31 / 78
親子の関係
しおりを挟む
相手は分かりやすくカッと顔を赤くさせ、目を吊り上げた。いやいや、だって本当の事じゃん。それくらい、畑山さんに教わらなくたって子供でも知ってるよ。私を陥れたくて我慢出来なかったんだろうな。
そんな彼女をフォローするように、マミーが口を開いた。
「それだけあの時の事が衝撃的だったのです。そりゃ、人の命を救ったのは素晴らしい事でしたが、あなた靴を脱ぎ捨てて裸足になり、更にはドレスだというのに大きく足を広げたりして……品性がないのはそちらの方です」
楓さんは分かりやすく笑った。これに反応したのは玲だった。
「ではお母さんはあのまま放っておけばよかったと?」
「そんなことを言ってはいません。人の目に届かない場所に移動したり、他の人に任せればよかったのです」
「分かってますか? 窒息したら一分一秒も無駄に出来ないんですよ。それに見てたでしょう、あの時舞香以外はどうしていいか分からずおろおろしてる人間ばかり。死んでからじゃ遅い、あの時の舞香の働きは百点満点です。あの後、吉岡様からお礼の品も頂きましたし、パーティーに参加していた取引先の人たちにはみな賞賛されましたよ」
「一部の人間でしょう。苦言を言っている人もいましたよ、二階堂の妻ともあろう人があんな格好」
「なるほど、吉岡様のお子さんが亡くなってもよかった、と」
「そんなこと言っていません!」
ヒートアップしそうなところで、部屋にお手伝いさんと圭吾さんが入ってきた。二人は前菜を手にしている。一旦会話が途切れ、沈黙が流れた。
配給が終わったところで、静かに食事が始まった。大変おいしそうな料理があるのに、この状態じゃあ味は感じなさそうだ。家でカップラーメン食べる方がずっと美味いだろう。正面の二人は、ちらちらと私のテーブルマナーを見ている。
私は慌てることなく、冷静に動いた。畑山さんと散々練習したことを失敗するわけにはいかない。成果を今出さなくてどうする。
やや緊張したが、私は確実に食事を進めた。丁度前菜を食べ終える頃、お義母さまは皮肉たっぷりに言った。
「食事マナーはそれなりに出来るようですね」
「ありがとうございます」
「両親もいない貧しい家庭みたいですから、意外です」
ぴたりと手を止めた。
いつだったか玲は言っていた。多分私の事も調べられるだろうと。その時勇太があんなボロアパートじゃいけないから引っ越しまでさせた。彼の言うことは合っていたのだ。いつの間にか私の事は筒抜けらしい。
お義父さまも、やや顔を歪めて言った。
「あー、ご両親とも蒸発されているとか。それで弟が一人いらっしゃるんだったかな」
「ええ。そうです」
「あまり裕福ではないと」
「そうですね」
否定しない私に、三人は嫌悪の表情を見せた。玲が私を庇うようにして言った。
「弟はかなり頭がいいらしいですよ。受験生ですが、将来に期待できます」
「え、そんな環境で進学出来るんですかあ?」
楓さんが嘲笑った。私はすっとそちらを冷たい目で見る。向こうは面白そうに私を見ていた。
そしてお義父さまも苦言を吐き出す。
「玲、残念だがこの世には家柄というものがある。うちと舞香さんでは明らかに釣り合っていない。二階堂のためにも、もっといいところの人と結婚出来なかったのか」
「時代遅れですね。お父さんとお母さんの頭は大分昔で止まってる。これほど自由になった時代に、家柄を気にして結婚するなんてありえないですよ」
きっぱり言い切った玲に対し、お義母さまがわざとらしくため息を吐いた。そして視線を落として声を漏らす。
「反抗的な口を......昔はもっと素直だったのに。誰が育てたと思ってるのかしら」
その言葉にすぐさま反応したのは玲だ。彼は驚くほど冷たい声で言ったのだ。
「お言葉ですが、金は出してもらったでしょうが、俺を育てたのは家政婦と畑山さんです。忘れてしまったんですか?」
つい隣を見た。彼は真っすぐお義母さまを見ていた。
今まで、玲の家庭環境を疑問に思うことは多々あった。嫌だと言っている相手との結婚、彼の言葉を信じず楓さんを信じたこと。そのモヤモヤは今ようやくハッキリした。玲はやはり、この親たちとちゃんとした『親子』を築けていないのだ。
私とどこか似ているのかもしれない、と思った。玲の家はお金や権力があるのでうちとは大きく違うが、親から十分な愛情を得られなかった部分は、共通しているのだ。
そんな彼女をフォローするように、マミーが口を開いた。
「それだけあの時の事が衝撃的だったのです。そりゃ、人の命を救ったのは素晴らしい事でしたが、あなた靴を脱ぎ捨てて裸足になり、更にはドレスだというのに大きく足を広げたりして……品性がないのはそちらの方です」
楓さんは分かりやすく笑った。これに反応したのは玲だった。
「ではお母さんはあのまま放っておけばよかったと?」
「そんなことを言ってはいません。人の目に届かない場所に移動したり、他の人に任せればよかったのです」
「分かってますか? 窒息したら一分一秒も無駄に出来ないんですよ。それに見てたでしょう、あの時舞香以外はどうしていいか分からずおろおろしてる人間ばかり。死んでからじゃ遅い、あの時の舞香の働きは百点満点です。あの後、吉岡様からお礼の品も頂きましたし、パーティーに参加していた取引先の人たちにはみな賞賛されましたよ」
「一部の人間でしょう。苦言を言っている人もいましたよ、二階堂の妻ともあろう人があんな格好」
「なるほど、吉岡様のお子さんが亡くなってもよかった、と」
「そんなこと言っていません!」
ヒートアップしそうなところで、部屋にお手伝いさんと圭吾さんが入ってきた。二人は前菜を手にしている。一旦会話が途切れ、沈黙が流れた。
配給が終わったところで、静かに食事が始まった。大変おいしそうな料理があるのに、この状態じゃあ味は感じなさそうだ。家でカップラーメン食べる方がずっと美味いだろう。正面の二人は、ちらちらと私のテーブルマナーを見ている。
私は慌てることなく、冷静に動いた。畑山さんと散々練習したことを失敗するわけにはいかない。成果を今出さなくてどうする。
やや緊張したが、私は確実に食事を進めた。丁度前菜を食べ終える頃、お義母さまは皮肉たっぷりに言った。
「食事マナーはそれなりに出来るようですね」
「ありがとうございます」
「両親もいない貧しい家庭みたいですから、意外です」
ぴたりと手を止めた。
いつだったか玲は言っていた。多分私の事も調べられるだろうと。その時勇太があんなボロアパートじゃいけないから引っ越しまでさせた。彼の言うことは合っていたのだ。いつの間にか私の事は筒抜けらしい。
お義父さまも、やや顔を歪めて言った。
「あー、ご両親とも蒸発されているとか。それで弟が一人いらっしゃるんだったかな」
「ええ。そうです」
「あまり裕福ではないと」
「そうですね」
否定しない私に、三人は嫌悪の表情を見せた。玲が私を庇うようにして言った。
「弟はかなり頭がいいらしいですよ。受験生ですが、将来に期待できます」
「え、そんな環境で進学出来るんですかあ?」
楓さんが嘲笑った。私はすっとそちらを冷たい目で見る。向こうは面白そうに私を見ていた。
そしてお義父さまも苦言を吐き出す。
「玲、残念だがこの世には家柄というものがある。うちと舞香さんでは明らかに釣り合っていない。二階堂のためにも、もっといいところの人と結婚出来なかったのか」
「時代遅れですね。お父さんとお母さんの頭は大分昔で止まってる。これほど自由になった時代に、家柄を気にして結婚するなんてありえないですよ」
きっぱり言い切った玲に対し、お義母さまがわざとらしくため息を吐いた。そして視線を落として声を漏らす。
「反抗的な口を......昔はもっと素直だったのに。誰が育てたと思ってるのかしら」
その言葉にすぐさま反応したのは玲だ。彼は驚くほど冷たい声で言ったのだ。
「お言葉ですが、金は出してもらったでしょうが、俺を育てたのは家政婦と畑山さんです。忘れてしまったんですか?」
つい隣を見た。彼は真っすぐお義母さまを見ていた。
今まで、玲の家庭環境を疑問に思うことは多々あった。嫌だと言っている相手との結婚、彼の言葉を信じず楓さんを信じたこと。そのモヤモヤは今ようやくハッキリした。玲はやはり、この親たちとちゃんとした『親子』を築けていないのだ。
私とどこか似ているのかもしれない、と思った。玲の家はお金や権力があるのでうちとは大きく違うが、親から十分な愛情を得られなかった部分は、共通しているのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
46
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる