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~第一章~ 過ぎて来た道
第三話
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いつもとは違う音がいつもより大きく響く廊下をエマとウルザは歩いていた。
「おはようございます」
「姫様、おはようございます」
そんな中でも城の者のエマへの態度は何も変わらずにいた。
そんな様子に少し感心しながらエマはカジャルのいる応接間の扉の前にまで来ていた。
そこで一息深呼吸をし、服を整えるとゆっくりと扉をノックする。
「お父様、お聞きしたいことが……」
とそこで言葉を止め、カジャルの正面に座っている男の方を向くと静かに挨拶を済ませる。
「初めまして、エマ・オストと申します」
「これはこれは、お初にお目にかかります。フージス・ラジュと申します。」
フージスは決まっていた台詞を言うようにすらすらとそんな挨拶を述べる。
エマはその様子に一瞬ではあるが不安を抱いていた。
しかし、顔に出さなかったエマの心情を察することもなくカジャルは言葉を続ける。
「実はな、このフージスには今回の戦争についての助言を貰っておってな」
「そうなんですか?」
思わず、エマもフージスへと視線を向ける。
「いえいえ、助言なんて大層なものではないですよ」
「あははっ謙虚だな、誇っていいのだぞ。お前のおかげで色々と目処も立ったしな」
「それは有り難きお言葉」
そう言って頭を下げるフージス。
「エマ、それでなんでなんだが……」
エマは行きよりも大股に、足音を鳴らすように歩いていた。
「私はあんまり、あのフージスって言う人好きじゃないな」
「そうですか、でも彼の国交問題に対する手腕は本当に凄いらしいですよ。何でも何事をもみとうしているように問題の解決作をあげているようですから」
「ふーん、そうなんだ」
そんな彼が褒められていた言葉など初めから聞かなかったかのように、言葉を流すエマ。
「でも!それでも!外出が無しなんて、ありえない!」
エマは興味のなさそうな顔を一転させて、大きな声で不満を爆発させる。
「不機嫌の原因はやはりそれでしたか」
「当たり前でしょ!」
これまでの三年弱の時間を外出の楽しみを待ちながら過ごしていたエマにとって、それは一番起こって欲しくないことだった。
「まぁ正直、戦争って言葉聞いた時にはもう分かってたけどね」
「しょうがない事ですから、また待ちましょう」
そう言ってウルザはエマの頭をそっと一回撫でる。
「……うん、分かってる」
エマは少し頬を赤くしながらそう小さく返事をすると、愚痴はまだ言ってはいるもののいつものようにウルザと歩いて図書室に向かっていった。
しかし、こんな状況のせいもあってか授業はいつも通りとはいかなかった。
「どうしようかな……」
さっきまでいた先生も居なくなって、静かになった図書室に一人エマは取り残されてしまっていた。
先生は今回の戦争の件についての会議のために呼ばれてしまったらしく、エマはここで本を読んでいるように頼まれてしまっていた。
「本って言ってもなー、何かあるかな」
そう独り言を呟いて、大きな本棚の前をウロウロとする。
本棚には多くの本が並んでいた。
『戦争の基礎』などと記載された本や『姫とドラゴン』等の童話、恋愛物の本など様々な本があった。
エマはそれらの本を何冊か抱えて机に戻る。
静かな部屋に紙をめくる音が加わる。
エマはいつもとは少し違う目でその本の文字を一文字ずつ丁寧に追っていく。
エマが何冊目かの本を読み終わった時には既に日は沈みかけていた。
「んーもうこんな時間か」
そう言って、持ってきていた本を元の位置へと戻していく。
全ての本を戻したのを確認すると
「続きは今度にしよ」
と言って図書室から出て、食堂の方に向かっていく。
食堂には、いつもの様に人が居る訳は無かった。
「ねぇウルザ」
「はい、何でしょう?」
「戦争が終わったら元に戻るよね?」
いつもの明るさがないエマにウルザはいつもの優しい笑みを浮かべる。
「もちろん、戻ると思いますよ」
「だよね。今日ね、戦争の本を読んだの、その本にね、戦争の時にはやる前から敵に裏切らせたり、スパイを使ったりして内部から攻撃するんだって、それ読んで少し怖がりすぎただけだよね?」
「そうですよ、何も心配ありませんよ」
そう言ってウルザはエマを抱きしめる。
「大丈夫です、だからお食事にしましょう?」
ウルザはエマを席へと座らせるといつもの様に話をする。
「他にも本は読んだのですか?」
そんないつもの彼女に安心したのか、エマは勧められるまま席について会話を始めた。
「うん!他にもね、恋愛物?みたいなのも読んだよ」
「どうでした?」
「おもろかった!あと、男の子がかっこよかった!」
「そのうち、会えますよ」
「本当!?やったー」
いつもとは違う食堂にいつもと変わらない二人の会話が広がった。
次の日も授業やその他レッスン等は中止になっていた。
「どうしようかな」
そんな独り言を呟きながらエマは庭の木の根元に腰を下ろしていた。
「これはこれはエマ様、ご機嫌いかがですか」
そんな決まり文句の様を言うように声をかけてきたのは、協力者として城にいるフージスだった。
「会議とかで忙しいのでは?」
少しぶっきらぼうになりながらその挨拶に答えるエマ。
「休憩中ですよ、流石に不眠不休とはいかないので」
「そうでしたか、では私はこれで」
そう言って立ち去ろうとするエマをフージスが呼び止める。
「そう言えば、あちらの方で城壁に穴が空いていたので誰かに修理をお願いしたいのですが……」
「それなら、私がやっておきます」
さっきとは違う反応に少し驚くフージス。
「そうですか、ではお願い致します。では、これで」
そう言ってフージスが去ったのを確認するとエマは小さくガッツポーズをとり、報告された方向へと走っていった。
「あった……本当にあった」
エマが見つけた穴は彼女が通るには十分な大きさだった。
少し入って確認するとその穴は今はほとんど使われていない裏口に繋がっており、そのことを確認し終えたあとの動きは早かった。
エマは急いで部屋に戻ると町娘に近い動きやすい服をクローゼットの手前まで出しておき、その近くにこっそり貯めていたお金とハンカチなどをしまったポシェットを置いておく。
「これでよしっと」
そう言って、エマはまた部屋を出ていき穴の所に向かっていく。
再度、穴の様子を確かめてから部屋へ戻ろうとする時だった。
微かに光を反射を感じて振り向くと会議に使われている部屋のカーテンが一箇所のみ空いていた。
「ありがとうございました」
エマはこの事を一番初めに自分に伝えてくれた事に対する感謝をすると庭に戻り、その日は木の根元で読書なんかをして一日を終えた。
次の日の朝、エマはウルザが来るよりも早く起きていた。
「よし、あとは……ウルザをどうするかだよね」
解決策を考えようと頭を捻っている所でコンコンとドアがノックされる。
「エマ様、そろそろ起床するお時間ですよって、起きてらっしゃったんですか」
「うん、おはよう!ウルザ」
「はい、おはようございます。では、着替えましょうか」
その言葉を聞いてエマは慌てて首を振る。
「い、いいよ。自分でやるからウルザだって他にお仕事あるんでしょ?」
「そうですか?では、お言葉に甘えて失礼します」
そう言って立ち去ったのを確認するとエマはまず、いつもと同じ様な服を纏い食堂に向かった。
そこから、食事が終わりレッスン等が休みなどを確認すると部屋に戻り、服を着替え直して、穴へと向かう。
「誰にもバレないように~」
そんな鼻歌の様にリズムよく言葉を呟きながら、なんとか辿り着いたエマは、昨日確認したように穴を使って裏口から出ていく。
蔓が少し絡まった扉をこじ開けるとそこには長い一本道とその奥から聴こえる様々な音、そして、虹色にも見えてしまう様な建物の数々だった。
「ついに、やったー」
そんな事を笑顔で笑い声混じりで叫んで、走り去ってく。
それがエマにとっての初めての外出だった。
街に入るとそこは、本で書かれていたような場所でエマにとっては異世界と言っても過言ではなかった。
たくさんの人、たくさんの店やたくさんの知らない物で溢れている場所だった。
エマはその優れた容姿のせいで多くの人に声をかけられてはいたが、社交性についても問題なく、その全てを優しく断っていた。
一部の人には姫だということがバレていて、「どうしたのか」みたいに聞かれることもあったが、何だかんだ見逃してはくれていた。
しかし、それは突然だった。
薄暗い路地の前を通ろうとした時だった。
ふと、大きな影が覆ったと思った瞬間だった。
「本当に来たよ」
そんな言葉と共に口を抑えられたエマは誰にも見られること無く裏路地へと引っ張られていた。
その大柄な男から逃げようと必死に抵抗するが、勿論勝てる訳もなくそのまま庭のような所まで引き込まれてしまう。
そのまま、エマを木に投げるように放すと男は彼女を脅すように言葉を発する。
「お前、この国の姫なんだろ?ちょいと役に立ってもらうからな」
「あなた、誰なの?役に立ってもらうって何のこと」
その時、エマは強がってはいたが足は微かに震えていて、目元には涙が滲んでいた。
「お前には教える義理はねぇ、まぁそのうち分かるさ。それにもうそろそろ俺の連れが来るはずだし、そしたら先に少し楽しませてもらうよっガハハ」
そんな笑い声はエマを威圧するには十分すぎるものだった。
そして、その威圧に耐え切れなくなりそうになったその時だった。
奥から足跡が微かに聞こえた。
「おっ俺の連れが来たみたいだな」
その言葉で遂にエマの心にトドメが刺されたと思ったが、次に聞こえたのはドサッと言う物を落とす音と男の仲間とは思えないような少年の声だった。
「あの……仲間ってこれですよね?返しますね」
「何してんだ!てめぇ」
そんな言い争いの方向をゆっくりとエマは見る。
そこにいたの黒髪の少年だった。
「それは、こっちのセリフだろ!」
「黙れぇ!」
そう言って殴りかかる男。
しかし、それをいとも容易く躱す少年。
「クソが!」
そんな声を上げて殴りかかるも男の攻撃は掠りもしない。
その現状に怒りを覚えたのか、男は胸元からナイフを出すとそれを手にまた少年に向かっていく。
「危ないな」
独り言のように呟くと突き出してきたナイフを持った腕を捌き、膝蹴りを腹部へと叩き込む。
「うっ……」
苦しそうにする男はよろめく足に力を入れながら、横たわっていた仲間を起こすと逃げていった。
「お、覚えてろよ」と言う台詞付きで。
「大丈夫でした?」
男達を撃退し、エマに手を差し伸べた少年。
これがエマとシーデの出会いだった。
「おはようございます」
「姫様、おはようございます」
そんな中でも城の者のエマへの態度は何も変わらずにいた。
そんな様子に少し感心しながらエマはカジャルのいる応接間の扉の前にまで来ていた。
そこで一息深呼吸をし、服を整えるとゆっくりと扉をノックする。
「お父様、お聞きしたいことが……」
とそこで言葉を止め、カジャルの正面に座っている男の方を向くと静かに挨拶を済ませる。
「初めまして、エマ・オストと申します」
「これはこれは、お初にお目にかかります。フージス・ラジュと申します。」
フージスは決まっていた台詞を言うようにすらすらとそんな挨拶を述べる。
エマはその様子に一瞬ではあるが不安を抱いていた。
しかし、顔に出さなかったエマの心情を察することもなくカジャルは言葉を続ける。
「実はな、このフージスには今回の戦争についての助言を貰っておってな」
「そうなんですか?」
思わず、エマもフージスへと視線を向ける。
「いえいえ、助言なんて大層なものではないですよ」
「あははっ謙虚だな、誇っていいのだぞ。お前のおかげで色々と目処も立ったしな」
「それは有り難きお言葉」
そう言って頭を下げるフージス。
「エマ、それでなんでなんだが……」
エマは行きよりも大股に、足音を鳴らすように歩いていた。
「私はあんまり、あのフージスって言う人好きじゃないな」
「そうですか、でも彼の国交問題に対する手腕は本当に凄いらしいですよ。何でも何事をもみとうしているように問題の解決作をあげているようですから」
「ふーん、そうなんだ」
そんな彼が褒められていた言葉など初めから聞かなかったかのように、言葉を流すエマ。
「でも!それでも!外出が無しなんて、ありえない!」
エマは興味のなさそうな顔を一転させて、大きな声で不満を爆発させる。
「不機嫌の原因はやはりそれでしたか」
「当たり前でしょ!」
これまでの三年弱の時間を外出の楽しみを待ちながら過ごしていたエマにとって、それは一番起こって欲しくないことだった。
「まぁ正直、戦争って言葉聞いた時にはもう分かってたけどね」
「しょうがない事ですから、また待ちましょう」
そう言ってウルザはエマの頭をそっと一回撫でる。
「……うん、分かってる」
エマは少し頬を赤くしながらそう小さく返事をすると、愚痴はまだ言ってはいるもののいつものようにウルザと歩いて図書室に向かっていった。
しかし、こんな状況のせいもあってか授業はいつも通りとはいかなかった。
「どうしようかな……」
さっきまでいた先生も居なくなって、静かになった図書室に一人エマは取り残されてしまっていた。
先生は今回の戦争の件についての会議のために呼ばれてしまったらしく、エマはここで本を読んでいるように頼まれてしまっていた。
「本って言ってもなー、何かあるかな」
そう独り言を呟いて、大きな本棚の前をウロウロとする。
本棚には多くの本が並んでいた。
『戦争の基礎』などと記載された本や『姫とドラゴン』等の童話、恋愛物の本など様々な本があった。
エマはそれらの本を何冊か抱えて机に戻る。
静かな部屋に紙をめくる音が加わる。
エマはいつもとは少し違う目でその本の文字を一文字ずつ丁寧に追っていく。
エマが何冊目かの本を読み終わった時には既に日は沈みかけていた。
「んーもうこんな時間か」
そう言って、持ってきていた本を元の位置へと戻していく。
全ての本を戻したのを確認すると
「続きは今度にしよ」
と言って図書室から出て、食堂の方に向かっていく。
食堂には、いつもの様に人が居る訳は無かった。
「ねぇウルザ」
「はい、何でしょう?」
「戦争が終わったら元に戻るよね?」
いつもの明るさがないエマにウルザはいつもの優しい笑みを浮かべる。
「もちろん、戻ると思いますよ」
「だよね。今日ね、戦争の本を読んだの、その本にね、戦争の時にはやる前から敵に裏切らせたり、スパイを使ったりして内部から攻撃するんだって、それ読んで少し怖がりすぎただけだよね?」
「そうですよ、何も心配ありませんよ」
そう言ってウルザはエマを抱きしめる。
「大丈夫です、だからお食事にしましょう?」
ウルザはエマを席へと座らせるといつもの様に話をする。
「他にも本は読んだのですか?」
そんないつもの彼女に安心したのか、エマは勧められるまま席について会話を始めた。
「うん!他にもね、恋愛物?みたいなのも読んだよ」
「どうでした?」
「おもろかった!あと、男の子がかっこよかった!」
「そのうち、会えますよ」
「本当!?やったー」
いつもとは違う食堂にいつもと変わらない二人の会話が広がった。
次の日も授業やその他レッスン等は中止になっていた。
「どうしようかな」
そんな独り言を呟きながらエマは庭の木の根元に腰を下ろしていた。
「これはこれはエマ様、ご機嫌いかがですか」
そんな決まり文句の様を言うように声をかけてきたのは、協力者として城にいるフージスだった。
「会議とかで忙しいのでは?」
少しぶっきらぼうになりながらその挨拶に答えるエマ。
「休憩中ですよ、流石に不眠不休とはいかないので」
「そうでしたか、では私はこれで」
そう言って立ち去ろうとするエマをフージスが呼び止める。
「そう言えば、あちらの方で城壁に穴が空いていたので誰かに修理をお願いしたいのですが……」
「それなら、私がやっておきます」
さっきとは違う反応に少し驚くフージス。
「そうですか、ではお願い致します。では、これで」
そう言ってフージスが去ったのを確認するとエマは小さくガッツポーズをとり、報告された方向へと走っていった。
「あった……本当にあった」
エマが見つけた穴は彼女が通るには十分な大きさだった。
少し入って確認するとその穴は今はほとんど使われていない裏口に繋がっており、そのことを確認し終えたあとの動きは早かった。
エマは急いで部屋に戻ると町娘に近い動きやすい服をクローゼットの手前まで出しておき、その近くにこっそり貯めていたお金とハンカチなどをしまったポシェットを置いておく。
「これでよしっと」
そう言って、エマはまた部屋を出ていき穴の所に向かっていく。
再度、穴の様子を確かめてから部屋へ戻ろうとする時だった。
微かに光を反射を感じて振り向くと会議に使われている部屋のカーテンが一箇所のみ空いていた。
「ありがとうございました」
エマはこの事を一番初めに自分に伝えてくれた事に対する感謝をすると庭に戻り、その日は木の根元で読書なんかをして一日を終えた。
次の日の朝、エマはウルザが来るよりも早く起きていた。
「よし、あとは……ウルザをどうするかだよね」
解決策を考えようと頭を捻っている所でコンコンとドアがノックされる。
「エマ様、そろそろ起床するお時間ですよって、起きてらっしゃったんですか」
「うん、おはよう!ウルザ」
「はい、おはようございます。では、着替えましょうか」
その言葉を聞いてエマは慌てて首を振る。
「い、いいよ。自分でやるからウルザだって他にお仕事あるんでしょ?」
「そうですか?では、お言葉に甘えて失礼します」
そう言って立ち去ったのを確認するとエマはまず、いつもと同じ様な服を纏い食堂に向かった。
そこから、食事が終わりレッスン等が休みなどを確認すると部屋に戻り、服を着替え直して、穴へと向かう。
「誰にもバレないように~」
そんな鼻歌の様にリズムよく言葉を呟きながら、なんとか辿り着いたエマは、昨日確認したように穴を使って裏口から出ていく。
蔓が少し絡まった扉をこじ開けるとそこには長い一本道とその奥から聴こえる様々な音、そして、虹色にも見えてしまう様な建物の数々だった。
「ついに、やったー」
そんな事を笑顔で笑い声混じりで叫んで、走り去ってく。
それがエマにとっての初めての外出だった。
街に入るとそこは、本で書かれていたような場所でエマにとっては異世界と言っても過言ではなかった。
たくさんの人、たくさんの店やたくさんの知らない物で溢れている場所だった。
エマはその優れた容姿のせいで多くの人に声をかけられてはいたが、社交性についても問題なく、その全てを優しく断っていた。
一部の人には姫だということがバレていて、「どうしたのか」みたいに聞かれることもあったが、何だかんだ見逃してはくれていた。
しかし、それは突然だった。
薄暗い路地の前を通ろうとした時だった。
ふと、大きな影が覆ったと思った瞬間だった。
「本当に来たよ」
そんな言葉と共に口を抑えられたエマは誰にも見られること無く裏路地へと引っ張られていた。
その大柄な男から逃げようと必死に抵抗するが、勿論勝てる訳もなくそのまま庭のような所まで引き込まれてしまう。
そのまま、エマを木に投げるように放すと男は彼女を脅すように言葉を発する。
「お前、この国の姫なんだろ?ちょいと役に立ってもらうからな」
「あなた、誰なの?役に立ってもらうって何のこと」
その時、エマは強がってはいたが足は微かに震えていて、目元には涙が滲んでいた。
「お前には教える義理はねぇ、まぁそのうち分かるさ。それにもうそろそろ俺の連れが来るはずだし、そしたら先に少し楽しませてもらうよっガハハ」
そんな笑い声はエマを威圧するには十分すぎるものだった。
そして、その威圧に耐え切れなくなりそうになったその時だった。
奥から足跡が微かに聞こえた。
「おっ俺の連れが来たみたいだな」
その言葉で遂にエマの心にトドメが刺されたと思ったが、次に聞こえたのはドサッと言う物を落とす音と男の仲間とは思えないような少年の声だった。
「あの……仲間ってこれですよね?返しますね」
「何してんだ!てめぇ」
そんな言い争いの方向をゆっくりとエマは見る。
そこにいたの黒髪の少年だった。
「それは、こっちのセリフだろ!」
「黙れぇ!」
そう言って殴りかかる男。
しかし、それをいとも容易く躱す少年。
「クソが!」
そんな声を上げて殴りかかるも男の攻撃は掠りもしない。
その現状に怒りを覚えたのか、男は胸元からナイフを出すとそれを手にまた少年に向かっていく。
「危ないな」
独り言のように呟くと突き出してきたナイフを持った腕を捌き、膝蹴りを腹部へと叩き込む。
「うっ……」
苦しそうにする男はよろめく足に力を入れながら、横たわっていた仲間を起こすと逃げていった。
「お、覚えてろよ」と言う台詞付きで。
「大丈夫でした?」
男達を撃退し、エマに手を差し伸べた少年。
これがエマとシーデの出会いだった。
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