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~第二章~ 足跡の無い道
第五話
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話し終えたシーデは深呼吸をする。
「これぐらいですかね」
「じゃあ、おじいさんにも感謝しないとね!」
屈託のないその笑みを返すエマ。
「そう……ですね、帰りにお礼言っときますね!」
シーデは少し考えるとその意味を理解したのか、そう言って笑みを返していた。
「でも凄いね、シーデのお爺さんは」
「まぁ僕から見ても凄い人でしたよ、でも国王陛下だって凄いじゃないですか」
その問いに少し首を傾けるエマ。
「うん……でも、最近は何か暗いような感じがするだよね……それにお城も静かな感じがするし」
不安そうな表情を浮かべるエマにシーデは笑いかける。
「大丈夫ですよ!きっと隣国が戦争で負けた事とか、他にも色々あって忙しいだけですよ」
「そうかな?」
「はい!だからエマ様はいつも通り笑顔でいてくださいね」
「うん、分かった!まかせて」
そう言ってエマは胸を叩く。
「あっはっはそれでこそ、エマ様です」
その自信満々な様子を見たからか、笑い声が混じるシーデ。
「むぅ、何かバカにされた気がしなくもないー」
「そ、そんなことないですよ?っあっはっは」
「ほら、また笑った!」
二人は笑いながら楽しそうにいつもの場所を駆け回る。
そんな陽だまりのような空間が終わったのは日が沈み薄く月が見え始めた頃だった。
先程まで楽しい時間があった場所にはシーデが一人で立っていた。
シーデはさっきまでのことを思い出したのか、薄らと口角を上げて幸せを見るように目を細めていた。
「さてとそろそろ帰りますか」
そんな独り言を呟きながら帰路へと足を進める。
路地を抜けて、街道に出ると店とは違う方向へと歩き出す。
日が沈んでもなお、賑やかさが残る街は夜だと言うのに明るくなっていてそれに伴ってか、人の表情も明るく見える。
しかし、光があれば影があるのは必然何だろうか?ふと、ノイズを重ねたくなる様な音が耳に入る。
シーデは何となく今日エマに話した自分の過去を思い出し、そちらへと足早に向かっていく。
そこに居たのはエマに話した内容の時と同じ面々だった。
「本当になんだかなぁ」
何となく不思議な経験をしているような気分になったシーデは彼等の背後に近づくと肩を叩き自分に気づかせる。
「なんだよ!」
明らかに不機嫌そうな態度を取りながらシーデに視線を合わせる。
「げ、シーデだ!」
その驚いた様なあるいは恐れる様な態度への素早い切り替えにシーデは笑いそうになる。
「なにやってんの?」
何とか笑いをこらえてそう言うと彼等は真ん中に猫を残して走り去って行った。
「一旦逃げるぞ!」
そんな負け惜しみが入ったセリフを言いながら。
シーデは猫に近づくとそっと抱き上げて全身をくまなく見る。
「ひどい怪我は無いな」
一通り確認すると彼は猫をそっと下ろす。
「にゃーお」そんな感謝言っているようにも聞こえる鳴き声をさせて猫は草むらへと消えていった。
そこからまた少し歩いた先にあったのは教会だった。
シーデは裏に回ると多くの墓が並ぶ墓地の中を進んでいく。
ふと、彼が止まった所にはタージルと書かれた墓が立っていた。
その墓の前で手を合わさると呟くように言葉を繋げる。
「じいちゃん、ありがとうだって姫様が言ってたよ……俺からも改めてありがとう、今日は土産無いんだ、ごめん。また今度持ってくるから」
そう言ってしばし静寂が来る。
月明かりが雲の隙間から漏れて、シーデを撫でるように優しく照らしていた。
シーデが店に戻った時、既に店は客によって席の九割が埋まっていた。
「シーデ、これあっちのテーブルな」
その喧騒の中でもしっかりと聞こえる声でデタルはシーデに指示を出す。
「はいよ!」
その声にも負けないような強い言葉で返事をし、指示通りに動く。
トレーにのった大量の料理を零さぬよう周りに気を払いながらテーブルとテーブルの間を素早く通る。
「はい、お待ちどうさま」
いつもとあまり代わり映えしない客に料理を運んでいく。
「おう!シーデ、今日も姫様と会ってたのか?」
そんな野次が入口から飛んでくる。
「いらっしゃい、そんなの関係ないだろ」
「ガハハっそう言うなって教えろよ」
男の野次に興味を持ったのか、次々と便乗する様に同じ部類の言葉が飛び交う。
「そうだな!どうなんだ?」
「次の国王ってお前か?はっはっは」
「「「ガハハっ」」」
言葉に続いて下品だが活気ある笑い声が響いていく。
「うるさい!つけの金、今日徴収するぞ」
「おっと、それはやべぇ」
そんな言葉を笑い、ネタとして楽しむ男たち。
しかし、それ以降シーデの姫に対するネタは聞こえては来なかった。
夜も更けて街に静寂が広がり始めてきた頃、店にも静寂は来つつあった。
「そう言えばよ、聞いたか?」
カウンターに居た客の一人がシーデに話しかける。
「なんですか?」
「何かよ、今度の大会あるだろ?あれの賞品知ってるか?」
「はい、なんでもって話ですよね?」
「なんだよ、知ってんのかよ」
少し悔しそうにする男。
「詳しくは知らないですけどね」
その言葉に反応し、男は話を進める。
「じゃあよ、あれは知ってるか」
「なんですか?」
「そのなんでもって範囲の中に姫様も入ってるって噂だよ」
その言葉に明らかな動揺をみせるシーデ。
「おっその様子を見ると知らなかったみたいだな」
少し誇らしげにする男。
「続き聞きたいか?」
その問いにシーデは少し間を置いて仕方なくと言った表情で酒の入ったグラスを差し出す。
それに微笑を浮かべると続きを語り始める男。
「それがな、この情報結構信憑性高いんだよ。不思議だろ?あの国王が姫を差し出すなんて」
「そうですね……」
「そろそろ国王も娘相手について考え出したってことなのかもな、大会も戦闘だけで決めるわけではないらしいしな」
「そうなんですか……」
「なんだ?出場方法は聞かないのか?」
「それは……」
少ししぶるように俯くシーデ。
「お前、守る為に戦える人になるって言ってたもんな……でもこれも姫様守るのに繋がるんじゃねーの?」
「おじさん……出て大丈夫だと思う?」
さっきと少し違うシーデの問いに男は大きく笑うとグラスの酒を飲み切る。
「俺はタージルの奴と長い間一緒にいたがそんなんでキレる奴じゃねーよ」
そう言うとテーブルに一枚の紙を叩きつける。
「明日の日没までだぞ、急ぐんだな」
彼が出ていったあと、店には一人も客は居らず静寂に支配されていた。
しかし、シーデの心情は静寂とは真逆と言っていい状態だった。
守る為に戦える、エマのために戦う理由を貰った。
エマを他の人に渡したいわけがない。
そんな鼓動を早くする様な感情が自分でもはっきりと分かるぐらいに大きくなっていっている。
「親父!片付け任せた!」
裏手にいるデタルにそう叫ぶとデタルの返答も待たずに自室へと走っていく。
自室へと駆け込んだシーデは机へと向かう。
「これを書けば……」
そう言ってシーデは自室の物置から筆記具を引っ張り出すとゆっくりと文字を綴っていく。
シーデとってこれ以上に無いチャンスだった。
身分の違いすぎるエマへの恋心は、今まで行き先を見つけられずに燻るばかりだったのだから。
しかし、今は違う。
微かな可能性がある、希望がある。
もしかしたら、彼女も賞品の範囲なんてことは嘘かもしれないけどそれでもシーデはこれにしがみついてみたかった。
少なくとも彼女を他の誰かに奪われない為に。
次の日の朝、シーデはまだ開いていない大会のエントリー窓口の前で静かにそこが開くのを待っていた。
周りにはほかの参加者であろう人が徐々に集まりつつあった。
「お待たせしました!どうぞ」
その言葉と同時に開いたそこへとシーデは大股で向かっていった。
「これぐらいですかね」
「じゃあ、おじいさんにも感謝しないとね!」
屈託のないその笑みを返すエマ。
「そう……ですね、帰りにお礼言っときますね!」
シーデは少し考えるとその意味を理解したのか、そう言って笑みを返していた。
「でも凄いね、シーデのお爺さんは」
「まぁ僕から見ても凄い人でしたよ、でも国王陛下だって凄いじゃないですか」
その問いに少し首を傾けるエマ。
「うん……でも、最近は何か暗いような感じがするだよね……それにお城も静かな感じがするし」
不安そうな表情を浮かべるエマにシーデは笑いかける。
「大丈夫ですよ!きっと隣国が戦争で負けた事とか、他にも色々あって忙しいだけですよ」
「そうかな?」
「はい!だからエマ様はいつも通り笑顔でいてくださいね」
「うん、分かった!まかせて」
そう言ってエマは胸を叩く。
「あっはっはそれでこそ、エマ様です」
その自信満々な様子を見たからか、笑い声が混じるシーデ。
「むぅ、何かバカにされた気がしなくもないー」
「そ、そんなことないですよ?っあっはっは」
「ほら、また笑った!」
二人は笑いながら楽しそうにいつもの場所を駆け回る。
そんな陽だまりのような空間が終わったのは日が沈み薄く月が見え始めた頃だった。
先程まで楽しい時間があった場所にはシーデが一人で立っていた。
シーデはさっきまでのことを思い出したのか、薄らと口角を上げて幸せを見るように目を細めていた。
「さてとそろそろ帰りますか」
そんな独り言を呟きながら帰路へと足を進める。
路地を抜けて、街道に出ると店とは違う方向へと歩き出す。
日が沈んでもなお、賑やかさが残る街は夜だと言うのに明るくなっていてそれに伴ってか、人の表情も明るく見える。
しかし、光があれば影があるのは必然何だろうか?ふと、ノイズを重ねたくなる様な音が耳に入る。
シーデは何となく今日エマに話した自分の過去を思い出し、そちらへと足早に向かっていく。
そこに居たのはエマに話した内容の時と同じ面々だった。
「本当になんだかなぁ」
何となく不思議な経験をしているような気分になったシーデは彼等の背後に近づくと肩を叩き自分に気づかせる。
「なんだよ!」
明らかに不機嫌そうな態度を取りながらシーデに視線を合わせる。
「げ、シーデだ!」
その驚いた様なあるいは恐れる様な態度への素早い切り替えにシーデは笑いそうになる。
「なにやってんの?」
何とか笑いをこらえてそう言うと彼等は真ん中に猫を残して走り去って行った。
「一旦逃げるぞ!」
そんな負け惜しみが入ったセリフを言いながら。
シーデは猫に近づくとそっと抱き上げて全身をくまなく見る。
「ひどい怪我は無いな」
一通り確認すると彼は猫をそっと下ろす。
「にゃーお」そんな感謝言っているようにも聞こえる鳴き声をさせて猫は草むらへと消えていった。
そこからまた少し歩いた先にあったのは教会だった。
シーデは裏に回ると多くの墓が並ぶ墓地の中を進んでいく。
ふと、彼が止まった所にはタージルと書かれた墓が立っていた。
その墓の前で手を合わさると呟くように言葉を繋げる。
「じいちゃん、ありがとうだって姫様が言ってたよ……俺からも改めてありがとう、今日は土産無いんだ、ごめん。また今度持ってくるから」
そう言ってしばし静寂が来る。
月明かりが雲の隙間から漏れて、シーデを撫でるように優しく照らしていた。
シーデが店に戻った時、既に店は客によって席の九割が埋まっていた。
「シーデ、これあっちのテーブルな」
その喧騒の中でもしっかりと聞こえる声でデタルはシーデに指示を出す。
「はいよ!」
その声にも負けないような強い言葉で返事をし、指示通りに動く。
トレーにのった大量の料理を零さぬよう周りに気を払いながらテーブルとテーブルの間を素早く通る。
「はい、お待ちどうさま」
いつもとあまり代わり映えしない客に料理を運んでいく。
「おう!シーデ、今日も姫様と会ってたのか?」
そんな野次が入口から飛んでくる。
「いらっしゃい、そんなの関係ないだろ」
「ガハハっそう言うなって教えろよ」
男の野次に興味を持ったのか、次々と便乗する様に同じ部類の言葉が飛び交う。
「そうだな!どうなんだ?」
「次の国王ってお前か?はっはっは」
「「「ガハハっ」」」
言葉に続いて下品だが活気ある笑い声が響いていく。
「うるさい!つけの金、今日徴収するぞ」
「おっと、それはやべぇ」
そんな言葉を笑い、ネタとして楽しむ男たち。
しかし、それ以降シーデの姫に対するネタは聞こえては来なかった。
夜も更けて街に静寂が広がり始めてきた頃、店にも静寂は来つつあった。
「そう言えばよ、聞いたか?」
カウンターに居た客の一人がシーデに話しかける。
「なんですか?」
「何かよ、今度の大会あるだろ?あれの賞品知ってるか?」
「はい、なんでもって話ですよね?」
「なんだよ、知ってんのかよ」
少し悔しそうにする男。
「詳しくは知らないですけどね」
その言葉に反応し、男は話を進める。
「じゃあよ、あれは知ってるか」
「なんですか?」
「そのなんでもって範囲の中に姫様も入ってるって噂だよ」
その言葉に明らかな動揺をみせるシーデ。
「おっその様子を見ると知らなかったみたいだな」
少し誇らしげにする男。
「続き聞きたいか?」
その問いにシーデは少し間を置いて仕方なくと言った表情で酒の入ったグラスを差し出す。
それに微笑を浮かべると続きを語り始める男。
「それがな、この情報結構信憑性高いんだよ。不思議だろ?あの国王が姫を差し出すなんて」
「そうですね……」
「そろそろ国王も娘相手について考え出したってことなのかもな、大会も戦闘だけで決めるわけではないらしいしな」
「そうなんですか……」
「なんだ?出場方法は聞かないのか?」
「それは……」
少ししぶるように俯くシーデ。
「お前、守る為に戦える人になるって言ってたもんな……でもこれも姫様守るのに繋がるんじゃねーの?」
「おじさん……出て大丈夫だと思う?」
さっきと少し違うシーデの問いに男は大きく笑うとグラスの酒を飲み切る。
「俺はタージルの奴と長い間一緒にいたがそんなんでキレる奴じゃねーよ」
そう言うとテーブルに一枚の紙を叩きつける。
「明日の日没までだぞ、急ぐんだな」
彼が出ていったあと、店には一人も客は居らず静寂に支配されていた。
しかし、シーデの心情は静寂とは真逆と言っていい状態だった。
守る為に戦える、エマのために戦う理由を貰った。
エマを他の人に渡したいわけがない。
そんな鼓動を早くする様な感情が自分でもはっきりと分かるぐらいに大きくなっていっている。
「親父!片付け任せた!」
裏手にいるデタルにそう叫ぶとデタルの返答も待たずに自室へと走っていく。
自室へと駆け込んだシーデは机へと向かう。
「これを書けば……」
そう言ってシーデは自室の物置から筆記具を引っ張り出すとゆっくりと文字を綴っていく。
シーデとってこれ以上に無いチャンスだった。
身分の違いすぎるエマへの恋心は、今まで行き先を見つけられずに燻るばかりだったのだから。
しかし、今は違う。
微かな可能性がある、希望がある。
もしかしたら、彼女も賞品の範囲なんてことは嘘かもしれないけどそれでもシーデはこれにしがみついてみたかった。
少なくとも彼女を他の誰かに奪われない為に。
次の日の朝、シーデはまだ開いていない大会のエントリー窓口の前で静かにそこが開くのを待っていた。
周りにはほかの参加者であろう人が徐々に集まりつつあった。
「お待たせしました!どうぞ」
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