最後の事件(作:門弟 廃村) ― 5分間ミステリバックナンバーVol. 15―

筑波大学ミステリー研究会

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解答編

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 ドアを開けると、宇治十条の前には男が立っていた。男は、サングラスとマスクを外し、宇治十条に向かって叫んだ。 

「宇治十条さん、どうして生きているんですか!? 」 



 斧が、宇治十条が殺されたと聞いたのは、三日前、十一月三日のことだった。 

 宇治十条の弔いのため、犯人を捕まえてやろうと吹雪く北海道の山奥を二日間登り続けて流氷館にたどり着いた斧を待っていたのは、他ならない宇治十条の姿だった。 

 ひげとほくろで誤魔化してはいたが、紛れもなく生きて動いている宇治十条に思わず絶句した斧は、最後の力を振り絞って彼の元に駆けていこうとしたものの、一瞬、なぜ死んだはずの宇治十条がこうして生きているのだろうか、と強烈な戸惑いが生じ、床に視点を落とした。 

 その後、まる一日部屋にこもって流氷館で起こった殺人事件について考えていた斧は、館の主人の青山が、殺された人物を宇治十条だと考えていること、そして三人が宇治十条のことを赤井和也であると認識しているという奇妙な事態に気づいていた。

「青山さんに、宿帳を見せてもらいました。あのノートの、一番右側に書かれていたのは宇治十条さんの字ではない。おそらく、殺された赤井さんのものでしょう。そして、あなたは赤井和也と書いて、チェックインをした」 

 そのとおり、と宇治十条は考えた。宇治十条は最後に宿を訪れたのに、宇治十条の名は初めに書かれてある。 

「赤井は、僕の名をかたる偽物だ。この旅館で何を企んでいたのかは分からないが、行く先々で僕のふりをして適当に事件をでっち上げ、金をふんだくって行く」 

 宇治十条は、この赤井だけはなんとしても自分の手で捕まえなければならない、と思い、単身で流氷館へと向かったのだ。果たして、変装をした赤井は宇治十条の名で振る舞っていた。 

「そして、宇治十条のふりをした赤井を、あなたが殺した。あなたは赤井になりかわった」 

 殺すはずではなかった。ただ、問い詰めようとしただけだ。だから、赤井が変装を解く唯一の機会である、入浴中を狙って声をかけたのだ。 

「赤井を殺してしまったあなたは、赤井の首を潰した。探偵宇治十条を抹殺し、自分は消え失せようとした。警察が来ていないのはあなたにとって、これ以上ない幸運だった」 そう。まさか、これが宇治十条最後の事件になるとは、考えてすらいなかった。 

「僕は、殺されたのは宇治十条さんだと思っていた。でも、実際は犯人が宇治十条さんだった」 

 宇治十条には、言い逃れる術は残ってはいなかった。なぜなら、宇治十条がいまここに、こうしていること自体がなによりの証拠だ。 赤井こと宇治十条が、自室である101号室のベッドの下にハンマーを隠したのはついさっきのことだ。言い逃れはとてもできない。「そう。そのとおりだ。僕は、自分の探偵人生に、自分からカーテンを下ろしてしまったんだな」 

「まさか、助手である僕が、宇治十条さんを犯人だと指摘する日が来ようとは、思ってもいませんでした……」 

 そう斧が呟くと、宇治十条はひげとほくろを取り外した。 

「ああ、最後の事件も終わりだな」 

 ばらばらばら、とヘリの音とも雪崩の音ともつかない音が鳴っている。外は晴れているのか、吹雪いているのか。 

 ともあれ、宇治十条最後の事件はこうして幕を下ろし、そして斧琴菊最初の事件となったのであった。 



――――――――――――――――――――――――――――――――



「すごい、正解だよ、下沢君。初めて正解したね」 

 上沢さんは、僕に解かれたというのに、なんだかうれしそうだ。 

「最後の事件っていうのには、だいたい三パターンあると思う。 

 第一に、探偵が殺される、または死んでしまう場合。 

 第二に、実はその探偵が偽物を騙っている場合。 

 第三に、探偵自身が犯人の場合」 

「それを、全部やりたかったんですね」 

「そう。そのとおり」 

「でも、これが最後の事件なんて、なんだか本当にさみしいですね」 

「いいんだよ。思い入れのある探偵、宇治十条のために、最高の晴れ舞台を用意したつもりだ」 



 かくして、宇治十条最後の事件は終わった。そして、上沢先輩の最後の五ミスも終わる。カーテンはもう下ろされるのだ。
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