Tragedian ~番を失ったオメガの悲劇的な恋愛劇~

nao@そのエラー完結

文字の大きさ
66 / 168
オメガの生存本能

第66幕

しおりを挟む
 薫は昼過ぎからどこか熱っぽい気がしていた。
 何をするにも億劫で、昼飯の素うどんを作って腹を満たすと、ベッドに横になる。なんとなく、身体が怠く、頭が薄ぼんやりとしていた。特にやることも見つからないので、日も高いうちから、布団を被って、うつらうつらと惰眠を貪っていた。


 日が暮れる頃には、ゆっくりと目を覚ました。
 朦朧とした頭でも、昼から続く身体の不調が、発情期の予兆であったことに思い至る。

 動悸がして、息苦しい。身体が鉛のように重く、腹の奥から、じくじくとした熱を発して、全身に駆け巡っていくようであった。

「……ん、」

 薫はベッドの中で身体を縮めて、なんとかやり過ごそうと目を瞑った。けれど、火がつき始めた身体は、薫の些細な抵抗など嘲笑うように、徐々に体温を上げていく。響の部屋に囚われてから、抑制剤を投与していなかった薫は、自身の身体の異変から身を守る術がない。

 ぞくぞくと背中が痺れ、下半身に血液が流れ込んでいくのがわかり、無意識に内股を擦り合わせてしまう。

 意図しないタイミングで、勝手に発情していくオメガの肉体に嫌悪感が募り、同時に、底の知れない恐怖が沸き上がる。

 自身がヒートした後に待っているのは、いつでも不幸な結末でしかない。

 頭上の枕を引き寄せると、番の匂いがするようで、薫はくんくんと鼻を寄せて、なんとか恐怖を紛らわせようとした。噛みつかれた痛みも、拒否する身体を無理やり貫かれる苦痛も、響の匂いを嗅いでいれば、少しは薄まった。

「……ぁ、………」

 ツンと立ち上がった胸の突起がシャツに擦れて、薫は鼻から抜けるような甘い声を上げた。

 神崎薫は男でもあり、女でもある。

 誰にも理解されない孤独の中で、薫の使われたことがない男の性器は硬度を増し、使い込まれた女の性器は物欲しそうにうねり始める。薫はシーツを噛み締めて、理性を失わないように、身体を震わせる。涙腺が緩んで、目の前が霞んでいく。

 響の微かな体臭に包まれた寝室は、薫のうなじから沸き立つ、濃密な甘いフェロモンの匂いに侵食されていく。

「……ふ、……ん、」

 シャツに擦れる胸がむず痒い。素肌に張り付つシャツが煩わしくて、胸に手を伸ばして掻き毟る。ピリッとした痛みから、更に火がついたように乳首の痒みが増して、体温が上がっていく。薫の腟が貪欲に快楽を求め始めて、とぷんと愛液を溢れさせた。下着を濡らして、薫はポロポロと涙を溢した。

 黒いスキニーパンツは、勃起したぺニスを締め付けてきて、薫は痛くて辛くて、震える指でファスナーを下げた。下着越しにぺニスに触れれば、固くて、熱くて、しごきたくて堪らなくなる。軽く握り込むだけでも、先走りが溢れ出してくるようで、薫は、片手で胸を、片手でぺニスを慰めながら身悶えた。けれど、オメガの肉体は自分で自分を追い込んでいくばかりで、決定的な快楽は得られない。

「は、……た、たすけて、……」

 誰に救いを求めているのか。

 薫は響が帰ってこないことを切に願う。もう二度と禁忌を犯したくはない。響と薫が身体を重ねることは、神崎家の当主が赦さない禁止事項であった。けれど、それ以上に、薫自身も血を分けた肉親と身体を重ねることは、生理的な嫌忌を抱いた。

 弟の薫は、兄の響を拒絶する。

 けれど、いつだってオメガの肉体は、薫自身を裏切り続けるのだ。

 発情期のオメガの嗅覚は、鋭く尖る。部屋に残る微かな番の匂いに反応して、響を迎え入れることを期待する。そうして、早く早くと焦れるように、その肢体を熱く火照らさせていったのであった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

処理中です...