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はじまり
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剣で貫かれるなんて、思ってなかった。
(えっ?)
まばたきをするのと同時に、胸から血が噴き出す。
「あッ……!」
剣は背後から突き立てられていた。
(どうして……)
考えることができたのは、そこまでだった。
衝撃に次いで、痛みが襲いかかる。
「ッ……!」
傷口が、全身が、どくどくと脈打っていた。
息をしようとして、ひゅうっと喉が鳴る。
(どうして? なんで──)
誰かの足が、腰を蹴りつけた。
「っあ……!」
反動で、剣が引き抜かれる。
立っていられず、地面にできた血溜まりに倒れ伏す。
ばしゃんと音を立てて、その血溜まりを踏みつける男がいた。
剣を手にした男が、足元を見ることはなかった。
男は、乙女の血を浴びた竜と対峙していた。
年老いた竜だ。その竜は、私の、たったひとりの──
剣がうなる音がした。
血溜まりが、少しずつ広がっていく。
竜は血溜まりに、大きな身を沈めるようにして倒れていた。
ごめんね。私のせいで。ごめんなさい。
呼びかけようとしたが、声は出なかった。
謝ることもできない。
手を伸ばして触れることもできない。
手を伸ばせば届くところにいるのに、ただ死んでいくことしかできない。
悔しくて、だけど血が流れ過ぎたせいなのか、頬を伝う涙は一粒だけだった。
赤と深紅は混ざり合い、暗く大地を染めていく。
ごめんなさい。
視界がぼやけ、閉じていく。
謝りたかった。
せめて手を取って、最後まで──
(──最後ではない)
「っ……?」
はじめて聞く声だった。
朦朧とした意識が引き寄せられる。
死に瀕しているはずの、竜の瞳が輝いていた。
そして、微笑んだ。
どくん、と心臓が脈打つ。
血は混ざり合っていた。
私と竜は見つめ合っていた。
どちらも、声を出すことはできない。
それでも──
(レーナ)
呼ばれた。
どくん、と心臓が脈打つ。
目の前が、少しずつ明るくなっていく。
夜が明けていくように、視界がきらめいて──
男は折れた剣を手にしたまま、全身を震わせていた。
「なっ、なんで……どうして……!」
問いかけたわけではない。
ただ戸惑っているだけだ。
死にかけて、おなじようなことを口走ったからわかる。
私は男を──男の鎧を引き裂いた。
「ひッ……!」
鋭い爪は、皮膚も傷つけたかもしれない。
恐怖をもたらしたかもしれない。
だとしても──どうでもよかった。
(えっ?)
まばたきをするのと同時に、胸から血が噴き出す。
「あッ……!」
剣は背後から突き立てられていた。
(どうして……)
考えることができたのは、そこまでだった。
衝撃に次いで、痛みが襲いかかる。
「ッ……!」
傷口が、全身が、どくどくと脈打っていた。
息をしようとして、ひゅうっと喉が鳴る。
(どうして? なんで──)
誰かの足が、腰を蹴りつけた。
「っあ……!」
反動で、剣が引き抜かれる。
立っていられず、地面にできた血溜まりに倒れ伏す。
ばしゃんと音を立てて、その血溜まりを踏みつける男がいた。
剣を手にした男が、足元を見ることはなかった。
男は、乙女の血を浴びた竜と対峙していた。
年老いた竜だ。その竜は、私の、たったひとりの──
剣がうなる音がした。
血溜まりが、少しずつ広がっていく。
竜は血溜まりに、大きな身を沈めるようにして倒れていた。
ごめんね。私のせいで。ごめんなさい。
呼びかけようとしたが、声は出なかった。
謝ることもできない。
手を伸ばして触れることもできない。
手を伸ばせば届くところにいるのに、ただ死んでいくことしかできない。
悔しくて、だけど血が流れ過ぎたせいなのか、頬を伝う涙は一粒だけだった。
赤と深紅は混ざり合い、暗く大地を染めていく。
ごめんなさい。
視界がぼやけ、閉じていく。
謝りたかった。
せめて手を取って、最後まで──
(──最後ではない)
「っ……?」
はじめて聞く声だった。
朦朧とした意識が引き寄せられる。
死に瀕しているはずの、竜の瞳が輝いていた。
そして、微笑んだ。
どくん、と心臓が脈打つ。
血は混ざり合っていた。
私と竜は見つめ合っていた。
どちらも、声を出すことはできない。
それでも──
(レーナ)
呼ばれた。
どくん、と心臓が脈打つ。
目の前が、少しずつ明るくなっていく。
夜が明けていくように、視界がきらめいて──
男は折れた剣を手にしたまま、全身を震わせていた。
「なっ、なんで……どうして……!」
問いかけたわけではない。
ただ戸惑っているだけだ。
死にかけて、おなじようなことを口走ったからわかる。
私は男を──男の鎧を引き裂いた。
「ひッ……!」
鋭い爪は、皮膚も傷つけたかもしれない。
恐怖をもたらしたかもしれない。
だとしても──どうでもよかった。
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