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逃げるは恥だがちんこ立つ
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「さあ、救世主さま、こちらへ」
エリウに連れられるまま向かった先には、荷車とさして変わらない、むしろ荷車より小さいのではないかと思うほどの、しょぼいリヤカーみたいな二輪車があった。馬車というからにはこれを馬が引っ張るはずなのだが、馬の姿はどこにもない。これから連れてくるのだろうか。
周囲には剣やら棍棒やら原始的な武器を持った男が三、四十人ぐらい集まっていて、なにやら物々しい空気を漂わせている。女子供、老人が多いサンガリアの集落では、数少ない男の戦士たちだ。とはいっても、食糧事情が貧しいから、屈強とはお世辞にも言えない風体ではあるのだが。素手でケンカしたら俺でも勝てそうな感じ……いや、ごめん、これはちょっと盛った。
やっぱり俺様は救世主だから、ただ逃げるにしてもこれだけの護衛が必要なのだろう。俺はとりあえず、その貧相なチャリオットなるものに乗り込んでみた。椅子すらついていない木製のリヤカーは乗るだけでガタガタと揺れて、お世辞にも快適な乗り心地とはいかなそうだ。
ふと視線を巡らせると、近くで話し込むエリウと王子の姿が見えた。
「本当にあのような者が我々の救世主なのですか? 私には信じられません。エリウ様があの男を最初に見かけたとき、奴は巫女様を手籠めにしようとしていたそうではありませんか」
EXILE王子の声だ。おいおい、救世主たる俺様にケチをつけようとはいい度胸じゃねえか。ま、図星なんだけどさ。
エリウの声が続く。
「そのようなことを言いだしたら、故郷を守れなかった私とて、福音の騎士失格となりましょう」
「それは違う! エリウ様は聖剣アランサーを抜くことのできる唯一のお方。まごうかたなき福音の騎士です」
「しかし、民の中には私の資質を疑う者もいるようです。神話の神々が振るったと言われる、大地を裂く剣アランサー。その力を、私は十分に引き出せていない。疑われるのもやむなきこと」
「戯言です。貴女が気にするようなことでは……」
「それより王子、貴方も民たちと共にお逃げください。ここは戦場になります。貴方は王統の血を引く唯一の生き残り、ここで命を落としてはならないお方です」
「エリウ様、貴女もまた我々サンガリアの民にはなくてはならぬお方だ。エリウ様は我らの希望なのです! 貴女を置いて私だけ逃げることなどできない!」
へえ、福音の騎士ってのも色々大変なんだね。それにわざわざ前線まで出てくる命知らずな王子、と。こいつはきっとエリウに惚れているな。だからこそ戦場に……。
え、戦場?
俺は大声でエリウに呼び掛けた。
「おい! そこの女! 戦場って何の話だ?」
エリウはこちらを振り向き、睨み付けるような鋭い目で俺を見た。
「救世主さま、我々は民たちが少しでも遠くに逃げられるよう時間を稼がなくてはなりません。貴方が戦場にいれば、兵達の士気は高まります」
「ふざけんなよ! 戦場になるなんて聞いてねえよ! 救世主である俺にもし万が一のことがあったらどうするんだよ! 早く逃げるぞ!」
辺りにいた兵士たちの視線が一斉に俺に注がれ、特に、エリウと王子の目には非難の色が強く浮かんでいる。エリウがたしなめるような口調で言った。
「救世主なればこそ、私も貴方も、民を守るため命を賭して戦わなければならないのです。そうでなければ、民は誰も私たちのことを信じなくなるでしょう。救うべき民なくして、いったい貴方は何の救世主を名乗るおつもりですか?」
「知ったことか! ほら、これは馬車なんだろ? 早く馬を連れて来いよ!」
「今の我々に馬はありません。我々の財産は、悉くあのゴーマ人共に奪われてしまった。チャリオットを引くのは、そこにいる我々の戦士たちです」
はあああ? なんだそりゃあ。人間の足で馬並みの速度が出るわけがねえだろうが。話にならねえ。俺はすぐにこいつらを見捨て、タクシーで逃走することに決めた。
「ふざけんなよ野蛮人ども! 俺は逃げるぞ! 死にたきゃお前らだけ勝手に死ね!」
俺はそう言い放ち、颯爽とチャリオットから飛び降りた。しかし着地した瞬間、グキッ、という音と共に、足元に激痛が走る。
「いでっ!!!!」
人間、慣れないことはするもんじゃない。地面が石ころだらけでボコボコだったのも悪かった。着地に失敗した俺は、そこで足首を痛めてしまったのだ。ただ痛いだけではない。足首から先に力が入らず、思うように動かない。立ち上がることすらできず、俺は地面に四つん這いになったまま硬直していた。
顔を顰めて足首をさする俺に、手を差し伸べてくれる者は誰もいなかった。辺りには、しんみりとした諦めムードが漂っている。クソ野蛮人どもが、救世主たる俺をそんな目で見るんじゃねえよ!
情けない俺の姿を見かねたのか、エリウが呆れたような表情を浮かべながらこちらに歩いてくる。
「救世主さま、大丈夫ですか?」
「骨だ、きっと骨が折れた……」
「起き上がれま……」
ま……?
エリウの言葉はそこで途切れた。
顔を上げると、少し屈んで俺に手を差し伸べているエリウが、その姿勢のまま、ゆっくりと傾いていくのが見えた。エリウの美しい顔は、今にも泣き出しそうなほどに歪み、苦悶の表情に満ちている。視界の隅から王子が血相を変えてこちらに駆け寄ってくるのが見えたが、エリウはそのまま、力なく地面に倒れ込んだ。全てがスローモーションのようにゆっくりと。
そして、次に俺の目に飛び込んできたのは、革の防具に覆われていないエリウの右脇腹に突き刺さった、短い矢のようなもの。
傷口からは、一筋の血が流れ出していた。
「エリウ様!」
すぐに王子がエリウを抱き起こす。矢が飛んできたと思われる方向には灌木の繁みがあって、繁みの中からガサガサと葉の擦れる音が聞こえている。どうやら、矢はその繁みから発射されたものらしかった。つまり、あそこに潜んでいた敵兵が、エリウを狙撃したのだ。
エリウと俺はすぐ近くにいたから、矢筋が少し俺の方に逸れていたら、あの矢は俺の体に刺さっていたかもしれなかった。あっぶねえ……。
「伏兵とはなんと卑怯な……エリウ様、しっかり! 今、手当てを致しますから!」
「王子……これは毒矢のようです……もう意識が……王子は早く逃げ……」
そこまで言って、エリウはぐったりと力尽きた。
ラスターグ王子は周囲の兵士達に叫ぶ。
「誰か! エリウ様をテントに運んで手当てを頼む! それから、足に自慢のある者は私に続け! エリウ様を襲撃した伏兵を血祭りに上げてやるぞ!」
王子が数人の兵を引き連れて灌木の中へ走っていくと、残された兵士達は数人がかりでエリウを近くにあったテントの中へと運び込んだ。しかし、エリウの手当てを命じられたはずの兵士達は、数分ののち、ぞろぞろとテントから出て来てしまった。
「だめだ……エリウ様は……我らの福音の騎士は、既に亡くなられた……」
エリウを運んだ兵士が茫然自失の体で呟くと、あたりは重い沈黙に包まれる。だが、それも長くは続かなかった。森を背にした集落の前方には広大な平原が広がっており、そのはるか向こう、地平線と重なるようにして、武装した兵士の群れが忽然と姿を現したのだ。
「ゴーマの軍だ……」
「逃げろ! 福音の騎士は死んだ!」
「我々は負けたんだ! 預言なんてやっぱり全て嘘っぱちだった!」
兵士達は口々にそう叫びながら、一目散に森の方角へと駆けていく。民を守るはずの最終防衛線は、ものの数分ほどでもぬけの殻になってしまった。……って、おい! 俺は! 救世主がまだ残ってるぞ!
立ち上がろうとはしてみたものの、足の痛みがひどく、歩くなんてことは到底無理な状態だった。あ~~、クソが!
俺は四つん這いのままエリウが運び込まれたテントへ向かう。
薄汚れた狭いテントの中で、エリウは仰向けに寝かされていた。
まるで眠っているみたいに安らかな顔で。
その頬を伝う涙はまだ乾いておらず、その姿のあまりの美しさに、俺は思わず鳥肌が立った。
手首を探る。脈はない。鼻に手をかざす。呼吸もしていなかった。胸当てを外して心臓に耳を当てみたが、当然のように心音はない。瞼を開いて覗き込んでみると、瞳孔は完全に開いていた。
死んでる……。
そして、きっと俺ももうすぐ殺されるのだろう。古代の戦争では、男は皆殺しがデフォのはずだし、この足では到底逃げられないだろう。
こんな妙な世界に飛ばされて、野蛮人に殺されるとは。
しかし、絶体絶命の状況に陥ったというのに、俺は意外と冷静だった。もうどうしようもない。何だか諦めがついてしまったのだ。
まあ、これも俺にお似合いの最後かもしれない。前日の夜に、あれだけいい女を睾丸が空になるほどたっぷりと抱いたんだから、俺にしちゃあ、そんなに悪くない終わり方ではないか。人生大逆転ならず、とはいえども、一瞬だけだが、なかなかいい夢を見させてもらった。
ところで、死の危険に曝された男は性欲が増すという話を聞いたことがあるだろうか?
現代日本に生きてきた俺は、これまで死の恐怖とは無縁の人生を過ごしてきた。しかし、自分の死を悟った今、秘められていた俺の遺伝子の生存本能が、体の底から沸々とこみ上げてきたのだ。
目の前に横たわる、ヒトミと比べても遜色ないほど美しい女の体。俺のペニスは冥土の土産を欲している。
え、まさか……って?
その、まさかだよ。
エリウに連れられるまま向かった先には、荷車とさして変わらない、むしろ荷車より小さいのではないかと思うほどの、しょぼいリヤカーみたいな二輪車があった。馬車というからにはこれを馬が引っ張るはずなのだが、馬の姿はどこにもない。これから連れてくるのだろうか。
周囲には剣やら棍棒やら原始的な武器を持った男が三、四十人ぐらい集まっていて、なにやら物々しい空気を漂わせている。女子供、老人が多いサンガリアの集落では、数少ない男の戦士たちだ。とはいっても、食糧事情が貧しいから、屈強とはお世辞にも言えない風体ではあるのだが。素手でケンカしたら俺でも勝てそうな感じ……いや、ごめん、これはちょっと盛った。
やっぱり俺様は救世主だから、ただ逃げるにしてもこれだけの護衛が必要なのだろう。俺はとりあえず、その貧相なチャリオットなるものに乗り込んでみた。椅子すらついていない木製のリヤカーは乗るだけでガタガタと揺れて、お世辞にも快適な乗り心地とはいかなそうだ。
ふと視線を巡らせると、近くで話し込むエリウと王子の姿が見えた。
「本当にあのような者が我々の救世主なのですか? 私には信じられません。エリウ様があの男を最初に見かけたとき、奴は巫女様を手籠めにしようとしていたそうではありませんか」
EXILE王子の声だ。おいおい、救世主たる俺様にケチをつけようとはいい度胸じゃねえか。ま、図星なんだけどさ。
エリウの声が続く。
「そのようなことを言いだしたら、故郷を守れなかった私とて、福音の騎士失格となりましょう」
「それは違う! エリウ様は聖剣アランサーを抜くことのできる唯一のお方。まごうかたなき福音の騎士です」
「しかし、民の中には私の資質を疑う者もいるようです。神話の神々が振るったと言われる、大地を裂く剣アランサー。その力を、私は十分に引き出せていない。疑われるのもやむなきこと」
「戯言です。貴女が気にするようなことでは……」
「それより王子、貴方も民たちと共にお逃げください。ここは戦場になります。貴方は王統の血を引く唯一の生き残り、ここで命を落としてはならないお方です」
「エリウ様、貴女もまた我々サンガリアの民にはなくてはならぬお方だ。エリウ様は我らの希望なのです! 貴女を置いて私だけ逃げることなどできない!」
へえ、福音の騎士ってのも色々大変なんだね。それにわざわざ前線まで出てくる命知らずな王子、と。こいつはきっとエリウに惚れているな。だからこそ戦場に……。
え、戦場?
俺は大声でエリウに呼び掛けた。
「おい! そこの女! 戦場って何の話だ?」
エリウはこちらを振り向き、睨み付けるような鋭い目で俺を見た。
「救世主さま、我々は民たちが少しでも遠くに逃げられるよう時間を稼がなくてはなりません。貴方が戦場にいれば、兵達の士気は高まります」
「ふざけんなよ! 戦場になるなんて聞いてねえよ! 救世主である俺にもし万が一のことがあったらどうするんだよ! 早く逃げるぞ!」
辺りにいた兵士たちの視線が一斉に俺に注がれ、特に、エリウと王子の目には非難の色が強く浮かんでいる。エリウがたしなめるような口調で言った。
「救世主なればこそ、私も貴方も、民を守るため命を賭して戦わなければならないのです。そうでなければ、民は誰も私たちのことを信じなくなるでしょう。救うべき民なくして、いったい貴方は何の救世主を名乗るおつもりですか?」
「知ったことか! ほら、これは馬車なんだろ? 早く馬を連れて来いよ!」
「今の我々に馬はありません。我々の財産は、悉くあのゴーマ人共に奪われてしまった。チャリオットを引くのは、そこにいる我々の戦士たちです」
はあああ? なんだそりゃあ。人間の足で馬並みの速度が出るわけがねえだろうが。話にならねえ。俺はすぐにこいつらを見捨て、タクシーで逃走することに決めた。
「ふざけんなよ野蛮人ども! 俺は逃げるぞ! 死にたきゃお前らだけ勝手に死ね!」
俺はそう言い放ち、颯爽とチャリオットから飛び降りた。しかし着地した瞬間、グキッ、という音と共に、足元に激痛が走る。
「いでっ!!!!」
人間、慣れないことはするもんじゃない。地面が石ころだらけでボコボコだったのも悪かった。着地に失敗した俺は、そこで足首を痛めてしまったのだ。ただ痛いだけではない。足首から先に力が入らず、思うように動かない。立ち上がることすらできず、俺は地面に四つん這いになったまま硬直していた。
顔を顰めて足首をさする俺に、手を差し伸べてくれる者は誰もいなかった。辺りには、しんみりとした諦めムードが漂っている。クソ野蛮人どもが、救世主たる俺をそんな目で見るんじゃねえよ!
情けない俺の姿を見かねたのか、エリウが呆れたような表情を浮かべながらこちらに歩いてくる。
「救世主さま、大丈夫ですか?」
「骨だ、きっと骨が折れた……」
「起き上がれま……」
ま……?
エリウの言葉はそこで途切れた。
顔を上げると、少し屈んで俺に手を差し伸べているエリウが、その姿勢のまま、ゆっくりと傾いていくのが見えた。エリウの美しい顔は、今にも泣き出しそうなほどに歪み、苦悶の表情に満ちている。視界の隅から王子が血相を変えてこちらに駆け寄ってくるのが見えたが、エリウはそのまま、力なく地面に倒れ込んだ。全てがスローモーションのようにゆっくりと。
そして、次に俺の目に飛び込んできたのは、革の防具に覆われていないエリウの右脇腹に突き刺さった、短い矢のようなもの。
傷口からは、一筋の血が流れ出していた。
「エリウ様!」
すぐに王子がエリウを抱き起こす。矢が飛んできたと思われる方向には灌木の繁みがあって、繁みの中からガサガサと葉の擦れる音が聞こえている。どうやら、矢はその繁みから発射されたものらしかった。つまり、あそこに潜んでいた敵兵が、エリウを狙撃したのだ。
エリウと俺はすぐ近くにいたから、矢筋が少し俺の方に逸れていたら、あの矢は俺の体に刺さっていたかもしれなかった。あっぶねえ……。
「伏兵とはなんと卑怯な……エリウ様、しっかり! 今、手当てを致しますから!」
「王子……これは毒矢のようです……もう意識が……王子は早く逃げ……」
そこまで言って、エリウはぐったりと力尽きた。
ラスターグ王子は周囲の兵士達に叫ぶ。
「誰か! エリウ様をテントに運んで手当てを頼む! それから、足に自慢のある者は私に続け! エリウ様を襲撃した伏兵を血祭りに上げてやるぞ!」
王子が数人の兵を引き連れて灌木の中へ走っていくと、残された兵士達は数人がかりでエリウを近くにあったテントの中へと運び込んだ。しかし、エリウの手当てを命じられたはずの兵士達は、数分ののち、ぞろぞろとテントから出て来てしまった。
「だめだ……エリウ様は……我らの福音の騎士は、既に亡くなられた……」
エリウを運んだ兵士が茫然自失の体で呟くと、あたりは重い沈黙に包まれる。だが、それも長くは続かなかった。森を背にした集落の前方には広大な平原が広がっており、そのはるか向こう、地平線と重なるようにして、武装した兵士の群れが忽然と姿を現したのだ。
「ゴーマの軍だ……」
「逃げろ! 福音の騎士は死んだ!」
「我々は負けたんだ! 預言なんてやっぱり全て嘘っぱちだった!」
兵士達は口々にそう叫びながら、一目散に森の方角へと駆けていく。民を守るはずの最終防衛線は、ものの数分ほどでもぬけの殻になってしまった。……って、おい! 俺は! 救世主がまだ残ってるぞ!
立ち上がろうとはしてみたものの、足の痛みがひどく、歩くなんてことは到底無理な状態だった。あ~~、クソが!
俺は四つん這いのままエリウが運び込まれたテントへ向かう。
薄汚れた狭いテントの中で、エリウは仰向けに寝かされていた。
まるで眠っているみたいに安らかな顔で。
その頬を伝う涙はまだ乾いておらず、その姿のあまりの美しさに、俺は思わず鳥肌が立った。
手首を探る。脈はない。鼻に手をかざす。呼吸もしていなかった。胸当てを外して心臓に耳を当てみたが、当然のように心音はない。瞼を開いて覗き込んでみると、瞳孔は完全に開いていた。
死んでる……。
そして、きっと俺ももうすぐ殺されるのだろう。古代の戦争では、男は皆殺しがデフォのはずだし、この足では到底逃げられないだろう。
こんな妙な世界に飛ばされて、野蛮人に殺されるとは。
しかし、絶体絶命の状況に陥ったというのに、俺は意外と冷静だった。もうどうしようもない。何だか諦めがついてしまったのだ。
まあ、これも俺にお似合いの最後かもしれない。前日の夜に、あれだけいい女を睾丸が空になるほどたっぷりと抱いたんだから、俺にしちゃあ、そんなに悪くない終わり方ではないか。人生大逆転ならず、とはいえども、一瞬だけだが、なかなかいい夢を見させてもらった。
ところで、死の危険に曝された男は性欲が増すという話を聞いたことがあるだろうか?
現代日本に生きてきた俺は、これまで死の恐怖とは無縁の人生を過ごしてきた。しかし、自分の死を悟った今、秘められていた俺の遺伝子の生存本能が、体の底から沸々とこみ上げてきたのだ。
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え、まさか……って?
その、まさかだよ。
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