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フューネラル ジャンル:ミステリ
西野園真紀は静かに嗤う
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全ての未完成作品を読み終えた西野園は、静かに目を閉じ、大きなため息を一つ吐いてから、そっとファイルを閉じた。
そして、そこから長い瞑想が始まる。全く微動だにしないその姿は、まるで仏像のようでもあった。
彼女の口からいったい何が語られるのか、里見も、瀬名も、京谷も、彼女を信じて待ち続けた。
西野園の意識が再び彼らの元に帰ってきたのは、瞑想が始まってから五分ほどが経過した頃のことだった。その大きな瞳を閉じたまま、彼女は唐突に話し始める。
「これから私が話すことは、単なる仮説に過ぎません。私の妄想だと思われても仕方がない。でも私には、これより合理的な仮説が見つからないのです」
里見はごくりと唾を飲む。
「西野園さん……お聞かせ願えますか、貴女の妄想を」
西野園は眦を決したように大きく目を見開いた。
「八人のアマチュア作家など、最初から存在しません。でも、アマチュア作家はたしかに存在しました。あの日、作品を執筆していたのは、AIだった……それが私の答えです」
その仮説のあまりの突飛さに、三人は言葉を失った。西野園は構わず続ける。
「犯人の行動を追ってみましょう。犯人は、自らが通っている大学の研究室から、研究中の文章作成型AIのプログラムを密かにコピーし、自宅に持ち帰りました。主に旧来の作家の文章から学び、旧来の文学賞での受賞を目指していた研究室の方針に不満を感じていた犯人は、日々ネット上に無限に投稿されていくオンライン小説の形式をAIに学ばせようと考えた。そして、出来上がった作品を投稿し、感想やポイント等のフィードバックを得ながら改良を加えていく。その結果として生まれたのが、八人のアマチュア作家でした」
「……待ってください、では犯人は……」
「死体として発見された七人のうちの一人、三浦健が通っていた大学の研究室は、昨年、文章作成型のAIを研究していることでニュースになりました。今回の犯行が可能だったのは、おそらく彼しかいません」
「では、あれは密室殺人ではなかったということか……」
瀬名がぽつりと呟いた。
「話を続けます。犯人は、小刈ダイアが身代わりの女性に送ったものと全く同じメッセージを、他の六人の被害者にも送りました。そして、幸いにもその全てに了承を得た。もし一人でも拒否していたなら、この計画は実行されなかったかもしれない。だから、ここまでは犯人にとって非常にラッキーだった。おそらくこの時点では、アマチュア作家八人による集団自殺に見せかける計画だったのではないかと思います。しかし、イベント当日になって、最初の誤算が発生しました。小刈ダイア役の女性が現れなかったことにより、計画を変更せざるを得なくなった」
「つまり、三浦健以外の六人の被害者は、全て身代わりだったというのですか?」
西野園は頷く。
「犯人の指示通りにアマチュア作家を演じる六人を乗せてコテージに到着した犯人は、すぐにコーヒーを沸かして睡眠薬を飲ませ、被害者たちが持ち寄ったパソコンを起動します。そして、それぞれのパソコンからアマチュア作家のアカウントでログインし、パソコンに文章作成AIをインストールして、作品の執筆を始めさせました。現在の技術では、作品のアイディア自体は人間が考え、文章の作成のみをAIに行わせていると言われています。ただ、実際のところ作品を執筆する上でどこまでを犯人が担い、どこまでAIが担っていたのかはわかりません。犯人がどこまで独自の改良を加えていたか、それは今となっては知る術もありませんからね。AIはものの数秒で数千字もの文章を作り上げることができますから、話の筋が通るように犯人が手を加え、コピペして投稿するだけなら、執筆にかかる労力は大幅に軽減されていたでしょう。一人だけ死亡推定時刻が早い死体があったのは、単純に、その被害者が一人だけ途中で目を覚ましてしまったからでしょう。睡眠薬の効力には個人差がありますからね」
八人のアマチュア作家は全てが文章作成型AIで、被害者は皆身代わりに過ぎなかった……とは。
西野園が述べた仮説は、里見の理解の範疇を完全に超えていた。その推理に欠陥がないか、考えてみようとはするものの、どこから手を付ければいいかすらもわからない。
「ある程度作品を書き終えたところで、犯人は、役目を終えたパソコンをハンマーで破壊しました。これはおそらく、万が一燃え残ったときのための措置でしょう。データを消すだけでは後で復元される可能性がありますからね。自分のもの以外の全てのパソコンを破壊してから、犯人は眠っている残りの五人を殺害し、作品が予定通り投稿されているのを確認して、自分のパソコンも他のもの同様粉々に砕きます。その上で犯人は、小刈ダイアが現場から逃走したと見せかけるためコテージの扉を開けた。然る後、遺体を一か所に集めて灯油をかけてから火を点け、自分の体を刺して、自らの身を炎の中に投じました」
死亡推定時刻を超えて投稿され続けた作品の謎。破壊されたパソコンの謎。そして現場から脱出した足跡がなかったこと。その全てのからくりが、この仮説なら確かに説明されている。
「小刈ダイアの身代わりの女性が現れなかったことで、犯行計画は修正を余儀なくされました。しかし、『現場に残っていない死体を犯人と思わせるために逃走経路を作る』という咄嗟の機転によって、再び完璧な犯罪計画が完成した……かに見えました。が、計画の実行段階において、さらなる誤算が生じます。犯人の誤算は二つ。一つは、雪が止んでしまっていたことです。ただ、ここまではきっと、犯人の想定の範囲内だったのではないでしょうか。仮に雪が止んで、『足跡がない』ことが不自然な状況になってしまったとしても、それはコテージの火災の熱で周囲の雪を溶かすことによって解消されるはずでした。しかし、もう一つ、致命的な誤算があった。それは、コテージに火災報知器が取り付けてあったことです。ミステリ等には建築基準法を無視したような建物がいくらでもありますから、盲点になりやすい部分でもありますね。現在は、消防法令の改正によって、あらゆる宿泊施設に対して火災報知器の設置が義務化されています。一応、平成三十年まで猶予はあるようですが、このコテージのオーナーは既に設置を済ませていた。異変を察知したコテージのオーナーが、消火器を持ってすぐに飛び込んできたことも、誤算の一つと言えるでしょうか。そのために、遺体の死亡推定時刻を偽装することにも、殺人事件に見せかけることにも失敗してしまった。炎に包まれながら火災報知器のアラームを聞いた犯人の絶望は、いかほどだったでしょう……」
里見は最早、完全に思考を放棄していた。彼の古い脳味噌では、西野園の仮説を追いかけるだけで手一杯で、その仮説のどこに穴があるかなど、想像すらできなかった。だが、それとは別に、里見にはまだ腑に落ちない点がある。
「たしかに、犯人の行動は全て説明がついているようです。しかし……しかし、犯人の動機は一体何なのです?」
「それは……」
西野園は一度言葉を切り、若干の間をおいてから答えた。
「それはきっと、自らが育てた八つのAIを、人間として弔わせるため……ではないでしょうか」
「人間として……弔わせる……ですと?」
この女は何を言っているのだ。里見はそう思った。とてもまともな動機として理解できるものではない。
「それ以外に考えられません。八つのAIが八人のアマチュア作家として作品を執筆していた場所に八つの遺体があったら、誰でもそれが八人のアマチュア作家だったと思うでしょう。こんな大掛かりなトリックを仕掛ける意味は、それぐらいしかないように思えます。しかし、予期せぬハプニングによって遺体が一つ不足してしまった。犯人はそのために扉を開けて他殺の可能性を残しました。生き残った一人が現場から逃走した犯人だと思わせることができれば、最後のAI『小刈ダイア』も、殺人犯として、人間として名を残すことができます。死ぬことによって、AIが人間の名前を得る。AIが人間に取って代わるのです。なかなか刺激的なアイディアではありませんか?」
里見は眉間を軽く揉み、それから、動機についての思考すらも放棄することにした。同僚にはどう報告するべきだろうか。小刈ダイアが存在しないなどと……。
「それにしても、文章作成型AIがそこまで進歩しているとは……完全に盲点でした」
「AIの技術は日進月歩で進んでいるようです。将棋より難しいと言われていた囲碁ですら、人間のトッププロは一瞬で追い越されてしまった。いずれ小説の分野でも同じことが起こるでしょう。でも、例えば、『読者が何を考えるか』というメタ視点が必要なミステリや、技巧を凝らした表現、比喩や暗喩が求められる純文学では、まだまだ人間にアドバンテージがあると思います。しかし、例えば、そうした技巧が求められない代わりに、アイディアの奇抜さと更新速度が重要となるオンラインライトノベルなどはどうでしょう? AIならば、人間が頭を使って一つの設定や世界観を考えている間に、数千数万の設定を組み立てることができる。オンラインライトノベルなどは、『テンプレ』といって、注目を集める設定やストーリーのラインがある程度固定されています。それをAIが模倣するのは、比較的容易なことなのではないでしょうか。下手な鉄砲も数打てば、と言いますが、その数千数万の中でたまたま面白そうな話ができたとしましょう。そして、その作品が公開され、注目を集めます。すると、読者がその一話数千字の文章を読み終えるよりも早く、既に次の一話が書き上がっているのです。同じような設定やストーリーで、人間より遥かに早く、人間が書く文章より読みやすいものが投稿されるようになったら、読者は敢えて人間が書いた作品を読もうとするでしょうか?」
「AIが一秒で天気予報の文章を書いた、って記事を、見たことがある」
瀬名が重い表情で呟く。
「AIが書いた小説は、字数が長くなればなるほどストーリーに辻褄の合わないところが出てくると言われています。しかし、逆に言えば、人間が多少手を加えて辻褄を合わせてやれば、既にAIにも作品を書くことができる。今回の事件の犯人とAI作家が、その作業をどの程度の割合で分担していたのか。これだけの文量の作品を投稿しながら殺人計画を実行するぐらいですから、もしかしたら、犯人の役割は我々が考えているよりずっと少なかったのかもしれない。何より、AIには文法的なエラーがありませんから、技術が進歩していけば、多くの素人作家が書いたオンライン小説より遥かに読みやすいものが出来上がるようになるでしょう。それはきっと、もう遠い将来ではありません。そうなった時、文章表現やストーリーの稚拙さ、ワンパターンさを指摘されても、『それが読者に求められているからいいんだ』と開き直っていたラノベ作家たちが、相変わらずふんぞり返っていられるかどうか……」
西野園は不敵な笑みを浮かべた。
「それは、ちょっとした見物ですね」
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!
※作者より後書き
このシリーズの続編が、『桜の樹の下に君を埋めるといふこと』になります。
そして、そこから長い瞑想が始まる。全く微動だにしないその姿は、まるで仏像のようでもあった。
彼女の口からいったい何が語られるのか、里見も、瀬名も、京谷も、彼女を信じて待ち続けた。
西野園の意識が再び彼らの元に帰ってきたのは、瞑想が始まってから五分ほどが経過した頃のことだった。その大きな瞳を閉じたまま、彼女は唐突に話し始める。
「これから私が話すことは、単なる仮説に過ぎません。私の妄想だと思われても仕方がない。でも私には、これより合理的な仮説が見つからないのです」
里見はごくりと唾を飲む。
「西野園さん……お聞かせ願えますか、貴女の妄想を」
西野園は眦を決したように大きく目を見開いた。
「八人のアマチュア作家など、最初から存在しません。でも、アマチュア作家はたしかに存在しました。あの日、作品を執筆していたのは、AIだった……それが私の答えです」
その仮説のあまりの突飛さに、三人は言葉を失った。西野園は構わず続ける。
「犯人の行動を追ってみましょう。犯人は、自らが通っている大学の研究室から、研究中の文章作成型AIのプログラムを密かにコピーし、自宅に持ち帰りました。主に旧来の作家の文章から学び、旧来の文学賞での受賞を目指していた研究室の方針に不満を感じていた犯人は、日々ネット上に無限に投稿されていくオンライン小説の形式をAIに学ばせようと考えた。そして、出来上がった作品を投稿し、感想やポイント等のフィードバックを得ながら改良を加えていく。その結果として生まれたのが、八人のアマチュア作家でした」
「……待ってください、では犯人は……」
「死体として発見された七人のうちの一人、三浦健が通っていた大学の研究室は、昨年、文章作成型のAIを研究していることでニュースになりました。今回の犯行が可能だったのは、おそらく彼しかいません」
「では、あれは密室殺人ではなかったということか……」
瀬名がぽつりと呟いた。
「話を続けます。犯人は、小刈ダイアが身代わりの女性に送ったものと全く同じメッセージを、他の六人の被害者にも送りました。そして、幸いにもその全てに了承を得た。もし一人でも拒否していたなら、この計画は実行されなかったかもしれない。だから、ここまでは犯人にとって非常にラッキーだった。おそらくこの時点では、アマチュア作家八人による集団自殺に見せかける計画だったのではないかと思います。しかし、イベント当日になって、最初の誤算が発生しました。小刈ダイア役の女性が現れなかったことにより、計画を変更せざるを得なくなった」
「つまり、三浦健以外の六人の被害者は、全て身代わりだったというのですか?」
西野園は頷く。
「犯人の指示通りにアマチュア作家を演じる六人を乗せてコテージに到着した犯人は、すぐにコーヒーを沸かして睡眠薬を飲ませ、被害者たちが持ち寄ったパソコンを起動します。そして、それぞれのパソコンからアマチュア作家のアカウントでログインし、パソコンに文章作成AIをインストールして、作品の執筆を始めさせました。現在の技術では、作品のアイディア自体は人間が考え、文章の作成のみをAIに行わせていると言われています。ただ、実際のところ作品を執筆する上でどこまでを犯人が担い、どこまでAIが担っていたのかはわかりません。犯人がどこまで独自の改良を加えていたか、それは今となっては知る術もありませんからね。AIはものの数秒で数千字もの文章を作り上げることができますから、話の筋が通るように犯人が手を加え、コピペして投稿するだけなら、執筆にかかる労力は大幅に軽減されていたでしょう。一人だけ死亡推定時刻が早い死体があったのは、単純に、その被害者が一人だけ途中で目を覚ましてしまったからでしょう。睡眠薬の効力には個人差がありますからね」
八人のアマチュア作家は全てが文章作成型AIで、被害者は皆身代わりに過ぎなかった……とは。
西野園が述べた仮説は、里見の理解の範疇を完全に超えていた。その推理に欠陥がないか、考えてみようとはするものの、どこから手を付ければいいかすらもわからない。
「ある程度作品を書き終えたところで、犯人は、役目を終えたパソコンをハンマーで破壊しました。これはおそらく、万が一燃え残ったときのための措置でしょう。データを消すだけでは後で復元される可能性がありますからね。自分のもの以外の全てのパソコンを破壊してから、犯人は眠っている残りの五人を殺害し、作品が予定通り投稿されているのを確認して、自分のパソコンも他のもの同様粉々に砕きます。その上で犯人は、小刈ダイアが現場から逃走したと見せかけるためコテージの扉を開けた。然る後、遺体を一か所に集めて灯油をかけてから火を点け、自分の体を刺して、自らの身を炎の中に投じました」
死亡推定時刻を超えて投稿され続けた作品の謎。破壊されたパソコンの謎。そして現場から脱出した足跡がなかったこと。その全てのからくりが、この仮説なら確かに説明されている。
「小刈ダイアの身代わりの女性が現れなかったことで、犯行計画は修正を余儀なくされました。しかし、『現場に残っていない死体を犯人と思わせるために逃走経路を作る』という咄嗟の機転によって、再び完璧な犯罪計画が完成した……かに見えました。が、計画の実行段階において、さらなる誤算が生じます。犯人の誤算は二つ。一つは、雪が止んでしまっていたことです。ただ、ここまではきっと、犯人の想定の範囲内だったのではないでしょうか。仮に雪が止んで、『足跡がない』ことが不自然な状況になってしまったとしても、それはコテージの火災の熱で周囲の雪を溶かすことによって解消されるはずでした。しかし、もう一つ、致命的な誤算があった。それは、コテージに火災報知器が取り付けてあったことです。ミステリ等には建築基準法を無視したような建物がいくらでもありますから、盲点になりやすい部分でもありますね。現在は、消防法令の改正によって、あらゆる宿泊施設に対して火災報知器の設置が義務化されています。一応、平成三十年まで猶予はあるようですが、このコテージのオーナーは既に設置を済ませていた。異変を察知したコテージのオーナーが、消火器を持ってすぐに飛び込んできたことも、誤算の一つと言えるでしょうか。そのために、遺体の死亡推定時刻を偽装することにも、殺人事件に見せかけることにも失敗してしまった。炎に包まれながら火災報知器のアラームを聞いた犯人の絶望は、いかほどだったでしょう……」
里見は最早、完全に思考を放棄していた。彼の古い脳味噌では、西野園の仮説を追いかけるだけで手一杯で、その仮説のどこに穴があるかなど、想像すらできなかった。だが、それとは別に、里見にはまだ腑に落ちない点がある。
「たしかに、犯人の行動は全て説明がついているようです。しかし……しかし、犯人の動機は一体何なのです?」
「それは……」
西野園は一度言葉を切り、若干の間をおいてから答えた。
「それはきっと、自らが育てた八つのAIを、人間として弔わせるため……ではないでしょうか」
「人間として……弔わせる……ですと?」
この女は何を言っているのだ。里見はそう思った。とてもまともな動機として理解できるものではない。
「それ以外に考えられません。八つのAIが八人のアマチュア作家として作品を執筆していた場所に八つの遺体があったら、誰でもそれが八人のアマチュア作家だったと思うでしょう。こんな大掛かりなトリックを仕掛ける意味は、それぐらいしかないように思えます。しかし、予期せぬハプニングによって遺体が一つ不足してしまった。犯人はそのために扉を開けて他殺の可能性を残しました。生き残った一人が現場から逃走した犯人だと思わせることができれば、最後のAI『小刈ダイア』も、殺人犯として、人間として名を残すことができます。死ぬことによって、AIが人間の名前を得る。AIが人間に取って代わるのです。なかなか刺激的なアイディアではありませんか?」
里見は眉間を軽く揉み、それから、動機についての思考すらも放棄することにした。同僚にはどう報告するべきだろうか。小刈ダイアが存在しないなどと……。
「それにしても、文章作成型AIがそこまで進歩しているとは……完全に盲点でした」
「AIの技術は日進月歩で進んでいるようです。将棋より難しいと言われていた囲碁ですら、人間のトッププロは一瞬で追い越されてしまった。いずれ小説の分野でも同じことが起こるでしょう。でも、例えば、『読者が何を考えるか』というメタ視点が必要なミステリや、技巧を凝らした表現、比喩や暗喩が求められる純文学では、まだまだ人間にアドバンテージがあると思います。しかし、例えば、そうした技巧が求められない代わりに、アイディアの奇抜さと更新速度が重要となるオンラインライトノベルなどはどうでしょう? AIならば、人間が頭を使って一つの設定や世界観を考えている間に、数千数万の設定を組み立てることができる。オンラインライトノベルなどは、『テンプレ』といって、注目を集める設定やストーリーのラインがある程度固定されています。それをAIが模倣するのは、比較的容易なことなのではないでしょうか。下手な鉄砲も数打てば、と言いますが、その数千数万の中でたまたま面白そうな話ができたとしましょう。そして、その作品が公開され、注目を集めます。すると、読者がその一話数千字の文章を読み終えるよりも早く、既に次の一話が書き上がっているのです。同じような設定やストーリーで、人間より遥かに早く、人間が書く文章より読みやすいものが投稿されるようになったら、読者は敢えて人間が書いた作品を読もうとするでしょうか?」
「AIが一秒で天気予報の文章を書いた、って記事を、見たことがある」
瀬名が重い表情で呟く。
「AIが書いた小説は、字数が長くなればなるほどストーリーに辻褄の合わないところが出てくると言われています。しかし、逆に言えば、人間が多少手を加えて辻褄を合わせてやれば、既にAIにも作品を書くことができる。今回の事件の犯人とAI作家が、その作業をどの程度の割合で分担していたのか。これだけの文量の作品を投稿しながら殺人計画を実行するぐらいですから、もしかしたら、犯人の役割は我々が考えているよりずっと少なかったのかもしれない。何より、AIには文法的なエラーがありませんから、技術が進歩していけば、多くの素人作家が書いたオンライン小説より遥かに読みやすいものが出来上がるようになるでしょう。それはきっと、もう遠い将来ではありません。そうなった時、文章表現やストーリーの稚拙さ、ワンパターンさを指摘されても、『それが読者に求められているからいいんだ』と開き直っていたラノベ作家たちが、相変わらずふんぞり返っていられるかどうか……」
西野園は不敵な笑みを浮かべた。
「それは、ちょっとした見物ですね」
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※作者より後書き
このシリーズの続編が、『桜の樹の下に君を埋めるといふこと』になります。
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