6 / 60
【1】
6.星空は二人の手の中にある
しおりを挟む「……本当に悪かった」
「恭ちゃん先輩仕事大変って言ってましたもんね」
プラネタリウムの上映が終わり、ぞろぞろと出ていく人波の中、オレは両手で頭を抱えながら隣で笑う高瀬へと謝罪の言葉を口にする。
「あれは寝ちゃうのもしょうがないですよ。シートふかふかでしたし、俺も結構うとうとしてました」
「正直、かなり気持ちよかった」
「あはは。音楽もですけど、ナレーションも優しい眠りに誘う感じでしたし、寝ない方が無理じゃないですか?」
折角高瀬が席を取ってくれたのに、気付いたら寝てしまっていてプラネタリウムの内容は全く頭に入っていない。
流石にこれは人としてどうなんだろう。
高瀬は一人どんな気持ちでプラネタリウムを見ていたのかを考えると申し訳無さしかなかった。
「いびきが煩くて周りに迷惑掛けたとかじゃないですし、気にしないでいいと思いますよ」
「気にするって……」
「えぇ~……あ、ギフトショップありますよ! 見てきません?」
パッと表情を明るくした高瀬は、オレの袖を引くと同じフロア内にあったギフトショップを指差した。
断る理由なんてない。頷くオレの袖を掴んだまま、高瀬は楽しそうにお店へと足を向けた。
「星がモチーフのものって何でもオシャレって感じしますよね」
「そうだな。神秘的でいいよな」
店内には星や惑星をモチーフにしたアクセサリーやキーホルダー、アロマや紅茶などが並べられている。値段も学生でも手軽にお土産で買っていけそうなものから、やや高級なものまで幅広く揃っていた。
「せっかくだし、何か買ってきませんか?」
「いいな」
「お揃いで」
「お揃いって……」
それはさすがに恥ずかしいだろ。オレが嫌な顔をしたのを目にしても高瀬は臆することなく、星座をモチーフにした時計のキーホルダーを手に取った。
「さっき寝ちゃったお詫びってことで、どうですか?」
「……お前って結構ずるいよな」
高瀬は小さく笑うと、物はオレが選んでいいですよと声を弾ませた。
「デートの思い出、欲しいじゃないですか」
ずるいヤツだけど、同じくらいいいヤツだ。オレがさっきのことを気にしなくて済むようにと提案してくれているんだろうから。
「そうだな……」
お土産なら、手軽にキーホルダー辺りが丁度いいだろうか。デザインもオシャレなものが多いから、成人男性が持ち歩いていてもおかしくはない。
ただ、最近はキーホルダーを付けるような持ち物がないから買って使わなくなってしまいそうだ。それはもったいない気がする。
「……あ」
棚に並んでいた商品を眺めていたら、季節の星空をモチーフにしたマグカップのペアセットが目に入った。
光沢のある赤と青で描かれた対になっている春の星空を両手に包み込む幻想的なデザイン。
「高瀬って春生まれだったよな?」
「え? はい、四月なんで」
オレは三月だから、三月から五月頃までの春の星座が描かれたマグカップなら丁度いいんじゃないか。
「マグカップ、ですか?」
「ん。うちにあったやつ職場に持ってっちゃったから家用のやつ新しく買いたかったんだよな」
いまいち反応が良くない高瀬の様子を窺えば、高瀬はオレへと苦笑を浮かべていた。
「なんだよ、イヤか?」
「お揃いを渋ってたのに結局選ぶのがマグカップって……恭ちゃん先輩って不思議ですよね」
「はぁ? 高瀬が選んでいいって言ったんだろ?」
じゃあいいよ。マグカップの前を離れようとしたら、高瀬にしっかりと腕を掴まれる。
「嫌じゃないです! 紅茶とかコーヒーみたいな無くなっちゃうもの選ぶと思ってたから、形の残るものを選んで貰えたのが嬉しくて……」
そう言うと高瀬は、さっさと棚からマグカップのセットを手に取った。
「俺、これがいいです!」
クリスマスプレゼントをもらった子供のような顔で笑うから、オレまで驚いてしまう。
ペアのマグカップなんて、高瀬みたいにモテるヤツからしたら大したものじゃないだろうに。
「こんなのお前なら沢山貰ってきただろ?」
「全然。俺、彼女でもそうでない子でもお揃いのものってもらったことないですよ」
すぐ離れていきそうってわかるんでしょうね、と高瀬はいつもの調子で笑う。
「女避けの意味でアクセサリーなんかをくれる子はいましたけど、別にそれ付けてたからって俺がその子一人のものになるわけじゃないですし。俺に声掛けてくる子って、基本浅く付き合いたいっていう子なんですよねー」
「……高瀬はそれでいいのか?」
「いいも悪いも俺から付き合いたいって言ったわけじゃないですから。……あ、だから自分からデートに誘ったのって恭ちゃん先輩が初めてです」
高瀬は決して、寂しそうな顔では笑わない。それが当然のことのように微笑んでいるから、オレの方が複雑な気持ちになってしまった。
「初めてがオレで残念だったな」
なんて言葉を掛けるのがいいかもわからなくて、オレは高瀬の前髪をくしゃっと撫でて笑顔を作った。
くすぐったそうに頬を緩めた高瀬の手からマグカップを奪う。
「あ、お金……」
「いいよ。さっきのお詫びと今日のお礼」
本当にこういうことに慣れてないのか、高瀬はどうしていいかわからない様子で首の後ろを掻いていた。
意外な一面が見れたこと。なんだかそれが妙に嬉しかった。
32
あなたにおすすめの小説
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる