雨、黒と白

宮川 涙雨

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5、居場所

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目が覚めて驚いた。お兄さんに抱きついて寝ていたから。
恥ずかし…。内緒にしよう。
私はそっとベッドから出て玄関へ向かった。
まだ六時半だから父は寝てる。そっと隠しておいた鍵を使って家に入って学校のバックと制服一式、あと家にある食料を少しだけもってまたお兄さんの家に戻った。
さっき家の棚に引っ掛けて切れた手の甲が痛いけどほかは無事。
ブカブカのパジャマを脱いで制服に着替えるとなんだか制服がいつもより小さく感じた。
大きいものを着てるといつもの服が小さく感じるのか…。
あ、お泊まりバックも持ってきておこう。もう一度家へ戻って黒いバックへパジャマと下着。その他諸々を詰め込んでお兄さんの家のキッチンへ持ってった。
さて、朝ごはんを作ろう。
キッチンお借りしますよ~っと。
あまり使われていない様子のきれいなキッチンは料理がしやすかった。
食器もお兄さん家のを借りた。
トーストとスクランブルエッグとソーセージ。
まぁ、うまく作れたんじゃない?そろそろお兄さんも起きてくるはず。アラームのかけてある時間をこっそり見たから知ってる。
ちなみにお兄さんのケータイはまさかのガラケーだった。
あ、お兄さん。
「おはよー」
「ん」
寝ぼけているのかぽやぽやしてる。
「キッチン借りたよー?ご飯あるから座って」
お兄さんはやっぱり食べている間も自分からは話さなかった。
ま、美味しいですって言葉はちゃんとくれたけど。
私はお兄さんの寝癖がツボにはまって笑いが止まんなかった。あれはないよ。そのせいでお茶を吹いてしまって、お兄さんには誰にも言わないでよねって口止めした。
「そーいやおにーさん、その髪が白いのって染めてるんじゃないの?そのわりにはすごいサラサラだったんだよね」
そう、気になって昨日の夜ちょっとだけさわっちゃったんだ。
「……アルビノなんですよ」
ヤバいって思った。
「さわったんですか?勝手に?」
地雷だった。
「許可ぐらい………とれよ…」
「ご、ごめん」
慌てて謝ったけれど、お兄さんは静かに立ち上がってどこかへ行こうとする。
「謝る…ってば」
どうしたらいいんだろう。表情が読めないせいで余計にどうしていいかわからない。
どこかへ行ったかと思ったけれど、お兄さんは小さな箱を持って私の前へと戻ってきた。
「ごめん…なさい…」
お兄さんは私の手の傷に絆創膏を貼ってくれた。何度も何度もやり直して、二枚も無駄にした。
お兄さんは結局私を許してくれて、安心した私は調子に乗ってお兄さんの手の大きさにはしゃいでしまった。
だって私の手よりも関節一つ分くらい大きかったんだもん。
ふと時計を見て私は正直かなり焦った。遅刻する。
「ごめんお兄さんっ、遅刻しちゃうから学校行くねっ」
「気をつけてください」
「…うんっ」
まるで普通の家の朝みたいな会話。
「いってきまぁーす」
「いってらっしゃい」
そんな会話にちょっとだけ顔がにやけてしまう。
何年も前にお母さんに行ってきますと言ったような記憶がある。その時いってらっしゃいと言われたかどうかは覚えてない。


学校にはギリギリで着いた。
(おはよー和ちゃん)
「あ、おはよーあーちゃん」
(遅かったねー、お休みかと思っちゃったよ)
「あはっ、私も今日は本気で遅刻するって思った」
私を和ちゃんと呼ぶのは中学からの友達のあやねという子。
おっとりしてて凄く可愛い。
「でもちゃんと着いたからいいや」
(…また…お父さん?)
あーちゃんは私の家のことを知ってる。まぁこんな傷だらけじゃ皆分かってんだけど私が気にしないでっていった。
先生にも、何もしないでって。
それでもあーちゃんはやっぱり私のことを毎日心配してくれる。シップとか絆創膏を貼ってくれるのもあーちゃん。
「違うよー」
そう、今日は違う。今日は…にやけちゃうほど幸せな朝だった。
(そっか、よかったぁ)
「んふふ、ありがとう。いっつも心配してくれて」
前、どうしてそんなに心配するのって聞いたことがある。そしたらあーちゃんってば私がお父さんに殺されちゃう気がして怖いって泣いた。まさか友達にそんな心配されてるなんて思わなかったからびっくりしたよ。あのときは。
だから私はあーちゃんを泣かせないために生きてるんだ。だってそれくらいしか私に生きる理由がないんだもん。
(当たり前だよ!)
当たり前…か。それがどれだけ私を支えてるか…あーちゃんは知らないんだもんなぁ。
「ありがとう、あーちゃん大好きぃ」
大好き。本当にありがとう。
私の居場所。私の居ていい所。
私の……大好きな時間。
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