湯煙密室(作:門弟 廃村) ― 5分間ミステリバックナンバーVol. 4―

筑波大学ミステリー研究会

文字の大きさ
2 / 2

解答編

しおりを挟む
 そのネットニュースを目にしたのか、さっそく電話をかけてきた上沢先輩の自宅に招かれて、我々は話し始める。部屋中に、脱力感が漂う。上沢先輩が口を開く。

「なあ、まったくばかげていると思わないか」

「全くです。まさか、あんな……」

「本当だ。笑いごとではないよ。私たちの、脳気立ったあの夜の推理合戦はいったい何だったんだ。まさか、被害者の下の名前が春男。男だったなんて……」

 そうなのだ。僕たちは大きな、それこそ致命的な思い違いをしていた。あの小さな切り抜きには、被害者の性別はもちろん、現場が男湯であったことすらも書いてなかったのだ。つまり、もちろん上沢先輩は正真正銘の女性であるわけだから、(女性が好きだが)事件当夜は女湯に入っていた。新聞を探すと、ある記事が見つかった。秋山さんが殺されたのとほぼ同じ時刻に、女湯で中年女性が立ちくらみを起こして浴槽内に倒れて救急車で搬送されるという事があったのだ。上沢先輩が見たのはその場面だった。湯船が赤かったのは、浴槽の底に頭をぶつけたときに、切ってしまったからだという。我々は、初めから土俵に上がってもいなかったのだ。僕はまた、憤りながら

「しかも、あの真相がひどすぎる。まさか、全員が共犯だったなんて。現実にあんなトリックが使われるなんて驚きですよ。陳腐すぎる」あの夜、一番最初に案が出ながらも、現実性が乏しいのと、現場に上沢先輩がいたという理由で没になったトリックが使われていた。あの場に上沢先輩がいなかったのであれば、可能となるトリックだ。

「けっきょく、僕たちのあいだで鉄壁の密室ができてただけで、現実には密室なんてなかったんですね」まったく、本物の、画期的な密室トリックなんて絶滅危惧種なのだ。

「でも、私は今回の経験は結構レアだったと思うぞ。短編であったら面白いかもしれない」

 と、嬉しそうな上沢先輩。

「しかしですね、その場合、相当の情報を読者に隠すことになりますよ。しかも、上沢先輩が現場にいないなんていう超重大事項を知らせないで書き進むのは、いくらなんでもフェアじゃないと思いますよ」少し考え込んで、上沢先輩は答える。

「そんなの簡単だ。本編に入る前に、大前提として書いておけばいいのさ。今回の事件において、上沢先輩は一切無関係です。ってね」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

処理中です...