついたので、油性マジックで全てのページに落書きしてやった。あんだけ私が抜いてやってるんだから、どうせもう使うこともないよね?
簡単な落書きとはいえ、全てのページを埋め尽くすのはなかなか大変な作業だった。最後のページを塗り終えると、猛烈な疲労と徒労感が私を襲う。こんな時間と労力をかけて、いったい私は何をやってるんだろう。なんだか急にバカらしくなってきて、そのまま瞬のベッドで横になった。
疲れているのに、不思議と眠気はやってこない。シーツに染み付いた瞬の体臭と、ほんの少し、私の匂い。
ところで、読者の皆様は『パブロフの犬』というものをご存じだろうか。割と有名な話なので、知っている方も多いかもしれない。
旧ソ連のイワン・パブロフという科学者が、犬を用いた唾液分泌の実験をしていた際、偶然に、今でいう『条件反射』を発見したことで有名な話である。犬にベルの音を聞かせ、それから餌を与えて唾液の分泌を見る、という実験をしていたところ、犬は次第にベルの音だけで唾液が分泌されるようになっていった。今でこそ『なんだ当たり前じゃないか』と思うようなことだが、当時はそれが大発見だったのだ。
この実験では唾液を採取するために犬の頬に管を通すという手法を採っていたため、初めて聞いたとき、私は犬がかわいそうだなあ、と思ったものである。
で、パブロフの犬がどうしたって?
わからないかなあ。暗喩だよ、暗喩。
誰もいない室内に、微かな水音が響く。
今まで、自分の部屋では、こんなにぐしょぐしょに濡れたことはなかった。条件反射、恐るべし。
そっか、今日は誰もいないんだから、声を我慢しなくていいんだ。
中指にぐっと力を込めると、通常の喘ぎ声よりさらにトーンの高い声が喉を震わせる。地声がこれぐらいの高さになったらいいのにといつも思う。
さらに指の動きを激しく、
だんだん、いしきが…………。
ふぅ。
ああ、シーツがだいぶ濡れている。まあ、どっちにしろ汚れるんだし、後で洗濯すればいいか。
どうしよう、
もう一回しようかな……
とか思っていると、突然『ピコーン』というLINEの通知音。ぐったりしていた私は完全に不意を突かれて、
「うわ〜あびっくりしたあ〜」
などという、いかにもオヤジ臭い台詞を吐いてしまった。
そんなことより、誰だろう、瞬が突然『今から帰る』とか言ってきたらどうしよ、まだ晩御飯の仕度もしてないし、つうかレジ袋からも出さずに放り出したままだし、いやいやまずはスマホを見ようぜ。
慌ててシーツに手を拭き、画面を確認する。
『こんばんは、有実でーす』
『旦那も子供も寝ちゃって退屈だから、LINEしてみました』
『まだ起きてるよね?』
ああ馬鹿らしい。
イケメンのLINE、捨てなきゃよかった。
寝ているばかりではなかなか腹の虫が収まらない。私は、少々思うところあって、二階の瞬の部屋に移動した。前々から気になっていたことがあるのだ。せっかく自由に瀬名家を、というより瞬の部屋を闊歩できるのだから、今こそ千載一遇のチャンスである。
瞬の部屋に入った私は、そのまままっすぐベッドに移動し、ベッドの下にあるスペースを捜索した。これで隠しているつもりなんだとしたら、とんだお笑い草である。
さてさて、ここに取り出したるは瞬くん秘蔵のエロ本の数々。今時ネットを漁ればいくらでも見られるはずなのに、わざわざ物証を残すあたり、まだまだ脇が甘い。こんな調子では、遠からず私との関係も真紀にバレてしまうのではないかしら。
それはそれとして、彼が敢えて金を出してまで見る女の裸がいかほどのものか、同じコンテンツを無料で提供している者としては、非常に気になるところだ。
表紙には、童顔の巨乳アイドルが営業スマイルを浮かべている。乳だけなら勝ってるんだが。
ページをめくっていくと、まあまあ、出るわ出るわ、過激なポーズのオンパレード。そもそも、グラドルってやつは、こんなにたくさんいて商売になるのだろうか。そりゃ枕営業だってするわけだ。
中には、見るからに整形、見るからに豊胸の女もいて、瞬はどこまで見抜けているのか心配になってきた。この乳でこの細さとか、有り得ん。
全体の総括としては、私でも一応乳だけなら大抵のグラドルには勝っているという実感は得られた。しかし、それはとりもなおさず、それ以外の部分が不足しているということ。結局は顔か……(しかし、顔でいったら真紀はこの辺のグラドルなんかよりずっと美人なんだから、私と真紀に二股かけてるのに何がまだ不満なのだろう。贅沢すぎやしないか)。
ムカついたので、油性マジックで全てのページに落書きしてやった。あんだけ私が抜いてやってるんだから、どうせもう使うこともないよね?
簡単な落書きとはいえ、全てのページを埋め尽くすのはなかなか大変な作業だった。最後のページを塗り終えると、猛烈な疲労と徒労感が私を襲う。こんな時間と労力をかけて、いったい私は何をやってるんだろう。なんだか急にバカらしくなってきて、そのまま瞬のベッドで横になった。
疲れているのに、不思議と眠気はやってこない。シーツに染み付いた瞬の体臭と、ほんの少し、私の匂い。
ところで、読者の皆様は『パブロフの犬』というものをご存じだろうか。割と有名な話なので、知っている方も多いかもしれない。
旧ソ連のイワン・パブロフという科学者が、犬を用いた唾液分泌の実験をしていた際、偶然に、今でいう『条件反射』を発見したことで有名な話である。犬にベルの音を聞かせ、それから餌を与えて唾液の分泌を見る、という実験をしていたところ、犬は次第にベルの音だけで唾液が分泌されるようになっていった。今でこそ『なんだ当たり前じゃないか』と思うようなことだが、当時はそれが大発見だったのだ。
この実験では唾液を採取するために犬の頬に管を通すという手法を採っていたため、初めて聞いたとき、私は犬がかわいそうだなあ、と思ったものである。
で、パブロフの犬がどうしたって?
わからないかなあ。暗喩だよ、暗喩。
誰もいない室内に、微かな水音が響く。
今まで、自分の部屋では、こんなにぐしょぐしょに濡れたことはなかった。条件反射、恐るべし。
そっか、今日は誰もいないんだから、声を我慢しなくていいんだ。
中指にぐっと力を込めると、通常の喘ぎ声よりさらにトーンの高い声が喉を震わせる。地声がこれぐらいの高さになったらいいのにといつも思う。
さらに指の動きを激しく、
だんだん、いしきが…………。
ふぅ。
ああ、シーツがだいぶ濡れている。まあ、どっちにしろ汚れるんだし、後で洗濯すればいいか。
どうしよう、
もう一回しようかな……
とか思っていると、突然『ピコーン』というLINEの通知音。ぐったりしていた私は完全に不意を突かれて、
「うわ〜あびっくりしたあ〜」
などという、いかにもオヤジ臭い台詞を吐いてしまった。
そんなことより、誰だろう、瞬が突然『今から帰る』とか言ってきたらどうしよ、まだ晩御飯の仕度もしてないし、つうかレジ袋からも出さずに放り出したままだし、いやいやまずはスマホを見ようぜ。
慌ててシーツに手を拭き、画面を確認する。
『こんばんは、有実でーす』
『旦那も子供も寝ちゃって退屈だから、LINEしてみました』
『まだ起きてるよね?』
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