お前はオレの好みじゃない!

河合青

文字の大きさ
39 / 60
【2】

13.もしも、順番が逆だったら

しおりを挟む
「買い物に付き合わせちゃってごめんな」
「気にしないでよ。見ながらの方が良い案出るだろうし」
 昼飯の後、近くの商業ビルの中を周るのに付き合ってもらった。
 平日だけどクリスマスが近いこともあってか、同年代の数が多くそれなりに疲れてしまった俺たちは、駅ナカのカフェに入って休憩をしている。
「それに、飲み物奢ってもらったしおれとしてはラッキーなくらい」
 ニコニコと笑いながら、透は紅茶に口を付ける。それくらい当然だよと答えれば、やっぱり透は笑っていた。
「本当に助かったよ。やっぱ透、センスある」
「そう? それなら良かった。候補は絞れた?」
「うん。後はもう少しお店見て決めようかな」
 自分の耳を飾るピアスを指先で弄る。
 恭ちゃんの綺麗な耳に穴は空いていないから、イヤリングを贈ろうと思う。俺もお揃いに出来るように、ピアスでも同じデザインのものがあればいいけど。
 そんなことを考えていたら、隣りに座っていた透が控えめに俺の袖を引っ張った。
「……あのさ、陽。恋人の話聞いても良い?」
「うん、いいよ」
「陽はさ、どういうきっかけでその人と付き合うことになったの?」
「え?」
「だって、やっぱり驚くっていうか……陽なら告白されれば女でも男でもオーケーしそうなとこはあったけど、ハルの方からっていうのは意外だったからさ」
 いい加減言われ慣れてしまったから苦笑をこぼしつつ、俺はバーで会ったときのことを思い出す。
 大して時間は経っていないのに、随分と昔のことみたいだ。
「元々俺のバイト先の常連さんで、たまに飲みに行くくらいには仲良い人だったんだよ。だから、もっと仲良くなってみたいなって思ったんだ」
 今思えば、それが好きという気持ちだったんだと思う。
 俺の話に耳を傾けながら、透は不思議そうに小首を傾げている。
「陽って誰と付き合う時もそんな感じだったよね? 何が特別だったんだろう」
「特別かぁ……」
 恭ちゃんが今までの相手と何が違うのか。はっきりと特別だと思う気持ちはあるけれど、何がどう違うのかは俺もうまく言葉に出来ない。
「例えばの話だけど」
 少し震えた透の声が、俺の思考を遮った。
「おれの方が先にゲイだってわかってたら、陽はおれを好きになってた?」
「え?」
「だって、そういうことじゃない? 男友達も恋愛対象に出来るって気付いて、それでアプローチしたってことでしょ?」
 俺を真っ直ぐに見つめる透の眼差しには、責める色が混ざっている。
「そんなの、ずるいよ」
 テーブルの上に置かれていた俺の手を握り締める透の姿に、今まで付き合って欲しいと言ってきた子達の姿が重なって見えた。
 恭ちゃんが心配していた意味が、今になってよくわかった。
 きっと恭ちゃんは、こうなることがわかっていたんだろう。
 駄目だな、俺。自分に向けられる好意の質に気が付くことがいつだって出来ずにいる。
「だって、おれ……」
 透の言葉に重なるようにして、外に面したガラスがトントンと叩かれた。
「え……恭ちゃん……!」
 駅を利用する人たちが行き交う中で、足を止めて目の前に立っていた人の姿に、俺は思わず立ち上がっていた。
 ネクタイまでしっかりと締めたスーツ姿で、髪の毛も緩く一つに纏めているから一瞬誰かわからずに反応が遅れてしまった。
 恭ちゃんは驚く俺を見て満足気な笑みを浮かべると、スマホの画面をこちらに向ける。
『すぐ会社戻らないとだから話す余裕ないけど顔見れて良かった』
 メモ帳に打たれた文字を目で追ってる間に、恭ちゃんはさっさとスマホを胸ポケットにしまって小さく片手を振って改札の方へと歩いていってしまった。
「待って!」
 追いかけようと動き出した俺の手を、透が掴む。
「ごめん……行かないでほしい」
 元々は透と出掛けていたんだから、いくら恋人と偶然会ったとはいえ透を優先するのは当然のことだった。
「……俺の方こそごめん。透が俺に付き合ってくれてたのに」
 一度小さく深呼吸をして、椅子に座り直す。再び改札の方へと目を向けても、もう恭ちゃんは見つけられそうになかった。
 さっきの状況は、恭ちゃんにはどう見えていたんだろう。変な誤解を生んでなければいいんだけど。
「陽」
 恭ちゃんのことで頭が一杯になっていた俺の手に、再び透の指先が触れた。
「たまたまさっきの人が初めてだったんなら、おれとも試してみてよ」
 その手はすぐに離れ、物憂げにテーブルの上で拳の形を作っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

透けるほどうすい/溶けるほどあつい

鴻上縞
BL
 日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。  歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。  一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。  足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...