お前はオレの好みじゃない!

河合青

文字の大きさ
16 / 60
【1】

16.大嫌いで大好きだった人

しおりを挟む

 その人のことは、入学当初からウワサで聞いたことがあった。
 三年に問題児がいる。
 彼女がいる男にばかりちょっかいを掛ける男子生徒。オレは自分がゲイであることを隠していたから、入学した高校に有名なゲイの先輩がいることが嫌で仕方なかった。
 けれど、同時に堂々と自分がそうであると言い切れる姿は、羨ましいとも思ってしまった。
 最初のうちは同級生たちもその先輩のことを気味の悪いものとして扱っていたけれど、男子高校生の性欲への興味と、先輩のどちらかといえば可愛げのある顔立ちから男同士のセックスに興味を持つやつも出始めた。
 あの人なら抱けるかも、なんて言葉が教室で聞こえた時には、オレは自分のことじゃないのに心臓がバクバクだった。
 そして、夏休みを迎える手前辺りで、暑さにやられるようにテンションの上がったヤツが直接先輩にアプローチをしていた。そこであの人がタチだとわかると、興味本位で抱きたいなんて湧いてたヤツらは冷水を掛けられたようにあの人から興味を失っていった。
 逆に、オレはあの人のことが気になって仕方がなかった。あんなに大人しそうな顔立ちでどんな風に男を抱くんだろう、と教室の窓から体育の授業を受けるあの人の姿を眺めていた。
「名前、教えて」
「は……?」
 夏休み。夏期講習が終わってから、冷房の利いた図書室で勉強をし、校舎全体がオレンジ色に染まった時間。
「いつもおれのこと見てるでしょ? だから、名前教えてよ」
 下駄箱で靴を履き替えていたオレに、亜樹は声を掛けてきた。
「……恭一」
「そ。またね、恭一」
 その後、一度も亜樹に声をかけられることはないまま、夏休みは終わっていった。
 もう一度亜樹がオレに声を掛けたのは、一年も終わろうとしている十二月。
「恭一」
 空から降ってきた声に顔を上げれば、亜樹が渡り廊下の窓からオレを見下ろし笑っていた。
「おれが卒業したら遊ぼうよ」
 遊びが何を意味しているか、わからないほど幼くはなかった。
 関わらない方がいい人。そう頭ではわかっていても、亜樹の言葉と微笑みは誘惑に満ちていて、オレはドキドキする心臓をなんとか抑えながら頷いていた。
 亜樹は顔の割に口が悪く、自分勝手で、乱暴だった。亜樹に抱かれた後はいつだって身体が酷く痛んで、でも、それでも嫌いになれない自分がいた。
 再会をして、そろそろ一週間。連絡すると言っていた亜樹から、電話は一度も掛かってこなかった。
「……くそ」
 嫌だと思っているのに、ふとした瞬間に亜樹のことを思い出している。そんな自分が嫌で、オレは机の上に出していたスマホを上着のポケットに突っ込んだ。
「お水どうぞ」
「ありがとうございます」
 陸人さんの奥さんはテーブルにコップを置くと、ニコッと微笑む。混雑時を避けているから店内に客は少ないが、店員の数も少なかった。
「あれ、高瀬は?」
「高瀬くん、今週は大学が忙しいみたいですよ」
「そうなんですか」
「えぇ。私達もすっかり頼り切ってたから、いないと大変で」
 奥さんは苦笑を浮かべると、厨房へと戻っていった。
 昨日高瀬から可愛い猫を見つけたと写真とメッセージが送られてきたが、忙しいという話は特に聞いてはいなかった。
 大学が忙しいなら、うちに泊まりに来るか?
 ポケットからスマホを取り出そうとして、止める。高瀬ならオレからこんな提案をしなくても、必要なら自分で言い出してくるだろう。

 あの猫の写真以降、高瀬からの連絡が途絶えてしまった。忙しいとは聞いていたから一度だけオレから飯に誘ってみたけれど、体調が悪くてと断られてしまった。
 さっきもママのバーで飲んでいたけれど、一人だと気分も乗らずいつもより早めに店を後にした。もしかしたら、高瀬がいるかもしれないと期待していたこともあってか、なんだか無性に疲れてしまった。
「……もしかして、避けられてるとか?」
 バーからの帰り道、酔いを覚ますために一駅分余計に歩いていたら、ふと亜樹のことを思い出した。
 高瀬と亜樹は久しぶりの再会だ。兄弟仲だって悪くなさそうだった。あの後、二人で会って話す機会だってあっただろう。
 亜樹が高瀬に、何かを吹き込んだんじゃないか。
 それが原因で、避けられているんじゃないか。そんな嫌な予感が頭をよぎる。
 高瀬はそんなヤツじゃないと思うけど、亜樹の性格の悪さはイヤというほどに思い知っている。
 酒の勢いも借りたオレは、その場で高瀬の番号へと電話を掛けた。
 時間は二十三時を回ってはいない。終電はまだまだ先だ。そこまで夜が深い時間ではない。
 だけど、高瀬は出なかった。本当に体調が悪くて寝ているのか、オレを避けているのか、これじゃ全くわからない。
「高瀬……」
 いつのまにか、アイツが側にいることがオレの当たり前になっていた。手放したくない。会って話がしたい。
 着信履歴の中に、未登録の見慣れた番号が目に入った。
 亜樹の番号だ。
 オレは震える指先で、その番号に触れた。
『……恭一? おまえから電話してくるなんて意外。おれからの連絡待ちきれなかった?』
「違う。……お前さ、高瀬に何か話したか?」
 ほんの僅かな沈黙の後、スマホの向こう側で亜樹は小さく笑った。
『話したけど? なに? もしかして振られた?』
 あはは、と耳障りな笑い声が鼓膜を揺らす。文句を言おうと口を開けば、畳み掛けるようき亜樹は言葉を重ねた。
『今、どこ?』
「は?」
『知りたいんでしょ、陽とどんな話したのか。恭一ともゆっくり話したかったし、今から行くよ』
「今からって……」
 こういうところは変わらない。オレの気持ちや都合は無視で、自分の都合ばかりで動く。
 だけど、そういう亜樹に振り回される日々はどうしようもないくらいに恋をしていた。
 会いたくないと思っていたのに、昔のクセか最寄りの駅を口にしてしまう。
『思ってたより近いね。三十分くらいで着けるから、駅で待ってて』
 オレの返事を待たずに電話は切れた。
 久々に、亜樹と会える。
 望んでいなかったはずなのに、体中が熱を持つこの感覚を思い出してしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

透けるほどうすい/溶けるほどあつい

鴻上縞
BL
 日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。  歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。  一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。  足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...