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お前、平凡じゃなかったのかよ
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青春なんていう余計な言葉は誰が考え出したのだろう。
学校も勉強も、それから、恋とかいう得体の知れない感覚も。
「何でこんなところで始めるかね……。なあ閑谷」
「あ、うん。そっちは確かアライ君、だよね」
「そ……二組の荒井。荒井純。荒れ狂うの荒に、井戸の井で荒井。純は純粋の純。お前はあれだろ、たしか、一組の閑谷京」
「うん」
これも何かの縁だ。よろしくな、と荒井がひそひそとした声で言う。
狭苦しい図書室の準備室で資料を漁っていた二人は、突如読書スペースで始まった男女の密会に対し、完全に出どころを失っていた。
ちゅうちゅう、とあからさまなリップ音が漂ってくる。
「うわあ」
と荒井がほんのりと頬を染め小声で喚いた。
興味津々といった様子はまさしく思春期の男子高校生らしい反応だったが、荒井はそれ以上彼らをからかうでもなく息を潜めているだけだった。からかいもしない。馬鹿にもせず、ただひたすらに大人しくしていた。
精悍な横顔。意外にも紳士的で、スポーツマン然とした彼の部活動はたしか陸上部だったはずである。さすが二組で一番の人気者、と閑谷京は彼の背後に隠れながら感心した。
しばらくして、抱き合っていた二人は廊下の足音に驚いたのか出て行った。足音が完全に消え去るのを待って荒井が振り返り、詰まった息をやっとの思いといった顔で吐いている。
「閑谷、お前案外冷静だったな」
「……まあ、その」
「まさかよくあるのか、さっきみたいな────」
「うん……といってもこれで三回目くらいだと思うけど。人がいるのをわかってて始まったこともある」
「うげえ」
そんなやついるのかよ、と荒井は尻を叩いて立ち上がる。閑谷も倣って腰を上げる。
「にしてもホント冷静だな。お前」
どうかな、とは口に出さずにかぶりを振った。静かにしているから大人しく見えるだけだよ、としか思わない。自覚はまったくないからだ。
「ところで、探してた資料はこれで全部?」
「あ、ああうん。たぶん全部だと思う。ありがとうな。それと、悪かった。放課後だってのにわざわざ鍵、持ってこさせちまって。助かったわ」
京は首を振る。
「いや。大丈夫。今日は塾もなかったし」
「そっか。塾、か。……うう、そういや流石に寒くなってきたな」
「だね。そろそろ十一月になるし」
「……じゃあそろそろ行くか。塾に通ってるくらいなんだから、お前は早く家に帰って勉強に専念したいだろ」
荒井は京の細い肩を軽く叩くと、扉の取手に手をかけた。静まり返った図書館を出ると、外はまだ十七時にもなっていないというのに暮れ始めていた。そしてどことなく肌寒い。
「鍵は職員室に返しておくよ」
「悪いな」
「大丈夫。僕図書委員だし」
廊下に出ると閑谷は手を軽く上げ爽やかな顔で「じゃあな」と言うと立ち去っていく。後ろ姿まで爽やかに見えるのは気の所為だろうか。「じゃあね」と小声で消えゆく同級生に返事をして手を振った。
大きく見えるしなやかな背中は、すぐに廊下の角を曲がって見えなくなった。
これは冬の訪れを顕著に感じる、十月の末のことである。
小さくなっていく彼の背が廊下の角を曲がるまで見送って、閑谷京は「大丈夫なんかじゃない」とひとり小さく呟いた。図書室の冷たい鍵を握りしめ、しばらく薄暗い廊下に立ち尽くす。
「どうしろってんだよ、こんなの」
入学と同時にほぼ一目惚れだった相手、荒井純。
高校一年生、本格的な冬を迎える始まりの日のことだった。閑谷はこの時期にして、ようやく彼との縁に巡り合う。
物語は、こうして放課後の図書室において始まった。
────かのように思われた。
荒井は隣のクラスの中でも特に明るい部類の男だ。まさに“一軍選手”なんだよな、と閑谷京は彼の様子を思い浮かべた。
それに比べて、自分は特段取り立てるほどの存在とは言い難い。平凡も平凡。特技といった特技もないし、むしろそれ以下の存在と言える。もしも閑谷と何らかの繋がりができ、運良く関わることができたとしたって、それは一友人としての健全なるお付き合いで幕を閉じることになるだけだろう。
「どうしたんだよ、京」
「うん……」
「おばさん、ジュース持ってきてくれたんだぞ」
友人の水野宗介に小突かれる。母親が顔を出しに来ていたなんて気が付かなった。
水野のぱっと見の印象はザ・インテリ。カッチリとした七三分けはギャグのようだが、これを水野本人は心底気に入っているらしい。周囲からくすくすという笑い声が聞こえても平然としているのが水野であった。似合っていないわけではない。ただ単に学生らしくないというだけで。
ほら、とオレンジジュースの注がれたコップを渡される。
「あ、ありがとう」
「いやいや。それはお前のご母堂に言うべき言葉であって僕にではない」
大学受験に向けての大切な時期だ。なのに、積み上げられた参考書が恋のせいでこうも下らないものに見えてくるとは思わなかった。
水野はまた参考書とのにらめっこに戻っていく。彼は勉強熱心でクラスでも成績は良い方だ。なのに志望校を聞けば閑谷と同じ地元のパッとしない私立大学を目指すのだという。受験においては、いわばライバルでもあるわけだが、彼とはいがみ合ったこともその予兆も今のところない。むしろこうして自宅に招き、穏やかに机を囲む程度の仲だった。
微妙な季節だ。まだ暖房をつけるまでもないのに、窓を叩く不規則な雨だれのせいで外は真冬のように見える。
気心の知れた水野といて気が落ち着いているからだろうか。今日はもう、一切のやる気も起こらなかった。閑谷は相槌をうちながら、教科書やらノートやらを机の脇に押しやると溜め息を吐いた。
はっきり言って、まったく身が入らない。当然のように思い浮かぶのは数学の公式や英単語ではなく精悍な荒井純の顔である。荒井純。脳裏に浮かぶのは、ひとえに彼の姿だけだった。
「どうしたよ、京」
「いや────」
「恋わずらいか」
「恋わずらい、てお前」
古風だな、と京が笑う。
「図星か。まあ青春だな。委員会にも精力的に参加していたし、達成できてない項目は恋だけということか」
水野は教科書から顔を上げた。彼は自慢の七三分けを人の家の鏡を使ってそれは堂々と確認している。
「……でも、どうしようもないよ。だろ、僕たちは」
「ああ、我々はゲイだからな」
「声が大きい」
京は「しーっ」と言いながら口に指先を当てる。
「だが仕方なかろう。恋とは得てして不自由なものだ。気が付いた時にはすでに始まっているのが相場だろう。彼ら一軍の皆様のように特段格好よくない人間であっても、それでもこうして恋に落ちることくらい、至極普通なこととして許されるはず」
つらつらと述べる水野に閑谷は口を尖らせる。
「だがな」
唐突にワントーン落ちた声音に、今度は閑谷が顔を上げる番だった。
夕方の薄暗くなってきた空間に、水野の意外なまでに整った顔が浮いている。
そうだ、と思う。この男はこんなだが、こんなことを言ってはいるが、決してブサイクなわけでも愚鈍でもない人間だった。髪型と言動さえまともならクラス中の女子が放ってはおかないだろうというような。考えてみれば平凡だなどと────そんな風に、閑谷が水野を下に見たり思ったりしたことは一度もなかった。
むしろ、こうして閑谷に合わせている節すらあるような。いや。だとすればそれは一体いつからの話だったろう。気が付けば、閑谷は入学以来水野とばかり共にいた。
だがな、と水野はもう一度繰り返す。
「誰かを好きだと思ったお前の思いは、決して間違いなんかじゃない」
閑谷はいつの間にかカーペットに押し倒されていた。
「は────?」
「そして僕の君への思いもまた、絶対に間違いなんかじゃない」
そういって、胴体に跨った男は自慢なはずの完璧な七三分けをぐしゃぐしゃと左右に振り乱す。
こうして背をつけて寝転んでみると、カーペットというものはそれほど柔らかくもないし弾力もないのだな。いや、この部屋の物が安っぽいからか────閑谷がふと考えたのはそんなような至極どうでもよい感想だった。いつの間に、水野にのしかかられている。
「みずの、お前」
バラけた前髪の隙間からいやに艶っぽい切れ長の瞳が見下ろしている。
「僕にすればいい。な、閑谷。……君は僕にすればいいと思うんだ」
水野が前髪をかき上げる。閑谷の脇腹を指先でなぞり、そして服越しにするすると撫でられる。
制服の中に滑り込む親友の右手。胸板に触れる長く骨ばった指先に腰が弾んだ。閑谷はバクバクと五月蝿い心音を感じながら、ただ漠然として浮ついた思いのまま頷いた。
「僕はさ、君が頭の良い男が好きだと言うからこの髪型にしてフザけた喋り方をしてたんだ。でも荒井か。なら今度は体育祭も頑張らないといけないな」
こんなやつ知らない。こんな──こんな強引な男は。
「おまえ、平凡じゃなかったのかよ」
水野は「うーん」と唸る。
「平凡てなんなのかな」
「は……」
「平凡て何だろう。確かに中学までモテなかったことはないよ。女からも男からも。人に恵まれてきた僕みたいなやつを君は平凡とは呼ばないのかもしれない。でもさ、何にしたって僕になびかなったのは君だけだった。それなら、僕に惹かれなかった京こそが孤高なんじゃないのかな。……君以外が平凡なのかもしれないとは、どうして考えてみないわけ」
ここまで言われても、閑谷は己を特別だとは思えなかった。どう考えても自分は普通だと思う。勉強も運動も。せいぜい半分は嫌味にしか聞こえない。
身体を折り曲げ、寄せられる水野の整った顔を眺めながら、閑谷は今後確実に荒れるであろう残りの学生生活を憂うのだった。至近距離で見つめられる。水野はそれ以上は何もせず、口にせず、閑谷の上から退くと荷物をまとめて出ていった。
学校も勉強も、それから、恋とかいう得体の知れない感覚も。
「何でこんなところで始めるかね……。なあ閑谷」
「あ、うん。そっちは確かアライ君、だよね」
「そ……二組の荒井。荒井純。荒れ狂うの荒に、井戸の井で荒井。純は純粋の純。お前はあれだろ、たしか、一組の閑谷京」
「うん」
これも何かの縁だ。よろしくな、と荒井がひそひそとした声で言う。
狭苦しい図書室の準備室で資料を漁っていた二人は、突如読書スペースで始まった男女の密会に対し、完全に出どころを失っていた。
ちゅうちゅう、とあからさまなリップ音が漂ってくる。
「うわあ」
と荒井がほんのりと頬を染め小声で喚いた。
興味津々といった様子はまさしく思春期の男子高校生らしい反応だったが、荒井はそれ以上彼らをからかうでもなく息を潜めているだけだった。からかいもしない。馬鹿にもせず、ただひたすらに大人しくしていた。
精悍な横顔。意外にも紳士的で、スポーツマン然とした彼の部活動はたしか陸上部だったはずである。さすが二組で一番の人気者、と閑谷京は彼の背後に隠れながら感心した。
しばらくして、抱き合っていた二人は廊下の足音に驚いたのか出て行った。足音が完全に消え去るのを待って荒井が振り返り、詰まった息をやっとの思いといった顔で吐いている。
「閑谷、お前案外冷静だったな」
「……まあ、その」
「まさかよくあるのか、さっきみたいな────」
「うん……といってもこれで三回目くらいだと思うけど。人がいるのをわかってて始まったこともある」
「うげえ」
そんなやついるのかよ、と荒井は尻を叩いて立ち上がる。閑谷も倣って腰を上げる。
「にしてもホント冷静だな。お前」
どうかな、とは口に出さずにかぶりを振った。静かにしているから大人しく見えるだけだよ、としか思わない。自覚はまったくないからだ。
「ところで、探してた資料はこれで全部?」
「あ、ああうん。たぶん全部だと思う。ありがとうな。それと、悪かった。放課後だってのにわざわざ鍵、持ってこさせちまって。助かったわ」
京は首を振る。
「いや。大丈夫。今日は塾もなかったし」
「そっか。塾、か。……うう、そういや流石に寒くなってきたな」
「だね。そろそろ十一月になるし」
「……じゃあそろそろ行くか。塾に通ってるくらいなんだから、お前は早く家に帰って勉強に専念したいだろ」
荒井は京の細い肩を軽く叩くと、扉の取手に手をかけた。静まり返った図書館を出ると、外はまだ十七時にもなっていないというのに暮れ始めていた。そしてどことなく肌寒い。
「鍵は職員室に返しておくよ」
「悪いな」
「大丈夫。僕図書委員だし」
廊下に出ると閑谷は手を軽く上げ爽やかな顔で「じゃあな」と言うと立ち去っていく。後ろ姿まで爽やかに見えるのは気の所為だろうか。「じゃあね」と小声で消えゆく同級生に返事をして手を振った。
大きく見えるしなやかな背中は、すぐに廊下の角を曲がって見えなくなった。
これは冬の訪れを顕著に感じる、十月の末のことである。
小さくなっていく彼の背が廊下の角を曲がるまで見送って、閑谷京は「大丈夫なんかじゃない」とひとり小さく呟いた。図書室の冷たい鍵を握りしめ、しばらく薄暗い廊下に立ち尽くす。
「どうしろってんだよ、こんなの」
入学と同時にほぼ一目惚れだった相手、荒井純。
高校一年生、本格的な冬を迎える始まりの日のことだった。閑谷はこの時期にして、ようやく彼との縁に巡り合う。
物語は、こうして放課後の図書室において始まった。
────かのように思われた。
荒井は隣のクラスの中でも特に明るい部類の男だ。まさに“一軍選手”なんだよな、と閑谷京は彼の様子を思い浮かべた。
それに比べて、自分は特段取り立てるほどの存在とは言い難い。平凡も平凡。特技といった特技もないし、むしろそれ以下の存在と言える。もしも閑谷と何らかの繋がりができ、運良く関わることができたとしたって、それは一友人としての健全なるお付き合いで幕を閉じることになるだけだろう。
「どうしたんだよ、京」
「うん……」
「おばさん、ジュース持ってきてくれたんだぞ」
友人の水野宗介に小突かれる。母親が顔を出しに来ていたなんて気が付かなった。
水野のぱっと見の印象はザ・インテリ。カッチリとした七三分けはギャグのようだが、これを水野本人は心底気に入っているらしい。周囲からくすくすという笑い声が聞こえても平然としているのが水野であった。似合っていないわけではない。ただ単に学生らしくないというだけで。
ほら、とオレンジジュースの注がれたコップを渡される。
「あ、ありがとう」
「いやいや。それはお前のご母堂に言うべき言葉であって僕にではない」
大学受験に向けての大切な時期だ。なのに、積み上げられた参考書が恋のせいでこうも下らないものに見えてくるとは思わなかった。
水野はまた参考書とのにらめっこに戻っていく。彼は勉強熱心でクラスでも成績は良い方だ。なのに志望校を聞けば閑谷と同じ地元のパッとしない私立大学を目指すのだという。受験においては、いわばライバルでもあるわけだが、彼とはいがみ合ったこともその予兆も今のところない。むしろこうして自宅に招き、穏やかに机を囲む程度の仲だった。
微妙な季節だ。まだ暖房をつけるまでもないのに、窓を叩く不規則な雨だれのせいで外は真冬のように見える。
気心の知れた水野といて気が落ち着いているからだろうか。今日はもう、一切のやる気も起こらなかった。閑谷は相槌をうちながら、教科書やらノートやらを机の脇に押しやると溜め息を吐いた。
はっきり言って、まったく身が入らない。当然のように思い浮かぶのは数学の公式や英単語ではなく精悍な荒井純の顔である。荒井純。脳裏に浮かぶのは、ひとえに彼の姿だけだった。
「どうしたよ、京」
「いや────」
「恋わずらいか」
「恋わずらい、てお前」
古風だな、と京が笑う。
「図星か。まあ青春だな。委員会にも精力的に参加していたし、達成できてない項目は恋だけということか」
水野は教科書から顔を上げた。彼は自慢の七三分けを人の家の鏡を使ってそれは堂々と確認している。
「……でも、どうしようもないよ。だろ、僕たちは」
「ああ、我々はゲイだからな」
「声が大きい」
京は「しーっ」と言いながら口に指先を当てる。
「だが仕方なかろう。恋とは得てして不自由なものだ。気が付いた時にはすでに始まっているのが相場だろう。彼ら一軍の皆様のように特段格好よくない人間であっても、それでもこうして恋に落ちることくらい、至極普通なこととして許されるはず」
つらつらと述べる水野に閑谷は口を尖らせる。
「だがな」
唐突にワントーン落ちた声音に、今度は閑谷が顔を上げる番だった。
夕方の薄暗くなってきた空間に、水野の意外なまでに整った顔が浮いている。
そうだ、と思う。この男はこんなだが、こんなことを言ってはいるが、決してブサイクなわけでも愚鈍でもない人間だった。髪型と言動さえまともならクラス中の女子が放ってはおかないだろうというような。考えてみれば平凡だなどと────そんな風に、閑谷が水野を下に見たり思ったりしたことは一度もなかった。
むしろ、こうして閑谷に合わせている節すらあるような。いや。だとすればそれは一体いつからの話だったろう。気が付けば、閑谷は入学以来水野とばかり共にいた。
だがな、と水野はもう一度繰り返す。
「誰かを好きだと思ったお前の思いは、決して間違いなんかじゃない」
閑谷はいつの間にかカーペットに押し倒されていた。
「は────?」
「そして僕の君への思いもまた、絶対に間違いなんかじゃない」
そういって、胴体に跨った男は自慢なはずの完璧な七三分けをぐしゃぐしゃと左右に振り乱す。
こうして背をつけて寝転んでみると、カーペットというものはそれほど柔らかくもないし弾力もないのだな。いや、この部屋の物が安っぽいからか────閑谷がふと考えたのはそんなような至極どうでもよい感想だった。いつの間に、水野にのしかかられている。
「みずの、お前」
バラけた前髪の隙間からいやに艶っぽい切れ長の瞳が見下ろしている。
「僕にすればいい。な、閑谷。……君は僕にすればいいと思うんだ」
水野が前髪をかき上げる。閑谷の脇腹を指先でなぞり、そして服越しにするすると撫でられる。
制服の中に滑り込む親友の右手。胸板に触れる長く骨ばった指先に腰が弾んだ。閑谷はバクバクと五月蝿い心音を感じながら、ただ漠然として浮ついた思いのまま頷いた。
「僕はさ、君が頭の良い男が好きだと言うからこの髪型にしてフザけた喋り方をしてたんだ。でも荒井か。なら今度は体育祭も頑張らないといけないな」
こんなやつ知らない。こんな──こんな強引な男は。
「おまえ、平凡じゃなかったのかよ」
水野は「うーん」と唸る。
「平凡てなんなのかな」
「は……」
「平凡て何だろう。確かに中学までモテなかったことはないよ。女からも男からも。人に恵まれてきた僕みたいなやつを君は平凡とは呼ばないのかもしれない。でもさ、何にしたって僕になびかなったのは君だけだった。それなら、僕に惹かれなかった京こそが孤高なんじゃないのかな。……君以外が平凡なのかもしれないとは、どうして考えてみないわけ」
ここまで言われても、閑谷は己を特別だとは思えなかった。どう考えても自分は普通だと思う。勉強も運動も。せいぜい半分は嫌味にしか聞こえない。
身体を折り曲げ、寄せられる水野の整った顔を眺めながら、閑谷は今後確実に荒れるであろう残りの学生生活を憂うのだった。至近距離で見つめられる。水野はそれ以上は何もせず、口にせず、閑谷の上から退くと荷物をまとめて出ていった。
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