僕は何度も

宮川 涙雨

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10、恐怖

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病院からの帰り道、猫を見た。白と黒の模様の猫はちらりと僕を振り返ったけれど、すぐに知らない家の影へと消えていった。
家へ帰るとなにもせずに自室のベッドへ入る。
母も父も今日は、というかこの18日という日は家に居ない。
いつも使っている青い目覚まし時計を17時10分にセットしてからゆっくりと目を閉じた。


ピピーーピピーー…
アラームの音で目が覚めた。後…12分。
…9分。
パリーンッ
一階からガラスの割れるような音がした。
きっとあの男だろう。僕はまだベッドの上だ。
足音が部屋の前まで近づくと、そこで止まる。
キィィッと立て付けの悪い僕の部屋のドアが軋むと男が入ってきた。
僕は男に問いかける。
「あなたはなんなんですか?」
男は答えようとしない。
その代わりに…ナイフをふり下ろした。
僕は男に抵抗する。
けれども無理だった。力の差がありすぎる。
男の左手によって一瞬のうちに僕の両腕はベッドに縫い付けられた。
体重をかけられたせいで腕はびくともしない。
「……ッッ」
ナイフの固く冷たい感覚が首筋をなぞった。
「やめてくださいッ」
男が笑っている。
一度ナイフを僕の顔の横に突き立てる男。
空いた右手でゆっくりと僕のシャツに手をかけた。
するりとめくられたシャツの下が無防備にさらされる。
まるで恋人を抱くとでもいうように優しく触れる手は冷たい。
「っう」
気持ちが悪い。触れていた手が離れると僕の顔横のナイフが引き抜かれた。
そしてナイフが腹にあてがわれる。
チクッとした痛みがはしった。
「いっ」
「痛い?」 
「そりゃあ痛いですよ。」
17時18分。
固く鋭いそれは男の力によってズグッとつきすすめられる。
男はその瞬間ナイフから手を離すとそのまま僕の口へ移動させふさいだ。
僕は声を出すこともかなわず、呻きと濃い血の臭いだけが部屋のなかにたちこめている。
「んぐぅぅッ!」
「ふはっ、痛いねぇ?」
「んふぅっ、んんっ」
さすがに涙がこぼれた。痛い。怖い。
「泣かないで?すぐにいかせてあげるから…」
口がかいほうされた代わりにナイフに手が戻る。 
「も…やめへくぇ……痛い…からぁ…」
出血が多いからか、痛みからか、ろれつが上手くまわらない。
恐怖のあまり全身が震えている。
突き刺さっている部分が熱い。
ぐちゅっぐちゃっと嫌な音をたてて更に深く差し込まれる。
痛いと叫びたいのに、口から言葉が出ようとしない。
「あっう……あぁぁっ、うっあ、んぅぅ!」
馬鹿みたいな呻き声しか出てこない。
そして男は……いきなり全てを引き抜いた。
「っーーーーーーーー!?!!」
あまりの痛みに体がビクビクッとはねた。
ボロボロと涙が次から次へと溢れる。
「ほら、これでいけるだろ?」 

17時22分……。
痛みと、これまでで一番とも言える恐怖の中、男の手で1日の幕がおろされた。
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