雨、黒と白

宮川 涙雨

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4、温かい

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そっとお兄さんの大きな手が近づいてきて思わず体に力が入った。
ぁ…どうしよう、やっぱ怖いや。
手が脚に触れた。私よりもずっと大きくて冷たい。
痛いかな?もう二年も経つからきっと痛いはず。優しくして欲しい…な…。
脚の付け根まで手が触れた瞬間、怖くて息を止めてしまった。
「なにもしませんよ、絵のモデルを傷つけるなんて話にならないでしょう?」
え…?
「モデルじゃなかったら私のこと抱いたってこと?」
つまりはそういうことなんでしょ?
その時外から雷の鳴る音が聞こえた。でもまだ遠いみたい。
「どうでしょう、そういや下着が見えてますよ?」
…は?何…どういうこと?
お兄さんは私の着ているブカブカのパジャマを下に引っ張ってそう言った。
意味がわからない。どうしてそんなに優しくするの?わけわかんないよ。
私はお兄さんの手を叩いて強く暴言を吐いた。
涙が溢れてもう少しで零れてしまいそうだったからそれを隠すための精一杯の強がり。
お兄さんはそれを察したのか、もしくは長い前髪で見えていなかったのか何も言ってこなかった。
一分とかそのくらいかな、ちょっと経ってお兄さんがもう寝ようと言った。
私また外に出されるかな?流石に見ず知らずの人間を家に泊める人なんていない。だって私がお兄さんの寝ている間に泥棒しないなんて保証ないもん。
「嫌よ」
「え……」
「おにーさんだけ寝ればいいよ、私はまだここにいたい」
馬鹿だ私…そんな事言っちゃったら余計に泥棒するみたいじゃん。
その時だった。隣の家から、私の家から、女の喘ぎ声が聞こえてきた。
「っ…」
「……」
あの女だ。香水臭い女。
あんなののどこが気持ちいいんだか。
なんか…吐きそう。
いつもはあの光景を目の前で見ているというのに今日は何だか余計に気持ち悪く感じる。
「また始まった…。ごめんね、これも聞こえてたんだ。うるさいでしょ」
「別に、いつもはもう寝てますし。というか俺もう眠いんで寝たいんですけど……寝ますよ?」
「いいよ、もう少し、あとちょっとでいいからここにいたい…」
まだ、家に行きたくない。それに…雷鳴ってるから。雷は嫌いなんだ。
「え、まぁ、勝手にどうぞ。じゃあ俺ここで寝るんで眠くなったらあっちが寝室ですから勝手に寝てください。あ、電気は消してって下さいね」
え、何。それって。
「は?私ここで寝ていいの?」
「あ、嫌ですか?帰ってもいいですよ」
「嫌、寝るっここで寝たい!」
外で眠らなくていい。家に帰らなくていい。それだけで私は飛び上がるほど嬉しい。だって、そうでしょ?
「そうですか」
私はお兄さんに自分がソファーで寝ると言った。だって私の方がちっさいし、それに私ここの子じゃないもん。なのに…お兄さんはまた想像と違う回答をした。
「別に気にすることないですよ、ベッド一回も使ってませんしきれいですよ?」
「いつもどこで寝てんの!?」
「床」
ゆ、床…。何で?ベッドあるのに床でねるわけ?痛いじゃんか。
その後お兄さんと討論になった。
どうしても私をベッドに寝せようとするお兄さんと自分がソファーに寝るのが普通だと言い張る私。
どう考えたって私の家から意見の方が正しいはずなんだけど、お兄さんは全然了承してくれなかった。
理由は様々。女の子だからとかお客様だからとか子供だからとか。別に気にしないって言っても、俺が気にしますの一点張りだった。
そして…だ。
何故か討論の末二人一緒にベッドで寝ることになった。
なんというか二人そろって一番無い答えに行き着いちゃって後戻りできないって感じ?
案外お兄さんは自分の意見を貫くタイプの人なのかも。そして私はプライドが高いから自分の意見を曲げることなんてしない。
その結果がこれなわけだけど。
狭い。
ていうかやっぱりこの人いい匂いする。
隣で寝てるだけなのに…柔軟剤かな?
…そろそろ寝よう。明日も学校だし…。

久しぶりに寝たベッドはふかふかだった。
それに…人と寝るなんて修学旅行以来でちょっとだけいいなって思ってしまった。
あったかいや。
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