お前はオレの好みじゃない!

河合青

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【1】

4.俺とデートしましょう

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「初めて会ったときはまだ髪も染めてなくてね~。あんな派手な子じゃなかったのよ」
「その時の恭ちゃん先輩見てみたいです!」
 うわ、マジでいる。
 金曜の夜、仕事帰りにいつものようにショーコママのバーへと立ち寄れば、既に出来上がった様子の高瀬がカウンターでママと盛り上がっていた。
 いつも誰かしらがいて賑やかな雰囲気のバーだから、高瀬もすっかり馴染んでしまっている。嫌だなぁと思いながらも、オレは空いていた高瀬と隣へと腰を下ろした。
「オレがいないときに人の話してんなよ」
「じゃあ、恭ちゃん先輩が直接教えてくださいよ」
 臆することなく笑顔を返してくる高瀬にイエスもノーも答えられないオレは、苦い顔のまま目の前に出されたグラスに手を伸ばした。毎回同じものを頼んでいたから、注文しなくてもママは一杯目を用意してくれる。お気に入りのカカオフィズだ。これは、初めてこのバーを訪れた時から変わらない。
「恭ちゃん先輩何飲むんですか? 甘いのですか?」
「何でもいいだろ……」
「ハルちゃん、キョーイチが甘いの好きって知ってるのね~」
「一緒に飲みいきますもんね」
 にこにこと嬉しそうな笑顔を向けられ、オレは渋々頷きながらグラスを傾けた。酒の強さは違うが好みは似ていたから、良い店を見つけてオレから誘ったこともあれば、高瀬が誘ってきたこともある。
 面倒なことになったと思ってはいるが、オレは決して高瀬を嫌っているわけでも鬱陶しいと思っているわけでもなかった。
「お前はまた強い酒飲んでんだろ?」
「へへ。恭ちゃん先輩のお気に入りなだけあって、甘いお酒美味しくていいですね」
「だろ? 絶対高瀬はママの作るカクテル好きだと思ったんだよな」
 ゲイバーだから、誘えなかったんだけど。
 オレは指先で堅いアーモンドを転がしながら高瀬の様子を窺う。高瀬はいつもと変わらぬ調子で、残り少ないグラスの中身を飲み干すと「さっきと同じので」と浮かれた笑顔で注文していた。
「……なぁ、高瀬」
「ん?」
「お前、本当に気にしてないの?」
 高瀬は首を傾げると、オレの前の小皿からカシューナッツを一つ掴み、ぱくっと食べてしまった。人のもんを取るなと高瀬の手の甲をつねってやれば、高瀬は楽しそうに笑いながら気持ちのこもってない謝罪の言葉を口にする。
「俺は別に、恭ちゃん先輩がゲイだからとか、そうじゃないからとか、そういう理由で仲良くなりたいって思ったんじゃないですよ」
「そりゃそうだけど……普通は引くだろ」
「そんなこと言ったら、そっちだって俺が彼女でもない子とホテル入ったの見たのに引かなかったじゃないですか」
「一応引きはしたけどな。……まぁ、でも、それが理由でお前との縁切ろうとは思わなかった」
「俺も同じですよ。びっくりはしましたけど、それだけです」
 高瀬は再び、小皿の中から今度はマカダミアナッツを掴み取る。数が少ないやつばっかり取っていきやがって、と文句を言おうと口を開けば、丸みを帯びたナッツが唇へと押し当てられた。
「恭ちゃん先輩と飲むの、俺好きですよ」
 唇の感触とは全然違う、堅いナッツ。高瀬の指先がオレの唇に触れることはなかったのに、堅さの向こう側に指先の熱を感じた気がした。
「だから、先輩としてみたいな~って思うんです」
「……しつこい」
 へらっと気の抜けた笑みを浮かべた高瀬は、新しいグラスに手を伸ばす。その横顔は、セックスを迫っているくせに下心が感じられなくて、真意の見えなさにため息が溢れてしまった。
「お前がモテるの、わかる気がする」
「え? なんですか急に」
「いやらしさっていうの? そういうのが感じられないんだよなぁ」
 恋人探しをしていると、どうしたってそういう行為を切り離して考えるのは難しい。オレだって出来るならしたいと思っているけど、そういう目でばかり見られるのはあまり良い気がしない。
 高瀬の耳に光っているピアスが、店内の淡いライトに反射している。今日は三つ。どれもシルバーのいかつめなヤツだった。
「こんなに遊んでそうな格好してて、無害そうな顔してんのズルいだろ」
「それなら恭ちゃん先輩だって、遊び人みたいな見た目なのにガード堅いってギャップ反則ですよ」
 誘ったらすぐオーケーすると思ったのに。そう溢した高瀬は、ピアスを一つ一つ外していく。
 高瀬の伏せられた睫毛が頬に影を落とす。きっとコイツは行為の時にも同じように相手を抱くための準備をするんだろう。余計な物を取っ払っていく高瀬のことを、女たちはどんな目で見ているんだろう。
 当たり前に抱かれる女たちのことが、少しだけ、羨ましいなと思ってしまう。
「……俺、恭ちゃん先輩のこと全然知らなかったんですね」
「え?」
 カウンターの上に、鈍い音を立ててピアスが三つ転がった。高瀬は体ごとオレの方を向くと、やっぱり下心なんて一ミリもない楽しそうな顔で微笑んだ。
「ね、先輩。俺とデートしましょ?」
「……デート?」
「そ、デートです。明日休みですよね?」
「休みだけど……明日?」
 金曜の夜なのだから、明日が土曜日でデートには適していることくらいは考えなくてもわかる。でも、いきなりデートに誘われたことは何一つ高瀬の考えが理解できなくて首を傾げてしまった。
「俺は仲良い相手とならご飯行くのもセックスするのも楽しいって思ってるんですけど、恭ちゃん先輩はそうじゃないみたいですし、だったらもう少し一緒に過ごす時間を増やしてお互いの考えを理解していくのもいいかなって思うんですよ」
「一緒に出掛けるのは別にいいけどさ……デートって……」
 俺も別に高瀬のことを嫌っているわけじゃない。
 一緒に飲みにいくくらいには気に入ってるヤツでもあるから、どこかに出掛けるのは構わなかった。高瀬は嬉しそうに目を細めると、スマホを取り出して何かやりたいことはないかとオレの方へと距離を詰める。
 肩が触れ、高瀬のスマホを二人で覗き込む。それでも、変に意識をしないで済むのはコイツの雰囲気のお陰なんだろう。
「いつも飲みに行ってばっかだから違うことしたいです。恭ちゃん先輩はなんかしたいことありますか?」
「んー……お前となら別になんでも楽しそうだけどな」
「じゃあ俺が決めちゃおっかな……いかにもなデートスポット行ってみます?」
「いかにもって……プラネタリウムとか?」
「お、いいですね!」
 近くのプラネタリウムは~と高瀬が鼻唄混じりに検索を始めたから、オレは任せて目の前のグラスに視線を移した。
 まだ少し残っていたけれど、高瀬のグラスがもうほとんど空だったから、残りを飲み干し空いたカウンター席を拭いていたママへと声を掛ける。
「あら、早いわね。次何飲む?」
「んー……高瀬と同じのは止めた方がいい?」
「止めときなさい。アレキサンダーよそれ。似たような感じで度数低めの作ってあげるわよ」
 名前を言われても強さがピンと来ない。でも、ママが止めるならその通りなんだろう。オレは素直に頷くと、小さめのチーズピザを追加で頼んだ。高瀬の分もママのオススメで作ってくれるって言うからお願いした。
「こことかどうですか?」
「これってカップル用だろ?」
 スマホの画面に表示されていたのは二人で寝転びながらプラネタリウムを見れるシートだった。
 女性二人ならまだしも、成人男性二人はさすがに浮くだろ。
 嫌な顔をしたオレの顔を覗き込んだ高瀬は、平気だと笑ってみせた。
「二人用ですよ。カップルも友達も家族でもオーケーですって」
「……周りからどう見られるかとか気にしないわけ?」
「俺は別に。だって寝転んでプラネタリウム見れたら気持ち良さそうじゃないですか?」
 じっと見つめられ、オレは言葉に迷ってしまう。
 確かにふかふかのシートに寝転んでプラネタリウムを見れたら日頃の疲れも取れそうだ。そういうものがあるって知ったときに、いいなって思ったことだってある。
 一緒に行く相手なんていないから、オレには縁のないものだろう。
 そう決めつけていたのは、オレ自身だ。でも、高瀬はそうじゃないと笑う。
「二人用シート、明日まだ取れる回ありますよ?」
 どうします、と首を傾げた高瀬に、オレは少しだけ悩んでから頷いた。
 別に高瀬とどうこうなりたいとか、期待してるとかじゃない。
 ただ、高瀬のこの価値観にもうちょっと触れてみたいと思ってしまった。
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