54 / 60
番外編 透とユウ
①(終)
しおりを挟む
幼馴染で、親友。
それはきっと恋人よりもずっと特別な存在だ。
そう信じていたけれど、もしかしたらオレが思うほど、あいつはお互いを特別になんて思っていないのかもしれない。
「来るなら連絡入れてよね」
「いいじゃん、毎年のことなんだし」
一人暮らしには十分な小さめのテーブルの上を占領しているホールケーキ。クリスマスの日は時給も上がるし、余ったケーキも貰えるしで最高だ。
自分は飲まないのにオレ用にと透の部屋に置いてある飲みかけの日本酒が、狭くなったテーブルの脇に置かれている。二人分の皿を置くスペースはないから、二本のフォークで直接ケーキを掘り進めていた。
「ん、美味しい」
「だろ?」
今年貰ってきたケーキはイチゴを使ったチョコレートケーキ。チーズケーキもあったけど、透はチョコレートケーキの方が好物だから。
「毎年透とクリスマスケーキ食ってる気がするな」
「それでユウが来年こそは彼女とクリスマス過ごすんだ~て言ってお開きになるまでがお約束だね」
いつになったら彼女作るの、と笑いながらケーキを食べる透の横顔に目を向けた。
お前だって、いつになったら彼氏作るんだよ。
切り分けてないケーキにフォークを突き刺して、大きめの一口は少し苦い。
「ユウのとこのゼミでクリスマスパーティーしてたんでしょ? そっち行かなくて良かったの?」
「んー、バイト出たかったしなぁ」
「ふーん。結局大学入ってからも毎年二人でクリスマスだよね。おれはケーキ食べれるからいいけどさ」
ホールケーキをそのまま食べるのが夢だと、小学生の頃に透が目を輝かせていたから。今のバイト先を決めた理由がそれだということは、透には言ったことはない。
嬉しそうにケーキを食べている透の姿に満足し、オレはコップに日本酒を注いだ。
クリスマスは、毎年二人でケーキを食べる。約束したわけじゃないけど、恒例行事だ。
もしかしたら今年は、透と一緒に過ごせないかも。陽が男と付き合い始めた話を聞いた時にはそんなことも思ったけれど、結局陽が透とどうこうなることはなかった。
「……透ってさ、自分が男好きだって気付いたのっていつ? 気付いたらそうだったって感じ?」
「え? まぁ、うん。ユウに教えたのは中学の時だったと思うけど、その前からそうだったのには気付いてたかな」
「初恋って誰? オレも知ってるやつ?」
透は少しだけ嫌そうに眉を潜めたけれど、缶チューハイを一口飲むと短く一言「高橋」とだけ答えてくれた。
「高橋って小学生の時の? 高校の時の?」
「小学生の時の方。高校の時の高橋はおれの好みの感じじゃないじゃん」
「それもそっか。昔から好み変わってないよな~」
ホールケーキの向かい側で、ほんのり頬を染めた透を眺めながら日本酒を舌でつつく。
子どもの頃からずっと一緒にいて、恋心なんてものを知る前から隣りにいた。
「……透ってさ、オレのこと好きだった時期とかないの?」
「えー?」
「だってさぁ、オレたちってずっと一緒だったじゃん? オレだって、恋愛感情抜きにして初めて好きだって思った他人って多分透だし、透だってオレのことすきじゃん?」
「そりゃ、好きだけど。でも、ユウは男抱きたい人じゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
そうなんだけど。
言葉にできないモヤモヤを胸に抱えたまま、コップの中の日本酒を半分一気に飲み込んだ。
「……オレ、透とならいいけどな」
「あはは、おれにも好みはあるんだからさぁ。ユウとじゃ勃たないよ」
「なんだよ、失礼だろ~!」
「だってさ、昔何度も一緒にお風呂入って裸も見てるし、小さかった時のこと思い出して笑っちゃいそう」
「あれよりデカくなったっての!」
確かめてみるか。酒の勢いで飛び出しそうになった言葉を、オレは飲み込んだ。
いつからだろう。透が誰かを好きになる度に、オレとそいつの違いはなんだろうと考えるようになったのは。
オレのほうがずっと透を知っていて、ずっと一緒にいるのに、透はいつもオレじゃない誰かを好きになる。
オレのこの胸の中のモヤモヤは、なんて呼ばれるものなんだろう。
「もしオレが三十歳になってもまだ童貞だったら、試しに一発ヤッてみる?」
「え、こわ~。それ、おれの方が痛い思いしそう」
「大丈夫大丈夫、オレめちゃくちゃ優しいから」
「童貞のくせに何で自信満々なの」
透はおかしそうに笑って、ケーキを口に運んでいく。
その姿を見て可愛いと思うわけじゃないし、ドキドキするわけでもない。
だけど、来年のクリスマスに透がオレ以外と過ごしているのを想像すると腹の奥がムカムカしてくる。
「……来年で大学生のクリスマスも最後か」
「来年こそは彼女作って過ごしなよ?」
「はーぁ、どっかにオレのこと好きになってくれる可愛い子はいないかな」
両手を伸ばして、その場にゴロンと横になる。透は笑いながらオレを見下ろしていた。
それはきっと恋人よりもずっと特別な存在だ。
そう信じていたけれど、もしかしたらオレが思うほど、あいつはお互いを特別になんて思っていないのかもしれない。
「来るなら連絡入れてよね」
「いいじゃん、毎年のことなんだし」
一人暮らしには十分な小さめのテーブルの上を占領しているホールケーキ。クリスマスの日は時給も上がるし、余ったケーキも貰えるしで最高だ。
自分は飲まないのにオレ用にと透の部屋に置いてある飲みかけの日本酒が、狭くなったテーブルの脇に置かれている。二人分の皿を置くスペースはないから、二本のフォークで直接ケーキを掘り進めていた。
「ん、美味しい」
「だろ?」
今年貰ってきたケーキはイチゴを使ったチョコレートケーキ。チーズケーキもあったけど、透はチョコレートケーキの方が好物だから。
「毎年透とクリスマスケーキ食ってる気がするな」
「それでユウが来年こそは彼女とクリスマス過ごすんだ~て言ってお開きになるまでがお約束だね」
いつになったら彼女作るの、と笑いながらケーキを食べる透の横顔に目を向けた。
お前だって、いつになったら彼氏作るんだよ。
切り分けてないケーキにフォークを突き刺して、大きめの一口は少し苦い。
「ユウのとこのゼミでクリスマスパーティーしてたんでしょ? そっち行かなくて良かったの?」
「んー、バイト出たかったしなぁ」
「ふーん。結局大学入ってからも毎年二人でクリスマスだよね。おれはケーキ食べれるからいいけどさ」
ホールケーキをそのまま食べるのが夢だと、小学生の頃に透が目を輝かせていたから。今のバイト先を決めた理由がそれだということは、透には言ったことはない。
嬉しそうにケーキを食べている透の姿に満足し、オレはコップに日本酒を注いだ。
クリスマスは、毎年二人でケーキを食べる。約束したわけじゃないけど、恒例行事だ。
もしかしたら今年は、透と一緒に過ごせないかも。陽が男と付き合い始めた話を聞いた時にはそんなことも思ったけれど、結局陽が透とどうこうなることはなかった。
「……透ってさ、自分が男好きだって気付いたのっていつ? 気付いたらそうだったって感じ?」
「え? まぁ、うん。ユウに教えたのは中学の時だったと思うけど、その前からそうだったのには気付いてたかな」
「初恋って誰? オレも知ってるやつ?」
透は少しだけ嫌そうに眉を潜めたけれど、缶チューハイを一口飲むと短く一言「高橋」とだけ答えてくれた。
「高橋って小学生の時の? 高校の時の?」
「小学生の時の方。高校の時の高橋はおれの好みの感じじゃないじゃん」
「それもそっか。昔から好み変わってないよな~」
ホールケーキの向かい側で、ほんのり頬を染めた透を眺めながら日本酒を舌でつつく。
子どもの頃からずっと一緒にいて、恋心なんてものを知る前から隣りにいた。
「……透ってさ、オレのこと好きだった時期とかないの?」
「えー?」
「だってさぁ、オレたちってずっと一緒だったじゃん? オレだって、恋愛感情抜きにして初めて好きだって思った他人って多分透だし、透だってオレのことすきじゃん?」
「そりゃ、好きだけど。でも、ユウは男抱きたい人じゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
そうなんだけど。
言葉にできないモヤモヤを胸に抱えたまま、コップの中の日本酒を半分一気に飲み込んだ。
「……オレ、透とならいいけどな」
「あはは、おれにも好みはあるんだからさぁ。ユウとじゃ勃たないよ」
「なんだよ、失礼だろ~!」
「だってさ、昔何度も一緒にお風呂入って裸も見てるし、小さかった時のこと思い出して笑っちゃいそう」
「あれよりデカくなったっての!」
確かめてみるか。酒の勢いで飛び出しそうになった言葉を、オレは飲み込んだ。
いつからだろう。透が誰かを好きになる度に、オレとそいつの違いはなんだろうと考えるようになったのは。
オレのほうがずっと透を知っていて、ずっと一緒にいるのに、透はいつもオレじゃない誰かを好きになる。
オレのこの胸の中のモヤモヤは、なんて呼ばれるものなんだろう。
「もしオレが三十歳になってもまだ童貞だったら、試しに一発ヤッてみる?」
「え、こわ~。それ、おれの方が痛い思いしそう」
「大丈夫大丈夫、オレめちゃくちゃ優しいから」
「童貞のくせに何で自信満々なの」
透はおかしそうに笑って、ケーキを口に運んでいく。
その姿を見て可愛いと思うわけじゃないし、ドキドキするわけでもない。
だけど、来年のクリスマスに透がオレ以外と過ごしているのを想像すると腹の奥がムカムカしてくる。
「……来年で大学生のクリスマスも最後か」
「来年こそは彼女作って過ごしなよ?」
「はーぁ、どっかにオレのこと好きになってくれる可愛い子はいないかな」
両手を伸ばして、その場にゴロンと横になる。透は笑いながらオレを見下ろしていた。
10
あなたにおすすめの小説
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる