お前はオレの好みじゃない!

河合青

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19.素直で可愛いオレの恋人

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 誰かに抱かれるなんて久しぶりで準備に手こずってしまった。もしかして、部屋に戻ったら高瀬が寝落ちしてるなんてオチが待っているかもしれないと覚悟していたオレは、ベッドの上で正座していた高瀬を見て思い切り吹き出してしまった。
「緊張し過ぎだろ」
「そりゃ、緊張しますよ!」
 どうせ脱ぐからと下着だけを身に着けたオレは、ベッドに乗り上がると高瀬のスウェットに手を掛けた。
「挿れるとこが違うだけで他は特別違わないと思うしさ、お前の好きにしてみてよ」
 オレにされるがままで上を脱がされた高瀬は、下も脱いでスウェットをベッドの下へと放り投げる。
 深呼吸した後にオレの肩を掴み、ゆっくりとオレの身体を押し倒していった。
 柔らかい枕に頭を沈み込ませ、少しくたびれた布団に抱きとめられる。高瀬は寝転ぶオレの身体をざっと見渡し、輪郭を確かめるようにオレの首筋へと指先を這わせた。
「男でも胸で感じるって見たんですけど、恭ちゃんはどうですか?」
「オレは胸はそんなに……」
 亜樹はオレを気持ちよくさせたくて触れていたわけじゃないから、時間を掛けないと感じないような場所には興味なんてなかった。
「触るか?」
 でも、高瀬はそうじゃなさそうだ。ギラギラとした眼差しが胸の先端に注がれていたから、オレは誘うように自分で自分の胸に触れてみる。
 高瀬は頷くと、そのまま唇を右の胸へと近付けた。え、とオレが零すよりも速く、柔い唇がまだ慣れてない胸の頂きをきゅっと摘み上げた。
「ん……!」
「痛かったですか?」
 すぐに高瀬が顔を上げたから、オレはそうじゃないと首を振る。高瀬はそれ以上尋ねることはせず、再び唇でオレの胸に触れた。
 優しく挟んだと思えば、歯を立ててじわじわと押し潰してくる。ひりつく痛みの中に、隠し切れない昂りが混じり、溢れる声を抑えようと唇を噛んだが、高瀬の舌に固くなり始めた頂きを舐め上げられた時には流石に我慢が出来なかった。
「あっ……! 高瀬、それ……」
 もう高瀬は止まってはくれなかった。ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てながら、気持ちよさなんて知らなかった乳首に吸い付いていく。
「ん、ぁあ……」
 声を我慢しようとしても、溢れる吐息が止められない。高瀬は空いていた手でオレの脇腹を撫でると、するするとその手を上へと移動させ、反対の乳首をキュッと摘んだ。
「や、だ……」
「本当ですか? こっち、触ってないのに大きくなってますよ」
 親指の腹で押し潰したり転がしたりと、好き勝手に人の胸を弄りながら高瀬は笑う。意地悪だと思うのに、高瀬はやっぱり子供のような無邪気な笑顔を見せているから、怒る気も止める気も失せてしまった。
「……恭ちゃん、ナカ触ってみてもいいですか?」
 さっきとは表情を一転させ、真剣な眼差しで高瀬は問う。断る理由なんてない。
 オレは邪魔な下着を脱ぎ払うと、高瀬に向けて足を開いた。
「恭ちゃん、濡れてる」
「お互い様だろ」
 緩く勃ち上がった自分の性器からは、待ち切れないとでも言うように先走りが溢れ出ている。だけど、下着の中で窮屈そうに張り詰めてる高瀬だって似たようなもんだろう。
 高瀬は息を呑むと、恐る恐るといった手付きでまだ閉ざされたままの窄まりに触れる。
「ここに入るんですね」
 指先でソコをなぞりながら、高瀬は静かに息を吐いた。
「柔らかい……」
 ナカには指を入れずに、穴に触れては離れるを繰り返している。
 もどかしい刺激に、腹の奥が切なく疼いた。オレの身体は浅ましくも、もっと深い場所で高瀬を求めている。
「……高瀬、も、挿れて」
 枕元に置いてあったゴムを高瀬の目の前にちらつかせる。素直にゴムを受け取った高瀬は、手慣れた様子でゴムを装着しながらも、不安そうにオレを見つめていた。
「挿れる前の準備も必要なんですよね? ちゃんと解さないとって書いてありましたし……」
 そう言ってゴムを付け終えた高瀬はローションを手のひらに垂らしていく。それだけでもう、オレの心臓はドキドキと張り裂けそうな程に煩くて、赤くなった顔を腕で隠しながらオレは首を横に振る。
「準備出来てるから」
「え?」
「久々だからナカはキツイかもだけど、指三本は入るようにしてきたから、多分いける」
 見た目はキツく締まっているように見えても、ちゃんと解してきたから大丈夫なはずだ。準備するのも久しぶりで手こずったけど、高瀬はそんなことで不機嫌になったりはしない。
「……恭ちゃんって、いつもそうやって準備万端にしてたんですか?」
 そう思っていたのに、高瀬の不服そうな声が聞こえて、オレはそっと顔色を窺った。
 怒っているような、だけど満更でもないような、どちらともいえない表情で、耳まで真っ赤にした高瀬は唇を尖らせる。
「次は俺にやらせてください」
「へ?」
「恭ちゃんの気持ちいいとこや、どんな顔するのかとか、全部教えてほしいんです。そうじゃなきゃ、意味ないじゃないですか」
「……面倒じゃないのか?」
「面倒って……あ、もしかして兄貴……?」
 しまった、とオレは慌てて目を逸らす。それで高瀬は大体を察したようで、溜め息と共にオレの目蓋へと唇を落とした。
「面倒じゃないです」
 高瀬ははにかんだ笑みを浮かべると、もう一度オレの鼻先にキスをして、手の中のローションを自分の性器へと塗り付けた。
「どこが気持ちいいとか、痛いとか、俺全然わからないんで、ちゃんと教えてくださいね」
 体を起こした高瀬は、オレの足を掴み、ぴったりと先端を窄まりへとくっつけた。オレが頷くのを確認すると、嬉しそうに笑いながら、ゆっくりと腰を押し込んでいく。
「ん……恭ちゃん、痛くない……ですか?」
 ゆっくりと押し拡げられる感覚。ぬるぬるとしたローションが、固くなった高瀬の性器を奥へ奥へと導いていく。
「は……大丈、夫……んん……」
 オレの呼吸に合わせるように、少しずつ高瀬の性器がナカへと押し込まれていく。激しい動きがない分、自分で高瀬のモノへと吸い付こうとするナカの動きがわかってしまい、意識しないようにすればするほど高瀬の性器に食い付いてしまった。
「本当に、キツいですね……一回、抜いたほうがいいですか?」
「っあ、待って……」
 ずるり、と抜こうとする動きに合わせて、弱い部分が擦られる。上擦った声を抑えることが出来ず、自分の思いを上手く言葉にできなくて、目の前の高瀬の背中へと両腕を回した。
「そんな、締められたら……!」
 再び高瀬の性器が奥を目指して押し込まれる。それも、さっきのようなゆっくりとした動きではなく、ぎゅうぎゅうとキツく締め付けるナカを強引に押し開くような動きだった。
「あぁっ、それっ、や……たか、せ、きもち、いぃっ……!」
「っ、恭ちゃん、それ、狡いっ……」
 高瀬の背中に回した両腕に力が籠もる。
 下から突き上げる動きは激しさを増していき、高瀬に腰を掴まれてしまえばもう与えられる快楽を逃がす術はどこにもなかった。
 腕の中で、高瀬の呼吸が早くなっていく。吐き出す声はもう形にはならず、自分のものとは思えない甘ったるい声が辛うじて高瀬の名を呼んだ。
 男の身体のことなんて、全然わかっていない高瀬とのセックス。濡れない身体を無理矢理に潤わせたオレのナカ、性感帯の場所もわからない高瀬の抽挿は気持ち良さよりももどかしさのほうが勝る。
 それでも、互いの肌の吸い付く感触はナカも外も気持ちが良くて、もっともっとオレのことを知ってほしいと思わずにはいられなかった。
「高瀬っ、もう……イきそ、んぅ……!」
 覆い被さるようにして高瀬はオレの唇を塞いだ。上も下も粘膜同士で触れ合って、これ以上ないほどに身体の柔らかい場所を曝け出す。
 必死に目の前の高瀬にしがみついても込み上げてくる熱からは逃れられず、頭が真っ白になるのと高瀬の唇が離れていくのは同時だった。
「んっ……」
 固さを失った高瀬の性器がゆっくりと引き抜かれていく。たっぷりのローションが一緒に溢れ出て、肌を伝って背中を濡らした。
「高瀬?」
 離れるかと思った高瀬は、そのままオレに体重を預けて抱き着いてくる。その身体はびっくりするほどに熱くて、その時ようやくオレは高瀬が病み上がりだったことを思い出した。
「おい、大丈夫か? 気分悪いのか?」
「ちが……大丈夫です。なんか、恭ちゃんの顔見るのが恥ずかしくて」
「え?」
「だって恭ちゃん、普段はクールっていうか……あんまり自分の気持ち言葉にしてくれないのに、俺のこと好きでいてくれたんだっていうのがすごい伝わってくるから……」
「……そういうこと言われると、オレもお前の顔見れないんだけど」
 へへ、と腕の中で高瀬が気の抜けた声で笑う。ため息混じりに高瀬の背中を撫でてやれば、ますます高瀬はオレにぎゅっと抱き着いてくる。
「俺でも恭ちゃんの恋人になっていいですか?」
「ダメならここまでしないだろ」
「んー……でも俺は付き合ってない人ともセックス出来ちゃいますから」
 最悪、とボソッと呟けば、高瀬はそれすら楽しいのか笑いながらオレの胸へと頬を寄せた。
「……高瀬がいい。オレ以外のヤツとはすんなよ」
「はーい」
 本当かと疑いたくなる気の抜けた返事。でも、ウソじゃないことくらいは今までの高瀬を見ていればわかる。
「恭ちゃん、大好きです」
 オレを見上げて笑う高瀬は、どこまでも無邪気で、可愛らしい。落ち着きがあって、包容力のあるオレの好みのタイプとは正反対だ。
 だけど、それでもいい。
「……オレも」
 そんなのどうでもいいって思えるくらいに、オレは高瀬に惹かれているんだ
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