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勘違いしないで!
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「もしかして」
「あ! ほ、ほんとだ~先生ですね! 先生も上がったみたいですね。ははは」
私は必死に何も知らないふりを務めた。だって、山中さんは結構おしゃべりな人だし、他の看護師に変な噂でも流されたら大変だ。女たちにフルボッコにされるかもしれない。勘違いしないで、私と先生は(今のところ)そんな関係ではないのだ!
引きつった私の顔を見て、彼は何も言わなかった。誤魔化しが効いたのか、それとも空気を読んでくれたのか。
「ああ、帰りに呼び止めてすまなかった。もう仕事は終わっているのにね。お疲れ様でした、ゆっくりしてまた明日ね」
「は、はい」
「じゃあ、また」
山中さんはそう手を小さく振ると、さっさとその場から去っていった。その後ろ姿を眺めながら、どうか勘違いしていませんように、と心で祈る。明日行って、他の看護師に詰め寄られたらどうしよう。
一つため息をつきながら、山中さんの姿が見えなくなるまでその場にいた。その後、周りに知り合いらしき人がいないかしっかり確認し、ようやく、北口から外へと出たのだ。明日もう一度、山中さんにはフォローしておいた方がいいのかな。
だが、私のこの心配は杞憂に終わる。
山中さんと会うのは、これが最後だったからだ。
コンコン、と窓ガラスを叩いてみる。スマホを見ていた先生がこちらを見た。黒い無地の服を着ている。
私は軽く頭を下げる。すると、こくんと小さく頷いた。たったそれだけ。
もしや乗っていい、ってことなのだろうか。戸惑ったが、とりあえずこのままでは会話も出来ないのでドアを開けてみる。
無音の車内だった。掃除は行き届いていて清潔だ。下手な芳香剤の香りなどもなく、飾り物も一切ない。
「お、お疲れ様です」
恐る恐る覗き込んで声を掛けてみる。
「乗っていいんでしょうか?」
尋ねると、先生は少しだけ眉をひそめた。その様子に、驚きで固まる。人を呼んでおいて、自分は車に乗ったまま動かないくせにその反応は何だ。
ここですぐに、ああやっぱり先生が私を狙ってるなんてありえない妄想だった、と反省する。分かってたことだけど、ちょっと夢見たんだけどなあ。
先生は小声で言った。
「どうぞ。人がいるところは嫌だから」
その言い草に、私の眉は怒りでぴくぴくと震えた。つまり、私なんか乗せたくないけど、周りに人がいるのが嫌だからしょうがなく許可したってことですか。
苛立ったが仕方がない。私はそのまま乗って座り込んだ。すると先生は何も言わずに車を発進させたので、慌ててシートベルトを締めた。移動するなんて聞いてない。
「どこか行くんですか!?」
「ここだと人目が気になる。君も俺の車に乗ってたなんて見られたくないでしょう」
「それは、まあ」
「適当なところで停める」
そういった先生は、ハンドルを握ったまま黙った。そして数分運転したところで、言葉通り人気のない適当な細い道で車を停めた。私は何も言わず黙ったままだ。一体何の話があってこんなことをしているのか。聞きたいこととは何だろう。
停車した後、彼は前置きもなく、突然こんなことを言ったのだ。
「君視える人だね」
「……はい? 見える?」
「死んだ人が、視えるんでしょう」
思ってもみない言葉に、息が止まった。今まで家族以外は誰にも言ったことがなかったし、ましてや言い当てられたこともない。勢いよく隣を見てみるが、先生はこちらを見ることもなく、まっすぐ前を向いたままだった。
「あ! ほ、ほんとだ~先生ですね! 先生も上がったみたいですね。ははは」
私は必死に何も知らないふりを務めた。だって、山中さんは結構おしゃべりな人だし、他の看護師に変な噂でも流されたら大変だ。女たちにフルボッコにされるかもしれない。勘違いしないで、私と先生は(今のところ)そんな関係ではないのだ!
引きつった私の顔を見て、彼は何も言わなかった。誤魔化しが効いたのか、それとも空気を読んでくれたのか。
「ああ、帰りに呼び止めてすまなかった。もう仕事は終わっているのにね。お疲れ様でした、ゆっくりしてまた明日ね」
「は、はい」
「じゃあ、また」
山中さんはそう手を小さく振ると、さっさとその場から去っていった。その後ろ姿を眺めながら、どうか勘違いしていませんように、と心で祈る。明日行って、他の看護師に詰め寄られたらどうしよう。
一つため息をつきながら、山中さんの姿が見えなくなるまでその場にいた。その後、周りに知り合いらしき人がいないかしっかり確認し、ようやく、北口から外へと出たのだ。明日もう一度、山中さんにはフォローしておいた方がいいのかな。
だが、私のこの心配は杞憂に終わる。
山中さんと会うのは、これが最後だったからだ。
コンコン、と窓ガラスを叩いてみる。スマホを見ていた先生がこちらを見た。黒い無地の服を着ている。
私は軽く頭を下げる。すると、こくんと小さく頷いた。たったそれだけ。
もしや乗っていい、ってことなのだろうか。戸惑ったが、とりあえずこのままでは会話も出来ないのでドアを開けてみる。
無音の車内だった。掃除は行き届いていて清潔だ。下手な芳香剤の香りなどもなく、飾り物も一切ない。
「お、お疲れ様です」
恐る恐る覗き込んで声を掛けてみる。
「乗っていいんでしょうか?」
尋ねると、先生は少しだけ眉をひそめた。その様子に、驚きで固まる。人を呼んでおいて、自分は車に乗ったまま動かないくせにその反応は何だ。
ここですぐに、ああやっぱり先生が私を狙ってるなんてありえない妄想だった、と反省する。分かってたことだけど、ちょっと夢見たんだけどなあ。
先生は小声で言った。
「どうぞ。人がいるところは嫌だから」
その言い草に、私の眉は怒りでぴくぴくと震えた。つまり、私なんか乗せたくないけど、周りに人がいるのが嫌だからしょうがなく許可したってことですか。
苛立ったが仕方がない。私はそのまま乗って座り込んだ。すると先生は何も言わずに車を発進させたので、慌ててシートベルトを締めた。移動するなんて聞いてない。
「どこか行くんですか!?」
「ここだと人目が気になる。君も俺の車に乗ってたなんて見られたくないでしょう」
「それは、まあ」
「適当なところで停める」
そういった先生は、ハンドルを握ったまま黙った。そして数分運転したところで、言葉通り人気のない適当な細い道で車を停めた。私は何も言わず黙ったままだ。一体何の話があってこんなことをしているのか。聞きたいこととは何だろう。
停車した後、彼は前置きもなく、突然こんなことを言ったのだ。
「君視える人だね」
「……はい? 見える?」
「死んだ人が、視えるんでしょう」
思ってもみない言葉に、息が止まった。今まで家族以外は誰にも言ったことがなかったし、ましてや言い当てられたこともない。勢いよく隣を見てみるが、先生はこちらを見ることもなく、まっすぐ前を向いたままだった。
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