陽沈みて月昇る

町井 宇津

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~第一章~ 過ぎて来た道

第二話

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 エマは今から約十四年前にこの城でその生命を誕生させた。
 しかし、その母であるラエマ・オストは新たなる生命の誕生と同時にこの世を去ってしまっていた。
 エマの父親である現国王カジャル・オストは、その死を悲しみ嘆いていたが同時に、最後まで母として、一人の女性として子を産むと言う大変な仕事をやり切ってくれたことに大きな感謝と敬意を持っていた。
 そのため、カジャルは生命の誕生と終わりを同時に国民へと伝えた。
 カジャルの思いは国民にも伝わったのか、多くの国民がこの日、生命の誕生を祝いそしてラエマへの敬意と冥福を願った。
 後日、娘の名前は最後のまで頑張った母ラエマを讃えて彼女の名前から二文字をとり、『エマ』と名付けられた。
 エマは乳母としてやって来たウルザによって、また城の多くの者の愛によってすくすくと育っていった。

 「あははっコレ見てー」
 そう言ってエマは手に持ったトカゲをウルザに見せつける。
 「エマ様、貴方勉強はどうしたんですか?この時間は自室で勉強中では?」
 「ん?分かんない……」
 そんな風に顔を逸らすエマを見てウルザは溜息をつくとエマの頬を両手で掴み、自分と目を合わせる。
 「エマ様、もうもう年も七つなのですよ、もっとしっかりしないと行けませんよ」
 「もう分かってるもん、でも楽しくないし……」
 挟まれている頬を僅かに膨らます。
 「ふふっエマ様ったら」
 そんな様子を可愛がる様に微笑みながら、挟んだ頬を捏ねるように弄くり回す。
 「う、ウルザ、やめてよー」
 笑顔になっていたエマの頬を離すとウルザはさっきよりもしっかりエマの目を見る。
 「エマ様、これから多くの事があります。大変なことをきっとありますよ」
 「そうなの?」
 そんなウルザの目をじっと見つめてエマは聞き返す。
 「はい、だから今は色んなことを学んでくださいね、その為の勉強なんですから」
 その言葉を聞いていたエマは顔を少し下に向けたあとふと、顔を上げる。
 「私、今から先生に謝ってこなきゃ」
 その様子に少し驚いたような顔をした後、笑顔をエマに向ける。
 「是非そうしてください」
 「うん!じゃあ今から行ってくる!」
 そう言って走り出そうとするエマ
 「少し待ってください」
 そんなエマを一度引き止め、身だしなみを整えると笑顔で続ける。
 「あと、笑顔は大切にしてください」
 「うん!ありがとう!」
 そう言ってエマは今度こそ走り出していった。
 「ごめんねー」
 そんな事を大声で言いながら城の中を走っていく。
 「バンッ」これまた大きな音を響かせて図書室のドアを開け放つ。
 「あの、先生……授業受けなくてごめんなさい!」
 エマはまだ驚きから立ち直っていない先生に向かって大きな声で謝罪の言葉を伝える。
 大きな音が響いていた図書室に元の静寂が帰ってくる。
 「えっと、姫……様?どうなさったんですか?」
 戸惑いを隠せずに混乱した様子の彼はエマにそんな問いを思わず返していた。
 「だって、教えて貰うのに逃げちゃったから、ウルザに言われたんだ!勉強はこれから必要なんだよって」
 それを聞いて納得いったのか、笑みをこぼしながら先生はエマと向き合う。
 「そう言う事でしたか、大丈夫ですよ」
 先生の納得した様な顔を見て、エマは安心したのかホッと息をつく。
 「ですが、明日からはしっかりやってもらいますよ?いいですね?」
 「もちろん!」
 「よろしい!」
 そう言って、二人は笑顔で別れを告げる。
 「じゃあね、また明日」
 そう言ってエマはまた走り出した。
 その日の内はエマの走る足音と大きな声が城をよく駆け回っていた。
 次の日からのエマは、ウルザの助言をその持ち前の素直さで受け入れ、毎日を笑顔で過ごしていた。
 「疲れたー」
 そう言ってエマはベッドへと飛び込む。
 「エマ様、いけませんよ」
 「いーじゃん、別に」
 少し呆れる様な笑顔を浮かべてそんなエマを見つめる。
 「あっそう言えば、今日ね、城の外のこと少しだけ教えて貰ったんだ!」
 「そうですか、どうでした?」
 「すっごく面白かった、それでねウルザにもなんか話して欲しいなーって思って」
 そんなエマの期待の眼差しが、断る理由を探していたウルザに刺さる。
 そんな瞳に負け、仕方なさそうにウルザが口を開く。
 「そうですね、一つだけですよ?」
 「うん!」
 その元気のいい返事を受け、ゆっくりと語り始める。
 その話を聞くエマの表情はまるで、欲しいものを貰って喜ぶ少女の様に目を輝かせていて、物語を読んでもらっている子供のように次の言葉をせがんでいた。
 「……ってぐらいですかね」
 「えーお終い?もうないの?」
 「ふふふ、続きはまた明日にしましょう?もうこんな時間ですし」
 甘えて来るエマに負けてそんな事を提案するウルザ。
 「むぅ、絶対だよ?」
 「はい、約束します」
 「分かった、楽しみにしてる」
 そう言うと満足そうな笑顔でパジャマにしている洋服へと着替えていく。
 それが終わったのを確認するとウルザはエマに挨拶をして、部屋をあとにした。
 「はぁー明日の話も楽しみだなー」
 そう明日への溢れ出た期待を呟いて、エマはその日の夢へと落ちた。
 次の日もその次の日も、エマは城の色々な人に外の話をせがんではその話を楽しそうに聞いていた。
 外への外出許可のないエマにとって外の話というのは、どんな物語よりも未知で明るく楽しいものだった。
 そんなエマが外に行きたいと願わないはずがなかった。
 それはエマが十歳になって少し経ってからのことだった。
 食器の音に少しの笑い声が混じった食堂の空間で広い机の席につく二人。
 「あの……お父様、お願いがあるのですがよろしいですか?」
 その緊張したエマの顔を見て、カジャルは食器を置き目を見る。
 「何だ?言ってみなさい」
 「あの……私、外に出てみたいのですが」
  いつもの様子とは真逆と言っても過言ではない様子のエマ。 
 「っあははは」
 「あの……お父様?」
 「いや、失礼。お前がいつもと態度が違いすぎてな……っあはは」
 「そ、そんな事は……ないよね?」
 と後ろに控えていたメイドに聞く。
 「どうでしょうか?」
 「そんなー」
 そう言ってエマは自分の顔を捏ねくり回す様に頬を引っ張ったりしている。
 「そうだな、その願い考えておこう」
 「本当ですか?約束ですよ?」
 「あぁ約束しよう。しかし、お前はまだ若すぎるからな、そうだな……あと四年だ。」
  「四年ですか?……分かりました」
 「よし、それまで楽しみにしてお来なさい、エマ」
 「はい!是非そうさせていただきます!」
 そう言って、笑顔で食事を再開するエマに周りのメイドも良かったですね。と声をかけたり、エマにつられた様に笑みを零す。
 エマにとって、それからの四年は楽しみな気持ちに押し潰されそうになりながらもいい四年が過ごせた……と言えるはずだった。
 しかし、その約束から三年がたった時に起こった。
 いつもとは明らかに違う音が城の中を包んでいた。
 そんな違和感しかない音を目覚ましにエマはゆっくりと上体を起こし、周りの音に耳を澄ます。
 「やっぱり、ドタバタしてるな。どうしたんだろ?」
 そう思ってもう一度耳を澄ますとその物音の中に聞こえる一つの共通ワード。
 「え、でもそんな事は……」
 もう一度と思ったその時、ドアが開き騒音が一時的に音を上げる。
 「エマ様、おはようございます」
 そんな声と共に音量は下がった。
 「ウルザ、何があったの?」
 「それが……隣国であるソートルがここから西の方角にあるガーシュと言う国と戦争を始めたようで」
 「そんな、こちらに被害が来たりとかは!?」
 十三にもなり、知識を得たエマにとってこれほど危機感を感じる物は初めてだった。
 「それに関しては守備や周辺監視に力を入れるそうなので、我々や国民に被害が来ることはないだろうと陛下が」
 「そう、それは良かった」
 その報告によって、安心感が生まれたのかもう一度ベッドに上体を倒す。
 「あと、この件に関しては協力者が来てくれたとも仰ってましたよ」
 「それは前に探していると言っていた大臣の事かしらね?」
 「それは、なんとも言えませんが」
 「とりあえず、お父様のところに行きましょう?約束の外出の件もどうなるか分からないし」
 そう言うエマを見て微笑むとウルザが着替える準備を手伝い着替えを始める。
 「それにしても、外出のことに関しては抜かりないですね」
 「ちょっと、どう言う事!」
 少し頬を膨らませる仕草をするエマ。
 「どうもしませんよ」
 そう言ってウルザは一つズレたボタンを元の位置へと黙って戻した。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
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