全ステFの異世界無双、禁忌スキル【分身】でこの世界を頂きます!

アセチルサリチルさん

文字の大きさ
16 / 17

第15話 悩みなんて温泉で流しちゃいなよ!(名案)

銀髪のショートカット。

 見覚えのある顔。


「お前……!」

「……クレア=ヴァンガードだ。先日は、失礼した」


 あの女騎士だ。

 なんでここに?しかも一人で?


「……何しに来た?」

「偵察……いや、違う」

 クレアが首を振った。

「私は——」


 言葉に詰まっている。


「……見たかったんだ」

「見たかった?」

「この場所を。あの日、垣間見た光景を……もう一度、確かめたかった」


 俺は少し考えて——


「……とりあえず、上がれよ」

「は?」

「せっかく来たんだし。お茶でも飲んでけ」


 クレアが目を丸くした。

「私は、敵だぞ……?」

「敵っていうか……まだ何もされてないし」

「……」


「お頭、いいんすか?」

 ダリオが心配そうな顔をしている。


「まあ、大丈夫だろ。変なことしたらヴォル吉くんが焼くし」

「グルル」

 ヴォル吉くんが得意げに頷く。


「……分かった。お言葉に甘えよう」

 クレアが、緊張した面持ちで中に入ってきた。




————————————————————




 俺はクレアを連れて、教会の中を案内した。


 1階の大浴場。湯気が立ち上る温泉。

 働く人々。笑い声。子供たちの歓声。


「……」

 クレアが、じっと辺りを見回していた。


「ここがうちの自慢の温泉。大浴場は男女共用だけど、みんな服着て入るからな。スパリゾートみたいなもんだ」

「スパ……?」

「まあ、細かいことはいい。見てみろよ、あいつら」


 俺は、湯船の縁に座って談笑するダリオたちを指差した。


「元盗賊だ。ゲルツ領から逃げてきた連中」

「……」

「みんな、お前んとこの領主に絞り取られて、食えなくなって、盗賊になるしかなかった」

「……」

「でも今は、こうして笑って暮らしてる」


 クレアの表情が、少しずつ変わっていく。


「……私は」

 クレアが呟いた。

「騎士になった時、弱き者を守ると誓った」


「……」


「でも、今の私は何をしている……?税を絞り取る領主の手先。逃げ出した民を『取り戻す』ための兵隊……」


 クレアの声が震えていた。


「これが……正義なのか……?」


 俺は何も言わなかった。

 言葉より、この場所が答えになると思ったからだ。


「……温泉、入ってみるか?」

「は?」

「いいから。入ってみろって。疲れ取れるし、頭も冷えるぞ」


 クレアが困惑した顔をしている。


「リーシャ、案内してやってくれ」

「は~い!」

 リーシャがにこにこしながらクレアの腕を取った。

「こっちですよ~!女湯に案内しますね~!」

「ま、待て、私は別に——」

「いいからいいから~!」


 クレアが引きずられていく。

 ……まあ、女同士の方が話しやすいこともあるだろ。


「オルファ、お前も行ってやってくれないか?」

「……私も?」

「なんか、一人だと思いつめそうじゃん、あの人。それに、オルファに少し似てる部分がありそうなんだ」

「なにそれ?」

「なんていうか、こう…ツンツンしてるとこ、とか?」

「…射たれたいなら、そう言いなさい?」

 ひいぃっ!

「……まあ、いいわ。見てくるわね」

 オルファがため息をついて、リーシャたちの後を追っていった。




————————————————————




 ——女湯。


 湯気の立ち込める空間で、クレアは湯船に浸かっていた。

 鎧も、騎士としての矜持も、全て脱ぎ捨てて——白磁の肌を湯に沈めている。


「……」

 じわりと、体が温まっていく。

 こんなにゆっくり湯に浸かるのは、いつぶりだろうか。


「気持ちいいでしょ~?」

 リーシャが隣に座った。

「ここの温泉、最高なんですよ~」


「……ああ」

 クレアの声は、まだ硬かった。


「ねえ、クレアさん」

 オルファが湯船の縁に腰掛けながら言った。

「さっきから気になってたんだけど……あんた、本当はどうしたいの?」


「……」


「ゲルツの命令で来たんでしょ?でも、わざわざ一人で戻ってきた。なんで?」


 クレアが、しばらく黙っていた。

 湯気が立ち上る。静かな空間。


「……分からないんだ」

 やがて、絞り出すように言った。

「私は、騎士になった時、弱き者を守ると誓った」


「……」


「でも、今の私は何をしている……?税を絞り取る領主の手先。逃げ出した民を『取り戻す』ための兵隊……」


 クレアの声が震えた。


「これが……正義なのか……?」


 リーシャとオルファが顔を見合わせた。


「……私も、似たようなもんだったわ」

 オルファが静かに言った。

「ギルドの依頼をこなして、金を稼いで。それが冒険者だって思ってた」


「……」


「でもここに来て、分かったの。本当に守りたいものは、依頼書には書いてないって」


 クレアが顔を上げた。


「ユーヤ様は~、たまにアレですけど~、本当に優しい方なんですよ~」

 リーシャがにこにこしながら言った。

「逃げてきた人たちを受け入れて、ご飯を食べさせて、働く場所を作って~」


「……」


「ゲルツ領から逃げてきた人たち、みんな笑ってるでしょ~?」


 クレアは、昼間見た光景を思い出していた。

 働く人々。笑顔。活気。

 規模は小さいながら、ゲルツ領の荒廃した街並みとは、まるで違った。


「……私は」

 クレアの目から、涙がこぼれた。

「私は……間違っていた…のか…?」


「知らないわよ、そんなこと。でも……間違っていたとあんたが思うのなら、これからやり直せばいいじゃない」

 オルファが言った。

「あんたが騎士になった理由、まだ捨ててないんでしょ?」


「……」


「弱い者を守りたいなら、ここにいればいい。守りたいもの、いっぱいあるわよ」


 クレアの肩が震えた。

 嗚咽が漏れる。


「……ここに、いていいのだろうか?私は……敵としてきたのに…」

「いいに決まってるでしょ。もしユーヤのバカが理由もなく、あんたを追い出そうとしたら、その時は私があいつを殴るわ」

「オルファさん!ユーヤ様はそんなことしませんよ~!」

「わかってるわよ!」


 リーシャがそっとクレアの背中に手を置いた。

「ゆっくり浸かってください~。温泉は、心もあったかくしてくれますから~」


「……ありがとう」

 絞り出すような声だった。

「……ありがとう……」


 クレアは、湯の中に顔を沈めた。

 涙が湯に溶けていく。


「……あったかい」


 その声は、少しだけ穏やかになっていた。




————————————————————




 その夜。大浴場。


 俺は湯船に浸かりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。

 隣ではヴォル吉くんがぷかぷか浮いていて、テラ沢さんは相変わらず鼻だけ出して沈んでる。


「ユーヤ様~」

 リーシャが近づいてきた。簡素な入浴着姿だ。

「クレアさん、もう寝ちゃいましたよ~」


「そっか。どうだった?」

「めちゃくちゃ泣いてました~。可愛かったです~」

 リーシャがにこにこしている。


「で、何か話したのか?」

「色々です~!騎士になった理由とか~、ゲルツ領のこととか~」


 オルファが湯船の反対側から口を挟んだ。

「あの人、根は真面目なのよ。正義感が強すぎて、自分で自分を追い詰めてたって感じ」


「そっか……」


「でも、ここにいてもいいって言ったら、ちょっと楽になったみたい」

「オルファさん、いいこと言ってましたよ~。『間違ってたなら、やり直せばいい』って~」

「……別に。当たり前のこと言っただけよ」

 オルファが少し照れくさそうに髪をかき上げた。


「で、あの人どうするの?」

「どうするって?」

「仲間にするの?」

「本人次第だろ。別に俺が決めることじゃない。ただ……六属性至上主義やファルミス教的な思想が強くなければいいけど…」


 オルファが肩をすくめた。

「まあ、それは大丈夫なんじゃない?話した感じ」

「お前も大概優しいよな」

「うるさい」

 リーシャがクスクス笑っている。


「ユーヤ様~、お背中流しましょうか~?」

「いや、いい」

「え~、遠慮しないでくださいよ~」

「遠慮じゃなくて……ほら、みんないるし」


 周りを見ると、ダリオたちも湯船に浸かっている。使徒たちは壁際で静かに佇んでいる。


「関係ないですよ~?」

「俺は関係あるの!」

 オルファが呆れた顔で俺を見ている。


「……アンタたち、いつもこんな感じなの?」

「大体こんな感じですね~」

「不名誉な!」

 オルファがため息をついた。

「まあ、平和でいいんじゃない」


 ……平和。

 そうだな、平和だ。


 いつまで続くかは分からないけど——今は、この時間を楽しもう。


 
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。