お前はオレの好みじゃない!

河合青

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5.待ち合わせ時間よりも早く

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 高瀬との約束の時間まであと十五分。余裕を持って家を出てきたら、思ったよりも待ち合わせ場所に早く着いてしまった。
 待たせるよりは待つ方がマシだと思ってるけど、こんなに早く着いてしまうと待ちきれないみたいでちょっとイヤだ。
 どこかの店に入るほどの時間ではなく、だけどただ待ち合わせ場所で待つには暇過ぎる。
 中途半端な時間をどう潰そうか、一人頭を悩ませていた。
「あれ、恭ちゃん先輩? もう来てたんですか?」
「うわっ、高瀬……?」
 後ろから声が掛けられて、慌てて振り返れば派手なだて眼鏡を掛けた高瀬がニコニコと片手を挙げている。
 高瀬はざっとオレの全身を見渡して、いつもと変わらないですねと笑った。
「仕事行くときと同じ格好じゃないですか?」
「うちの職場は私服だから自然と会社に着てける服ばっかになるんだよ」
「普段着見てみたかったなぁ……あ、そういうシュッとした格好ももちろん似合ってますけどね」
「高瀬も……そんなに変わんないな。小物が派手になったくらいか?」
 バイト中には見たことのないリングや眼鏡は、落ち着いた雰囲気を放つ高瀬とは正反対の印象を与えるのに驚くくらいによく似合っていた。
「お前って元が良いから何着けても似合うんだろうなぁ」
 何気なく口にした言葉に、高瀬は目を丸くして固まってしまう。
 見慣れない反応だ。不思議に思って高瀬の様子を見守っていたら、高瀬は照れ臭そうに眉を潜めて顔を俯けてしまった。
「高瀬?」
「普段からそういうことあんまり言われないんで、なんて返せばいいのか」
「そうなのか? なんか意外だな」
「いい人そうとか、優しそうとか、そういうのはよく言われます」
 苦笑を浮かべた高瀬は腕時計で時間を確認すると、行きましょうかと歩き出す。
「ちょっと早く着いちゃったからどうしようかなって思ってたんですけど、恭ちゃん先輩も早く来てくれて助かりました」
「まぁ……待たせるのも嫌だったしな」
「やっぱ先輩って真面目ですよね。俺は楽しみで早く着いちゃっただけなのに」
 オレは素直に認められない感情も、高瀬は平気な顔で口にする。そこに他意がないことはわかっているけど、楽しみだと言われて嬉しくないわけがない。
 コイツのそういうとことが良いなと思うから、ただの行きつけの定食屋のバイトの大学生なのに一緒に過ごしている。だからオレも、少しくらい高瀬を見習って素直になってみたい。
「……オレだって楽しみにはしてたよ」
 オレがゲイだと知っても、変わらない態度で接してくれる高瀬のことを有り難いと思っている。
 セックスを迫られるのは想定外だったけど。だけどそれだって、高瀬がオレを見る目が変わってしまったからではなく、変わらず一緒にいると楽しい相手だと思ってくれているからこその行動だってことはわかっている。
 だからオレも、高瀬が遠慮なく迫ってくることに対しての嫌悪感はないんだろう。
「ありがとな。今日、誘ってくれて」
 さっきのようにぽかんとオレを見つめ返した高瀬は、ほんのりと桃色に染まった頬を緩めてはにかみながら頬を掻いていた。
 その姿が可愛いなと思ったけれど、それはオレの胸にしまっておいた。
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