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 駅から続く海沿いの国道をしばらく歩くと、山側の木々が突然途切れて石段が現れる。

 ヒールが削れるのを気にしながら、長く急な石段を一気に駆け上った。
 潮風で削れた石の鳥居に到着して、一息つく。振り返れば、穏やかな波の隙間に漁船を浮かべている青い海と、そこから細く続く街並みを一望できる。

 小さな神社の敷地では、参道の途中で老人が3人、石段に腰掛けて将棋盤を囲んでいた。
 2人が眉間に皺を寄せて一世一代の真剣勝負とでも言うように将棋を指して、1人が口を真一文字にして更に真剣に勝負を眺めている。

 言葉が無くても盛り上がっていることが分かり、声を掛けるのはやや憚られた。しかし、学生時代に住んでいた慣れ親しんだ街の、見覚えのある老人たちだ。
 高校生の時、勉強に疲れて通学途中にこの神社に寄り道をしたこともある。
 同級生がまるで誰かを待っているかのように、この神社で放課後の時間を潰していたことも知っている。

「少し、お話いいですか?」

 スカートを折り畳んでしゃがみ、老人たちと同じ目線になって声を掛けた。
 将棋に熱中していた老人たちは、初めて自分たち以外の存在に気付いたようで顔を上げて驚いた表情で固まっていた。小狸のような3人揃った反応に、思わず笑いそうになるのを堪える。

「昔、この神社に子供を置いて行った女性をご存じないですか?」

 老人たちは、質問の答えを考える前に顔を見合わせて囁き始めた。
 どこかで見た顔だ、テレビに出ている奴だ、と話し合っていて、何時まで待っても問に対する返事は返って来ない。
 これ以上警戒される前に、先回りしてバッグから名刺を一枚出した。
 仕事相手に渡すのと同じように、指を揃えて両手で差し出す。

「私は、こういう者です」

 まるで代表のように恭しく名刺を受け取ったのは、将棋が優勢にあった老人だった。この3人の力関係が垣間見れた気がする。
 老人は、受け取った名刺を顔の前から離したり近付けたりして、銀色の文字を確かめた。

「さんじょう……えるか」

 名前をそのまま読み上げられて、私は仕事用の笑顔で頷いた。
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