雨、黒と白

宮川 涙雨

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1、父

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痛い。
強く掴まれた腕も、蹴られたお腹も、殴られた顔も。
身体中が鈍い痛みに襲われて、最近は自分のどこに痣や切り傷ができているか分からなくなってきた。


私の初めての相手は父親だ。あの日、父との約束を破って家に来なかった女の代わりにあの男は無理矢理私を抱いた。
それまで父が私に手を上げるのはしょっちゅうだったから殴られても特に何も思うことなんかなかった。そりゃあ痛いし殴られたくはなかったけれど、なんとなく諦めがついていたから。
けど…あの日は違った。怖かった。必死に抵抗して…。当たり前のことだ。それでも父の力には勝てっこなかった。
痛かった。自分のものではない何かが私の中に無理矢理入ろうとしてくる感覚がどうしようもなく怖かった。
気持ちいいだなんて一ミリも思わなくて、ただただ恐怖と痛みといろんな人に対する恨みだけが私を支配していった。
こんな酷いことをする父とか私を捨てた母とかあの香水臭い女とか、もはやそいつらに関係する人間全員だよね。
いつの間にか私は気を失ってしまっていて、目を覚ますと私は床に放置されたままだった。
身体中痛くて、乾いた私の血と父のモノが張り付いていた。それに…中にまだ何かが入っているような気がして吐き気がした。
ふと私の近くに無造作に置いてあった小さな箱には避妊薬が入っていて、初めて自分にアイツの子供ができるかもしれないという可能性を認識した。
子供なんかできてどうすんだって話だ。
もしアイツとの子供が出来たら…か……。
そうしたら自分の腹にナイフ突き刺してこの手で握り潰してやる。そのままあの男に見せつけてやるんだ。ぐちゃぐちゃになった子どもの残りを。
どんな顔をするだろうか。
まぁそんな事しないけど。
すぐに私は薬を飲んだ。子どもに罪はない。だから私が殺さなくていいように。


あれから二年。
今も父に殴られている。壁にぶつかって骨がきしんだ。
痛いなぁ。
(ッのクソガキ!顔見せんなっつってただろうがよッ!)
はいはい。出てけってね…。あー、外雨降ってんのになぁ。
玄関まで来たところで突然後ろから蹴られて勢いをつけたまま外へ転がり出た。
思い切りドアにぶち当たったせいで肩がズキズキと痛い。痣になるパターンな気がする。
コンクリートの地べたは有り得ないほど冷たくて、ビッチョリと濡れていた。
父がドアを閉めて鍵をかける音がする。あぁ、風邪ひくなぁこれは。
起き上がろうとして人の足があることに気がついた。
上を見あげると…そこには私とは正反対の真っ白な髪をした男が立っている。

…綺麗だった。

神だとか天使だとか信じたことはないけれど、そのくらい綺麗だった。
微かに見える表情は無表情。私をどんなふうに見てるんだろう。可哀想だと哀れんでる?誰だろうかと疑問に思ってる?汚いと見下してる?
「……何?」
その無表情から何かを読み取るのは不可能だった。
哀れまれてると思ったら腹が立つ。訳もなくぶん殴ってやろうかと思うくらいに。
あ。あるか。腹がたったってことが理由だわ。
そんな事を考えているというのにそいつは「いきなり追い出されてるからただ見物してるんだー」ってなことを言いやがった。
さっきの三つの選択肢の中にはない答えだけれどこれも十分ムカつく。
私は立ち上がって一度睨んでからいつものようにドアの前に寄りかかって体育座りをした。
男はそれ以上何も言わずちらりと一瞬私を見ただけ。
その後二秒もたたないうちに私の前を通って階段を下りていった。
あー。
「寒い…」
夏なのにどうしてこんなに寒い思いしなくちゃいけないんだろ。せめてタオルとかだけでもこっそり持ってくればよかった。
そんな事したら泥棒だとかなんだとか言われて半殺しかな?…いっそ殺してくれればいいのに。
まぁ、凍死する寒さじゃないし…少し寝よう。眠って起きたら朝が来てるといいな。夜中に目覚めるなんてのは寂しいし…ちょっと…怖いから。
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