僕は何度も

宮川 涙雨

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6、またね

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「う、うそだぁー」
苦笑いしながら、さすがにそういう嘘は傷つくよー?とモンブランのクリームを皿の上でかき混ぜる。
「嘘じゃない、本気だ」 
 カァッと彼女の耳が赤くなっていく。
うつむいた彼女の顔は、はっきりと見えない。
皿の端にとっておいたモンブランの栗をぱくりと口に運ぶ。モゴモゴと口を動かすだけで言葉を発しない。無言の時間が続く……こっちまで恥ずかしくなってしまうじゃないか。
 続いて箱からショートケーキを取り出して口にふくんだ。
時計の針がうるさいほどに無音。 静かだ…。
長い長い沈黙にしびれをきかせたのは僕。
「美…」 
「んっ!」    
 呼ぼうと口に出した名は、その本人によって遮られる。
彼女の小さな手にはフォーク。そのフォークがこちらに向けられている。
先には大きな赤いイチゴ。
「イチゴ!」
は?その一言で何を僕に伝えようとしてるんだ…わかるわけない。 
「なんだ?」
「あげる」
!? 
「あんたにやるっていってんのっ!」
イチゴって、今まで一度だってくれなかったイチゴをか!?
端から見れば大したことじゃないと思われるかもしれない、けれども僕にとってはなかなかすごいことなのだ。
イチゴは美夜の好物。ケーキの上に乗っているイチゴなんて、気を抜けばすぐに横から食われてしまうような、そんな果物。それをやるなんて…やはり頭を少し打ってしまったのかもしれない…。
「大丈夫か?頭でもうったん……じゃ?」
彼女の耳がさらにあかくなっていく。大丈夫なのか?本当に。
「さっきの…嬉しかったからあげる…」
「なっ…!」
どうしたらいいのだろう。どうしようもなく可愛いく見えてしまう、こっちまで顔が熱くなってきた。17時18分…。後3分。
僕は零れそうになる涙をグッと我慢して口を開けた。
甘い、けれども酸っぱいイチゴ独特の味と香りが口の中に広がる。
「おいしいよ…おいしい…」
後、2分…。
「よし、今日はお前の可愛いところ見れたから帰るとしようかな」
僕は…美夜の頭をグリグリと撫でてから病室を出た。
「なんだそれー!」
後ろから、照れ隠しに叫ぶ美夜の声がおってくる。
            ・・
「バイバイ、また…な」 
ドアを閉めながら手をふった。最後に見えたのは彼女の笑顔。
「うんっまたっ!」
短い彼女の返事、ドアが閉まりきったその瞬間…刺された。
        ・・
僕には…また、なんてやってこない。
こらえていた涙がツウっと頬をつたった。
キャーーっと言うつんざくような悲鳴、叫び声。
そして、閉めたばかりのドアが開きかけた。美夜が…出てきてしまう。
駄目だ、駄目。
グッと手に力を込めてドアを閉める。そのせいか喉がカァッと熱くなった。
ゴポッと喉から血が上がってくる、やがて口に入りきれなくなった血液は僕の足元へと真っ赤な水溜まりをつくった。
「開けて!開けてよッ!!」彼女が叫んでいる。
そんなに叫んでは傷が開くよ…

17時22分、まるでテレビを消すようにプツリと意識が途切れた。



(宮川より)
お気に入り登録をしてくださった方、またはこんなつまらない話をよんで下さった方!
本当にありがとうございます!
この話は長編といいながら今回6、なんですけれども10、辺りで終わりとなります。
どうぞ気が向いた方はこれからも宮川涙雨をよろしくお願いいたします!
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