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2.雪の降る国
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タキに見送られながら一人自室までを歩き、扉に掛かる鍵を開けドアノブに手を掛けたリーゼロッテに横からやや固い声が掛けられた。
「リーゼロッテ様、少しよろしいでしょうか」
顔を上げたリーゼロッテは、声の主を目にするとゆっくりと目を細めて微笑みを浮かべた。
「はい、どうかしましたか?」
そこにいたのは、レイノアール国から派遣されここまで彼女を運んできた二人の騎士。爽やかな微笑みを浮かべた青年と、人見知りなのか口数の少ない気弱そうな少年である。それぞれ、リーゼロッテよりも年上と年下だと推測される。
青年は申し訳なさそうに眉尻を下げると、上目遣いにリーゼロッテの様子を伺いながら言葉を発する。
「このようなお時間に申し訳ございません。明日の王都入りについて、ご確認させていただきたいことがございまして」
ドアノブに掛けた手を止めて、リーゼロッテは二人の姿を蒼色の瞳に映した。そこに籠められた感情の色は、複雑に混ざりあっていて読み取ることは不可能であった。
「……わかりました。では、中へどうぞ」
快く了承の意を示され、青年は微笑み少年は俯く。行くぞ、と小突かれた青年は少年の腕を掴むと、リーゼロッテの手からドアノブを奪い扉を開ける。
まずはリーゼロッテを部屋に入れ、そのあとに少年を進ませる。そして自分は最後に部屋へと入ると、音を立てぬように後ろ手で慎重に扉を閉じた。
ゆっくり、閉ざされる扉。部屋の真ん中ほどまで進んだところで、リーゼロッテは振り返った。
「どういったお話なのでしょう?」
危機感の欠片もない声。青年は口元に笑みを浮かべると、迷わずに鍵を掛けた。
冷たく響く施錠音。それを合図に、少年はリーゼロッテの背後に回り両手首を掴むと空いていた手で彼女の口を塞いだ。
少年の手は小刻みに震えているが、リーゼロッテを逃がさぬようにと細い手首を痕が付きそうな強さで拘束していた。
「初めに言っておきますが、別に私たちはリーゼロッテ様の命を奪おうとは考えておりませんよ」
極めて紳士的な声色で、余りにも場違いな態度で青年はリーゼロッテに目を向けた。
暴れることもなければ、恐れる様子もない。リーゼロッテは黙って青年の言葉に耳を傾けていた。
顔色一つ変えないリーゼロッテを気味悪がりながらも、青年は平静を装ってリーゼロッテの目の前へと足を進める。
「ただ、その身の純潔を奪わせていただきたい……そう考えているだけです」
リーゼロッテの眉間にしわが刻まれた。冷たく睨み付けられたところで、青年が構うことなどない。
青年は欲望を隠しきれない歪んだ笑いを浮かべると、厚手の布地に覆い隠されたリーゼロッテの太股を下からなぞるように撫で上げた。
「しっかり押さえてろよ。ここまで来て怖じ気づくな」
少年は黙って頷くと、リーゼロッテを拘束する力を強めた。そして、後ろ手に拘束しているリーゼロッテの両手を引き、青年に向けて胸を突き出すような体勢を取らせる。
少年の気遣いに満足げに微笑むと、青年は足を撫で回していた手を止めてリーゼロッテの胸元を隠すリボンに手を掛けた。
「騒いだって無駄ですよ。警備が入ってきたところで、私たちは貴方に誘われたのだと言えばいいのです。この店の主人は潔癖なところもありますが、そこで働くものが皆同じ志とは限りませんからね。それなりのお金さえ握らせてしまえば、こちらの言い分に同意してくれますよ」
服の上からでも、女性らしい体つきであることがわかる。将来の第三王子の妻となる女性の純潔を奪えと命令を受けたときは厄介事に巻き込まれてしまったという思いしかなかったが、それなりに楽しめそうな相手であれば少しは気が紛れる。
どうせ事が表に出てしまっても、青年が処罰されることはないだろう。背後にいる存在のおかげで、彼は何一つ心配をすることなく女性の体を貪ることが出来るのだ。
「しかし、本当に処女なのですか? どうせ若い男騎士様辺りと密会でもしてもう身も心も真っ黒なんじゃないですかね。うちでもいいトコのご令嬢の間で自分より身分の低い男との逢い引きが流行したことあったろ?」
青年はリーゼロッテの背後で彼女を押さえる少年に声を掛けたが、少年は怯えた様子で目を逸らした。自分がしていることの恐ろしさを理解していながらも、手を離せない葛藤で唇は動かせない。
反応を示せない少年に対してつまらなさそうに舌打ちをすると、引きちぎるようにしてリーゼロッテのリボンを剥ぎ取った。
「……つまらないですね。少しは抵抗したらどうなんです? それとも、昔からこうして乱暴にされるのは慣れているんですかね?」
面白味がないのはリーゼロッテも同じだった。青年など興味なさそうに目を伏せている。この状況から逃げ出す術を探しているようにも見えるが、騒ぎ立てたところでリーゼロッテに勝ち目はない。
開かれた胸元から除いた肩甲骨を、男は指先で羽で触れるように撫で上げる。
険しい瞳を崩さぬまま、リーゼロッテは青年の手から逃れるように上半身を逃がそうとした。しかし、後ろの少年がリーゼロッテの両手を押さえているため逃げることは叶わなかった。
「私に触られるのが嫌なのか、純潔を守りたいのか、どちらでしょうね」
青年は、笑う。嫌がる姫を無理矢理汚すというのは、中々に心が踊る。
しかし、リーゼロッテはこれ以上自身の柔肌を夫でもない男に晒すつもりはなかった。
「いっ!」
リーゼロッテは自分の口を押さえていた少年の指に躊躇いなく噛み付いた。突然の痛みに少年の拘束は緩む。
その隙を逃さず、リーゼロッテは背後の少年の足を自分の足で引っ掛けると、足払いを掛けて自分の体ごと少年を背中から床へと打ち付ける。
「リーゼロッテ様、少しよろしいでしょうか」
顔を上げたリーゼロッテは、声の主を目にするとゆっくりと目を細めて微笑みを浮かべた。
「はい、どうかしましたか?」
そこにいたのは、レイノアール国から派遣されここまで彼女を運んできた二人の騎士。爽やかな微笑みを浮かべた青年と、人見知りなのか口数の少ない気弱そうな少年である。それぞれ、リーゼロッテよりも年上と年下だと推測される。
青年は申し訳なさそうに眉尻を下げると、上目遣いにリーゼロッテの様子を伺いながら言葉を発する。
「このようなお時間に申し訳ございません。明日の王都入りについて、ご確認させていただきたいことがございまして」
ドアノブに掛けた手を止めて、リーゼロッテは二人の姿を蒼色の瞳に映した。そこに籠められた感情の色は、複雑に混ざりあっていて読み取ることは不可能であった。
「……わかりました。では、中へどうぞ」
快く了承の意を示され、青年は微笑み少年は俯く。行くぞ、と小突かれた青年は少年の腕を掴むと、リーゼロッテの手からドアノブを奪い扉を開ける。
まずはリーゼロッテを部屋に入れ、そのあとに少年を進ませる。そして自分は最後に部屋へと入ると、音を立てぬように後ろ手で慎重に扉を閉じた。
ゆっくり、閉ざされる扉。部屋の真ん中ほどまで進んだところで、リーゼロッテは振り返った。
「どういったお話なのでしょう?」
危機感の欠片もない声。青年は口元に笑みを浮かべると、迷わずに鍵を掛けた。
冷たく響く施錠音。それを合図に、少年はリーゼロッテの背後に回り両手首を掴むと空いていた手で彼女の口を塞いだ。
少年の手は小刻みに震えているが、リーゼロッテを逃がさぬようにと細い手首を痕が付きそうな強さで拘束していた。
「初めに言っておきますが、別に私たちはリーゼロッテ様の命を奪おうとは考えておりませんよ」
極めて紳士的な声色で、余りにも場違いな態度で青年はリーゼロッテに目を向けた。
暴れることもなければ、恐れる様子もない。リーゼロッテは黙って青年の言葉に耳を傾けていた。
顔色一つ変えないリーゼロッテを気味悪がりながらも、青年は平静を装ってリーゼロッテの目の前へと足を進める。
「ただ、その身の純潔を奪わせていただきたい……そう考えているだけです」
リーゼロッテの眉間にしわが刻まれた。冷たく睨み付けられたところで、青年が構うことなどない。
青年は欲望を隠しきれない歪んだ笑いを浮かべると、厚手の布地に覆い隠されたリーゼロッテの太股を下からなぞるように撫で上げた。
「しっかり押さえてろよ。ここまで来て怖じ気づくな」
少年は黙って頷くと、リーゼロッテを拘束する力を強めた。そして、後ろ手に拘束しているリーゼロッテの両手を引き、青年に向けて胸を突き出すような体勢を取らせる。
少年の気遣いに満足げに微笑むと、青年は足を撫で回していた手を止めてリーゼロッテの胸元を隠すリボンに手を掛けた。
「騒いだって無駄ですよ。警備が入ってきたところで、私たちは貴方に誘われたのだと言えばいいのです。この店の主人は潔癖なところもありますが、そこで働くものが皆同じ志とは限りませんからね。それなりのお金さえ握らせてしまえば、こちらの言い分に同意してくれますよ」
服の上からでも、女性らしい体つきであることがわかる。将来の第三王子の妻となる女性の純潔を奪えと命令を受けたときは厄介事に巻き込まれてしまったという思いしかなかったが、それなりに楽しめそうな相手であれば少しは気が紛れる。
どうせ事が表に出てしまっても、青年が処罰されることはないだろう。背後にいる存在のおかげで、彼は何一つ心配をすることなく女性の体を貪ることが出来るのだ。
「しかし、本当に処女なのですか? どうせ若い男騎士様辺りと密会でもしてもう身も心も真っ黒なんじゃないですかね。うちでもいいトコのご令嬢の間で自分より身分の低い男との逢い引きが流行したことあったろ?」
青年はリーゼロッテの背後で彼女を押さえる少年に声を掛けたが、少年は怯えた様子で目を逸らした。自分がしていることの恐ろしさを理解していながらも、手を離せない葛藤で唇は動かせない。
反応を示せない少年に対してつまらなさそうに舌打ちをすると、引きちぎるようにしてリーゼロッテのリボンを剥ぎ取った。
「……つまらないですね。少しは抵抗したらどうなんです? それとも、昔からこうして乱暴にされるのは慣れているんですかね?」
面白味がないのはリーゼロッテも同じだった。青年など興味なさそうに目を伏せている。この状況から逃げ出す術を探しているようにも見えるが、騒ぎ立てたところでリーゼロッテに勝ち目はない。
開かれた胸元から除いた肩甲骨を、男は指先で羽で触れるように撫で上げる。
険しい瞳を崩さぬまま、リーゼロッテは青年の手から逃れるように上半身を逃がそうとした。しかし、後ろの少年がリーゼロッテの両手を押さえているため逃げることは叶わなかった。
「私に触られるのが嫌なのか、純潔を守りたいのか、どちらでしょうね」
青年は、笑う。嫌がる姫を無理矢理汚すというのは、中々に心が踊る。
しかし、リーゼロッテはこれ以上自身の柔肌を夫でもない男に晒すつもりはなかった。
「いっ!」
リーゼロッテは自分の口を押さえていた少年の指に躊躇いなく噛み付いた。突然の痛みに少年の拘束は緩む。
その隙を逃さず、リーゼロッテは背後の少年の足を自分の足で引っ掛けると、足払いを掛けて自分の体ごと少年を背中から床へと打ち付ける。
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