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アルカンシエルの港街
夜の虹−1
「おい、だいじょうぶか。怪我をしているじゃないか、見せてみろ!」
ジルが、リンの手を取ろうとした。
しかし、リンは割れたドラゴンのたまごを握り締めたまま、腕でジルの手を振り払った。リンの顔が、歪む。ドラゴンのたまごの殻が、さらに深く指や手のひらを傷つけたようだ。リンの目から、涙が溢れ出している。
「…… あっ、こわかったか。ごめんな、痛かったな」
ジルは、リンから一歩離れた。ララが「リンちゃんは、ジルにいちゃんに怯えている」と言ったのを思い出したのだ。あのときは、ふざけ半分でララが言ったとはいえ、確かに今のリンはジルにもルカにも怯えている。
これまでリンは外には出ず、砂時計屋の店の中だけで育ってきた。
接する者といえば、いっしょに暮らすおじいだけだ。それが最近になって、クラスメイトのララとルルとロロが半ば押しかけるように会いに来るようになった。担任のフレイア先生も入れればこの五人が、アルカンシエルの街でのリンの対人関係の全てだ。
中でも男は、おじい一人だ。ジルやルカ、中等科の上級生たちのような年若い男たちとは、今日初めて接したと言っていい。それも、上級生たちは正義の味方気取りで、リンに危害を加えようとした。大怪我を負わせ、ことによっては命さえ奪おうとしたのだ。
ルカも上級生たちからリンを庇いはしたが、リンに対する懐疑心を隠そうともしない。
リンが混乱して怯え、取り乱すのも無理はない。
ジルはできるだけ穏やかな声で、リンに言った。
「すぐに店に戻って、ペシュねえさんに怪我を見てもらおう」
ペシュねえさんは、アルカンシエルの街ではジルの姉ということになっている。港の入り口にある土産物屋とお休み処のオーナーだ。場所柄、急の病人や怪我人の対応にも慣れている。担任のフレイア先生とは同じ年頃だから、リンもジルよりは安心できるだろう。
でも、リンは割れたドラゴンのたまごを握りしめ涙と血を流しながら、強く首を横に振っている。完全な拒否だ。
「ララ、ルル、ロロ、おまえたちもリンになんとか言ってくれ」
ジルは三人の女の子たちに助けを求めた。
しかし、どうしたことか、彼女たちは真剣な表情で、リンを見詰めているだけだった。三人ともおとなびて、人が変わったようだ。
ジルには何故だか彼女たちの姿が、主君が決断を下すのを見守っている忠実な家臣ように思えた。
「……どうしたんだ、おまえたち」
ジルは恐ろしくなった。それでも、このまま、リンを放っておくわけにもいかない。
困惑するジルの横で、ルカがスマホを取り出した。
「学校に連絡するよ。フレイア先生に迎えにきてもらった方が良い」
が、ルカはすぐに舌打ちをした。「電波障害だ。全然、どこにもつながらない」
「まだ午前中だろ。ルカのスマホのせいじゃないのか」
ジルもスマホを出したが、ルカの言った通りだった。学校だけでなく、店にもつながらない。
不安気に空とスマホを見比べているジルの横で、ルカがリンを見ながら言った。
「大鴉が夜の支配だけでは飽き足らず、昼間もアルカンシエルの街を支配しようとしているのかもしれないよ」
ジルが、リンの手を取ろうとした。
しかし、リンは割れたドラゴンのたまごを握り締めたまま、腕でジルの手を振り払った。リンの顔が、歪む。ドラゴンのたまごの殻が、さらに深く指や手のひらを傷つけたようだ。リンの目から、涙が溢れ出している。
「…… あっ、こわかったか。ごめんな、痛かったな」
ジルは、リンから一歩離れた。ララが「リンちゃんは、ジルにいちゃんに怯えている」と言ったのを思い出したのだ。あのときは、ふざけ半分でララが言ったとはいえ、確かに今のリンはジルにもルカにも怯えている。
これまでリンは外には出ず、砂時計屋の店の中だけで育ってきた。
接する者といえば、いっしょに暮らすおじいだけだ。それが最近になって、クラスメイトのララとルルとロロが半ば押しかけるように会いに来るようになった。担任のフレイア先生も入れればこの五人が、アルカンシエルの街でのリンの対人関係の全てだ。
中でも男は、おじい一人だ。ジルやルカ、中等科の上級生たちのような年若い男たちとは、今日初めて接したと言っていい。それも、上級生たちは正義の味方気取りで、リンに危害を加えようとした。大怪我を負わせ、ことによっては命さえ奪おうとしたのだ。
ルカも上級生たちからリンを庇いはしたが、リンに対する懐疑心を隠そうともしない。
リンが混乱して怯え、取り乱すのも無理はない。
ジルはできるだけ穏やかな声で、リンに言った。
「すぐに店に戻って、ペシュねえさんに怪我を見てもらおう」
ペシュねえさんは、アルカンシエルの街ではジルの姉ということになっている。港の入り口にある土産物屋とお休み処のオーナーだ。場所柄、急の病人や怪我人の対応にも慣れている。担任のフレイア先生とは同じ年頃だから、リンもジルよりは安心できるだろう。
でも、リンは割れたドラゴンのたまごを握りしめ涙と血を流しながら、強く首を横に振っている。完全な拒否だ。
「ララ、ルル、ロロ、おまえたちもリンになんとか言ってくれ」
ジルは三人の女の子たちに助けを求めた。
しかし、どうしたことか、彼女たちは真剣な表情で、リンを見詰めているだけだった。三人ともおとなびて、人が変わったようだ。
ジルには何故だか彼女たちの姿が、主君が決断を下すのを見守っている忠実な家臣ように思えた。
「……どうしたんだ、おまえたち」
ジルは恐ろしくなった。それでも、このまま、リンを放っておくわけにもいかない。
困惑するジルの横で、ルカがスマホを取り出した。
「学校に連絡するよ。フレイア先生に迎えにきてもらった方が良い」
が、ルカはすぐに舌打ちをした。「電波障害だ。全然、どこにもつながらない」
「まだ午前中だろ。ルカのスマホのせいじゃないのか」
ジルもスマホを出したが、ルカの言った通りだった。学校だけでなく、店にもつながらない。
不安気に空とスマホを見比べているジルの横で、ルカがリンを見ながら言った。
「大鴉が夜の支配だけでは飽き足らず、昼間もアルカンシエルの街を支配しようとしているのかもしれないよ」
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