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12、視線
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「ゲンチャンッキャキャキャキャ、オキャクサーン、ゲンチャンイイコーイーコネー」
ほんとにいつまでこいつは話し続けるんだろう。
「どっちにするか決まりました?」
「んー、インコ……かな」
「じゃあ…」
「でもなぁ」
やはり決めきれないといった様子でまた悩みはじめる。
すると店員がお悩みですかと問いかけてきた。
「まぁ、インコにするかハムスターにするか迷ってるんです」
(そうですか、どちらもかわいいですからね)
彼女の返事に店員は頷きながら返事をしかえす。
俺はそれをみながらあくびをした。
「……あっ、そういや聞いてなかったけどおにーちゃんはどっちがいいの?」
突然話をふられて驚いた。なによりあくびをしていたのを見られてしまったのが恥ずかしくて、急いで口を閉じる。
どっちがいい…か…。正直のところ俺はどちらでもいい。そして一つ、彼女は俺のことをお兄さんではなくお兄ちゃんと呼んだ。これは俺も敬語をやめて返事をしたほうがいいのだろうか。
ほんの数秒のうちに頭をフル回転させた。
「俺はどっちでもいいぞ」
結局敬語をやめることにしたけれど、なんとも違和感がある。
いくつか年上の先輩にため口をきいた気分だ。
「どっちでもかー」
えー、と少しばかり不満そうにする彼女。
ふと、俺は店員に話しかけた。
「あの、インコとハムスターの飼育方法ってどうしたらいいんですか」
すると店員は営業スマイルのまま説明をしだした。
(そうですね。インコはあちらに五千円程の鳥籠がありますのでそれと鳥用のご飯を買っていただけば飼育には十分ですね。お水入れやご飯入れは鳥籠とセットになっておりますので。ハムスターは……)
店員の説明を聞く限り、インコもハムスターもそれぞれ飼うには一万ほどで一式そろうらしい。
……両方…飼うか?いやいや、それは飼育が難しいだろう。
なぜか俺までもが悩むはめとなった。
あれこれ俺達は40分近くこのコーナーから動いていない。
「両方、飼おうか」
「は!?」
驚く彼女。
そりゃ驚きもするだろう。けれどいつまでもこうしているんじゃらちがあかない。
「いやいやいやいや、考えようよ!高いじゃんっ」
「けど、ハムスターを家にある水槽で飼ったらその分安くつく。」
「…水槽。そうだね、それいけそうかも」
「な?」
ペットショップに到着してから一時間半、やっと我が家のペットが決定した。
「おにーさん、敬語喋んないほうがかっこいいね」
それまで無言のままハムスターの入った箱を空気穴から覗きこんでいた彼女が突然そんなことを言い出した。
あの後話を聞いた店員はインコとハムスターを別々の箱へ入れてくれたけれど、まさか段ボールでできた箱へ入れるとは思っていなかったため、内心かなり驚いた。
小さな虫かご程の段ボール箱だからそれは彼女に持ってもらうことになり、たった今彼女はその箱を覗きこんでいる最中。
「何言ってるんですか」
「ほらー、また敬語だ」
俺はというと、インコ用の鳥籠と粟、ハムスター用の草とエサ、その他いくつかを手に抱えている。
電車の中でそんな大きなものを持っているんだ、人からの視線が痛い。
もしかすると、俺の白い髪が気になってみているやつもいるのかも知れない。
一度そう思うと、不安になってくる。怖い。視線が気になってしょうがない。
脈がいつもより速くなる。
「…っあ」
目を瞑った。
見られているかもしれない。嫌だ。帰りたい。ここから出たい。怖い、怖い怖い。
「うっ…」
苦しい、息を吐くことが上手くできない。吸うことばかりで…吐き出すことができない。
「お兄さん、落ち着いて。大丈夫だから。」
ふと、背中を軽く叩かれた。テンポよく、子供をあやすように。
「大丈夫、大丈夫。」
何度も何度も声をかけられる。
ゆっくりと息をはいた。
「は、ぁ…っ」
「大丈夫?」
「……。っは…ぃ…」
俺は弱い。こんなにも小さく傷だらけになった彼女よりも、臆病だ。
そんな自分がどうしようもなく惨めで……。
こんな自分がどうしようもなく嫌になる。
俺は彼女を守れるほど……強くない。
彼女は降りるまでの間、ずっと背中に手をそえていてくれた。
ほんとにいつまでこいつは話し続けるんだろう。
「どっちにするか決まりました?」
「んー、インコ……かな」
「じゃあ…」
「でもなぁ」
やはり決めきれないといった様子でまた悩みはじめる。
すると店員がお悩みですかと問いかけてきた。
「まぁ、インコにするかハムスターにするか迷ってるんです」
(そうですか、どちらもかわいいですからね)
彼女の返事に店員は頷きながら返事をしかえす。
俺はそれをみながらあくびをした。
「……あっ、そういや聞いてなかったけどおにーちゃんはどっちがいいの?」
突然話をふられて驚いた。なによりあくびをしていたのを見られてしまったのが恥ずかしくて、急いで口を閉じる。
どっちがいい…か…。正直のところ俺はどちらでもいい。そして一つ、彼女は俺のことをお兄さんではなくお兄ちゃんと呼んだ。これは俺も敬語をやめて返事をしたほうがいいのだろうか。
ほんの数秒のうちに頭をフル回転させた。
「俺はどっちでもいいぞ」
結局敬語をやめることにしたけれど、なんとも違和感がある。
いくつか年上の先輩にため口をきいた気分だ。
「どっちでもかー」
えー、と少しばかり不満そうにする彼女。
ふと、俺は店員に話しかけた。
「あの、インコとハムスターの飼育方法ってどうしたらいいんですか」
すると店員は営業スマイルのまま説明をしだした。
(そうですね。インコはあちらに五千円程の鳥籠がありますのでそれと鳥用のご飯を買っていただけば飼育には十分ですね。お水入れやご飯入れは鳥籠とセットになっておりますので。ハムスターは……)
店員の説明を聞く限り、インコもハムスターもそれぞれ飼うには一万ほどで一式そろうらしい。
……両方…飼うか?いやいや、それは飼育が難しいだろう。
なぜか俺までもが悩むはめとなった。
あれこれ俺達は40分近くこのコーナーから動いていない。
「両方、飼おうか」
「は!?」
驚く彼女。
そりゃ驚きもするだろう。けれどいつまでもこうしているんじゃらちがあかない。
「いやいやいやいや、考えようよ!高いじゃんっ」
「けど、ハムスターを家にある水槽で飼ったらその分安くつく。」
「…水槽。そうだね、それいけそうかも」
「な?」
ペットショップに到着してから一時間半、やっと我が家のペットが決定した。
「おにーさん、敬語喋んないほうがかっこいいね」
それまで無言のままハムスターの入った箱を空気穴から覗きこんでいた彼女が突然そんなことを言い出した。
あの後話を聞いた店員はインコとハムスターを別々の箱へ入れてくれたけれど、まさか段ボールでできた箱へ入れるとは思っていなかったため、内心かなり驚いた。
小さな虫かご程の段ボール箱だからそれは彼女に持ってもらうことになり、たった今彼女はその箱を覗きこんでいる最中。
「何言ってるんですか」
「ほらー、また敬語だ」
俺はというと、インコ用の鳥籠と粟、ハムスター用の草とエサ、その他いくつかを手に抱えている。
電車の中でそんな大きなものを持っているんだ、人からの視線が痛い。
もしかすると、俺の白い髪が気になってみているやつもいるのかも知れない。
一度そう思うと、不安になってくる。怖い。視線が気になってしょうがない。
脈がいつもより速くなる。
「…っあ」
目を瞑った。
見られているかもしれない。嫌だ。帰りたい。ここから出たい。怖い、怖い怖い。
「うっ…」
苦しい、息を吐くことが上手くできない。吸うことばかりで…吐き出すことができない。
「お兄さん、落ち着いて。大丈夫だから。」
ふと、背中を軽く叩かれた。テンポよく、子供をあやすように。
「大丈夫、大丈夫。」
何度も何度も声をかけられる。
ゆっくりと息をはいた。
「は、ぁ…っ」
「大丈夫?」
「……。っは…ぃ…」
俺は弱い。こんなにも小さく傷だらけになった彼女よりも、臆病だ。
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こんな自分がどうしようもなく嫌になる。
俺は彼女を守れるほど……強くない。
彼女は降りるまでの間、ずっと背中に手をそえていてくれた。
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