22の哲学擬き

茅絃(ちづる)——長編名義:あむゆさ

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嫌いな言葉たち(2020/06/11)

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「才能に恵まれている」
 そう呼ばれる人がいる。
 しかし、この言葉は相手を褒めるには些か失礼なものだろう。
 なぜなら、その領域に辿り着くまでに、計り知れない研鑽を積んできているためである。
 それは、幸せに満ち足りた人生のなかで無自覚の内に行われたものかもしれない。耐え難い苦しみのなかで精神を削りながら磨かれたものかもしれない。
 人生とは多岐極まるものであり、全く同じ人生を歩む者などこの世に存在しない。
 だが、波乱万丈な人生を歩み、艱難辛苦を乗り越えたこと(あるいは、いままさに苦渋を舐めていること)、絶え間ない努力を積み重ねていることには目もくれず、他人は“才能”などという陳腐な言葉で人を表したがる。
 褒め言葉のつもりかもしれないが、残念なことに受け取り手はあまりいい気がしない。


「語彙力が……」
 などと口走る者がいるかもしれないが、そういう問題ではない。──加え“語彙”とはボキャブラリーのことであり、それはつまり多いか少ないかを問うものであって、“力”ではない。言葉を使いこなす術や力ならば“表現力”が妥当であり、言葉を蓄積する力なら“記憶力”で差し支えないはずだ。
 記憶することを怠り、心を表現するための言葉を上手く扱えないことの言い訳として、“語彙力”などというきてれつな言葉を遣っているとしか考えられない。
 その上で、
「才能が……」
 などと宣われたところで、それは既に、己が長所に気付き、研鑽を極め続けているが故に渡される言葉ではなくなっている。ただ純粋に、“磨くことを怠けた者”と、“そうでない者”という、零とマイナスの差からこぼれる言葉に成り下がってしまっているのだ。


 こんなことにも気付けない者たちをさげすむつもりは更々ないが、好ましくも思えない。


 さりとて、決して努力を褒めてほしいわけではない。
 過程を称賛することは本末転倒であり、過程の末の“結果”のみ、称賛されるか否かの天秤にかけられるチケットを手にしている。


 “才能”とは、称賛される結果に到達するまでに、人一倍濃密な時間と努力と研鑽を経てきていることを完全に無視した言葉であることを、この際自覚してほしい。


 そして、人生が多様である以上、いわゆる“才”と呼ばれるものも多彩である。
 故に、自分にもなにか誇れるものはないか、磨き忘れているものがないか、研げば輝く原石の兆しはないか、年齢を問わず、もう一度、自身に問いかけてみてほしい。

 どんな才人も、研鑽をしなければ、原石であることしかできないのだから。
 どんな才人も、いまの自分が完璧と錯覚した時点で、お仕舞いなのだから。
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