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なぜそうなる?
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大和はそう笑うと、キッチンの方へ入る。そしてガスコンロの上に置きっぱなしになっている鍋を覗き込んで言った。
「まだたくさん余ってるじゃん。俺食わせて―志乃のカレー美味いよね」
成瀬さんと同じように出てきた褒め言葉だったが、私の表情が緩むことはなかった。冷たく言い放つ。
「駄目。それ友達におすそ分けする約束もしてるし私もまだ明日食べるから」
「……冷たいのな」
「どの口が言うの? 別れた相手の家に無理やり上がりこまないで!」
私がいうと、大和はくるりと踵を返し、先ほど成瀬さんが座っていたテーブルの前にドスンと座り込んだ。意志が固そうなのを感じ取り、私はため息をつきながらとりあえず空のお皿やグラスをシンクに運んだ。そして、彼から距離を取って座り込む。
「何かまだ話したいの?」
冷たい声で尋ねる。ヨリを戻したい、なんて言ったのをきっぱり断ってから静かだったから、もうあきらめたのかと思っていた。
そんな私をよそに、大和は何やらポケットを漁っている。そして、光る何かを私に差し出した。それを見て、目が点になる。
指輪だった。
光る石のついた、高価そうなもの。どう見ても新しいもので、私は顔をゆがめた。
「な、なに?」
「結婚しよう」
頭沸いてるのだろうか??
私は絶句した。もう大和とやり直す気はないと、きっぱり言ったはず。元々はあっちが浮気して別れた、それが許せないと理由だって言った。
なのになぜこの人はまだこんなことを言っている? ヨリを戻すよりさらにぶっ飛んでるじゃないか。
「……な、何を言ってるの?」
「これが俺の気持ち。分かってもらえたかな」
「いやいや全然分かんないから。なんでこんなことに」
「志乃が俺をとても想ってくれてるっていうのはよく分かった」
「はあ?」
「この前言ってただろ、好きだから許せなかったって。それ聞いて納得したんだよ、それだけ志乃は俺のことを想ってくれてたんだって」
そりゃそんなことも言ったけども。
「いや、だから」
「それに……あいつと揉めた、って聞いた。俺のことでしょ?」
あ、と思い出す。高橋さんとひと悶着あったことが、大和の耳にも入っていたらしい。首を強く振って否定した。
「揉めたけどそれは大和全然関係ないから! ほんとに! あの子が意味わからないこと言ったから私が怒っちゃっただけで」
「どんなこと?」
「だから、えっと、大和を返した、みたいな」
「ほら俺のことじゃん」
嬉しそうに笑う。喜ぶところじゃない、私は言葉をつづけた。
「勘違いしないで、大和を返して、って言ったわけじゃないの! 返しましたって言われたから、いらないって言っただけ」
「志乃。志乃はもう少し素直になるべきだと思う。俺はたくさん考えて素直になったよ。志乃がどれほどいい彼女だったか思い知らされた。あいつは流れで付き合ったけど、自立してないっていうか、なんでも俺と同じもの買ってきたりして」
(それお揃いにしたかったっていうより、私に匂わせるために買ったんじゃ……)
「やたら高い店に行こうとするし、ほんとうんざりだ。いいのは顔だけだった。これからは絶対志乃を裏切らないよ、俺と結婚してほしい!」
「だからさあ……」
私は頭を抱える。指輪をもってこちらをギラギラした目で見てくる大和に、恐怖すら感じた。大和ってこんな人だったっけ? いつもノリがよくて明るいスポーツマンのイメージだったのに、まるで違う。どっかにイッちゃってるみたい。
ここで甘えを見せてはだめだ。私は真っすぐ彼を見て言った。
「いい? 何度でも言う。
私は大和とヨリを戻す気はない。結婚する気もない。もう大和を好きじゃない」
一言ずつ噛みしめるように言う。大和は表情を変えなかった。指輪を差し出したままじっと止まっている。
「だから帰って。もう来ないで」
「そんなの嘘だろ? 強がるなよいい加減。俺を好きだから浮気を怒ったっていうのはよく分かったから。もう二度としないし、志乃を一番に想うから」
「強がってるわけじゃないって!」
「強がってるんだよ! そんな女は可愛げがないぞ、俺が下手に出てる間に素直になった方がいい」
「他に好きな人がいるの!」
つい叫んでしまった。言うつもりなどなかったのに。大和は完全に一時停止してしまっている。
言ってしまったものは仕方ない。私は彼から視線をそらして言った。
「だから大和とはもうやり直さない」
「……そんな嘘つくなよ」
「噓じゃない。好きな人が出来たの」
「ふざけんなよ!!」
突然怒号が鳴り響き、びくっと体が跳ねた。大和は目を吊り上げ、鬼のような形相で私を見ていた。見たことのない表情に体を硬直させる。
「まだたくさん余ってるじゃん。俺食わせて―志乃のカレー美味いよね」
成瀬さんと同じように出てきた褒め言葉だったが、私の表情が緩むことはなかった。冷たく言い放つ。
「駄目。それ友達におすそ分けする約束もしてるし私もまだ明日食べるから」
「……冷たいのな」
「どの口が言うの? 別れた相手の家に無理やり上がりこまないで!」
私がいうと、大和はくるりと踵を返し、先ほど成瀬さんが座っていたテーブルの前にドスンと座り込んだ。意志が固そうなのを感じ取り、私はため息をつきながらとりあえず空のお皿やグラスをシンクに運んだ。そして、彼から距離を取って座り込む。
「何かまだ話したいの?」
冷たい声で尋ねる。ヨリを戻したい、なんて言ったのをきっぱり断ってから静かだったから、もうあきらめたのかと思っていた。
そんな私をよそに、大和は何やらポケットを漁っている。そして、光る何かを私に差し出した。それを見て、目が点になる。
指輪だった。
光る石のついた、高価そうなもの。どう見ても新しいもので、私は顔をゆがめた。
「な、なに?」
「結婚しよう」
頭沸いてるのだろうか??
私は絶句した。もう大和とやり直す気はないと、きっぱり言ったはず。元々はあっちが浮気して別れた、それが許せないと理由だって言った。
なのになぜこの人はまだこんなことを言っている? ヨリを戻すよりさらにぶっ飛んでるじゃないか。
「……な、何を言ってるの?」
「これが俺の気持ち。分かってもらえたかな」
「いやいや全然分かんないから。なんでこんなことに」
「志乃が俺をとても想ってくれてるっていうのはよく分かった」
「はあ?」
「この前言ってただろ、好きだから許せなかったって。それ聞いて納得したんだよ、それだけ志乃は俺のことを想ってくれてたんだって」
そりゃそんなことも言ったけども。
「いや、だから」
「それに……あいつと揉めた、って聞いた。俺のことでしょ?」
あ、と思い出す。高橋さんとひと悶着あったことが、大和の耳にも入っていたらしい。首を強く振って否定した。
「揉めたけどそれは大和全然関係ないから! ほんとに! あの子が意味わからないこと言ったから私が怒っちゃっただけで」
「どんなこと?」
「だから、えっと、大和を返した、みたいな」
「ほら俺のことじゃん」
嬉しそうに笑う。喜ぶところじゃない、私は言葉をつづけた。
「勘違いしないで、大和を返して、って言ったわけじゃないの! 返しましたって言われたから、いらないって言っただけ」
「志乃。志乃はもう少し素直になるべきだと思う。俺はたくさん考えて素直になったよ。志乃がどれほどいい彼女だったか思い知らされた。あいつは流れで付き合ったけど、自立してないっていうか、なんでも俺と同じもの買ってきたりして」
(それお揃いにしたかったっていうより、私に匂わせるために買ったんじゃ……)
「やたら高い店に行こうとするし、ほんとうんざりだ。いいのは顔だけだった。これからは絶対志乃を裏切らないよ、俺と結婚してほしい!」
「だからさあ……」
私は頭を抱える。指輪をもってこちらをギラギラした目で見てくる大和に、恐怖すら感じた。大和ってこんな人だったっけ? いつもノリがよくて明るいスポーツマンのイメージだったのに、まるで違う。どっかにイッちゃってるみたい。
ここで甘えを見せてはだめだ。私は真っすぐ彼を見て言った。
「いい? 何度でも言う。
私は大和とヨリを戻す気はない。結婚する気もない。もう大和を好きじゃない」
一言ずつ噛みしめるように言う。大和は表情を変えなかった。指輪を差し出したままじっと止まっている。
「だから帰って。もう来ないで」
「そんなの嘘だろ? 強がるなよいい加減。俺を好きだから浮気を怒ったっていうのはよく分かったから。もう二度としないし、志乃を一番に想うから」
「強がってるわけじゃないって!」
「強がってるんだよ! そんな女は可愛げがないぞ、俺が下手に出てる間に素直になった方がいい」
「他に好きな人がいるの!」
つい叫んでしまった。言うつもりなどなかったのに。大和は完全に一時停止してしまっている。
言ってしまったものは仕方ない。私は彼から視線をそらして言った。
「だから大和とはもうやり直さない」
「……そんな嘘つくなよ」
「噓じゃない。好きな人が出来たの」
「ふざけんなよ!!」
突然怒号が鳴り響き、びくっと体が跳ねた。大和は目を吊り上げ、鬼のような形相で私を見ていた。見たことのない表情に体を硬直させる。
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