お前はオレの好みじゃない!

河合青

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18.今から二人で

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「……ごめん、高瀬」
「何事かと思いましたよ」
 あの後、高瀬との電話が繋がって、渋る高瀬を無理やり押し切る形で高瀬の部屋に向かった。
 亜樹との話が理由で避けられているのなら、ちゃんと自分の口から話をさせて欲しい。
 そう思っていたけど。
「それで、熱は? 大丈夫なのか?」
「今朝下がったとこなんで、後は土日ゆっくり過ごせばいいかなーって思ってたとこです」
 駆け付けたオレを迎え入れたのは、緩いスウェット姿で寝癖頭の高瀬だった。
 大学が忙しく、そのまま体調を崩したというのはオレを避けていたからではなくて、本当のことだったらしい。
 勝手に勘違いして、一人でから回っていた自分が馬鹿らしい。ため息を吐いたオレを見て、高瀬は不思議そうに首を傾げていた。
「それで、本当にどうしたんですか? 何もなければこんな時間に来たりしないですよね」
 病み上がりの人間の家に無理やり来ておいて、何でもないは通用しないだろう。
 笑うなよ、と一言前置きをし、オレは気恥ずかしさから高瀬と目を合わせずに口を開く。
「避けられてるんじゃないかと思ったんだよ」
「避ける? 俺が恭ちゃんを? 何でです?」
「……亜樹と話したんだろ?」
 窺うように高瀬へと目を向ければ、高瀬は目を丸くしてオレを見つめ返していた。オレが言いたいことを察したのか、くしゃくしゃと髪を掻き分けて首を横に振った。
「確かに兄貴から恭ちゃんのこと色々言われましたけど、俺がそんなこと気にするタイプだと思います?」
「わ、わかんねーから不安になったんだよ!」
「わかるでしょ! 俺、結構自分勝手ですよ。兄貴の忠告よりも俺の恭ちゃんといたい気持ちの方が上ですよ!」
 ぐい、と距離を詰めてきた高瀬は、オレの手を取ると強く握り締めた。振り払うことはせず、オレも恐る恐る指先を絡める。
「……高瀬、亜樹から聞いたと思うけど、オレってネコなんだよ。その、抱かれたい側」
「はい」
「だから、お前のことは抱けない……けど、お前としたくないってわけでもなくて」
 自分自身の臆病さと無駄なプライドが邪魔をして言えなかった本当のこと。高瀬は静かに頷いて、そしてオレを抱き締めた。
「ごめんなさい、恭ちゃん。俺、そういうの全然わかってなくて、たくさん嫌な思いさせてましたよね」
 嗅いだことのない高瀬の匂いが鼻先を掠める。シャンプーとも、整髪料とも、香水とも違う高瀬自身の匂い。強く放たれる高瀬の匂いは体調不良が嘘じゃなかった証なんだろう。
 その匂いが、イヤではなかった。
「兄貴に恭ちゃんがネコだって言われた時よくわかってなくて……わからないんだからお前は女と付き合えばいいって言われたんですけど、それとこれとは話が別じゃないですか」
「……そこで退かないとこが凄いよ」
 オレが高瀬の立場だったらきっと、これ以上相手を困らせたくなくて身を引いただろう。オレ自身も、傷つきたくないから。
 高瀬の背中に両腕を回し、抱き締める。オレの肩へと甘えるように頬を擦り寄せ、高瀬は笑った。
「わかんないことのほうが多いから、これからも恭ちゃんに嫌な思いさせることもあると思うんです。それでも、俺でいいですか?」
「そんなの、聞きたいのはオレの方だ。お前はオレなんかのどこがいいんだよ……」
 オレの方が歳上なのに情けなくて、臆病で、自分に自信もないから面倒くさいとこばかり。だから、亜樹と話して幻滅されたとばかり思っていたのに。
「……俺ね、子供の頃に恭ちゃんと会ってるんですよ」
「え……?」
 高瀬はオレの肩を掴んで身体を離すと、イタズラを仕掛ける子どものように笑ってみせた。
「うちの両親が離婚する本当に直前の……毎日喧嘩ばっかで家に帰るのが嫌で近所の公園で遅くまで遊んでた時に、恭ちゃんが俺のこと心配して声掛けてくれたんですよ」
 覚えてないですか、と問われてオレは頭を押さえて記憶を辿る。
「それ、いくつぐらいの時?」
「俺は小学生で……恭ちゃんは学ランだったから中学生ですかね? 兄貴と同じ高校ならブレザーですもんね」
 中学生の時に、確かに何度か小学生の子と遊んだ記憶がある。何でそうなったかは全然覚えてないけど、いつのまにかいなくなっていたから記憶から薄れていた。
「……あ、地元のゆるキャラのキーホルダーくれたよな?」
「覚えてるじゃないですか! それ、俺ですよ」
 嬉しそうに頬を緩めた高瀬を前にしても、記憶の中でぼやけた子供の顔は思い出せない。
 一つ思い出したことは、いつも一人で寂しそうにしていたから放っておけなかった気持ちだけ。だから、いなくなったときにはもう大丈夫なのかなと安心していた。
「恭ちゃんが地元同じで同姓同名ってわかったとき、俺すっごく嬉しかったんですよ。子供の頃に遊んでくれたお兄さんだったらいいなって思って仲良くなりたいって思ったんです」
「オレがそうじゃなかったらどうする気だったんだよ」
「その時はその時でいいかなーって。仲良くなりたいきっかけがそうだっただけで、実際話してみると恭ちゃん面白い人でしたから」
 満足気に頬を緩めた高瀬は、両手でオレの頬を包む。
「恭ちゃんの部屋の鍵にキーホルダーが付いてるの見て確信しましたけどね。だから……なんで恭ちゃんなのかって聞かれたら、ずっとまた会って遊びたいって思ってた人だからですよ」
 そこまで空気が読めないわけでもないから、ぎゅっと目をつむれば、高瀬はオレに軽く触れるだけのキスをした。
「……なんて、理由なんて全部後付で、どうしてなんて聞かれても上手く説明出来ないです。もし恭ちゃんがあの時のきょーちゃんじゃなかったとしても、今の俺の気持ちは変わらないですよ」
 そういうこと考えるのは、得意じゃないんです。そう言って高瀬は再びオレの唇を塞ぐ。
 今度は触れるだけじゃない。高瀬の名を呼ぼうとしたオレの声を押し込んで、高瀬の熱い舌がオレの舌に絡められる。
 高瀬はいつもニコニコと子供みたいに笑うくせに、キスの時は強引で自分勝手だ。
 歯の裏側を舐められたかと思えば、今度はオレの舌に吸い付こうとする。抵抗する気なんてないが、応じるだけでも精一杯だった。
「はぁ……っ、高瀬……」
「恭ちゃん、今から出来ます?」
 呼吸を整える間も与えない高瀬の囁やきが耳元から胸の奥にまで落ちてくる。
 お前は男相手に勃つのかよ。
 そんなこと聞かなくても、オレにのしかかるようにして体重を掛けている高瀬の足の間にある膨らみが、固くなっていることが伝わってくる。
「準備、するよ。……なぁ、ローションってあるか? ないなら買ってくるけど」
「あります」
 あるのか、と驚くオレの上から退くと、高瀬は部屋の隅においてあった段ボールの中から未開封のローションを持ってきた。
「これ、アナルセックスで検索掛けるとオススメで一番に出てくるやつじゃん」
「え! 駄目でしたか?」
 駄目じゃないけど、どういう目的で買ったかが一目瞭然過ぎて恥ずかしくなる。
「最初はセックスするのも恭ちゃんに教えてもらえば良いと思ってたんですけど、兄貴と話して俺も自分で調べたほうが良いと思って……そしたら挿れられるのってちゃんと濡れてないと危ないって見たから……」
 オレのためを思っての行動が愛しく思えて、高瀬の手からローションを受け取ると瞼にそっと唇を押し当てた。
「ありがとな。それじゃ、準備するからシャワー借りる」
 珍しく頬を真っ赤にして照れた様子の高瀬に、オレは満足して浴室に向かった。
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