全ステFの異世界無双、禁忌スキル【分身】でこの世界を頂きます!

アセチルサリチルさん

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第15話 悩みなんて温泉で流しちゃいなよ!(名案)

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銀髪のショートカット。

 見覚えのある顔。


「お前……!」

「……クレア=ヴァンガードだ。先日は、失礼した」


 あの女騎士だ。

 なんでここに?しかも一人で?


「……何しに来た?」

「偵察……いや、違う」

 クレアが首を振った。

「私は——」


 言葉に詰まっている。


「……見たかったんだ」

「見たかった?」

「この場所を。あの日、垣間見た光景を……もう一度、確かめたかった」


 俺は少し考えて——


「……とりあえず、上がれよ」

「は?」

「せっかく来たんだし。お茶でも飲んでけ」


 クレアが目を丸くした。

「私は、敵だぞ……?」

「敵っていうか……まだ何もされてないし」

「……」


「お頭、いいんすか?」

 ダリオが心配そうな顔をしている。


「まあ、大丈夫だろ。変なことしたらヴォル吉くんが焼くし」

「グルル」

 ヴォル吉くんが得意げに頷く。


「……分かった。お言葉に甘えよう」

 クレアが、緊張した面持ちで中に入ってきた。




————————————————————




 俺はクレアを連れて、教会の中を案内した。


 1階の大浴場。湯気が立ち上る温泉。

 働く人々。笑い声。子供たちの歓声。


「……」

 クレアが、じっと辺りを見回していた。


「ここがうちの自慢の温泉。大浴場は男女共用だけど、みんな服着て入るからな。スパリゾートみたいなもんだ」

「スパ……?」

「まあ、細かいことはいい。見てみろよ、あいつら」


 俺は、湯船の縁に座って談笑するダリオたちを指差した。


「元盗賊だ。ゲルツ領から逃げてきた連中」

「……」

「みんな、お前んとこの領主に絞り取られて、食えなくなって、盗賊になるしかなかった」

「……」

「でも今は、こうして笑って暮らしてる」


 クレアの表情が、少しずつ変わっていく。


「……私は」

 クレアが呟いた。

「騎士になった時、弱き者を守ると誓った」


「……」


「でも、今の私は何をしている……?税を絞り取る領主の手先。逃げ出した民を『取り戻す』ための兵隊……」


 クレアの声が震えていた。


「これが……正義なのか……?」


 俺は何も言わなかった。

 言葉より、この場所が答えになると思ったからだ。


「……温泉、入ってみるか?」

「は?」

「いいから。入ってみろって。疲れ取れるし、頭も冷えるぞ」


 クレアが困惑した顔をしている。


「リーシャ、案内してやってくれ」

「は~い!」

 リーシャがにこにこしながらクレアの腕を取った。

「こっちですよ~!女湯に案内しますね~!」

「ま、待て、私は別に——」

「いいからいいから~!」


 クレアが引きずられていく。

 ……まあ、女同士の方が話しやすいこともあるだろ。


「オルファ、お前も行ってやってくれないか?」

「……私も?」

「なんか、一人だと思いつめそうじゃん、あの人。それに、オルファに少し似てる部分がありそうなんだ」

「なにそれ?」

「なんていうか、こう…ツンツンしてるとこ、とか?」

「…射たれたいなら、そう言いなさい?」

 ひいぃっ!

「……まあ、いいわ。見てくるわね」

 オルファがため息をついて、リーシャたちの後を追っていった。




————————————————————




 ——女湯。


 湯気の立ち込める空間で、クレアは湯船に浸かっていた。

 鎧も、騎士としての矜持も、全て脱ぎ捨てて——白磁の肌を湯に沈めている。


「……」

 じわりと、体が温まっていく。

 こんなにゆっくり湯に浸かるのは、いつぶりだろうか。


「気持ちいいでしょ~?」

 リーシャが隣に座った。

「ここの温泉、最高なんですよ~」


「……ああ」

 クレアの声は、まだ硬かった。


「ねえ、クレアさん」

 オルファが湯船の縁に腰掛けながら言った。

「さっきから気になってたんだけど……あんた、本当はどうしたいの?」


「……」


「ゲルツの命令で来たんでしょ?でも、わざわざ一人で戻ってきた。なんで?」


 クレアが、しばらく黙っていた。

 湯気が立ち上る。静かな空間。


「……分からないんだ」

 やがて、絞り出すように言った。

「私は、騎士になった時、弱き者を守ると誓った」


「……」


「でも、今の私は何をしている……?税を絞り取る領主の手先。逃げ出した民を『取り戻す』ための兵隊……」


 クレアの声が震えた。


「これが……正義なのか……?」


 リーシャとオルファが顔を見合わせた。


「……私も、似たようなもんだったわ」

 オルファが静かに言った。

「ギルドの依頼をこなして、金を稼いで。それが冒険者だって思ってた」


「……」


「でもここに来て、分かったの。本当に守りたいものは、依頼書には書いてないって」


 クレアが顔を上げた。


「ユーヤ様は~、たまにアレですけど~、本当に優しい方なんですよ~」

 リーシャがにこにこしながら言った。

「逃げてきた人たちを受け入れて、ご飯を食べさせて、働く場所を作って~」


「……」


「ゲルツ領から逃げてきた人たち、みんな笑ってるでしょ~?」


 クレアは、昼間見た光景を思い出していた。

 働く人々。笑顔。活気。

 規模は小さいながら、ゲルツ領の荒廃した街並みとは、まるで違った。


「……私は」

 クレアの目から、涙がこぼれた。

「私は……間違っていた…のか…?」


「知らないわよ、そんなこと。でも……間違っていたとあんたが思うのなら、これからやり直せばいいじゃない」

 オルファが言った。

「あんたが騎士になった理由、まだ捨ててないんでしょ?」


「……」


「弱い者を守りたいなら、ここにいればいい。守りたいもの、いっぱいあるわよ」


 クレアの肩が震えた。

 嗚咽が漏れる。


「……ここに、いていいのだろうか?私は……敵としてきたのに…」

「いいに決まってるでしょ。もしユーヤのバカが理由もなく、あんたを追い出そうとしたら、その時は私があいつを殴るわ」

「オルファさん!ユーヤ様はそんなことしませんよ~!」

「わかってるわよ!」


 リーシャがそっとクレアの背中に手を置いた。

「ゆっくり浸かってください~。温泉は、心もあったかくしてくれますから~」


「……ありがとう」

 絞り出すような声だった。

「……ありがとう……」


 クレアは、湯の中に顔を沈めた。

 涙が湯に溶けていく。


「……あったかい」


 その声は、少しだけ穏やかになっていた。




————————————————————




 その夜。大浴場。


 俺は湯船に浸かりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。

 隣ではヴォル吉くんがぷかぷか浮いていて、テラ沢さんは相変わらず鼻だけ出して沈んでる。


「ユーヤ様~」

 リーシャが近づいてきた。簡素な入浴着姿だ。

「クレアさん、もう寝ちゃいましたよ~」


「そっか。どうだった?」

「めちゃくちゃ泣いてました~。可愛かったです~」

 リーシャがにこにこしている。


「で、何か話したのか?」

「色々です~!騎士になった理由とか~、ゲルツ領のこととか~」


 オルファが湯船の反対側から口を挟んだ。

「あの人、根は真面目なのよ。正義感が強すぎて、自分で自分を追い詰めてたって感じ」


「そっか……」


「でも、ここにいてもいいって言ったら、ちょっと楽になったみたい」

「オルファさん、いいこと言ってましたよ~。『間違ってたなら、やり直せばいい』って~」

「……別に。当たり前のこと言っただけよ」

 オルファが少し照れくさそうに髪をかき上げた。


「で、あの人どうするの?」

「どうするって?」

「仲間にするの?」

「本人次第だろ。別に俺が決めることじゃない。ただ……六属性至上主義やファルミス教的な思想が強くなければいいけど…」


 オルファが肩をすくめた。

「まあ、それは大丈夫なんじゃない?話した感じ」

「お前も大概優しいよな」

「うるさい」

 リーシャがクスクス笑っている。


「ユーヤ様~、お背中流しましょうか~?」

「いや、いい」

「え~、遠慮しないでくださいよ~」

「遠慮じゃなくて……ほら、みんないるし」


 周りを見ると、ダリオたちも湯船に浸かっている。使徒たちは壁際で静かに佇んでいる。


「関係ないですよ~?」

「俺は関係あるの!」

 オルファが呆れた顔で俺を見ている。


「……アンタたち、いつもこんな感じなの?」

「大体こんな感じですね~」

「不名誉な!」

 オルファがため息をついた。

「まあ、平和でいいんじゃない」


 ……平和。

 そうだな、平和だ。


 いつまで続くかは分からないけど——今は、この時間を楽しもう。


 
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