アンダンテ

浦登みっひ

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京谷小雨の日常&Fall in the moonlight ジャンル:コメディ&ホラー

9月15日(8) 小雨

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 ああ、有実さんか……。
 いや、がっかりしたわけではない。断じて。

「こんばんは、起きてます」
『ああ』
『よかった』
『元気?』
「まあ元気です」
『瞬くんは?』
「あいつも元気にやってますよ」
『へえ』
『今は瞬くんのことあいつって呼んでるんだ』
「はい」
「別に仲が悪いわけじゃないですよ」
『昔より仲はいい?』
「うーん。見方によりますね」
『付き合ってるんじゃないの?』
「付き合ってはないです」
『そっか』
『子供の頃のあなたたち』
『とてもお似合いのカップルになりそうだと思ったんだけど』
「世の中そんなにうまくはいかないです」
『おお』
『大人の発言』
『でもまだ若いんだから』
『まだそんなに悟っちゃだめよ』
「肝に銘じておきます」

 なんか、LINEしてるとむしろ有実さんのほうが年下のように思えてくる。私の発言がおばさんくさいだけかもしれないけど。

『そっかー』
『なんかね』
『さっき話したとき』
『瞬くんの話を振ったときの小雨ちゃんがなんかつらそうに見えたから』
『今ケンカでもしてるのかな?』
『って思って』
『何か私で相談に乗れることないかなって思ったんだけど』


 のほほんとしているように見えて、ちゃんと観察しているんだな……有実さんはやっぱりすごい。
 私はふと考えた。私のことも瞬のことも知っていて、なおかつ、私達の普段の生活とは直接接点のない存在。もし私達の関係について誰かに相談したいと思ったら、それが必須条件になる。しかし、そんな都合のいい人はこれまでなかなかいなかった。私と瞬のことを知っているのは皆、日常生活で接点がある人ばかりなのだ。でも、有実さんならこの条件を全てクリアしているということに気付いてしまった。こんな人は有実さんを置いて他にいないかもしれない。
 でも、つい数時間前に約十年ぶりの再会を果たしたばかりで、いきなりそんなヘビィな相談をしてしまって大丈夫だろうか?
 躊躇いはあったが、頭より先に指が動いていた。

「実は……」

 私は、有実さんが青葉を去ってからの私と瞬の関係、大学に進学してからのこと、そして、真紀のこと。それら全てを、洗いざらい、細大漏らさず伝えた。
 さすがの有実さんも、驚いたのか、既読がついてから返信が来るまでにだいぶ時間がかかった。

『そっか〜』
『まさかそんなことになってたとは』
『お姉さんの想像を超えていたわ。。。』
『無神経に聞いちゃってごめんね』
「いえ、相談できる相手が今までいなかったので」
「少し気が楽になりました」
『ほんと?』
『ならいいけど……』

 私の方は楽になったけど、有実さんのほうはどうだろうか。厄介なことに巻き込まれたなあと思っていなければいいのだが。

『その真紀って子は』
『やっぱり相当美人なの?』
「はい。テレビに出てる女優やアイドルなんかよりずっとかわいいですよ」
『マリリン・モンローみたいな?』
「マリリン・モンローよりは、オードリー・ヘップバーン寄りですね」
『じゃあ』
『宮崎あおいと石原さとみだったら?』
「うーん、石原さとみですかね」
「石原さとみとアヴリル・ラヴィーンを足して2で割らない感じです」
『え!』
『じゃあ目が4つあるってこと?』

 いやいや、そんなベタな……これツッコまなきゃいけないやつや。

「そんなわけあるかーい」
(スポンジボブのスタンプ)
『あ〜!』
『そのスタンプわたしも持ってるよ!』
(同じスタンプ)
『かわいいよね』
『その真紀ちゃんってハーフなの?』
「いえ、たしかお婆ちゃんがクオーター?」
「とか聞いたような気がします」
「こないだ偶然真紀のお母さんにお会いしたんですけど、やっぱりめちゃくちゃ美人で」
「顔もよく似てました。母系の血が強いんですかね」
『その』
『真紀ちゃんのほうとは』
『まだしてないの?』
『セックス』
「らしいです。真紀からはそう聞いてます」
「瞬に聞いても絶対答えないだろうし」
『そうか〜』
『強敵だなあ』
『でもやっぱり』
『瞬くんのこと諦めきれない?』
「よくわかりません」
『彼のことが好きなの?』
「そうみたいです。自分で思ってたよりずっと」
『そうか〜』
『う〜ん』

 若干の間があった。

『お姉さんとしてはね』
『瞬くんともその真紀ちゃんって子とも』
『今は距離を置いたほうがいいって』
『アドバイスするべきなんだろうけど』
「はい」
『そんなこと』
『私に言われるまでもないよね』

 確かに。それができたら苦労しないんだ。

『あのおとなしい瞬くんが』
『女たらしになってたなんてなあ』
『私もおばさんになるわけだわ』
『(笑)』
「そんな、今でもお若いですよ」
『化粧がうまくなっただけよ』
(何だかよくわからないキャラクターのスタンプ)
『なんの力にもなれなくてごめんね』
「いえ、聞いてもらえただけでも少し気が楽になりました」
『ほんと?』
『そう言ってもらえると嬉しいです』
『そろそろ休みます』
『何かあったら気兼ねなくLINEしてね』
『専業主婦は退屈なのです』
『(笑)』
「はい、また近いうちに」
「今日は、久しぶりにお会いできて嬉しかったです」
『こちらこそ』
『あの小さな小雨ちゃんがとっても大人っぽくなってて』
『安心しました』
『では、おやすみなさい』
(これまた見たことないスタンプ、吹き出しにZZZと書いてある)
「おやすみなさい」
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