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~第一章~ 過ぎて来た道
第四話
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「ちょっと懐かしいな……」
ふと、頭に蘇ってきた過去の記憶にそんな事を呟きながら、いつもの場所の木を撫でるエマ。
「懐かしいって、三日前にあったじゃないですか」
彼女の独り言には返答しながらシーデもエマの隣に並ぶ。
「違うよ、初めてあった日の事だよ」
納得した様にシーデも思い出を共有する。
「あの時の事ですか、懐かしいですね」
「知ってる?ここにあの時の傷があるんだよ」
「えっどこに……本当だ、あった!」
その傷を懐かしむ様な表情で見つめるエマ。
「でも、あの時は本当に危なかったんですからね?」
「うん、分かってるだからありがとう!」
そんな素直な感謝に視線をずらすシーデ。
「あっ照れてる?ねぇ?」
「そ、そんなことないですよ」
「えーそうかな?」
「そうですよ、ところで今日は何します?」
少しの間ニヤニヤとシーデを問い詰めていたがついに諦めたのか、しょうが無いと言いたたげな顔をしながらも問い詰めるのをやめる。
「いつもみたくお話ししよ!」
「はい、わかりました!」
その様子に少し安堵したような表情を浮かべながらも同意する。
「それでね、今日はシーデの話が聞きたいんだけど……ダメ?」
いつもとは違う甘え方に少し動揺するシーデ。
「でも、僕の話なんか聞いてもつまらないですよ?」
「いいの!シーデの事まだ全然知らないんだもん、だからいいの!」
そんな風に詰め寄られたシーデは渋々と言った感じに言葉を紡ぎ始める。
シーデが生まれたのはエマが誕生してから翌日のことだった。
小さくしかし、それに似合わないほどの賑わっている街の酒場の裏手にある住居スペースで彼は産声を上げた。
「母さんよく頑張った!」
「お父さん、とりあえずこのお湯の方へ」
「あっはい!お願いします。」
お父さんと言われた男性はシーデの父であるデタル。
彼は自分の妻であり、シーデの母である女性、シナの手を取りながら涙ぐんだ目で町医者の方を見ると
「ありがとうございました!」
そう感謝を伝えた。
この日の店が少し前より大いに盛り上がったのは言うまでもなく事実だった。
ちなみにシーデがシーデと名付けられたのはこの騒ぎの中でのことだった。
時は流れ、シーデが十歳。
家の事もあり、家にいる夜なんかはほとんど祖父であるタージルと共にいた。
しかし、シーデは少しタージルの事が苦手だった。
元々、猟師をしていたタージルは歳を取り引退した今でもその威圧的な風貌は健在しており、更にはそこに無口で頑固な性格も合わさりシーデにとっては少し話しずらい相手ではあった。
しかし、印象や関係なんてものは案外簡単に変わるものだとシーデが知るのは意外とすぐだった。
それはシーデが店の手伝いの休憩をしている時に起きた。
いつもの様に用意して貰った昼食を近くの丘で一人、ゆっくりと食べていた。
「ふぁ~今日も天気いいな」
そんな感想を述べながらまだ暖かさが心地良い風に吹かれていた。
丘の上からの景色は良く、シーデは天気のいい日はここで昼食を取っていた。
少し睡魔が襲って来たタイミングでシーデはその場をあとにし、店であり自分の家でもある場所に帰るために帰路につく。
そんないつもと変わらない昼だった。
しかし、その帰路の途中、街中に入ってすぐぐらいの事だった。
街の賑わいの中で微かに聞こえるそこにあって欲しくない不純物の様な音。
シーデは正直この時、この音を無視しようと考えていた。
しかし、聞こえてしまったそれを無視するのも胸糞悪いと思い、そちらに足を運ぶ。
そこは街の音が少し遠くなる空き地だった。
真ん中に一人の少年、彼を囲むようにして複数の少年がいた。
もちろん、そこで行われていたのは遊びなどではない。
行っている当の本人には遊びかも知れないがやられている彼は泣いている。
当たり前だ、複数人に囲まれ殴る、蹴る。
加えては浴びせられる罵詈雑言の数々。
「なぁ……なにやっ」
シーデは言葉を飲んだ。
シーデは顔を俯けて考える。
自分に彼等を止められるのかを彼を助けられるのかを。
元々、喧嘩なんてやった事も無かったシーデにとってこれを行っている彼等に声をかけるのは恐怖だった。
しかし、シーデは留まるには少し遅かったようで彼等の一人がシーデに気づき声を上げる。
「おい!なんだお前、何してんだ!」
その威圧する様な口調に後ずさりしそうになる。
「いや……そいつが泣いてたし」
しかし、逃げることも出来ず何とかそう返す。
「あぁ!?お前には関係ないだろ」
「「「そーだよ!」」」
更にはほかのいじめっ子も彼に続き声を荒らげる。
逃げ出したい、ここから居なくなりたいと言う気持ちに頭が支配されそうになった時、シーデの視界に涙ぐんだ少年が入る。
「うるさい!このクズ!」
シーデは自分でも驚いたような顔をしながらも、その言葉の勢いのまま彼らに突っ込んで行く。
その後の結果は火を見るより明らかだった。
やる気や勇気だけで結果が変化するわけもなく、その空き地にシーデが一人寝転んでいた。
「痛いな……ダメだった」
そう零すと同時に涙も零れ出す。
シーデの中にあったのは羞恥に悔しさと惨めさ、そんなマイナスの感情ばかりだった。
溢れていた涙が頬の上で乾き始めてきた時だった。
街の騒がしさの方から一人の足音がゆっくりと近づいてくる。
シーデはさっきの奴らの誰かが戻ったのかと警戒し、慌てて目元を拭い立ち上がる。
しかし、そこに居たのはタージルだった。
「なんで、じいちゃん……」
「遅かったからな」
そこでシーデは自分がボロボロになっていることを思い出したのか、さっきまであった羞恥心が更に膨れ上がっていた。
「なるほど、ごめんなさい……もう帰るから!」
そう言ってシーデはタージルの横を走り抜けようとする。
しかし、それを止めたのはタージルの一言だった。
「悔しいか」
シーデはその一言に足を止め、そのといに静かに答える。
「うん……」
「何でだ」
「ちゃんと助けられなかった」
「多分あいつは助かるぞ」
「……?」
意味が分からず思わずタージルの方を見るシーデ。
「お前が次の獲物になるからな、いじめって言うのはそういうものだ」
シーデはその言葉に方を微かに震わせて下唇を噛んだ。
「あいつらは多分ずっとそうだ」
「誰かが本当の意味で止めなきゃな」
微かにシーデの拳に力が入る。
「もう一度聞く……」
その言葉にシーデはタージルの目を見る。
「悔しいか」
「もちろん」
「何でだ」
「誰かを傷つけて奴をしょうが無いで終わらせたくないから」
その問いを聞くとタージルはシーデの方に手を乗せ歩き始めた。
しばらくして着いたのはシーデが昼食を食べていた場所だった。
「とりあえず、話せ」
そこでシーデは初めて落ち着いた様な表情をした。
「分かった……」
そう言って、昼食のあとに起きた事をそのままタージルに伝えていく。
その話を聞いている間のタージルの目は真剣だった。
その話をし終わったあとタージルはシーデの頭を撫でる。
いつもそれ程触れ合わない二人なのだからシーデは混乱した様な表情をする。
「俺も後半を見て大体察していたが」
「本当に凄いやつだ、お前は」
それはタージルからシーデに向けての隠しようのない心からの褒め言葉だった。
「そのままでいろよ」
「どういう事?」
「守る為に戦える人間になれよ」
「分かった」
何とも抽象的な言葉ではあったしかし、そのといに答えたシーデの返事には確かな自信と強い覚悟に満ちていた。
「とりあえず、お店戻らないと」
「そうだな」
そう言って、さっきとは違う一歩を踏み出すシーデにタージルが声をかける。
「それと明日から夕方だけでいい時間を取っとけ、教える」
それが何を教えるのかなど聞くまでもなくシーデには理解出来た。
「分かった」
その迷いのない言葉を聞いたタージルは少し顔をほころばせながらシーデのあとを歩いた。
ふと、頭に蘇ってきた過去の記憶にそんな事を呟きながら、いつもの場所の木を撫でるエマ。
「懐かしいって、三日前にあったじゃないですか」
彼女の独り言には返答しながらシーデもエマの隣に並ぶ。
「違うよ、初めてあった日の事だよ」
納得した様にシーデも思い出を共有する。
「あの時の事ですか、懐かしいですね」
「知ってる?ここにあの時の傷があるんだよ」
「えっどこに……本当だ、あった!」
その傷を懐かしむ様な表情で見つめるエマ。
「でも、あの時は本当に危なかったんですからね?」
「うん、分かってるだからありがとう!」
そんな素直な感謝に視線をずらすシーデ。
「あっ照れてる?ねぇ?」
「そ、そんなことないですよ」
「えーそうかな?」
「そうですよ、ところで今日は何します?」
少しの間ニヤニヤとシーデを問い詰めていたがついに諦めたのか、しょうが無いと言いたたげな顔をしながらも問い詰めるのをやめる。
「いつもみたくお話ししよ!」
「はい、わかりました!」
その様子に少し安堵したような表情を浮かべながらも同意する。
「それでね、今日はシーデの話が聞きたいんだけど……ダメ?」
いつもとは違う甘え方に少し動揺するシーデ。
「でも、僕の話なんか聞いてもつまらないですよ?」
「いいの!シーデの事まだ全然知らないんだもん、だからいいの!」
そんな風に詰め寄られたシーデは渋々と言った感じに言葉を紡ぎ始める。
シーデが生まれたのはエマが誕生してから翌日のことだった。
小さくしかし、それに似合わないほどの賑わっている街の酒場の裏手にある住居スペースで彼は産声を上げた。
「母さんよく頑張った!」
「お父さん、とりあえずこのお湯の方へ」
「あっはい!お願いします。」
お父さんと言われた男性はシーデの父であるデタル。
彼は自分の妻であり、シーデの母である女性、シナの手を取りながら涙ぐんだ目で町医者の方を見ると
「ありがとうございました!」
そう感謝を伝えた。
この日の店が少し前より大いに盛り上がったのは言うまでもなく事実だった。
ちなみにシーデがシーデと名付けられたのはこの騒ぎの中でのことだった。
時は流れ、シーデが十歳。
家の事もあり、家にいる夜なんかはほとんど祖父であるタージルと共にいた。
しかし、シーデは少しタージルの事が苦手だった。
元々、猟師をしていたタージルは歳を取り引退した今でもその威圧的な風貌は健在しており、更にはそこに無口で頑固な性格も合わさりシーデにとっては少し話しずらい相手ではあった。
しかし、印象や関係なんてものは案外簡単に変わるものだとシーデが知るのは意外とすぐだった。
それはシーデが店の手伝いの休憩をしている時に起きた。
いつもの様に用意して貰った昼食を近くの丘で一人、ゆっくりと食べていた。
「ふぁ~今日も天気いいな」
そんな感想を述べながらまだ暖かさが心地良い風に吹かれていた。
丘の上からの景色は良く、シーデは天気のいい日はここで昼食を取っていた。
少し睡魔が襲って来たタイミングでシーデはその場をあとにし、店であり自分の家でもある場所に帰るために帰路につく。
そんないつもと変わらない昼だった。
しかし、その帰路の途中、街中に入ってすぐぐらいの事だった。
街の賑わいの中で微かに聞こえるそこにあって欲しくない不純物の様な音。
シーデは正直この時、この音を無視しようと考えていた。
しかし、聞こえてしまったそれを無視するのも胸糞悪いと思い、そちらに足を運ぶ。
そこは街の音が少し遠くなる空き地だった。
真ん中に一人の少年、彼を囲むようにして複数の少年がいた。
もちろん、そこで行われていたのは遊びなどではない。
行っている当の本人には遊びかも知れないがやられている彼は泣いている。
当たり前だ、複数人に囲まれ殴る、蹴る。
加えては浴びせられる罵詈雑言の数々。
「なぁ……なにやっ」
シーデは言葉を飲んだ。
シーデは顔を俯けて考える。
自分に彼等を止められるのかを彼を助けられるのかを。
元々、喧嘩なんてやった事も無かったシーデにとってこれを行っている彼等に声をかけるのは恐怖だった。
しかし、シーデは留まるには少し遅かったようで彼等の一人がシーデに気づき声を上げる。
「おい!なんだお前、何してんだ!」
その威圧する様な口調に後ずさりしそうになる。
「いや……そいつが泣いてたし」
しかし、逃げることも出来ず何とかそう返す。
「あぁ!?お前には関係ないだろ」
「「「そーだよ!」」」
更にはほかのいじめっ子も彼に続き声を荒らげる。
逃げ出したい、ここから居なくなりたいと言う気持ちに頭が支配されそうになった時、シーデの視界に涙ぐんだ少年が入る。
「うるさい!このクズ!」
シーデは自分でも驚いたような顔をしながらも、その言葉の勢いのまま彼らに突っ込んで行く。
その後の結果は火を見るより明らかだった。
やる気や勇気だけで結果が変化するわけもなく、その空き地にシーデが一人寝転んでいた。
「痛いな……ダメだった」
そう零すと同時に涙も零れ出す。
シーデの中にあったのは羞恥に悔しさと惨めさ、そんなマイナスの感情ばかりだった。
溢れていた涙が頬の上で乾き始めてきた時だった。
街の騒がしさの方から一人の足音がゆっくりと近づいてくる。
シーデはさっきの奴らの誰かが戻ったのかと警戒し、慌てて目元を拭い立ち上がる。
しかし、そこに居たのはタージルだった。
「なんで、じいちゃん……」
「遅かったからな」
そこでシーデは自分がボロボロになっていることを思い出したのか、さっきまであった羞恥心が更に膨れ上がっていた。
「なるほど、ごめんなさい……もう帰るから!」
そう言ってシーデはタージルの横を走り抜けようとする。
しかし、それを止めたのはタージルの一言だった。
「悔しいか」
シーデはその一言に足を止め、そのといに静かに答える。
「うん……」
「何でだ」
「ちゃんと助けられなかった」
「多分あいつは助かるぞ」
「……?」
意味が分からず思わずタージルの方を見るシーデ。
「お前が次の獲物になるからな、いじめって言うのはそういうものだ」
シーデはその言葉に方を微かに震わせて下唇を噛んだ。
「あいつらは多分ずっとそうだ」
「誰かが本当の意味で止めなきゃな」
微かにシーデの拳に力が入る。
「もう一度聞く……」
その言葉にシーデはタージルの目を見る。
「悔しいか」
「もちろん」
「何でだ」
「誰かを傷つけて奴をしょうが無いで終わらせたくないから」
その問いを聞くとタージルはシーデの方に手を乗せ歩き始めた。
しばらくして着いたのはシーデが昼食を食べていた場所だった。
「とりあえず、話せ」
そこでシーデは初めて落ち着いた様な表情をした。
「分かった……」
そう言って、昼食のあとに起きた事をそのままタージルに伝えていく。
その話を聞いている間のタージルの目は真剣だった。
その話をし終わったあとタージルはシーデの頭を撫でる。
いつもそれ程触れ合わない二人なのだからシーデは混乱した様な表情をする。
「俺も後半を見て大体察していたが」
「本当に凄いやつだ、お前は」
それはタージルからシーデに向けての隠しようのない心からの褒め言葉だった。
「そのままでいろよ」
「どういう事?」
「守る為に戦える人間になれよ」
「分かった」
何とも抽象的な言葉ではあったしかし、そのといに答えたシーデの返事には確かな自信と強い覚悟に満ちていた。
「とりあえず、お店戻らないと」
「そうだな」
そう言って、さっきとは違う一歩を踏み出すシーデにタージルが声をかける。
「それと明日から夕方だけでいい時間を取っとけ、教える」
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