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第4話 泣きながら土下座されても困るんだけど(困惑)
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その盗賊長の名はダリオといった。
元農民。隣の領地で、麦を作って暮らしていたらしい。
「数年前までは、まだマシだったんです」
焚き火を囲んで、ダリオは語り始めた。
仲間たちは地面に座り込んで、俯いている。皆んな疲れ切った顔だ。
「でも、領主が変わってから全部おかしくなった。税が……税が、とんでもないことになって」
「税?」
「はい。今年は収穫の7割以上を持っていかれました」
「……は?」
俺は思わず声が出た。
7割? そんなことありえるのか?
俺の反応を見たダリオが、おもむろに説明を始めた。
「まず『稼得税』。稼いだ分の2割を持っていかれます」
「稼いだら取られる……」
「次に『定住税』。住んでるだけで収入の1割5分。払えなきゃ家を追い出されます」
「住んでるだけで1割5分?」
「それから『売買税』。物を買うたびに1割。所得に関係なく一律で"なにか買う度に"売価の1割分を払います」
オルファが眉をひそめる。
「まだあります」
ダリオの声が低くなった。
「『継承税』——身内が死んだら財産のから3割を納めろ。『贈答税』——誰かに物をあげたら届け出て税を払え。『通行税』——街道を使うたびに銅貨を取られる。『所有税』——畑や家、馬車なんかを持ってるだけで毎年取られる」
「……多すぎない?」
「極めつけが2つあります」
ダリオが苦笑する。笑うしかない、という顔だ。
「『献上税』。領主様への奉仕として、収穫の2割を無条件で納める。理由は——『貴族・領主だから』それだけです」
「……」
「そして『耕作税』。畑の広さで税額が固定せれる。収穫量は関係ない。不作でも豊作でも、決まった額を持っていかれる。去年は不作だったのに、同じ額を要求されて……」
ダリオの声が震えた。
「種籾すら残らなかった。来年の分がない。それでも払えと言われる。払えなければ——見せしめに、殺されるか奴隷落ちだ。家族ごと」
言葉が途切れた。
「……俺の弟も、そうだった」
周りの男たちが、さらに深く俯いた。
「だから俺たちは——盗むしかなかった。他の村から。旅人から。……そうしないと生きられないから」
俺は黙って聞いていた。
……これは酷い。追放貴族の底辺領主の俺から見ても笑えないレベルだ。
仮にも元貴族だから分かる。税ってのは民から搾り取るものじゃない。領地を回すための仕組みだ。取りすぎれば民が死に、民が死ねば領地が死ぬ。そんなの当たり前のことだ。
この税制は——あまりにも暴利だ。
こんなの、民が飢えるに決まってる。何考えてるんだ、隣の……
「なあ、隣の領主って誰だ?」
「バロン=ゲルツ男爵です」
ダリオの声に、憎悪が滲んでいた。
バロン=ゲルツ。覚えておこう。
……なるほど。だから武器の持ち方が素人だったのか。
元々は普通の農民で、生きるために盗賊まがいのことをしていた。好きでやってるわけじゃない。
「で、なんでうちに来たんだ?」
「……噂を聞いたんです」
ダリオが顔を上げた。目に、微かな光がある。
「この領地に、変人領主がいるって」
変人とは人聞きの悪い。
ダリオは続けた。
「六属性Fで追放されて捨てられた土地に送られたって…」
「おまけに今は邪教もいるんだけどね」
俺はリーシャの方に視線をやった
「邪教じゃないですよ~」
リーシャが横から口を挟む。
「ヤルダヴォート教です~。入信しませんか~?」
「……今それ言う?」
俺がつっこむと、リーシャは「てへ」と笑った。
ダリオは一瞬キョトンとして、それから小さく笑った。
「変な噂は本当だったんですね……」
「悪かったよ。変で」
「とんでもございません。普通じゃない奴…失礼。御方なら、俺たちを受け入れてくれるかもしれないって思ったんです」
ダリオが地面に額をつけた。土下座だ。
「頼む。ここで働かせてください。盗みはもうしたくない。……まともに、生きたいんだ」
後ろの男たちも、次々と頭を下げる。
10人もの大人が、俺に向かって土下座している。
正直、居心地が悪い。俺はただの15歳。六属性Fの追放貴族だ。こんな大人たちに頭を下げられる器じゃない。
でも——
「……なあ」
俺はダリオの前に行った。
「顔を上げてくれないか」
「え……」
「土下座されても困るっていうか……俺だって余裕があるわけじゃないし。正直、食い扶持が増えるのはキツいんだ」
ダリオの顔が曇る。
「でもさ」
俺は続けた。
「しっかり働いてくれるなら、話は別かなって」
ダリオが顔を上げる。目が、わずかに潤んでいる。
「働けば食える。それだけでいいと思うんだ。難しいことは言わない。畑耕したり、柵作ったり、石運んだりここのためになることならなんでもいい……そういうのはできるか?」
「で、できます……!」
「なら、ぜひここで一生に暮らそう。……まあ、サボったら追い出さざるを得ないけど、その辺は期待してるよ?」
ダリオの目から、涙がこぼれた。
「ありがとう……ありがとうございます……!」
周りの男たちも、泣いていた。
大の大人が皆んなしてボロボロ泣いている。なんだこの絵面。この国ってそんなにヤバいのか…?
「泣かなくていいって。飯の準備するから、今日は休んでてくれ」
俺がそう言うと、リーシャがすっと隣に来た。
「アルト様、優しいですね~」
「……いや、人手が欲しかっただけだよ」
「ふふ、そういうことにしておきますね~」
リーシャがにこにこ笑う。
なんか見透かされてる気がして、ちょっとだけムカつく。
オルファが近づいてきた。
「いいの? 元盗賊を受け入れて」
「まぁ元農民でもあるしね」
「そうだけど。……危険じゃない?」
「どうだろうな。これから分かるんじゃないか。ダメそうだったらその時考えるよ」
オルファが俺を見る。何か言いたそうな顔だったが、何も言わなかった。
「……アンタ、変わってるわね」
「最近よく言われるよ」
追放されてからずっとだ。もう慣れた。
その夜。
ダリオたちは、信徒が用意した粗末な食事を、涙を流しながら食べていた。
石のように硬いパンと、屑野菜のスープ。大したものじゃない。でも、彼らにとっては久しぶりの"まともな"
食事だったらしい。
「美味い……美味いです……」
ダリオが鼻をすすりながら言う。
「もう何ヶ月も、こんなもの食えてなかったんです。盗んだ食い物は、味もしなくて……」
「……そっか」
俺は何も言えなかった。
俺だって追放されて、最初の数日はなものを食ってなかった。でも、この人たちはもっと長い間、そういう生活を強いられていたんだ。
盗賊になりたくてなったんじゃない。
税で絞り尽くされて、選択肢を奪われた。
俺は空を見上げた。星が出ている。静かな夜だ。
隣の領地では、こうやって星を見る余裕すらなかったんだろうな。
「アルト様~」
リーシャが隣に座った。
「どうした?」
「あの人たち、なんだか可哀想ですね~」
「……そうだな」
「でも、これで仲間が増えましたね! 私たちの教えを広めるチャンスです~!」
「リーシャは本当にブレないな……」
「えへへ~」
金色の髪を揺らしながらにこにこ笑う。
彼女は空気読めないのか、読んでいないのか分からない。でも、こういう時にこういうことを言えるのは、ある意味で強さなのかもしれない。正直こういう状況ではその雰囲気が本当に助かる。
「……まあ、布教は程々にしといてくれよ」
「分かってます~。押し売りはしませんよ~」
——さっき早速「入信しませんか」って言ってた気がするけれど...
まあいいか。今夜は色々あった。考えるのは明日だ。
翌朝。
ダリオたちは、日の出と同時に起きて、働き始めていた。
「すごいな……」
俺は目を擦りながら、それを見ていた。
畑を耕している。石を運んでいる。柵を補修している。
黙々と、手際よく。農民の動きだ。
「元々、働き者だったんでしょうね~」
リーシャが横で言う。いつの間にか起きていた。
「みたいだね」
俺は分身を出した。ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ。4人。
「よし、お前らも手伝ってきてくれ」
「了解!」
「任せろ!」
「働く!」
「腹減った!」
……1人不安要素はあるが、まあいい。
分身がダリオたちに混ざって作業を始める。
最初はダリオたちも戸惑っていたが、すぐに慣れたようだ。
「領主様方、こっちの石運び手伝ってくだせぇ!」
「おう!」
「おう!」
「おう!」
「腹減った!」
誰かこのバカ、クビにしてくれないかな。
昼過ぎ。
畑仕事をしていたら——森の方から、地響きが聞こえた。
「なんだ?」
振り向いた瞬間、木々を薙ぎ倒しながら巨大な影が突っ込んできた。
牙の生えた猪。角うさぎの比じゃないデカさ。"魔物"だ。
「「「「「うわぁぁぁ!」」」」」
ダリオたちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「落ち着け! 散らばるな!」
俺は咄嗟に叫んだ。
猪はこっちに向かってきている。だが、真正面から突っ込んでくるなら——
「分身、左右に散れ! 正面は俺が引きつける!」
「「「了解!」」」
分身が左右に展開する。俺は猪の正面に立ったまま、ギリギリまで引きつけて——
「今だ!」
横っ飛びで躱す。猪が俺のいた場所を通過した瞬間、左右から分身が飛びかかった。
「後ろ足だ! 押さえろ!」
「「おう!」」
2人が後ろ足にしがみつく。猪が暴れるが、動きが鈍る。
そこへ——
ヒュン。
オルファの矢が猪の前足に刺さった。
「ナイス! ダリオ、今だ!」
「任せてくだせぇ!!」
ダリオが斧を振り下ろした。
ドスッ。
猪が倒れる。
「……やった」
「やったぁ!」
「勝った!」
「すげえ、領主様!」
分身とダリオたちが歓声を上げる。
オルファが少し驚いた顔で俺を見た。
「……アンタ、意外と度胸あるわね」
「死にたくないだけだよ。逃げ回ってたら全員やられてた」
「まあ、判断は悪くなかったわ」
珍しく褒められた。
リーシャがにこにこしながら近づいてきた。
「アルト様~、かっこよかったですよ~!」
「そうか?」
「はい! あと、この猪、食べられますよ~。肉、美味しいんです~」
……食えるのか、これ。
夕方。
焚き火を囲んで、猪肉を焼いていた。
脂が滴り、炎が一瞬大きくなる。香ばしい匂いが広がる。
「美味そう……」
ダリオたちが生唾を飲む。久しぶりの「自分たちで狩った肉」だ。
「よし、焼けた。食たべよう!」
俺が肉を切り分けると、全員が一斉に手を伸ばした。
「「「いただきます!」」」
かぶりつく。
「……っ、美味い!」
「美味いです……!」
「肉だ……本物の肉だ……」
元盗賊たちの目から、涙がこぼれていた。
隣の領地では、肉なんて贅沢品だったんだろう。
「泣くか食べるかどっちかにしなよ笑」
「すみません……でも、こんな……こんなご馳走久々すぎて……」
ダリオが俺のところに来た。
「領主様」
「アルトでいいよ。領主様とか慣れてないし」
「じゃあ……アルト様」
底辺領主の俺に"様"も慣れない気がするが、まあいいか。
「どうした?」
「ありがとうございます。本当に」
ダリオが深々と頭を下げる。
「俺たち、ここで真面目に働きます。絶対に、裏切りません」
「……助かるよ」
俺は照れ臭くなって、視線を逸らした。
こんな風に感謝されることなんて、追放されてから一度もなかった。
なんか、こういうの悪くない気分だ。
「アルト様~、私にもお礼言ってください~」
リーシャが横から割り込んできた。
「リーシャは何もしてないだろ」
「えー、ご飯作ったじゃないですか~」
「それ信徒じゃん?」
「信徒は私の手足ですから、実質私です~」
めちゃくちゃ言うな。でも、まあ——
「……ありがとな、リーシャ」
「えっ」
リーシャが頬を赤らめて目を丸くした。
「い、いえ、どういたしまして……?」
なんか動揺してる。珍しいな。
俺は猪肉を齧りながら、空を見上げた。
領民が増えた。10人。
分身と合わせれば、それなりの人数だ。
これで少しは、領地らしくなるかもしれない。
——そう思っていた矢先。
空に、大きな影が横切った。
例のドラゴンだ。
「「「「「うわぁぁぁ!」」」」」
ダリオたちが一斉に悲鳴を上げる。そりゃそうだ。
俺は溜息をついた。
「……そういえば、あいつのこと忘れてたなぁ...」
どうしよ?!
元農民。隣の領地で、麦を作って暮らしていたらしい。
「数年前までは、まだマシだったんです」
焚き火を囲んで、ダリオは語り始めた。
仲間たちは地面に座り込んで、俯いている。皆んな疲れ切った顔だ。
「でも、領主が変わってから全部おかしくなった。税が……税が、とんでもないことになって」
「税?」
「はい。今年は収穫の7割以上を持っていかれました」
「……は?」
俺は思わず声が出た。
7割? そんなことありえるのか?
俺の反応を見たダリオが、おもむろに説明を始めた。
「まず『稼得税』。稼いだ分の2割を持っていかれます」
「稼いだら取られる……」
「次に『定住税』。住んでるだけで収入の1割5分。払えなきゃ家を追い出されます」
「住んでるだけで1割5分?」
「それから『売買税』。物を買うたびに1割。所得に関係なく一律で"なにか買う度に"売価の1割分を払います」
オルファが眉をひそめる。
「まだあります」
ダリオの声が低くなった。
「『継承税』——身内が死んだら財産のから3割を納めろ。『贈答税』——誰かに物をあげたら届け出て税を払え。『通行税』——街道を使うたびに銅貨を取られる。『所有税』——畑や家、馬車なんかを持ってるだけで毎年取られる」
「……多すぎない?」
「極めつけが2つあります」
ダリオが苦笑する。笑うしかない、という顔だ。
「『献上税』。領主様への奉仕として、収穫の2割を無条件で納める。理由は——『貴族・領主だから』それだけです」
「……」
「そして『耕作税』。畑の広さで税額が固定せれる。収穫量は関係ない。不作でも豊作でも、決まった額を持っていかれる。去年は不作だったのに、同じ額を要求されて……」
ダリオの声が震えた。
「種籾すら残らなかった。来年の分がない。それでも払えと言われる。払えなければ——見せしめに、殺されるか奴隷落ちだ。家族ごと」
言葉が途切れた。
「……俺の弟も、そうだった」
周りの男たちが、さらに深く俯いた。
「だから俺たちは——盗むしかなかった。他の村から。旅人から。……そうしないと生きられないから」
俺は黙って聞いていた。
……これは酷い。追放貴族の底辺領主の俺から見ても笑えないレベルだ。
仮にも元貴族だから分かる。税ってのは民から搾り取るものじゃない。領地を回すための仕組みだ。取りすぎれば民が死に、民が死ねば領地が死ぬ。そんなの当たり前のことだ。
この税制は——あまりにも暴利だ。
こんなの、民が飢えるに決まってる。何考えてるんだ、隣の……
「なあ、隣の領主って誰だ?」
「バロン=ゲルツ男爵です」
ダリオの声に、憎悪が滲んでいた。
バロン=ゲルツ。覚えておこう。
……なるほど。だから武器の持ち方が素人だったのか。
元々は普通の農民で、生きるために盗賊まがいのことをしていた。好きでやってるわけじゃない。
「で、なんでうちに来たんだ?」
「……噂を聞いたんです」
ダリオが顔を上げた。目に、微かな光がある。
「この領地に、変人領主がいるって」
変人とは人聞きの悪い。
ダリオは続けた。
「六属性Fで追放されて捨てられた土地に送られたって…」
「おまけに今は邪教もいるんだけどね」
俺はリーシャの方に視線をやった
「邪教じゃないですよ~」
リーシャが横から口を挟む。
「ヤルダヴォート教です~。入信しませんか~?」
「……今それ言う?」
俺がつっこむと、リーシャは「てへ」と笑った。
ダリオは一瞬キョトンとして、それから小さく笑った。
「変な噂は本当だったんですね……」
「悪かったよ。変で」
「とんでもございません。普通じゃない奴…失礼。御方なら、俺たちを受け入れてくれるかもしれないって思ったんです」
ダリオが地面に額をつけた。土下座だ。
「頼む。ここで働かせてください。盗みはもうしたくない。……まともに、生きたいんだ」
後ろの男たちも、次々と頭を下げる。
10人もの大人が、俺に向かって土下座している。
正直、居心地が悪い。俺はただの15歳。六属性Fの追放貴族だ。こんな大人たちに頭を下げられる器じゃない。
でも——
「……なあ」
俺はダリオの前に行った。
「顔を上げてくれないか」
「え……」
「土下座されても困るっていうか……俺だって余裕があるわけじゃないし。正直、食い扶持が増えるのはキツいんだ」
ダリオの顔が曇る。
「でもさ」
俺は続けた。
「しっかり働いてくれるなら、話は別かなって」
ダリオが顔を上げる。目が、わずかに潤んでいる。
「働けば食える。それだけでいいと思うんだ。難しいことは言わない。畑耕したり、柵作ったり、石運んだりここのためになることならなんでもいい……そういうのはできるか?」
「で、できます……!」
「なら、ぜひここで一生に暮らそう。……まあ、サボったら追い出さざるを得ないけど、その辺は期待してるよ?」
ダリオの目から、涙がこぼれた。
「ありがとう……ありがとうございます……!」
周りの男たちも、泣いていた。
大の大人が皆んなしてボロボロ泣いている。なんだこの絵面。この国ってそんなにヤバいのか…?
「泣かなくていいって。飯の準備するから、今日は休んでてくれ」
俺がそう言うと、リーシャがすっと隣に来た。
「アルト様、優しいですね~」
「……いや、人手が欲しかっただけだよ」
「ふふ、そういうことにしておきますね~」
リーシャがにこにこ笑う。
なんか見透かされてる気がして、ちょっとだけムカつく。
オルファが近づいてきた。
「いいの? 元盗賊を受け入れて」
「まぁ元農民でもあるしね」
「そうだけど。……危険じゃない?」
「どうだろうな。これから分かるんじゃないか。ダメそうだったらその時考えるよ」
オルファが俺を見る。何か言いたそうな顔だったが、何も言わなかった。
「……アンタ、変わってるわね」
「最近よく言われるよ」
追放されてからずっとだ。もう慣れた。
その夜。
ダリオたちは、信徒が用意した粗末な食事を、涙を流しながら食べていた。
石のように硬いパンと、屑野菜のスープ。大したものじゃない。でも、彼らにとっては久しぶりの"まともな"
食事だったらしい。
「美味い……美味いです……」
ダリオが鼻をすすりながら言う。
「もう何ヶ月も、こんなもの食えてなかったんです。盗んだ食い物は、味もしなくて……」
「……そっか」
俺は何も言えなかった。
俺だって追放されて、最初の数日はなものを食ってなかった。でも、この人たちはもっと長い間、そういう生活を強いられていたんだ。
盗賊になりたくてなったんじゃない。
税で絞り尽くされて、選択肢を奪われた。
俺は空を見上げた。星が出ている。静かな夜だ。
隣の領地では、こうやって星を見る余裕すらなかったんだろうな。
「アルト様~」
リーシャが隣に座った。
「どうした?」
「あの人たち、なんだか可哀想ですね~」
「……そうだな」
「でも、これで仲間が増えましたね! 私たちの教えを広めるチャンスです~!」
「リーシャは本当にブレないな……」
「えへへ~」
金色の髪を揺らしながらにこにこ笑う。
彼女は空気読めないのか、読んでいないのか分からない。でも、こういう時にこういうことを言えるのは、ある意味で強さなのかもしれない。正直こういう状況ではその雰囲気が本当に助かる。
「……まあ、布教は程々にしといてくれよ」
「分かってます~。押し売りはしませんよ~」
——さっき早速「入信しませんか」って言ってた気がするけれど...
まあいいか。今夜は色々あった。考えるのは明日だ。
翌朝。
ダリオたちは、日の出と同時に起きて、働き始めていた。
「すごいな……」
俺は目を擦りながら、それを見ていた。
畑を耕している。石を運んでいる。柵を補修している。
黙々と、手際よく。農民の動きだ。
「元々、働き者だったんでしょうね~」
リーシャが横で言う。いつの間にか起きていた。
「みたいだね」
俺は分身を出した。ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ。4人。
「よし、お前らも手伝ってきてくれ」
「了解!」
「任せろ!」
「働く!」
「腹減った!」
……1人不安要素はあるが、まあいい。
分身がダリオたちに混ざって作業を始める。
最初はダリオたちも戸惑っていたが、すぐに慣れたようだ。
「領主様方、こっちの石運び手伝ってくだせぇ!」
「おう!」
「おう!」
「おう!」
「腹減った!」
誰かこのバカ、クビにしてくれないかな。
昼過ぎ。
畑仕事をしていたら——森の方から、地響きが聞こえた。
「なんだ?」
振り向いた瞬間、木々を薙ぎ倒しながら巨大な影が突っ込んできた。
牙の生えた猪。角うさぎの比じゃないデカさ。"魔物"だ。
「「「「「うわぁぁぁ!」」」」」
ダリオたちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「落ち着け! 散らばるな!」
俺は咄嗟に叫んだ。
猪はこっちに向かってきている。だが、真正面から突っ込んでくるなら——
「分身、左右に散れ! 正面は俺が引きつける!」
「「「了解!」」」
分身が左右に展開する。俺は猪の正面に立ったまま、ギリギリまで引きつけて——
「今だ!」
横っ飛びで躱す。猪が俺のいた場所を通過した瞬間、左右から分身が飛びかかった。
「後ろ足だ! 押さえろ!」
「「おう!」」
2人が後ろ足にしがみつく。猪が暴れるが、動きが鈍る。
そこへ——
ヒュン。
オルファの矢が猪の前足に刺さった。
「ナイス! ダリオ、今だ!」
「任せてくだせぇ!!」
ダリオが斧を振り下ろした。
ドスッ。
猪が倒れる。
「……やった」
「やったぁ!」
「勝った!」
「すげえ、領主様!」
分身とダリオたちが歓声を上げる。
オルファが少し驚いた顔で俺を見た。
「……アンタ、意外と度胸あるわね」
「死にたくないだけだよ。逃げ回ってたら全員やられてた」
「まあ、判断は悪くなかったわ」
珍しく褒められた。
リーシャがにこにこしながら近づいてきた。
「アルト様~、かっこよかったですよ~!」
「そうか?」
「はい! あと、この猪、食べられますよ~。肉、美味しいんです~」
……食えるのか、これ。
夕方。
焚き火を囲んで、猪肉を焼いていた。
脂が滴り、炎が一瞬大きくなる。香ばしい匂いが広がる。
「美味そう……」
ダリオたちが生唾を飲む。久しぶりの「自分たちで狩った肉」だ。
「よし、焼けた。食たべよう!」
俺が肉を切り分けると、全員が一斉に手を伸ばした。
「「「いただきます!」」」
かぶりつく。
「……っ、美味い!」
「美味いです……!」
「肉だ……本物の肉だ……」
元盗賊たちの目から、涙がこぼれていた。
隣の領地では、肉なんて贅沢品だったんだろう。
「泣くか食べるかどっちかにしなよ笑」
「すみません……でも、こんな……こんなご馳走久々すぎて……」
ダリオが俺のところに来た。
「領主様」
「アルトでいいよ。領主様とか慣れてないし」
「じゃあ……アルト様」
底辺領主の俺に"様"も慣れない気がするが、まあいいか。
「どうした?」
「ありがとうございます。本当に」
ダリオが深々と頭を下げる。
「俺たち、ここで真面目に働きます。絶対に、裏切りません」
「……助かるよ」
俺は照れ臭くなって、視線を逸らした。
こんな風に感謝されることなんて、追放されてから一度もなかった。
なんか、こういうの悪くない気分だ。
「アルト様~、私にもお礼言ってください~」
リーシャが横から割り込んできた。
「リーシャは何もしてないだろ」
「えー、ご飯作ったじゃないですか~」
「それ信徒じゃん?」
「信徒は私の手足ですから、実質私です~」
めちゃくちゃ言うな。でも、まあ——
「……ありがとな、リーシャ」
「えっ」
リーシャが頬を赤らめて目を丸くした。
「い、いえ、どういたしまして……?」
なんか動揺してる。珍しいな。
俺は猪肉を齧りながら、空を見上げた。
領民が増えた。10人。
分身と合わせれば、それなりの人数だ。
これで少しは、領地らしくなるかもしれない。
——そう思っていた矢先。
空に、大きな影が横切った。
例のドラゴンだ。
「「「「「うわぁぁぁ!」」」」」
ダリオたちが一斉に悲鳴を上げる。そりゃそうだ。
俺は溜息をついた。
「……そういえば、あいつのこと忘れてたなぁ...」
どうしよ?!
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勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
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週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
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これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
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