全ステFの最弱領主、禁忌スキル【分身】で無限に増殖!?〜数の暴力で世界を詰ませます!〜

アセチルサリチルさん

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第15話 思っていたより隣領は地獄らしい(愕然)

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 灰枝領グラウエルにまた人が来た。

 しかもかなりの数だ。


 拠点の入り口付近で地面がざわついているとテラたちから報告があったので、何事かと思って行ってみれば、ボロ切れを纏った集団が固まっている。


 30人……いや、もっといるかもしれない。子供の姿もある。


領主アルト様ッ!大変です!」

 ダリオが血相を変えて駆けつけてきた。


「ああ、見えてる」

 俺は近づきながら、彼らを観察する。

 明らかに、普通の旅人ではない。全員の顔に疲弊が見える。

 足を引きずっている者も何人かいるようだ。

 ダリオたちのことが頭によぎった。


 ——そして。

 近づくにつれて、俺は息を呑んだ。

 服がボロいだけじゃあない。体にかなりの傷がある。

 背中に滲んだ赤い線。鞭の痕だろうか。

 腕には火傷や裂傷。


「た、助けて……ください……」

 先頭にいた女が、俺の前で崩れ落ちた。

 子供を抱いている。その子供も、"瀕死"という2文字が相応しい。


「お願いします……もう……どこにも……」

 言葉が出なかった。

 怒りや悲しみ。複雑な情緒が滝のように押し寄せてきて頭が沸騰しそうだ。

 子供にまで手を上げるとか、どういう神経してるんだ?



「アルト様」

 ダリオが俺の横に来た。顔が強張っている。

「あの人たち……俺、知ってます」

「お前の故郷か?」

「はい。バロン=ゲイツ領の、俺たちと同じ村の人も……マルタさん!」

 バロン=ゲイツ、またお前か。

 ダリオが駆け寄った先には、白髪の老婆がいた。


「ダ、ダリオ……?生きていたのかい……」

「マルタさんこそ……!どうしてこんな……」

 その老婆——マルタが、力なく笑った。

「逃げてきたのさ……もう、あそこには、いられなくてね……」




 俺は全員を砦の広間ホールに案内した。


 とりあえず水と食料を配る。リーシャと信徒たちが、怪我人の手当てを始めてくれた。

「大丈夫ですよ~。すぐ楽になりますからね~」

 リーシャが優しく声をかけながら、傷に薬を塗っている。

 ……あのウソみたいに怪しい魔法や回復薬クスリもこの場では神の祝福に見える。


「アルト」

 オルファが俺の横に来た。小声だ。

「話は聞いた。ひどいわね」

「ああ……」

「ダリオたちの時より、さらにひどくなってるみたいね」

「……というと?」

 オルファが顔を曇らせる。

「滞納者への『見せしめ』が本格化したらしいわ。公開での鞭打ち。逃亡を企てた民は捕縛して監禁。子供を人質にとって、親を強制労働させたりもしてるみたい」

「……っ」

 俺は拳を握りしめた。

 なんだそれ。

 領民は家畜じゃねえんだぞ。

「税を払えない者は、『強制収容所タコベヤ』に送られるそうよ。帰ってきた者は、当然…」

 俺は黙り込んだ。

 ゲイツ…許してはおけないな。


 ——でも。

 俺は深呼吸した。

 冷静になれ。


 今の俺らじゃ、隣の領地に直接殴り込むなんて土台無理な話だ。
 向こうには正規の兵がいる。
 まがりなりにも貴族である以上、王都や国中に話も上がるだろう。

 灰枝領ここの戦力は俺の分身と、リーシャやオルファ、それにダリオたち…は非戦闘員、だし…ヴォルやテラはどうだろう…

 なんにせよ、全然足りていないことに変わりはない。

 ここで戦争を仕掛けても淘汰されるだけだ。

 まして、俺の我儘のために領民を危険にさらすことなどできない。


「……せめて」

 俺は呟いた。

「逃げてきて、彼らには——安心して暮らせるようにしたい」

 オルファが俺を見た。

「……そうね。今はそれが精一杯だわ」

「ああ」





 俺は難民たちの前に立った。

「みんな、聞いてくれ」

 ざわめきが収まる。

 30人以上の目が、俺に集まった。

 怯えた目。疲れた目。希望を失った目。


「俺はアルト。この地を統べる領主だ。まあ、見ての通りのガキだけど」

 動揺で場が騒つく。


「お前らがどんな目に遭ってきたか、だいたい聞いた。災難だったな」

 沈黙。

「でも、灰枝領ここは違う。見ての通り何もない所だが、この領地では——働けば、食える。住む場所もある。誰もお前らを迫害したりなんかしないし、子供を人質になんて下郎な真似もしない」


 難民たちは顔を見合わせる。

「本当に……?」

「まさかそんな貴族様が……」

 まぁ、そうなるよな。

「信じられないのは分かる。でも、俺は…」

 だめだ。格好のつく言葉が出てこない。

 こういう時のために"カリスマ性"を培っておかないと。


「ダリオ。お前はここに住んでもう長いな?…どう感じている?」

 ダリオが前に出る。

「みんな、聞いてくれ!俺もお前らと同じ、ゲイツ領から逃げてきたんだ!」

 ざわめきが大きくなった。

「俺たちも度重なるゲイツの悪政で、盗賊崩れになるしかなかった。そんな時、領主アルト様に拾ってもらったんだ」
「襲いかかった無法者の俺たちにも食べ物と寝床まで与えてくれた」
「今は、ここで農業しごとをさせてもらっているし、働けば食える。「搾取」なんて文字はとうに忘れたよ。それくらい灰枝領ここは信じられないくらい幸せな場所だ」

 ダリオの目が潤んでいる。

灰枝領ここは最高だ!アルト様はもちろんリーシャ様やオルファさん、それにここにいる皆が俺らを"人間"として扱ってくれる。生きていていんだ…ってな」

 ダリオの部下たちも声を上げる。

「それに…なんてったってここには——風呂もある!」

「風呂?!」

「ああ、風呂だ!毎日入れるんだぞ!」

 どよめきが起きた。

 ……風呂にそこまで求心力があるとは。


 
 
 しばらくの休息の後、 オルファが中心になって"これから"の話をする。

 ダリlオたちは住居の建築計画を早速はじめているようだ。

 30人以上の人手が増えたおかげで、作業は一層進むだろう。


「アルト様~」

 リーシャが近づいてきた。

「怪我人の手当ても、これで全部終わりです~」

「ありがとう。助かった」

「えへへ~」

 リーシャがにこにこしながら持ち場に戻った。

 
 ——最近確信したのだが、リーシャは本当に頼りになる。









————————————————————



 しばらくして——


 畑の端で、難民たちが食事をしていた。

「……美味しい」

 老婆のマルタが、震える手でパンを口に運んだ。

「こんな……こんなもの、何年ぶりだろう……」

「マルタさん、泣かないでくださいよ」

 ダリオが隣に座った。


「……泣いてなんかいないよ。ちょっと、目から汗が出ただけさ」

 周りの難民たちも、黙々と食べている。

 誰も喋らない。でも、その顔には——ほんの少しだけ、安堵の色があった。


「……ダリオ」

 別の男が声をかけた。ダリオの元同僚らしい。

「本当に、ここは大丈夫なのか?税とか……後から取られたりしないのか?」

「しねえよ。領主アルト様はそういうのは一切やらない」

「でも……」

「気持ちはわかるが…忘れたのか?俺なんか元々盗賊として領主アルト様に襲いかかったんだぜ?」

 ダリオがニッと笑った。ダリオの部下たちもガハハと笑う。


「…見ての通りさ、ここの領主様は本物だ。働けば食える。それだけのことを、ちゃんと守ってくれる」


 男は黙り込んだ。

「……信じていいのか」

「ああ。俺が保証する」



 オルファが遠くからその様子を見ていた。


 ——アルトのいないところで、ダリオがこんな顔をするとはね。

 主人を心から信頼している顔だ。

 あの15歳の少年が、いつの間にこんな信頼を勝ち取ったのか。


 オルファは小さく笑った。

 ……面白くなってきたわね。







————————————————————




 夜も深まった頃。教会本部。

 ——リーシャが建てた、ちょっと怪しげな建物に人影が集まる。


 リーシャ、オルファ、ダリオの3人だ。


「——で、情報をまとめると」

 オルファがテーブルに紙を広げた。


「バロン=ゲイツ領の状況は、想像以上に深刻ね」

「逃げてきた人たちの話……ひどかったです」

 ダリオが顔を曇らせる。


「税制はさらに厳しくなってる。滞納者への罰則も、日に日にエスカレートしているみたいだし…」

「鞭打ちに、磔……見せしめのために、わざと人前でやるらしいっす」

「それだけじゃないわ。『収容所』に送られた人たちは、鉱山で死ぬまで働かされるらしいわね」

 沈黙が落ちた。


 リーシャが口を開く。

「とはいえ、まだ情報が足りないですよね~」

「そうね。敵の戦力、配置、領主の動向……肝心なところが分からない」

「じゃあ~」

 リーシャがにこりと笑った。

「私たちで調べておきましょう!」

「……頼めるか?」

「もちろんですよ~。ヤルダヴォート教の信徒は、アルト様の理想が神義なのですから~」

 どことなく不穏な笑顔を見せるリーシャ。

「お任せください~」



 
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