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家に帰ると、汚れていた水槽を洗った。
「洗えたー?」
「洗えましたよ、拭いてください」
「わかった」
小さめの水槽をそっと彼女へ渡す。
滴がボタボタと落ちるたび、床で弾いて彼女の足を少し濡らしていった。
「名前、どうしよっか」
水槽の水滴を拭き取りながら彼女が問いかけてくる。
俺はタオルで手を拭きながら彼女の後ろの壁に寄りかかった。
名前…そうだ、ペットには名前が必要なんだ。
「ねぇって」
返事をしないまま悩んでいた俺を彼女は首だけで振り返るともう一度、どうしようかと問いかけてきた。
「好きな名前つけてあげてください」
名前なんて正直なところどうでもいい。
彼女はえー、と少し不満そうに水槽側に向き直る。
「水槽拭き終わったから綿と草入れておにーさん」
「ん」
そう言われ取り出した綿は思った以上にボリュームがでて、必要ない分はもう一度袋へ押し込んだ。
草はなんというか…ある意味いい匂いがする。
続いて彼女がダンボール箱からハムスターを取り出した。
もにょーっと彼女の手の中で伸びる体。
「なっ、そんなに伸びて大丈夫なんですか?」
「大丈夫、ハムスターって結構軟らかいから伸びるんだよ」
そういいながら彼女は大きく笑った。
「そんなに心配しなくても」
また彼女は笑う。
「…そんなに笑わないでくださいよ」
少し反論してみた。
彼女は笑いながら、ごめんごめんと半分ふざけぎみに謝る。
まぁ、どうだっていいが。
続いて鳥籠を取り出した。
かごの中に水とエサを入れると、そこにインコをダンボール箱から移す。
まだ大人になりかけの小柄なインコはすんなりとかごの中へいれることができた。
「かわいいね」
「……そうですね」
そう答えながらも、俺は鳥を見つめている彼女の横顔をみていた。
今の絵が完成したら…次は横顔を描こう。
きっと…綺麗に描ける気がする。
ふと、彼女の髪にてをのばした。なんとなく…触れたいと思ったから。
指先が髪に触れた。そのままスウッと手を進めると、サラリとした彼女の髪が絡まることなく俺の指をのみ込んでいく。
そっとつかんでみるけれど、手の中からするりと逃げていってしまった。
「おにーさん?」
疑問を浮かべた顔で彼女はこちらをみている。
「きれいですね」
彼女はますますよくわからないといった顔になる。そしてフッと笑った。
「ふふっ誉められちゃった」
ウィッグにしておにーさんにあげよっか?そんな冗談を口にしながら彼女はインコに、ねーっと話しかけた。
わかっているのかいないのか、インコはチチッと鳴く。
「ねぇっ」
「はい?」
突然に彼女は叫ぶと、この子の名前…空にしたい。そうしっかりと言った。
空。いかにも見たまんまといった名前だけれど、悪くはない。
「いいと思いますよ」
そう、俺は答えた。
「今日からお前はそらだよー、覚えてくれるー?」
楽しそうな彼女の姿をみるのは悪くない。そんなことを思った。
「ハムスターはどうしますか?」
「んー、そうだよねー…。あ、おにーさんつけてよ。私は空に名前つけたし」
そういって、彼女はもう一度ハムスターを手に乗せた。やはり大きなハムスターは彼女の手のひらほどの大きさがある。
モニュモニュモニュモニュ、と彼女がつつくとハムスターはされるがままになっている。
大人しいな…。
「もちはどうです?」
「もち?」
少し驚いたような顔をした彼女は次の瞬間、声高らかに笑った。
「もちって、かわいい、名前っ、つけるんだ…ね、くくっ」
笑いで途切れ途切れになりながら話す彼女。
「…悪いですか。」
恥ずかしくなって少し乱暴な口調で答えた。
「うそうそっ、すねないでよー」 と、いいながらも笑っている。
けれど、「いいと思うよ。」そう言う彼女は決してふざけている様子ではなかった。
優しく微笑んだ表情。
今の顔…。絵にしよう。またそんなことを思った。
そして彼女の表情を忘れないようしっかりと記憶に焼き付ける。
俺は…それが得意だから。
「洗えたー?」
「洗えましたよ、拭いてください」
「わかった」
小さめの水槽をそっと彼女へ渡す。
滴がボタボタと落ちるたび、床で弾いて彼女の足を少し濡らしていった。
「名前、どうしよっか」
水槽の水滴を拭き取りながら彼女が問いかけてくる。
俺はタオルで手を拭きながら彼女の後ろの壁に寄りかかった。
名前…そうだ、ペットには名前が必要なんだ。
「ねぇって」
返事をしないまま悩んでいた俺を彼女は首だけで振り返るともう一度、どうしようかと問いかけてきた。
「好きな名前つけてあげてください」
名前なんて正直なところどうでもいい。
彼女はえー、と少し不満そうに水槽側に向き直る。
「水槽拭き終わったから綿と草入れておにーさん」
「ん」
そう言われ取り出した綿は思った以上にボリュームがでて、必要ない分はもう一度袋へ押し込んだ。
草はなんというか…ある意味いい匂いがする。
続いて彼女がダンボール箱からハムスターを取り出した。
もにょーっと彼女の手の中で伸びる体。
「なっ、そんなに伸びて大丈夫なんですか?」
「大丈夫、ハムスターって結構軟らかいから伸びるんだよ」
そういいながら彼女は大きく笑った。
「そんなに心配しなくても」
また彼女は笑う。
「…そんなに笑わないでくださいよ」
少し反論してみた。
彼女は笑いながら、ごめんごめんと半分ふざけぎみに謝る。
まぁ、どうだっていいが。
続いて鳥籠を取り出した。
かごの中に水とエサを入れると、そこにインコをダンボール箱から移す。
まだ大人になりかけの小柄なインコはすんなりとかごの中へいれることができた。
「かわいいね」
「……そうですね」
そう答えながらも、俺は鳥を見つめている彼女の横顔をみていた。
今の絵が完成したら…次は横顔を描こう。
きっと…綺麗に描ける気がする。
ふと、彼女の髪にてをのばした。なんとなく…触れたいと思ったから。
指先が髪に触れた。そのままスウッと手を進めると、サラリとした彼女の髪が絡まることなく俺の指をのみ込んでいく。
そっとつかんでみるけれど、手の中からするりと逃げていってしまった。
「おにーさん?」
疑問を浮かべた顔で彼女はこちらをみている。
「きれいですね」
彼女はますますよくわからないといった顔になる。そしてフッと笑った。
「ふふっ誉められちゃった」
ウィッグにしておにーさんにあげよっか?そんな冗談を口にしながら彼女はインコに、ねーっと話しかけた。
わかっているのかいないのか、インコはチチッと鳴く。
「ねぇっ」
「はい?」
突然に彼女は叫ぶと、この子の名前…空にしたい。そうしっかりと言った。
空。いかにも見たまんまといった名前だけれど、悪くはない。
「いいと思いますよ」
そう、俺は答えた。
「今日からお前はそらだよー、覚えてくれるー?」
楽しそうな彼女の姿をみるのは悪くない。そんなことを思った。
「ハムスターはどうしますか?」
「んー、そうだよねー…。あ、おにーさんつけてよ。私は空に名前つけたし」
そういって、彼女はもう一度ハムスターを手に乗せた。やはり大きなハムスターは彼女の手のひらほどの大きさがある。
モニュモニュモニュモニュ、と彼女がつつくとハムスターはされるがままになっている。
大人しいな…。
「もちはどうです?」
「もち?」
少し驚いたような顔をした彼女は次の瞬間、声高らかに笑った。
「もちって、かわいい、名前っ、つけるんだ…ね、くくっ」
笑いで途切れ途切れになりながら話す彼女。
「…悪いですか。」
恥ずかしくなって少し乱暴な口調で答えた。
「うそうそっ、すねないでよー」 と、いいながらも笑っている。
けれど、「いいと思うよ。」そう言う彼女は決してふざけている様子ではなかった。
優しく微笑んだ表情。
今の顔…。絵にしよう。またそんなことを思った。
そして彼女の表情を忘れないようしっかりと記憶に焼き付ける。
俺は…それが得意だから。
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