お前はオレの好みじゃない!

河合青

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番外編 透とユウ

①(終)

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 幼馴染で、親友。
 それはきっと恋人よりもずっと特別な存在だ。
 そう信じていたけれど、もしかしたらオレが思うほど、あいつはお互いを特別になんて思っていないのかもしれない。
「来るなら連絡入れてよね」
「いいじゃん、毎年のことなんだし」
 一人暮らしには十分な小さめのテーブルの上を占領しているホールケーキ。クリスマスの日は時給も上がるし、余ったケーキも貰えるしで最高だ。
 自分は飲まないのにオレ用にと透の部屋に置いてある飲みかけの日本酒が、狭くなったテーブルの脇に置かれている。二人分の皿を置くスペースはないから、二本のフォークで直接ケーキを掘り進めていた。
「ん、美味しい」
「だろ?」
 今年貰ってきたケーキはイチゴを使ったチョコレートケーキ。チーズケーキもあったけど、透はチョコレートケーキの方が好物だから。
「毎年透とクリスマスケーキ食ってる気がするな」
「それでユウが来年こそは彼女とクリスマス過ごすんだ~て言ってお開きになるまでがお約束だね」
 いつになったら彼女作るの、と笑いながらケーキを食べる透の横顔に目を向けた。
 お前だって、いつになったら彼氏作るんだよ。
 切り分けてないケーキにフォークを突き刺して、大きめの一口は少し苦い。
「ユウのとこのゼミでクリスマスパーティーしてたんでしょ? そっち行かなくて良かったの?」
「んー、バイト出たかったしなぁ」
「ふーん。結局大学入ってからも毎年二人でクリスマスだよね。おれはケーキ食べれるからいいけどさ」
 ホールケーキをそのまま食べるのが夢だと、小学生の頃に透が目を輝かせていたから。今のバイト先を決めた理由がそれだということは、透には言ったことはない。
 嬉しそうにケーキを食べている透の姿に満足し、オレはコップに日本酒を注いだ。
 クリスマスは、毎年二人でケーキを食べる。約束したわけじゃないけど、恒例行事だ。
 もしかしたら今年は、透と一緒に過ごせないかも。陽が男と付き合い始めた話を聞いた時にはそんなことも思ったけれど、結局陽が透とどうこうなることはなかった。
「……透ってさ、自分が男好きだって気付いたのっていつ? 気付いたらそうだったって感じ?」
「え? まぁ、うん。ユウに教えたのは中学の時だったと思うけど、その前からそうだったのには気付いてたかな」
「初恋って誰? オレも知ってるやつ?」
 透は少しだけ嫌そうに眉を潜めたけれど、缶チューハイを一口飲むと短く一言「高橋」とだけ答えてくれた。
「高橋って小学生の時の? 高校の時の?」
「小学生の時の方。高校の時の高橋はおれの好みの感じじゃないじゃん」
「それもそっか。昔から好み変わってないよな~」
 ホールケーキの向かい側で、ほんのり頬を染めた透を眺めながら日本酒を舌でつつく。
 子どもの頃からずっと一緒にいて、恋心なんてものを知る前から隣りにいた。
「……透ってさ、オレのこと好きだった時期とかないの?」
「えー?」
「だってさぁ、オレたちってずっと一緒だったじゃん? オレだって、恋愛感情抜きにして初めて好きだって思った他人って多分透だし、透だってオレのことすきじゃん?」
「そりゃ、好きだけど。でも、ユウは男抱きたい人じゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
 そうなんだけど。
 言葉にできないモヤモヤを胸に抱えたまま、コップの中の日本酒を半分一気に飲み込んだ。
「……オレ、透とならいいけどな」
「あはは、おれにも好みはあるんだからさぁ。ユウとじゃ勃たないよ」
「なんだよ、失礼だろ~!」
「だってさ、昔何度も一緒にお風呂入って裸も見てるし、小さかった時のこと思い出して笑っちゃいそう」
「あれよりデカくなったっての!」
 確かめてみるか。酒の勢いで飛び出しそうになった言葉を、オレは飲み込んだ。
 いつからだろう。透が誰かを好きになる度に、オレとそいつの違いはなんだろうと考えるようになったのは。
 オレのほうがずっと透を知っていて、ずっと一緒にいるのに、透はいつもオレじゃない誰かを好きになる。
 オレのこの胸の中のモヤモヤは、なんて呼ばれるものなんだろう。
「もしオレが三十歳になってもまだ童貞だったら、試しに一発ヤッてみる?」
「え、こわ~。それ、おれの方が痛い思いしそう」
「大丈夫大丈夫、オレめちゃくちゃ優しいから」
「童貞のくせに何で自信満々なの」
 透はおかしそうに笑って、ケーキを口に運んでいく。
 その姿を見て可愛いと思うわけじゃないし、ドキドキするわけでもない。
 だけど、来年のクリスマスに透がオレ以外と過ごしているのを想像すると腹の奥がムカムカしてくる。
「……来年で大学生のクリスマスも最後か」
「来年こそは彼女作って過ごしなよ?」
「はーぁ、どっかにオレのこと好きになってくれる可愛い子はいないかな」
 両手を伸ばして、その場にゴロンと横になる。透は笑いながらオレを見下ろしていた。
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