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翌朝
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私はおずおずと尋ねた。
「いえ、別にいいのですが……何が何だか分からず」
「正直、俺も信じられない気持ちでいっぱいで、混乱してて。ただ、柊一が落ち着いたというのは間違いないみたいです。色々説明しなければならないでしょうが、遅くに女性の家にお邪魔しているこの状況もどうかと思うので、一度タクシー会社に連絡して、家の鍵について聞いてみてもよろしいですか?」
「あ、それはもちろんです!」
片瀬さんはポケットからスマホを取り出すと、一旦立ち上がって廊下へ出ていった。電話を掛けるようだ。私はふうと一旦気持ちを落ち着ける。
ちらりと、自分のベッドに横たわる黒崎さんの顔を眺めた。すやすや眠っているようだけれど、なんだか生きてる人間とは思えない。顔の造りが綺麗だからだろうか? 人形のようだ。
この前もあのもやに包まれていたけれど、なぜこんな状況になっているのだろう。そして、私が触れることによってそれが軽減されるのはなぜ?
「分からないこと、だら、け……」
一人でつぶやいたとき、ぐらりと視界が揺れた。猛烈な眠気が襲ってきたのだ。寝てはだめだ、素性も知らない男性二人を家に入れたままなんだから。そう自分を叱りつけたが、これまで感じたことがないほどの強い眠気で、到底抗えない。
体がずるずると床に倒れこむ。そして瞼は重くなり、そのまま夢の中へと入り込んでしまったのだ。
うっすら目が開く。見慣れた自分の家の棚が見えた。上には、写真が入っていない写真たて。
すぐ頭上にある窓にはカーテンが引かれているが、その隙間から光が差し込んでいるのが分かった。
あれ、朝?
慌てて体を起こしてみると、同時に肩から毛布が滑り落ちた。見覚えのない毛布だった。フワフワとした柔らかな茶色のそれを、ぽかんとしながら見下ろしていると、
「大丈夫ですか」
心配そうな声がした。横を向いていると、壁にもたれて座り込んだ片瀬さんが、眉をひそめて私を見ていた。その瞬間、昨晩起きたことが一気に脳裏によみがえる。
結局あのまま眠ってしまったのか。しかも朝までぐっすりと!
ハッとしてベッドの方を見てみると、黒崎さんはいまだ静かに寝息を立てていた。彼の体にはもう黒いもやはまとわりついていない。
「わた、私寝てしまってたんですか!」
「あ、無理に起きないでください! 今、体調はどうですか? すみません、無理をさせてしまったようで」
「いえ、ただ眠ってしまっただけです! 体調が悪いわけでもないですし、全然大丈夫ですよ」
そう返事を返すと、彼はほっとしたように微笑んだ。そして申し訳なさそうに頭を垂れる。
「すみません、戻ったらあなたが寝ていて。家の鍵はタクシーの運転手に持ってきてもらったので帰宅しようと思ったんですが、勝手に帰っては戸締りが出来なくなると思い……女性ですし、そのままにしておけなくて。って、見ず知らずの男二人と同室にいるのも問題ですよね。本当にすみません」
「謝らないでください、寝てしまったのは私のせいです!」
「多分あれのせいですよ」
片瀬さんが黒崎さんを見る。なるほど、確かに尋常ではない眠気だったもんな。あれの正体は知らないけれど、あんなものに触れては普通ではいられないのは間違いないだろう。
「いえ、別にいいのですが……何が何だか分からず」
「正直、俺も信じられない気持ちでいっぱいで、混乱してて。ただ、柊一が落ち着いたというのは間違いないみたいです。色々説明しなければならないでしょうが、遅くに女性の家にお邪魔しているこの状況もどうかと思うので、一度タクシー会社に連絡して、家の鍵について聞いてみてもよろしいですか?」
「あ、それはもちろんです!」
片瀬さんはポケットからスマホを取り出すと、一旦立ち上がって廊下へ出ていった。電話を掛けるようだ。私はふうと一旦気持ちを落ち着ける。
ちらりと、自分のベッドに横たわる黒崎さんの顔を眺めた。すやすや眠っているようだけれど、なんだか生きてる人間とは思えない。顔の造りが綺麗だからだろうか? 人形のようだ。
この前もあのもやに包まれていたけれど、なぜこんな状況になっているのだろう。そして、私が触れることによってそれが軽減されるのはなぜ?
「分からないこと、だら、け……」
一人でつぶやいたとき、ぐらりと視界が揺れた。猛烈な眠気が襲ってきたのだ。寝てはだめだ、素性も知らない男性二人を家に入れたままなんだから。そう自分を叱りつけたが、これまで感じたことがないほどの強い眠気で、到底抗えない。
体がずるずると床に倒れこむ。そして瞼は重くなり、そのまま夢の中へと入り込んでしまったのだ。
うっすら目が開く。見慣れた自分の家の棚が見えた。上には、写真が入っていない写真たて。
すぐ頭上にある窓にはカーテンが引かれているが、その隙間から光が差し込んでいるのが分かった。
あれ、朝?
慌てて体を起こしてみると、同時に肩から毛布が滑り落ちた。見覚えのない毛布だった。フワフワとした柔らかな茶色のそれを、ぽかんとしながら見下ろしていると、
「大丈夫ですか」
心配そうな声がした。横を向いていると、壁にもたれて座り込んだ片瀬さんが、眉をひそめて私を見ていた。その瞬間、昨晩起きたことが一気に脳裏によみがえる。
結局あのまま眠ってしまったのか。しかも朝までぐっすりと!
ハッとしてベッドの方を見てみると、黒崎さんはいまだ静かに寝息を立てていた。彼の体にはもう黒いもやはまとわりついていない。
「わた、私寝てしまってたんですか!」
「あ、無理に起きないでください! 今、体調はどうですか? すみません、無理をさせてしまったようで」
「いえ、ただ眠ってしまっただけです! 体調が悪いわけでもないですし、全然大丈夫ですよ」
そう返事を返すと、彼はほっとしたように微笑んだ。そして申し訳なさそうに頭を垂れる。
「すみません、戻ったらあなたが寝ていて。家の鍵はタクシーの運転手に持ってきてもらったので帰宅しようと思ったんですが、勝手に帰っては戸締りが出来なくなると思い……女性ですし、そのままにしておけなくて。って、見ず知らずの男二人と同室にいるのも問題ですよね。本当にすみません」
「謝らないでください、寝てしまったのは私のせいです!」
「多分あれのせいですよ」
片瀬さんが黒崎さんを見る。なるほど、確かに尋常ではない眠気だったもんな。あれの正体は知らないけれど、あんなものに触れては普通ではいられないのは間違いないだろう。
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