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第二章 マクロ・シーン1「アリサと瑠奈」 3
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首都医科大学医学部に入学後、アリサと瑠奈は新宿副都心にある同大学教養学部のキャンパスで一緒に学んだ。
二人とも東京に実家があって、それぞれ両親と一緒に暮らしているので、大学の講義や実習が終わると、大体いつもは真っすぐ帰宅する。
家に帰ればまた勉強だ。将来パスしなくてはならぬ医師国家試験は出題範囲があまりにも広く、その対応のために網羅しなくてはならない診断や治療上の知識と技能の量は半端ではない。
それでも、学生実習班などで一緒だったアリサと瑠奈は、すぐに仲良くなった。勉強や実習にひと段落着いた日などは、時々二人でショッピングや食事を楽しんだ。
まるでモデルか女優のような二人が並んで街を歩いていると、すぐに若い男たちが寄って来た。
二人とも身長は百六十五センチを超え、東京生まれの研ぎ澄まされたファッション感覚も自然に身に着いているため、どこを歩いていても目立つ。それが二人一緒となると、なおさら誰の目にもとまった。
声を掛けてくる男達を適当にあしらって撃退するのは、いつもアリサの役目だった。瑠奈は、知らぬ男には誰に話しかけられても、ツンとして冷たく相手にしなかった。
だが実は、瑠奈は初心でボーイフレンドを持った経験すらなかったのだ。その点アリサの方が、一緒に飲みに行く程度の浅い関係の男友達を何人か持っていたので、ナンパ男たちを引き離す術も身に付いていた。
二人で街に行くと、あまりにも高い頻度でそうした邪魔が入るので、瑠奈は自分が目立たぬ様にわざと着古したジーンズやセーターを着て、化粧も全くせずショッピングに出た。
アリサもそれに合わせた服装と身なりで瑠奈に付き合ったが、男たちはそれでも目ざとく二人の女神たちの後を追った。
そんな男達に幻滅したのか、瑠奈は大学時代も同学部の男子学生を始め男達には見向きもせず、勉学に励んだ。
やがて彼女は、医学研究に興味を抱くようになる。
そうして、自分が最も執心していたT細胞ウイルスワクチンの研究で世界の最先端を行く呉地達三が主宰する、血液内科学講座に入局したのである。
医局選びに際し、一方のアリサには特別どうといった動機もなかったが、親友の瑠奈が血液内科の医局に入りたいと言うので、
「じゃあ私も」
とくっついて行った。
二人とも学業は優秀であったし、何といっても見栄えのいい女医の卵たちを主任教授の呉地が見逃すはずはなかった。
外科系の医局は女子医学生に人気がなく、女医は殆ど外科に入局しないが、血液内科学講座には、そこそこに女医がいた。二人は、血液内科のポリクリで学んだあと、主任教授の呉地から即入局の許可をもらった。
このように瑠奈の医局選びには強い動機があったのに対し、アリサの方は言ってみればどこでもよかった。
しかし血液内科に入ってみると、入院して来る患者の病気の難治度や重篤度に接し、アリサは本来持っていた医師としての強い使命感に呼び起こされることになる。
急性の骨髄性またはリンパ性の白血病、悪性リンパ腫、成人T細胞白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群等々、難治血液疾患の患者の致死率は、決して低くはなかった。入局当初、若く右も左もわからぬ彼女の目の前で、たくさんの患者が死んでいった。
医学の無力さと自分自身の無力さを、その時彼女は嫌というほど味わった。
しかしそういった臨床での現実を目の当たりにし、アリサはそれに屈するのではなく立ち向かう気持ちを強くした。
難治疾患患者の死の病状と正面から向き合い、一人でも多くの命を救っていく。その気持ちが、血液内科学講座入局後のアリサを動かしたのであった。
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