絵日記ミケちゃん

水玉猫

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十月

きょうは、なにしてあそぼかな

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 昨日は、とってもいいお天気だったの。
 だから、クマパンちゃんとお昼寝してたの。
 お昼寝日和びよりっていうやつね。
 それで、目が覚めたら、そろそろおやつの時間。
 そうだ、猫のお菓子屋さんに、おやつを買いに行こう♪
 だったら、その前に身だしなみ、身だしなみ!
 あたしが顔を洗っていると、クマパンちゃんも目を覚ましたの。

 「クマパンちゃん、これから、お散歩がてら、おやつ、買いに行こうよ」

 クマパンちゃんたら、お返事もせずに、ジーッとあたしの顔を見てるの。
 やだ。顔に、何か、ついてる?
 あたしが、余計にがんばってゴシゴシ顔を洗い始めたら、クマパンちゃん、いきなりビューっとお外に飛び出して行っちゃった!

 えっ? えっ? えっ????
 何? 何? 何????
 クマパンちゃん、どうしちゃった?
 寝ぼけちゃったのかしら?いっしょにお菓子屋さんに行こうと思っていたのに。

 まあいいや。仕方がないや。
 身だしなみは完了したし、お財布も首から下げたし。
 あたしのお財布はね、ペタンコのオレンジ色の猫の形をしていて、首から下げられるようになってるの。とっても、かわいいんだから!
 クマパンちゃんはどっかに行っちゃったけど、ペタンコ猫のお財布といっしょに、お菓子屋さんに出発進行!



♪ おさんぽ おさんぽ いち に の おさんぽ 
  おさんぽ おさんぽ いち に で おさんぽ 
  おさんぽ おさんぽ おさんぽ ミケちゃん ♪



 あたしが歌いながら歩いていると、きんもくせいの良い香り。
 どこに咲いているんだろ?
 あたりを見回しても、きんもくせいの木はどこにもない。
 
 キョロキョロクンクン。
 キョロキョロクンクン。
 
 あたしは、きんもくせいの木を探して、寄り道小道。
 
 キョロキョロクンクン。
 キョロキョロクンクン。
 
 見つけた! きんもくせいの大きな木!
 きんもくせいのお花って、こんなに遠くまで香るんだ。
 小さいお花がいっぱい咲いてる。かわいいなぁ。
 でも、ずいぶん、寄り道しちゃった。
 おなかすいちゃったし、早く、お菓子屋さんにお買い物に行こうっと。
 あれ?
 きんもくせいの下で飛び跳ねているこぐまって、もしかして、クマパンちゃん?
 クマパンちゃんも、きんもくせいの木を探して、ここまで来たのかな?
 でも、何してるんだろ?
 えっ?
 うそ! クマパンちゃんたら、きんもくせいの木に飛びついて、お花をむしってるよ。

 「ダメだよ、クマパンちゃん! せっかく咲いてるお花をむしっちゃ!」 

 「あっ、ミケちゃんだ。ダメじゃないよ」

 「ダメ! きんもくせいのお花がかわいそうだよ!」

 「だって、ミケちゃん。雨が降ったら、きんもくせいのお花は散っちゃうんだよ」

 「雨が降ったらね。でも、雨なんか降っていないよ。お日さまニコニコのこんなにいいお天気なんだよ。だから、ダメだよ、クマパンちゃん」

 「今はお日さまニコニコだけど、もうすぐ雨がザアザアになるよ」

 「NNNニュースの天気予報で言っていたの?」

 「ううん。だって、ミケちゃん、さっき、顔、洗ってたじゃん」

 「あっ!」

 「猫が顔洗うと雨が降るでしょ? さっきのミケちゃんの顔の洗い方だと、明日はぜったぁーいに、雨がザアザアだよ」

 「そっかぁ。だからといって、お花、むしっちゃ、かわいそうだよ、クマパンちゃん」

 「雨で散っちゃうんだったら、お花を少し分けてもらおうと思ったんだよ」

 「分けてもらって、どうするの?」

 「きんもくせいのお茶をいれるの」

 「きんもくせいのお茶?」

 「うん。お茶っ葉にね、お花を混ぜるの。紅茶でもいいよ。そうすると、お花の香りのお茶になるんだ。そのお茶といっしょに、おやつ食べようと思ったんだ。ミケちゃんも飲む?」

 「飲む! 飲む!」

 「それとね、あと、もうちょっと、お花もらって、シロップも作りたいんだ」

 「お花のシロップ?」

 「うん。シロップの中に、お花を入れるの。だけど、ぼく、お茶の分だけしか持っていけないや」
 クマパンちゃんは、手のひらにのせたお花を見ました。

「それなら、ペタンコ猫のお財布に入れればいいよ、クマパンちゃん」

 あたしとクマパンちゃんは、大きなきんもくせいの木からお花を分けてもらって、ペタンコ猫のお財布の中にそぉーと入れました。
 きんもくせいの木には、まだまだ、お花はいっぱい咲いています。
 あたしは木を見上げて、ちょっと後悔しました。
 雨で散っちゃうんなら、あたし、あんなに一生懸命、お顔、洗わなければ良かったなって。
 

 帰って、お花をお財布から出して、あたしはハッと気がつきました。

 「そうだ! あたし、おやつを買いに行ったんだ! 買わずに帰ってきちゃった!」

 きょうは、おやつ抜き?
 いやだぁ、そんなの!

 「ミケちゃん、おやつなら、買ってきたよ。雨、降ってもいいように明日の分もさ」
 クマパンちゃんは、猫のお菓子屋さんの大きな包みを差し出しました。

 「こんなにいっぱいマドレーヌ! いつの間に、クマパンちゃん」

 「ぼく、先にお菓子屋さんに行って帰って来てから、超特急で、きんもくせいの木のところに行ったの。道草寄り道のミケちゃんと違って、計画性があるんだ、ぼく」

 あたしは返す言葉がありません。

 「だから、ミケちゃん、猫のお菓子屋さんに行って、お金払っておいてね」
 
 「えっ?!」

 「ミケちゃんのツケで買ってきたから」

 「クマパンちゃん!!」

 「わぁ、逃げろー!」

 「待ちなさい、クマパンちゃん!」

 あたしとクマパンちゃんは追いかけっこをしながら、猫のお菓子屋さんにお金を払いに行きました。
 それから、仲直りをして、きんもくせいのお茶もいれて、おやつを食べました。そのあと、きんもくせいのお花のシロップも作ったよ。

 きのうは、楽しかったな。
 でも、きょうは雨降り。
 あんなに、咲いていたきんもくせいのお花も、散っちゃうね。
 さてさて、おやつを食べたら、きょうは、なにしてあそぼかな。

 三毛猫 ミケ



***



 金木犀きんもくせいのお花を混ぜたお茶は、桂花茶といいます。
 シロップ漬けは桂花醤けいふぁじゃん
 金木犀の学名Osmanthusは、まさに香りの花の意味。ギリシャ語のosme香りanthosからきています。

 香りは、記憶や感情と、密に結びついています。
 香りによって、記憶が呼び起こされることを「プルースト現象」といいます。
 フランスの文豪マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の作中で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りで、ふいに幼い頃の記憶が呼び覚まされることから、こう呼ばれるようになりました。

 あんなにたくさんのお花が咲いているのに、日本の金木犀は実を結ばないんですって。
 金木犀は雌雄異株。でも、日本では雄株しか入ってこなかったからなんだそうですよ。
 でも、その分、遠くまで届く甘い香りが、人々の心の中に思い出の実を結んでいるのでしょうね。


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