6 / 11
6、またね
しおりを挟む
「う、うそだぁー」
苦笑いしながら、さすがにそういう嘘は傷つくよー?とモンブランのクリームを皿の上でかき混ぜる。
「嘘じゃない、本気だ」
カァッと彼女の耳が赤くなっていく。
うつむいた彼女の顔は、はっきりと見えない。
皿の端にとっておいたモンブランの栗をぱくりと口に運ぶ。モゴモゴと口を動かすだけで言葉を発しない。無言の時間が続く……こっちまで恥ずかしくなってしまうじゃないか。
続いて箱からショートケーキを取り出して口にふくんだ。
時計の針がうるさいほどに無音。 静かだ…。
長い長い沈黙にしびれをきかせたのは僕。
「美…」
「んっ!」
呼ぼうと口に出した名は、その本人によって遮られる。
彼女の小さな手にはフォーク。そのフォークがこちらに向けられている。
先には大きな赤いイチゴ。
「イチゴ!」
は?その一言で何を僕に伝えようとしてるんだ…わかるわけない。
「なんだ?」
「あげる」
!?
「あんたにやるっていってんのっ!」
イチゴって、今まで一度だってくれなかったイチゴをか!?
端から見れば大したことじゃないと思われるかもしれない、けれども僕にとってはなかなかすごいことなのだ。
イチゴは美夜の好物。ケーキの上に乗っているイチゴなんて、気を抜けばすぐに横から食われてしまうような、そんな果物。それをやるなんて…やはり頭を少し打ってしまったのかもしれない…。
「大丈夫か?頭でもうったん……じゃ?」
彼女の耳がさらにあかくなっていく。大丈夫なのか?本当に。
「さっきの…嬉しかったからあげる…」
「なっ…!」
どうしたらいいのだろう。どうしようもなく可愛いく見えてしまう、こっちまで顔が熱くなってきた。17時18分…。後3分。
僕は零れそうになる涙をグッと我慢して口を開けた。
甘い、けれども酸っぱいイチゴ独特の味と香りが口の中に広がる。
「おいしいよ…おいしい…」
後、2分…。
「よし、今日はお前の可愛いところ見れたから帰るとしようかな」
僕は…美夜の頭をグリグリと撫でてから病室を出た。
「なんだそれー!」
後ろから、照れ隠しに叫ぶ美夜の声がおってくる。
・・
「バイバイ、また…な」
ドアを閉めながら手をふった。最後に見えたのは彼女の笑顔。
「うんっまたっ!」
短い彼女の返事、ドアが閉まりきったその瞬間…刺された。
・・
僕には…また、なんてやってこない。
こらえていた涙がツウっと頬をつたった。
キャーーっと言うつんざくような悲鳴、叫び声。
そして、閉めたばかりのドアが開きかけた。美夜が…出てきてしまう。
駄目だ、駄目。
グッと手に力を込めてドアを閉める。そのせいか喉がカァッと熱くなった。
ゴポッと喉から血が上がってくる、やがて口に入りきれなくなった血液は僕の足元へと真っ赤な水溜まりをつくった。
「開けて!開けてよッ!!」彼女が叫んでいる。
そんなに叫んでは傷が開くよ…
17時22分、まるでテレビを消すようにプツリと意識が途切れた。
(宮川より)
お気に入り登録をしてくださった方、またはこんなつまらない話をよんで下さった方!
本当にありがとうございます!
この話は長編といいながら今回6、なんですけれども10、辺りで終わりとなります。
どうぞ気が向いた方はこれからも宮川涙雨をよろしくお願いいたします!
苦笑いしながら、さすがにそういう嘘は傷つくよー?とモンブランのクリームを皿の上でかき混ぜる。
「嘘じゃない、本気だ」
カァッと彼女の耳が赤くなっていく。
うつむいた彼女の顔は、はっきりと見えない。
皿の端にとっておいたモンブランの栗をぱくりと口に運ぶ。モゴモゴと口を動かすだけで言葉を発しない。無言の時間が続く……こっちまで恥ずかしくなってしまうじゃないか。
続いて箱からショートケーキを取り出して口にふくんだ。
時計の針がうるさいほどに無音。 静かだ…。
長い長い沈黙にしびれをきかせたのは僕。
「美…」
「んっ!」
呼ぼうと口に出した名は、その本人によって遮られる。
彼女の小さな手にはフォーク。そのフォークがこちらに向けられている。
先には大きな赤いイチゴ。
「イチゴ!」
は?その一言で何を僕に伝えようとしてるんだ…わかるわけない。
「なんだ?」
「あげる」
!?
「あんたにやるっていってんのっ!」
イチゴって、今まで一度だってくれなかったイチゴをか!?
端から見れば大したことじゃないと思われるかもしれない、けれども僕にとってはなかなかすごいことなのだ。
イチゴは美夜の好物。ケーキの上に乗っているイチゴなんて、気を抜けばすぐに横から食われてしまうような、そんな果物。それをやるなんて…やはり頭を少し打ってしまったのかもしれない…。
「大丈夫か?頭でもうったん……じゃ?」
彼女の耳がさらにあかくなっていく。大丈夫なのか?本当に。
「さっきの…嬉しかったからあげる…」
「なっ…!」
どうしたらいいのだろう。どうしようもなく可愛いく見えてしまう、こっちまで顔が熱くなってきた。17時18分…。後3分。
僕は零れそうになる涙をグッと我慢して口を開けた。
甘い、けれども酸っぱいイチゴ独特の味と香りが口の中に広がる。
「おいしいよ…おいしい…」
後、2分…。
「よし、今日はお前の可愛いところ見れたから帰るとしようかな」
僕は…美夜の頭をグリグリと撫でてから病室を出た。
「なんだそれー!」
後ろから、照れ隠しに叫ぶ美夜の声がおってくる。
・・
「バイバイ、また…な」
ドアを閉めながら手をふった。最後に見えたのは彼女の笑顔。
「うんっまたっ!」
短い彼女の返事、ドアが閉まりきったその瞬間…刺された。
・・
僕には…また、なんてやってこない。
こらえていた涙がツウっと頬をつたった。
キャーーっと言うつんざくような悲鳴、叫び声。
そして、閉めたばかりのドアが開きかけた。美夜が…出てきてしまう。
駄目だ、駄目。
グッと手に力を込めてドアを閉める。そのせいか喉がカァッと熱くなった。
ゴポッと喉から血が上がってくる、やがて口に入りきれなくなった血液は僕の足元へと真っ赤な水溜まりをつくった。
「開けて!開けてよッ!!」彼女が叫んでいる。
そんなに叫んでは傷が開くよ…
17時22分、まるでテレビを消すようにプツリと意識が途切れた。
(宮川より)
お気に入り登録をしてくださった方、またはこんなつまらない話をよんで下さった方!
本当にありがとうございます!
この話は長編といいながら今回6、なんですけれども10、辺りで終わりとなります。
どうぞ気が向いた方はこれからも宮川涙雨をよろしくお願いいたします!
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる