トンネルを抜けると異世界であった。~タクシードライバーのちょっとエッチな救世主日誌~

浦登みっひ

文字の大きさ
5 / 33

吾輩は救世主である

しおりを挟む
「我々サンガリアの民は、周りの民族と手を取り合いながら、三百年もの長きにわたって平和に暮らしてまいりました」

 羅生門ジジイが、しわがれた声を目一杯張り上げて雄弁に語る。

 俺は、遺跡のような集落のなかでも最も大きな小屋に通された。とはいっても、現代日本の感覚で言えば小さな神社の社ぐらいの建物だ。目の前にある木製のテーブルには肉や木の実が並んでいるが、お世辞にも御馳走とは呼べない代物だった。肉は、これ、シルエットから推測するに、多分ヘビかなんかだと思う。向こうの世界ではゲテモノに分類されるものだ。
 俺の隣にはヒトミが座り、テーブルを挟んだ対面の席には羅生門ジジイとあの女剣士、そして若い兄ちゃんが並んで座っている。

 女剣士は革のプレートを装着しておらず、薄手の白いローブのようなものを纏い、俺の方を見ることもなく目を伏せたまま押し黙っている。年の頃は二十歳前後だろうか、いや、肌のキメは十代のそれに近い。まさかこんな太古レベルの文明で化粧だけが発達しているわけがないから、この女はほぼすっぴんだと思われるが、化粧を塗りたくって顔を作っているヒトミと比べても遜色がない美しさ。俺は羅生門ジジイの退屈な話そっちのけで、この女剣士の美貌に見惚れていた。

「しかしながら、ここ数年で急速に勢力を伸ばしてきた異民族のゴーマ人によって、我々は先祖代々の土地を追われ、荒野を彷徨うことになったのです。栄華を誇ったサンガリアの民も、今はこの集落にいる数百人のみ……他の者は皆、殺されるか、ゴーマ人によって奴隷にされてしまいました。サンガリアの王、カラクタスはゴーマとの戦いの中で命を落とし、王族の後継者は、ここにおわしますラスターグ王子を残すのみとなりました」

 ラスターグ王子と紹介された若い兄ちゃんは、にこりともせずにずっと俺の顔を睨み付けている。赤茶色の短髪にブラウンの瞳、年の頃は十代後半だろうか、精悍な面構えの、鼻っ柱が強そうなガキだ。向こうの世界で言ったら、EXILEに交じっていそうなタイプである。

「ふーん」
「しかし、サンガリアの民には神話の伝説と、我々ドルイドが語り継いできた預言がございます。サンガリアの神話には、あらゆる敵を一振りで薙ぎ払う伝説の剣・アランサー、そして小さいながらも陸と海を駆け、乗り手が行く先を命じれば独りでにそこまで運んでくれる、光る魔法の船、光波シャイン・ウェーブ号に関する記述があります。また今から百年前、我らの先人たる偉大なドルイドが、『サンガリアの民に災い降りかかりし時、聖剣を振るう福音の騎士と光る船を操る救世主が現れ、民を救い導くであろう』という預言を残しておるのです」
「へぇ~」
「ゴーマ人との戦いの最中、我々は『聖剣を振るう福音の騎士』……つまり、ここに居りますエリウを得ることができました」

 羅生門ジジイはそう言うと、徐に隣の女剣士を見た。こいつがその伝説の戦士だってわけか。名前はエリウと言ったか?
 エリウは相変わらず目を伏せたまま、微動だにしない。羅生門ジジイは再びこちらを向いて話し始める。

「ですが、エリウの力だけではゴーマ人の侵攻を食い止めることができず……我々は、『光る船を操る救世主』、すなわち貴方をお待ちしていたのです。狩りに出ていたエリウから、『光る船』と、それを操る男を見たという話を聞き、巫女どのからも話を伺いまして、貴方こそが預言の救世主に違いないと確信し、お待ち申し上げておりました」

 俺は横目でちらりとヒトミを見る。隣のヒトミは足を崩し、すまし顔で座っていた。俺がここに来る前に、どうやらヒトミが巫女と称して、このサンガリアの預言に話を合わせていたらしいのだ。こういう場合の女の作り話スキルってのは侮っちゃいけねえ。

 それにしても、こいつが巫女だと?
 救世主と一緒に来たからか?
 ハッ、笑っちゃうね。ヒトミの素性が水商売のヤリマンだと知ったら、こいつらどんな顔をするだろう。
 きっと、ここでとりあえず身柄を保護してもらうため、適当に話を合わせて巫女だとでも言ったんだろう。そうすればここでの待遇は保証される、そのために俺を利用しようってわけだ。俺がこの集落に辿り着かなかったら自分が救世主とさえ言い出しかねなかった。さっきは俺を見捨てようとしたくせにな。

 しっかし、『光る魔法の船』とはよく言ったもんだ。
 あのタクシーが船と言えるほどの大きさなのかはさておき、まだ電気すら発明されていないここの文化レベルから見れば、たしかにタクシーのヘッドライトは何か特別な神々しいものに見えたに違いない。それが神話に伝わる救世主だと思い込んでしまうほどに。
 乗り手が命じるままに行く先に運んでくれる、向こうの世界では確かに自動運転技術も開発が進められている(この技術が普及したら俺たちタクシードライバーは商売上がったり)が、あいにく、このタクシーにはカーナビが乗っているだけ。もちろん海の上は走れない。

 タクシーは預言にあった魔法の船じゃないし、俺だって救世主なんかじゃない。気の毒だけどね。

 だが、この救世主という立場はとてもオイシい。何もしなくても食い物にありつけるし、守ってもらえるんだからな。そして、頃合いを見てトンズラすればいい。この世界の文明レベルなら、車で逃げれば追って来られるやつはいないはずだ。
 だから、それまではお望み通りに預言の救世主を演じてやろう。俺だって、ここまでかしずかれて悪い気はしねえ。偉大なドルイドとやらのインチキ予言に感謝感激雨あられだぜ。

 救世主の権力を利用して、あわよくば、このエリウとかいう女剣士も……。
 高潔な女剣士の顔が恥辱に塗れる様を想像すると、思わず股間がムクムクとテントを張った。

 この時の俺は、目の前の皿に置かれたヘビの丸焼きを頬張りながら、『救世主』という言葉の甘美な響きにただただ酔っていたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...