君の「好き」を教えて。~ガリ勉とイケメン定時制ヤンキーDKの奇妙な100日間の話~

清田あお

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第五話

はじめてのお部屋訪問……?

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その日は午前中からずっと自室で勉強していて、気付いたらもう昼過ぎになってしまっていた。今日は、母は予定があるらしく、家にいなかった。「ちゃんと勉強しなさいね」というメモと昼食がリビングのテーブルに置いてある。味噌汁だけ簡単なものを作って、昼食を食べた。
(あー疲れたな)
 肩を回すと、ボキボキ鳴っている。最近肩こりもひどい。
 外の空気を吸いたくなって、家を出た。自宅から徒歩圏内の場所に、大きな都営民公園がある。二つの駅にまたがるほど広く、ランニングやサイクリングをする市民の憩いの場だ。
 今日は曇りでそこまで爽快感はないが、肩を回しながら脚を動かすと肩こりが少しマシになった気がする。勇み足で公園まで歩いたものの、ものの二十分も歩くと疲れてしまい、ちょうど空いていたベンチに避難した。
(勉強ばっかじゃなくて、なんかさすがにちゃんと運動しなきゃなあ)
 と、芝生で元気に走り回る保育園児たちをみて思っていたそのときだった。
「あれ、みっちゃん」
 上下ホワイトのジャージに身を包んだ春日がいた。目深に有名スポーツブランドの明細柄のキャップをかぶっている。ピンクの髪と合っていて、ジャージ姿なのにお洒落だ。春日は耳たぶのイヤホンを外し、グレーの目を細めて、「偶然だね」と静かに笑った。
「散歩中なんだ」
と言った春日の足元には、赤いリードで繋がれた、見慣れた茶色いダックスフンドがこちらを見上げている。
「もしかして、みう?」
「うん!」
 生でみるみうは、LINEのアイコンよりも大きくてまるまるしていて可愛かった。舌を出して、は、は、と首を揺らしている。
「はじめまして、可愛いね、みう」
 もっと近くでみたくて思わず膝を折る。目が黒い硝子玉みたいだ。「触ってもいい?」と聞いて「もちろん」と返ってきたので、首のあたりを撫でている。長い毛並がさわさわとしていて気持ちがいい。
「みっちゃん、どうしたの?」
「家が近いんだよね。あっちのほう」
 と、自宅の大雑把な一を示す。
春日は隣駅に住んでいるが、運動がてら、みうの散歩をするのが日課なのだという。この公園の奥のほうには都内有数の広さを誇るドッグランもある。
僕も帰宅部かつ塾通いで日常的に運動不足だし、意識的に運動しなければと思うのだが、つい勉強を言い訳にさぼってしまう。そう愚痴をこぼすと、「まあ運動はしたほうがいいよねー」と春日は言った。
「俺さ」
 春日が神妙な顔で呟く。
「なに?」
「最近ずっと座って勉強してるから、お尻にニキビできちゃった」
 思わず吹き出す。
「笑わないでよー」 
「そんなことある?」
「座りっぱなしで運動不足になると、お尻にニキビできやすいんだってさ」
 それは嫌すぎる。でも、この運動不足感からしたら僕も油断したらなってしまいそうだ。お尻にニキビは嫌なので、運動して保湿ケアしないとならなさそうだ。
「だからウォーキングしよーよ」
 ちょうどランニングコースだったので、少し息があがるくらいのスピードで早めのウォーキングをしながらしゃべった。紫陽花な朝顔の紫に包まれながらコースを一周したあとには、うっすら汗をかくくらい心拍数はあがっていて、久しぶりの運動の感覚が気持ちよかった。
「あのさ、みっちゃん、このあと時間ある?」
「うん、予定ないよ」
 公園のカフェでお茶でも飲んで帰ろうよ、とでも言われるかと思って軽く答えた。のだが、春日は立ち止まってまっすぐ僕を見据えた。
 キャップのつばが顔に落としている影のせいで、表情はよく見えない。いつもより、ぐっと目もとに力がこもっているようだった。
「今からうち来ない?」
「えっ」
 思わず声が裏返り、頬が熱くなった。
「今日、親もきょうだいもいないからお茶出すよ。ちょっと休んでいかない?」
「えっ、でも」
 家で二人きりなんて、緊張してしまう。
でも、別に異性じゃないし、むしろ意識しているほうが変なのかもしれない。それに、春日がどんな部屋に住んでいるのかはすごく気になった。
「じゃ、じゃあ……」
 でも「行きたい!」と断言するのも憚られて曖昧に濁すと、春日は笑顔になって「じゃあ行こう~」とみうのリードを引いた。
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