全ステFの最弱領主、禁忌スキル【分身】で無限に増殖!?〜数の暴力で世界を詰ませます!〜

アセチルサリチルさん

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第18話 クソ領主からの刺客は美人騎士?!(待望)

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 ——バロン=ゲイツ領。領主の館。

 数日前に送った調査隊が、報告を持って戻ってきた。

「——以上が、グラウエル領の現状です」

 兵士の報告を聞いたバロンは、顔を歪めた。

「なんだと……? あんな廃墟に、村ができているだと?」

「は、はい。畑もあり、家屋もあり……住民も50人以上は確認できました」

「50人……!」

 バロンが机を叩いた。

「俺から逃げた連中が、全員そこに流れ込んでいるというのか!」

「お、おそらく……」

「ふざけるなッ!!」

 バロンは立ち上がり、部屋の中を歩き回った。

「あの没落貴族のガキが……俺の領民を……!」

 税収が減っている。逃亡者が増えている。

 このままでは、領地の運営に支障が出る。

 いや、すでに出始めている。

「クレア!」

 バロンが叫んだ。

「はっ」

 部屋の隅に控えていた女騎士が、一歩前に出た。

 銀髪のショートカット。凛とした顔立ち。騎士の鎧を纏った、20代前半の女だ。


 クレア=ヴァンガード。バロン=ゲイツ配下の騎士団長。


「お前が行け」

 クレアは黙って頷いた。

 バロンの目が、嫌な光を帯びる。

「グラウエル領主のガキを捕らえてこい。あいつが俺の領民を盗んだ元凶だ」

「……承知しました」

 クレアは一礼して、部屋を出た。



 廊下を歩きながら、クレアは考えていた。

 ——領民を「盗んだ」か。

 違う。逃げたのだ。


 バロンの暴政に耐えかねて、命懸けで逃げ出したのだ。

 クレアはそれを知っている。


 税制地獄。見せしめの鞭打ち。強制収容所。

 すべて、クレア自身が見てきたことだ。


 ——でも、私には止められない。

 クレアは拳を握りしめた。


 騎士として仕えている以上、主人の命令は絶対である。

 たとえそれが、どれほど理不尽なものであっても。


 ——父上なら、どうしただろう。

 クレアの父も、かつてこの領地の騎士団長だった。

 領民を守り、正義を貫く——そんな騎士だった。

 でも、バロンが領主になってから、すべてが変わった。

 父は「邪魔だ」と言われて、濡れ衣を着せられて処刑された。

 クレアは、父の仇であるバロンに仕えている。

 復讐のため?違う。

 生き延びるため。そして——いつか、この領地を変えるため。

 でも、そんな日が来るのか。

 クレアには、分からなかった。






—————————————————————



 ——数日後。グラウエル領。

「侵入者だ!!」

 叫び声が響いた。

 領地の境界付近。森の中を進んでいたクレアは、突然囲まれた。

 同じ顔の男が、10人。

「「「「「動くなー!」」」」」

「……っ」

 クレアは剣に手をかけた。

 ——分身。噂に聞いていた、禁忌スキル。


「お前ら、何者だ!」

「「「「「こっちのセリフだ!」」」」」

 分身たちが一斉に飛びかかってくる。

 クレアは剣を抜いた。

 ——騎士団副長として、こんな連中に負けるわけには——


 ガキンッ!

 剣が弾かれた。


「え?」

 背後から、矢が飛んできた。

 咄嗟に躱す。体勢が崩れる。

 そこへ——

「「「確保ォ!」」」

 5人の分身に、一斉に押さえつけられた。

「くっ……!」

 暴れようとするが、動けない。数の暴力だ。

「離せ! 私はバロン=ゲイツ配下の——」


「ゲイツ?」

 声が変わった。

 森の奥から、赤毛の女が現れた。弓を構えている。

「アンタ、あの隣の領主アホの部下なのか」

「……っ」

「どうする?アルト」

 女の後ろから、黒髪の少年が出てきた。

 さきほどの10人と全く同じ姿。


「とりあえず、話を聞こう。拠点に連れていけ」

「「「「「了解!」」」」」

 クレアは、半ば引きずられるようにして連行された。






————————————————————



 砦の広間。

 クレアは椅子に座らされていた。

 周りには、黒ずくめの集団。赤毛の女。そして——


「俺がこの領地の領主、アルトだ」

 目の前に、少年が立っていた。


 15歳くらい。貴族の息子にしては、ずいぶん若い。

「お前、名前は?」

「……クレア=ヴァンガード。バロン=ゲイツ騎士団の団長だ」

「団長?偉いんだな」

「……」

「で、何しに来たんだ?」

 クレアは黙った。


 「お前を捕まえに来ました」なんて言えるわけがない。

「はぁ~…」

 アルトが肩をすくめた。

「どうせ偵察か、ついでに俺の捕縛かなにかだろ?ゲイツの命令で」

「……っ」

 図星だった。


「バレバレだよ」

 クレアは唇を噛んだ。

 ——甘く見ていた。

 子供だと思っていた。でも、この少年は——


「で、どうする?」

 オルファが尋ねる。

「……好きにしろ」

「好きにしていいのか」

「私は騎士だ。捕虜になった以上、覚悟はできている」

 アルトが首を傾げた。

「まぁ一旦、後にするか」

「は?」

「なんか事情がありそうだし。ここに滞在しながら、ゆっくり話を聞いてからでも遅くないだろ」

「……」

 クレアは、この少年の真意が分からなかった。





 それからクレアは「客人」として扱われた。

 牢に入れられるわけでもなく、拘束されるわけでもない。

 ただ、常に分身が2人ついてきて、監視されているだけだ。

 クレアは領地の中を歩いた。


 ——驚いた。

 村ができていたとは聞いていたが、あの灰枝領グラウエルだ。正直、半信半疑だった。

 たが、目の前には畑がある。家がある。水路がある。

 そして——

「おーい、昼飯だぞー!」

「「「「「おおー!」」」」」

 人々が、笑っている。

 農作業をしている男たち。子供と遊んでいる女たち。老人が日向ぼっこをしている。

 誰もが、穏やかな顔をしている。

「……」

 クレアは立ち止まった。

 ——こんな光景、見たことがない。

 バロンの領地では、誰も笑わない。


 税に追われ、罰則に怯え、明日を生きることだけで精一杯。

 子供ですら、笑顔を見せない。


 でも、ここは違う。

 貧しいはずだ。辺境の、何もない土地だったはず。


 なのに——ここの民は、幸せそうだ。


「どうした? 固まって」

 分身の1人が声をかけてきた。

「……いや。なんでもない」

「腹減ってないか? 昼飯、一緒に食う?」

「……」

 クレアは黙って頷いた。



 広間で、昼食を取った。

 パンと、野菜のスープ。いつもの質素な飯だが、温かい。


「美味いだろ?」

 隣に座ったダリオが言った。

「……ああ」

「俺も最初は驚いたんだ。こんな飯が毎日食えるなんてって」


「……お前は、ここの住民か?」

「ああ。元はゲイツ領の農民だ」

 クレアの目が見開かれた。

「お前も……逃げてきたのか」

「そうだ。税で絞り尽くされて、盗賊になるしかなかった。そんな時、領主アルト様に拾ってもらってな…今はここで農業をやってる」

 ダリオが笑った。


「最高だぜ、ここは。働けば食える。誰も殴らない。風呂もある」

「風呂……」

「入ったか? まだなら、夜に入れよ。極楽だぜ」

 クレアは黙った。

 ——騎士として、敵の領地で裸になるなど……

 でも、正直——入りたかった。

 もうここ何日もの間、ろくに体を洗えていない。







—————————————————————


 その夜。

「……っ」

 熱い湯が、体に染み渡る。

 自然の香り。湯気。静かな空間。

 ——こんなの、初めてだ。


 バロンの館にも風呂はある。でも、それは領主あのデブ専用だ。

 騎士や兵士は、川で水浴びをする。

 それが当たり前だと思っていた。


 でも、ここでは——

「お気に召しましたか~?」

 隣で、金髪の少女が声をかけてきた。

 リーシャ。ここの領民だろうか。


「……ああ」

「ここのお風呂、最高なんですよ~。領主アルト様が作ってくれたんです~」

「領主が……?」

「はい~。お優しいんですよ~。ここに住むみんなのために、色々作ってくれるんです~」


 クレアは湯に沈みながら、考えた。

 ——領主は、領民のために何かをするものなのか。

 バロンあのデブは、領民から搾り取ることしか考えていない。


 でも、この少年は——領民のために、水路を引き。畑を広げ。家を建てた。

 ——これが、本来の領主の姿なのではないだろうか。


「……私は」

 クレアは呟いた。


「何を、守ってきたんだろう」

「?」

 リーシャが首を傾げた。

「なんでもない」

 クレアは湯から上がった。

 





——————————————————


 翌日。

 マルクスたちも風呂に入っていた。

「うおおおお!!やっぱ最高だな!!」

「毎日入れるなんて贅沢すぎる……」

「帰りたくない……」

「任務だっつの」

 風呂から上がったマルクスが、アルトに言った。


「なあ、この風呂、もっと増やせないか?」

「増やす?」

「ああ。回転率悪いだろ? 男女で分けるとか、あと領主の館にも作るとか」

 アルトが考え込んだ。

「確かに、人が増えてきたからな……」

「簡易的なやつでいいんじゃない? 屋根と壁がない『露天風呂』とか」

 オルファが提案した。


「露天風呂……」

「外で入る風呂よ。囲いだけ作れば、すぐにできるわ」

「いいな、それ。星を見ながら風呂に入れる」

 アルトの目が輝いた。


「よし、作ろう! 男湯と女湯、別々に!」

「「「「「おおおお!!」」」」」

 分身たちが盛り上がる。


 クレアは、その様子を遠くから見ていた。

 ——この領地ここは、なんなんだ。


 領主の行動に全員が歓声を上げ、誰もが楽しそうに働く。

 こんな場所は、見たことがない。


「……」

 クレアは、自分の中で何かが変わり始めているのを感じていた。







————————————————


 ——1日後。

 露天風呂が完成した。

 男湯と女湯、それぞれ10人くらい入れるサイズ。

 木の囲いで仕切られ、中には石で作った湯船。

 魔石で温められた湯が、湯気を立てている。

「完成だ!」

「「「「「やったー!」」」」」

 分身たちと領民が歓声を上げる。

 マルクスたちも、嬉しそうな顔をしている。

「これで、もっと楽に入れるな」

「男女別だから、気兼ねなく入れる」

「最高だ……」


 クレアも、遠くから見ていた。

 ——たった1日、もう完成したのか。


 分身の力。領民の協力。

 この領地には、不思議な力がある。

 人を惹きつける力。人を笑顔にする力。


「クレアさん~、入りませんか~?」

 リーシャが声をかけてきた。


「……いいのか? 私は、一応、その…「敵」なのだぞ」

「お客様ですよ~。敵対行動してないじゃないですか~?…まだ」

 リーシャがにこにこ笑う。

 最後の二文字にドキリとしたが、それも含めいい場所だ。

 領民がみな灰枝領ここを守りたいのだろう。

 クレアは——少しだけ、笑った。


「……そうだな」

 この数年、笑うことすら忘れていたのに。
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