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もう一つの事実
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竜崎さんが続ける。
「幸太郎さんの狙いは恐らく、優香さんとの離婚でしょう。呪うことで優香さんを追い詰めて心神喪失させ、それを理由にすれば優香さん有責で離婚が出来る。自分が他に好きな人が出来たから離婚……ではいろいろと面倒ですからね。
妻が霊感商法に引っ掛かって言うことを聞かない、病院にも連れて行ったのに……となれば、世間はあなたに同情しますから」
優香さんは信じられないとばかりに小さく首を横に振り、ただ幸太郎さんの横顔を見上げている。それを見つめ返すことを、彼は出来ない。
「狙い通り優香さんは怪奇な現象に悩まされ、僕たちを呼んだ。幸太郎さんがはじめ僕たちを追いはらおうとしたのは、呪詛を解かれたら困るから。
だが、そのときにはすでに優香さんに呪詛の話をしてしまった後だと判明……このままでは呪詛に怯えた優香さんが、自分の知らないところで専門家を呼んで呪詛の解除をしてしまうかもしれない――
そこで呪詛の原因を浅山さんのせいにすることを思いついたんですね。男性の霊がいる、ということを優香さんから聞いて、驚きつつもこれを使うしかないと思ったんでしょう」
「……俺は……」
「浅山さんの霊を消してもらって、その後一旦自分が掛けた呪詛を解除しておいて僕たちの仕事を終わらせ解決を装う。そしてまた忘れた頃に呪詛を掛け直してさらに優香さんを追い詰めるつもりだったんでしょう」
「違うんです、俺は……」
「失礼します」
竜崎さんはそう言うと、躊躇いもなく幸太郎さんが着ていた上着の中に手を滑り込ませた。もう足掻いても無駄だと観念したのか、幸太郎さんはされるがまま突っ立っている。そして、竜崎さんは幸太郎さんが着ていたジャケットの裏ポケットから何かを取り出した。
それは小さな紙だった。
黙って見ていた雅さんが呆れたように言う。
「邪気払いで有名なS寺院のものね。まあそれがあれば、少しの間くらいならこの黒いモヤに負けずにいられるでしょうね。動かぬ証拠……ってわけだ」
汚いものを見るような目で幸太郎さんを見下し、顔を歪めた。
優香さんを呪っていたのが、幸太郎さんだったのは間違いないのだ……。
祐樹さんが苦々しい顔で幸太郎さんに尋ねる。
「そこまでしますか? 結婚した相手なんですよ? 相手を殺したいと思うなんて……」
その言葉を聞き、幸太郎さんがばっと優香さんの方を向いた。
「優香、君を殺すつもりはなかったんだ。だってほら、俺なら君個人に呪いをかけることは簡単だけど、あえて手がかかる家の呪いにした。死なないようにって気遣ったからだよ!
家だけの呪いにしておけば、外にいる間は呪いから逃れられるし、護符を持ってるとはいえ僕も呪いを受ける可能性があった。もし護符を持っているのに僕まで体調を崩すほどに強くなれば、すぐに止めようって思ってたんだよ!」
雅さんが幸太郎さんの主張を聞いてため息をついて頭を抱える。あまりに無茶苦茶な内容で理解に苦しんでいる、という顔だ。それは私も、いや竜崎さんも祐樹さんも同感で、みんな絶句しながら幸太郎さんを見つめるしか出来ない。
殺すつもりはなかったから、罪が軽くなるとでも思っているのだろうか?
勝手に他の人を好きになり想いをこじらせ、離婚するために優香さんを呪い、その責任を親友に押し付けようとしていたくせに……。
ふつふつと怒りが沸きあがってくる。こんな自分勝手な人間が、許されるわけがない。
「……そんなに……私と離婚したかったんだ……?」
「君は悪くない。ただ、運命の人と出会ってしまったから。慰謝料だとか親の説得とか面倒だったから、ちょっとした出来心で優香にこんなことしちゃって……」
「私を病ませて離婚して、どうするつもりだったの……?」
「俺が既婚者だから恵は身を引いて他の男と結婚なんかしたけど、俺が自由になれば喜んで戻ってきてくれるんだよ。若くて可愛くて、俺の運命の人に出会ってしまったから……誰も悪くない、出会う順番が悪かっただけなんだよ」
「そんなに……あの女がよかったんだ……あんな……若いだけの女が……私たちは高校生の頃からずっと、いるのに……」
優香さんは俯き、呆然としたように呟いた。怒るより何が起こっているのか分からない、というような感じだった。
彼女からすれば、幸太郎さんが自分を呪っていたなんて夢にも思っていなかったに違いない。
――ただ。これが全容ではない。
まだ一つ、解決すべきことは残っている。
「優香さん……幸太郎さんがあなたと離婚したくて、この家全体に呪詛を掛けていた。それは紛れもない事実です。なのでもう、終わりにしたらどうですか」
竜崎さんが淡々とした声で言う。幸太郎さんはぽかんとして竜崎さんを見て、優香さんはハッとしたように顔を上げた。
「もう彼とやり直すことは無理なんじゃないですか。御覧の通り、幸太郎さんはもう盲目になっていますし、これ以上一緒にいても意味がない」
「……」
「あなたが自分に掛けている呪詛は、終わりにしてください」
「幸太郎さんの狙いは恐らく、優香さんとの離婚でしょう。呪うことで優香さんを追い詰めて心神喪失させ、それを理由にすれば優香さん有責で離婚が出来る。自分が他に好きな人が出来たから離婚……ではいろいろと面倒ですからね。
妻が霊感商法に引っ掛かって言うことを聞かない、病院にも連れて行ったのに……となれば、世間はあなたに同情しますから」
優香さんは信じられないとばかりに小さく首を横に振り、ただ幸太郎さんの横顔を見上げている。それを見つめ返すことを、彼は出来ない。
「狙い通り優香さんは怪奇な現象に悩まされ、僕たちを呼んだ。幸太郎さんがはじめ僕たちを追いはらおうとしたのは、呪詛を解かれたら困るから。
だが、そのときにはすでに優香さんに呪詛の話をしてしまった後だと判明……このままでは呪詛に怯えた優香さんが、自分の知らないところで専門家を呼んで呪詛の解除をしてしまうかもしれない――
そこで呪詛の原因を浅山さんのせいにすることを思いついたんですね。男性の霊がいる、ということを優香さんから聞いて、驚きつつもこれを使うしかないと思ったんでしょう」
「……俺は……」
「浅山さんの霊を消してもらって、その後一旦自分が掛けた呪詛を解除しておいて僕たちの仕事を終わらせ解決を装う。そしてまた忘れた頃に呪詛を掛け直してさらに優香さんを追い詰めるつもりだったんでしょう」
「違うんです、俺は……」
「失礼します」
竜崎さんはそう言うと、躊躇いもなく幸太郎さんが着ていた上着の中に手を滑り込ませた。もう足掻いても無駄だと観念したのか、幸太郎さんはされるがまま突っ立っている。そして、竜崎さんは幸太郎さんが着ていたジャケットの裏ポケットから何かを取り出した。
それは小さな紙だった。
黙って見ていた雅さんが呆れたように言う。
「邪気払いで有名なS寺院のものね。まあそれがあれば、少しの間くらいならこの黒いモヤに負けずにいられるでしょうね。動かぬ証拠……ってわけだ」
汚いものを見るような目で幸太郎さんを見下し、顔を歪めた。
優香さんを呪っていたのが、幸太郎さんだったのは間違いないのだ……。
祐樹さんが苦々しい顔で幸太郎さんに尋ねる。
「そこまでしますか? 結婚した相手なんですよ? 相手を殺したいと思うなんて……」
その言葉を聞き、幸太郎さんがばっと優香さんの方を向いた。
「優香、君を殺すつもりはなかったんだ。だってほら、俺なら君個人に呪いをかけることは簡単だけど、あえて手がかかる家の呪いにした。死なないようにって気遣ったからだよ!
家だけの呪いにしておけば、外にいる間は呪いから逃れられるし、護符を持ってるとはいえ僕も呪いを受ける可能性があった。もし護符を持っているのに僕まで体調を崩すほどに強くなれば、すぐに止めようって思ってたんだよ!」
雅さんが幸太郎さんの主張を聞いてため息をついて頭を抱える。あまりに無茶苦茶な内容で理解に苦しんでいる、という顔だ。それは私も、いや竜崎さんも祐樹さんも同感で、みんな絶句しながら幸太郎さんを見つめるしか出来ない。
殺すつもりはなかったから、罪が軽くなるとでも思っているのだろうか?
勝手に他の人を好きになり想いをこじらせ、離婚するために優香さんを呪い、その責任を親友に押し付けようとしていたくせに……。
ふつふつと怒りが沸きあがってくる。こんな自分勝手な人間が、許されるわけがない。
「……そんなに……私と離婚したかったんだ……?」
「君は悪くない。ただ、運命の人と出会ってしまったから。慰謝料だとか親の説得とか面倒だったから、ちょっとした出来心で優香にこんなことしちゃって……」
「私を病ませて離婚して、どうするつもりだったの……?」
「俺が既婚者だから恵は身を引いて他の男と結婚なんかしたけど、俺が自由になれば喜んで戻ってきてくれるんだよ。若くて可愛くて、俺の運命の人に出会ってしまったから……誰も悪くない、出会う順番が悪かっただけなんだよ」
「そんなに……あの女がよかったんだ……あんな……若いだけの女が……私たちは高校生の頃からずっと、いるのに……」
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彼女からすれば、幸太郎さんが自分を呪っていたなんて夢にも思っていなかったに違いない。
――ただ。これが全容ではない。
まだ一つ、解決すべきことは残っている。
「優香さん……幸太郎さんがあなたと離婚したくて、この家全体に呪詛を掛けていた。それは紛れもない事実です。なのでもう、終わりにしたらどうですか」
竜崎さんが淡々とした声で言う。幸太郎さんはぽかんとして竜崎さんを見て、優香さんはハッとしたように顔を上げた。
「もう彼とやり直すことは無理なんじゃないですか。御覧の通り、幸太郎さんはもう盲目になっていますし、これ以上一緒にいても意味がない」
「……」
「あなたが自分に掛けている呪詛は、終わりにしてください」
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