うるさい

あおいみま

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うるさい

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隣のクラスの藤野菫は、なんか変。
綺麗な顔してて、背だって高くて、芸能人みたいな容姿をしてる。
でも、藤野菫はなんか変。



「……………………………しね」



屋上からグラウンドを見下ろして、ぽつりと一言。
なにか気配を感じたのか、不意に振り向いて後ろにわたしが立っていることに気づくと、死んだ目を細めて笑った。



「なにしてるの?」

「そっちは?」

「別に。きみは?」

「別に」


そっか、って笑う藤野菫がゆっくり近づいてくる。
まるで彫刻みたいに綺麗な顔がじっと見つめてくるから、魔法に掛けられたみたいに動けなくなる。
目の前で足を止めた藤野菫が、もっとよく見ようとそっと顔を近づける。



「きみ有名人だよね」

「そっちがでしょ」

「ふーん。近くで見るとほんと人形みたい」

「そっちこそ」

「なんか気持ち悪いね。女子同士がかわいいかわいい褒め合ってるみたいな感じでさ」



真顔でそう言うとわかりやすく作り笑顔を浮かべる。その笑顔はどういう意味を持つ笑顔なんだろう。
藤野菫は、やっぱりなんか変。



「屋上よく来るの?」

「たまに」

「なにしに?」

「気晴らし」

「俺も。なんかさ、学校って騒がしいよね」

「中二病みたいな発言だね」

「でも、わかるでしょ?」

「うん」

「昔から、街中とか学校とか。なんか苦手でさ」

「うん」

「ものすごくうるさくて、気が変になりそうな感じがする」

「うん」

「声だけがうるさいってわけじゃなくてさ」

「なんか、視線がうるさいときってあるじゃん」

「うん」

「きみもわかるでしょ」

「なんとなく」

「整った容姿に産んでくれて、親にはほんと感謝してるけどさ、たまに、その……視線がうるさくて、こう……頭の中がぐちゃぐちゃーってなって。いらいらーってしたりなんかして」

「うん」

「なんか、もう……みんなしねよって思うときとかあって」

「うん」

「きみは女の子だからもっと敏感なんじゃない」

「どうだろ」

「男の視線が自分の体にまとわりつくの、うんざりしない?」

「うーん」

「教師とか、男子生徒とか、街ですれ違うおじさんたちとか」

「.......」

「やらしい目で見てくるの、鬱陶しいでしょ」

「どうだろ」

「俺たちってたぶん他の子たちより自意識過剰なんだろうけど、しょうがないよね。実際に小さい頃からそういう視線ばかり浴びてきたんだからさ」

「.......」

「視線で済めば、まだいい方だけどね」




口端をあげて笑う藤野菫の目が、一瞬淀んで見えた。
それでも彼はすごく綺麗で、やっぱり変な子だと思った。
もしかしたら、生きてきた中で汚らわしいものをたくさん見てきたのかな。よくわかんないけど。




「とにかくみんな俺とやりたいって必死なの。笑えるよね」




なんて自意識過剰なんだろう。
でもあながち間違ってはいないから、なにも言えないし、言うつもりもない。
確かに、同級生も先輩も後輩も彼に夢中な女の子はたくさんいる。
だってこんなに美しい男の子が、同じ学校にいれば、そりゃあ夢中にもなるし試しにセックスだってしてみたい。
彼が気持ちいいって感じてる顔を見てみたいし、彼の体に触れてみたい。




「普通に話してても、好意と下心がダダ漏れで、胸焼けするときがある。絶対この子俺のことオナネタにしてるでしょ、みたいなさ」

「すごいこと言うね」

「きみだって思うときあるでしょ。絶対こいつあたしで抜いてるわーって」

「どうだろ」

「ねえねえ俺でオナニーしたことある?」



首を横に振る。嘘、ほんとはあるけど。



「そっか、残念」



どうやら、嘘はバレなかったらしい。
そっと手を伸ばしてわたしの髪をよけて耳に触れる。
耳たぶをぷにぷに触りながらピアス開けてないんだ、なんて言ってる藤野菫の目は、やっぱり淀んでるみたいに見える。



「俺はね、あるよ」

「ピアスの穴?」

「ううん。君でオナニーしたことあるよって」






わたしの耳から手を離すとくるりと背中を向けて再びグラウンドを見下ろす藤野菫。
そっと隣に並んでグラウンドを見下ろす。
手を繋ぐ二つの影は、なんだか見覚えがある。
女の子は、隣の隣のクラスの子で、あまり目立たないようなタイプの子。
男の方は、確か……藤野菫のお兄さん。




「あいつ、俺の幼なじみ」

「うん」

「隣にいるの、俺の兄貴」

「うん」



知ってるけど。



「二人、付き合ってんの」

「うん」

「この前さ、部活サボって帰ったら兄貴の部屋でセックスしてた」

「うん」

「あいつのあんな声聞いたの初めてでさ、しぬかと思った」

「うん」

「ものすごく胸が痛くて。苦しくなった。でも好奇心はあるからさ、あいつの声、少しだけ聞いて。またすぐに家を出た」



そこまで言って、こっちに顔を向ける藤野菫。
隣を見れば、色のない目がそこにあった。
絶望してるのかな。よくわかんないけど。
なんだかすごく、かわいそうだと思った。



「ねえ、慰めて」

「うん」

「いいの?」

「いいよ」

「彼氏いるでしょ」

「うん」

「なんだっけ。一学年下のさ」

「うん」

「なのに、いいの?」

「いいよ」

「まさか」

「うん?」

「俺のことすきとか」

「まさか」

「じゃあなんで?」

「なんでと聞かれても、よくわからない」

「そっか」







そのあと、キスして、体を触って、セックスした。
学校でしたのも、外でしたのも、浮気したのも。なにもかも、初めてだった。




野外でするときはどういう体位が正しいのかと疑問に思ったけど、彼が選択したのは立ちバックだった。



行為が終わってすぐにまた絶望した顔に戻る藤野菫。
そしてぽつりと呟く。





「しのうかな」

「慰めた意味なかったね」

「………………ねえまた慰めてくれる?」

「どうだろ」

「きみがまた慰めてくれるなら、しなない」

「わたしのことすきなの?」

「ううん別に」

『.....................................』

「でもきみの体は割とすき」




わたしのことなんて、どうでもいいってことを藤野菫のしんだ目が物語る。
自分のお兄さんとうれしそうに手を繋いでいた幼なじみのあの子に、心から焦がれていることを、痛いほど物語る。


その目が、何の気なしにわたしの胸を突くから、ものすごく不愉快で。

















うるさい。



















「また慰めてくれる?」















曖昧に頷くと、小さく笑う藤野菫。
それからぎゅっと抱きしめてくれる。



違う意味で抱き合ったついさっきのことを思い出して、足の間がじんわり熱を持った。






いつもよりはやい胸の鼓動が、すごくうるさい。












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